川崎が来たと分かった途端、一気に意識が覚醒した。まだ元気が無いから出来ないが、普段の体調だったら思わず飛び起きて川崎をびっくりさせてしまっていただろう。気だるげに起き上がると、川崎が俺以上にゆっくりと、それでいて物凄く静かに入ってきた。早朝ドッキリのリポーターなんだろうか。
「お邪魔します……」
消え入りそうな声で川崎が呟く。川崎は両手で、風呂敷に包まれた長方形の箱のようなものを持っていた。目は泳ぎ、身体は縮こまっていて、何だか借りてきた猫のように落ち着かない。川崎の動揺がうつって俺も何を話せば良いか分からなくなっていると、川崎に続いて小町がぴょこんと顔を出した。
「沙希さん、ごゆっくり……と言いたいですけど、まずはアレですよね、アレ」
「あ、ああ……」
アレとは? と首を傾げていると、川崎が風呂敷を顔の前にくいと持ち上げて、目だけぴょこんと覗かせた。
「ちょ、ちょっとだけ、キッチン借りるから」
「ん? おう、そうか」
「さっき沙希さんに頼まれたんだー。先に顔見せだけ済ませてからキッチンに行こうって話し合ったの! じゃ、お兄ちゃん、ちょっとばかし待っててね~」
「ん、よく分からんが分かった」
小町と川崎にひらひらと手を振り、再びベッドに身体を沈み込ませる。
川崎がドアを閉める時、顔をぴょこんと出して、ほとんど口パクで「待ってて」と言った。
…………。
布団に包まって、ごろごろとベッドの上を転がった。
× × ×
10分もしない内に川崎が戻ってきた。小町が居ないのでどうしたのかと思ったが、どうやら小町はリビングに居ることにしたらしい。身体を起こし、小町は何か言ってたかと聞くと、川崎は顔を真っ赤にして俯いた。
「……と、『隣の部屋に居たら聞こえちゃいけない声が聞こえちゃうかもしれないから、小町はここにいまーす』って……」
「……そ、そうか」
言う小町も小町だが、聞いたことをそのまま伝える川崎も川崎だった。2人揃って静かに俯く。恥ずかしくてしょうがなかった。
川崎はさっきとは違いお盆を持っていた。そこに乗っていたのは大きめのどんぶり……いつも俺が使っているどんぶりだった。
川崎がテーブルの前に膝立ちして、お盆をテーブルに乗せる。乗せられていた蓋を取った瞬間に、煙がほわんと広がった。
「……お粥か」
川崎が用意してくれたのは、とても美味しそうなお粥だった。水分を含んだ米が柔らかく炊き上がり、昔懐かしい柔らかな匂いが身体に染み込んでいくようだ。身体が喜んでいるのが分かって、自然と頬が緩む。小さい頃風邪を引くと、母親がよくお粥を作ってくれたことを思い出した。
「具合良くなってたみたいだから、食欲も戻ってくるかなって。こっちにはタッパーで持ってきたんだけど、温めた方が良いかなって思ってあんたの妹に相談してたんだ」
事情をひとしきり話すと、川崎が頬を赤らめて、ちらりとこちらに流し目を送る。何だか妙に照れくさい。
「そっか。これはすげえ嬉しい……って、んん? 何で俺の具合のことを知ってんだ? 今日は朝しか連絡取らなかっただろ」
「あ、いや、それは、その……っ」
俺の言葉に、川崎が目に見えて慌てる。すらりと伸びた長い腕をわたわたと振り回すと、どんぶりをひっくり返してしまいそうでハラハラした。
あ、その、いや、えっと……と、意味を成していない声をひとしきり上げた後、川崎はしおしおと元気が無くなり、カーペットの上に正座して膝に手を置いた。
「……あんたの妹と、夕方に連絡取ってた」
急に犯人が自供したシーンみたいになってる。何だこれ。
「あ、そうなのか。俺に直接連絡くれれば良かったのに」
何気なく言うと、川崎は唇を尖らせて俺を睨み、ぷいと顔を逸らしてしまった。いまいち分からないが、やってしまったということだけは分かった。あと川崎の仕草がいちいち可愛い。
「何にせよ、ありがとうな」
頬をぽりぽりと掻いて、どんぶりの中で湯気を立てるお粥を見つめる。視覚と嗅覚を心地良く刺激されたら、きゅぅぅ……と、大人げなく腹が鳴った。川崎はその音に一瞬きょとんとした後、口元に手を当てくすりと笑った。
