1.
しばらく眠った後、雪ノ下が目を覚ます頃には時計は午後2時を回っていた。
「う……ん……」
ぱちりと目を開け、目をこしょこしょとこする。
その子供っぽい仕草にむらむら、じゃない、どきっとした。
「おう、おはよ」
「おはよ……あ」
さっきまでやっていたことを思い出したのだろうか、急に顔を毛布で覆った。
そして、毛布からちらりと顔を覗かせる。
「……あ、あの……」
何か言いたげなご様子。
頭をがしがしと掻いた後、彼女の頭にぽんと手を置く。
「動画のデータなら、ちゃんと消すように小町に言っておいたから心配すんな」
「……そ、そうな……の……?」
「ああ、ちゃんと見ないで消すようにって言っておいたから」
「……そう……」
ごめん、嘘付きました。罪悪感で死にそう。
……やっぱり、消した方が良いかな……。
逡巡していると、小町がリビングに戻って来た。
「うへへへ……」
……超にやけてる……。
こいつ、さては部屋でさっきの動画を見てやがったな……!?
小町は俺と目が合うと、ものっすごいきらめく笑顔で親指を立て、ばちこーんとウインクをして来た。
……このやろう……。
ちなみに雪ノ下はそれに気付かず、毛布で顔を覆って悶えてた。なんだろう、さっきのことを思い出してんのかな?もぞもぞしてる。
それを眺めていると、小町がこちらに近付いて来た。
「お兄ちゃん、雪乃さ……お義姉ちゃん、ちょっと外に出てみませんか?」
「わざわざ言い直すんじゃねえよ」
すんげえ恥ずかしいんだけど。
雪ノ下は信じられないくらい小さな声で「だから、それは……」などとこしょこしょと呟いている。
そんな彼女の頭を撫でながら、会話を続ける。
「どっか行きたいとこあんのか?」
「うーんとね、夕食の買い出しに行きがてら、少し遊びたいなーって! ずっと中に居るだけなのもアレだしねー」
ふむ、なるほど。アリだな。
「ああ、それも良いかもな。雪ノ下はどうだ?」
頭をすりすりと撫でながら問いかける。
「そ、それ自体は良いのだけれど……あ、あまり撫でないでちょうだい……」
鼻から上だけを毛布から覗かせて、ふいと目を逸らした。
……試しに更なる勢いで撫でてみたら、超睨まれた。
2.
3人で外出の準備をして、外へ出――ようとしたのだが。
「……っと?」
ドアの前に小町が立ちふさがり、俺と雪ノ下は前のめりになって止まった。
「……なんだよ?」
小町はふんすっと鼻息を鳴らして、手を両脇に構えて仁王立ちの姿勢をとっている。
や、なんでだよ?
「お兄ちゃん、お義姉ちゃん、今からの外出に、小町は一つのルールを課します!」
「はあ?」
「二人はいついかなる状況においても、手を繋いでおかなければなりません」
……。
二人して、固まった。
結婚式でもんなこと誓わねえぞ。
制限きつすぎない?
「や、なんでそんな恥ずかしいこと……なあ?」
同意を求めるつもりで隣を見たら、ふいと目を逸らされた。え、なんで? 当事者だよね?
「ふっふっふ、お義姉ちゃんは満更でもないようですね……。ちなみに、致し方ない場合を除いてそれを反故にした場合、お二人には罰を課します!」
ずびしっと、指を差された。二人に対して指差したので、なんかすごい間抜けな絵面になってる。
「罰って……なんだよ?」
言うと、小町が指を頬に当てて斜め上を向いた。え、考えてなかったの? ウソでしょ?
「ん~……まずお義姉ちゃんは、カマクラに対するおさわりを1ヶ月禁止します」
「……な……!」
雪ノ下が戦慄の表情を浮かべた。そんなに?
って言うか、おさわりって言うな。変な感じになっちゃうだろうが。
……まあでも、あんだけがっつり触ってるのを見ると案外そう思えちまうところはあるな……。
「で、俺は?」
言うと、小町は腕を組んで、首を傾げて唸り始めた。眉までひそめている。
「う~~~~ん……お兄ちゃんのは……割とどうでもいいんだけど……」
せめて何でもいいって言えよ。泣いちゃうぞ。
「……強めに蹴る?」
「思いの外手荒だな……」
雑だった。
小町はこれで説明義務は済んだと判断したのか、手をぽんと合わせて、にぱっと微笑んだ。
「さ、では!」
言われて、俺と雪ノ下は一瞬ぐっと動いて、またすぐに固まる。
それを見た小町は、む~と唸った後、今しがたやった行為をなぞるかのように、再び手をぽんと合わせて、にぱっと微笑んだ。
「さ、では!」
「ぐ……」
俺と雪ノ下はまだ固まっている。
すると、小町の表情が見る間に曇って行く。
合わせていた手をだらんと下げ、雪ノ下を見つめた。
「そうか……お義姉ちゃんは、カマクラのことがどうだっていいんですね……?」
えげつねえ。
「! そ、そんな……こと……ないわ」
雪ノ下は一瞬迷った後、俺をきっと睨んで、手をがしっと掴んだ。
……や、普通手を繋ぐって、もうちょっと情緒のある行為ですよね?
それを見た小町は、少し呆れたように片眉を下げて微笑むと、
「ま、及第点ってとこですかね! じゃ、行きましょ~!」
と元気良く言い放って、ドアを開けた。
……お前はどう言う立場なんだ。
3.
電車から降りて、しばらく歩く。
「うーん、どこで遊ぼうかなー」
小町が元気良くちょこまかと動き回っているのを、俺と雪ノ下が微笑ましく見守っている。
「ふふっ……小町さんは元気ね」
右手を口元に添えて、くすりと笑う雪ノ下。
外でもすっかりリラックスした彼女の表情を見られるのは、偏に小町のおかげと言えるだろう。
……人前で手を繋いでるのは、死ぬ程恥ずかしいんだけど……。
しばらくきょろきょろしていた小町が、不意に一点を見つめた。
「あれ? あの人は……」
「ん? なんだ……よ……」
思わず、息を呑んだ。
小町の視線の先には、天使がいた。
天使は振り返ると、こちらに気付き、満面の笑みを浮かべてこちらに駆け寄って来る。
周りの人や景色が霞んで、スポットライトが当たり、BGMが流れ出す。
ま、眩しい、眩しいよぉ!
「八幡!」
元気に手を振りながら、戸塚が天使の如きと言うかまんま天使の微笑みを振りまく。
……世界が……光に包まれた……。
「あ、雪ノ下さん、それに小町ちゃんも!」
「戸塚さん、やっはろー!」
「やっはろー」
え、なに、由比ヶ浜がいない状態でもその挨拶すんの? 可愛いから良いけど。
なんなら由比ヶ浜が持ってる著作権を戸塚と小町に譲ってほしいまである。
戸塚はにこにことしながら、俺たちを見回す。
「3人でお出かけ? 良いなー、楽しそうで」
「あ、なら戸塚も一緒に遊ぶか?」
「え、いいの?」
戸塚がぱあっと笑みを浮かべる。
体感気温が急に下がった気がするけど、負けない! 今の俺は無敵だ。
手をぐっと握りしめて、出来るだけ爽やかに笑みを浮かべる。
「そしてそのままうちに来て晩御飯を一緒に食べて、なんならその後泊まっていかないか?」
「え、え、え?」
……。
……