「お腹空いてるみたいで良かった。じゃ、召し上がれ」
「ああ、頂きます」
言って、足をベッドから出そうとする。
「……あれ?」
――下半身に、鉛が絡みついているような感覚を覚えた。
「…………」
「……どうしたの?」
「……思った以上に、身体が重い」
寝ている間や話している間は気付かなかったが、足を掛布団から解放する作業でさえ今の体力では難しかった。川崎は俺の言葉に心配そうに眉を八の字に曲げて、立ち上がってベッドの横に立った。
「足出すの手伝うよ」
「え? い、いや、いいって……うおっ!?」
俺が断るのも聞かず、川崎は掛布団をぺろりと捲った。こういう行動はきっと大志にやり慣れてるんだろうな……と何となく思った。
川崎は俺の姿を見ると、物凄い速さで顔を逸らした。
「……ぱ、パジャマなんだ」
「……風邪っぴきだしな」
俺の服装は、上はTシャツで下はバリバリのパジャマだった。川崎が顔を赤らめるのを見て何でだろうと首を傾げたが、俺がもし逆の立場で川崎のパジャマ姿を見たら、きっと同じように顔を赤らめていただろうと納得する。友人の生活感丸出しの格好というのは中々見ないだろうし。もっとも、俺が川崎の掛布団を捲る場合は、俺よりも川崎の方が顔を真っ赤にするだろうし、そもそもその行為自体が絵面的にぶっちぎりでアウトなんだけども。完全に襲おうとしているようにしか見えないだろう。
何にせよ、掛布団の重量が無くなったことで、幾分動きやすくなった。のろのろと足をベッドから出し、ベッドの縁に座る。テーブルで食べようと立ち上がろうとしたら、川崎に両肩を押さえられた。
「そんな状態じゃ歩くのも大変でしょ。いいよ、持ってくるから」
俺が何か言うよりも先に、川崎がどんぶりとレンゲを持ってくる。どうやらどんぶり自体はさして熱くないらしい。
しかし、正直今はどんぶりを手に持つことさえ耐えられるとは思えない。さてどうしようとぼんやり考えていると、川崎がお粥と俺を交互に見ていることに気付いた。
「どうした」
「いや、その……比企谷、これ持つのも辛いよね」
「ん、そうだな。正直いつ落とすか分かったもんじゃない」
俺の言葉を聞くと、川崎は「だよね……」と呟いて俯いた。ドアの方をちらちらと気にしたかと思うと、顔を上げて俺を見つめる。何だか嫌な予感がした。嫌な、と言っていいのか分からないが、そんな予感がした。
「そ、それなら、あ、あたし、が、食べ、させ、てあ、げる……っ」
「……へ?」
顔を真っ赤にして。
唇を震わせて。
それでも、俺を真っ直ぐに見つめたまま。
川崎が、とんでもないことを言ってきた。
続く。
サキサキ、2夜連続でした。
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pixivにはいつもこちらの転載したものを載せているのですが、今回はpixiv限定でコミケのサンプル(といっても結構がっつり)を今から30分以内に掲載します。これの点数やブックマークやコメントの熱量によって当日の売り上げやその後の通販・DL販売などをどうするかもある程度左右されるので、是非とも皆さんにご覧頂いて、点数やブックマークを付けて頂きたいです。普段こんな露骨なことは言わないのですが、今回は初めてコミケで作品を出すということで少しでも皆さんの力を借りたいのです! という訳で宜しくお願いします!
pixivでのユーザー名は同じ「高橋徹」で、何気ないエロスのシリーズとして「エロデレな一色いろはが禁欲に挑戦すると、とても大変なことになる。」というタイトルで書きました。ここでにいろはすとのイチャつきぶりの延長で更に甘々に、エロく書いています。宜しければぜひ(^^)!
明日はお休みしようと思います。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!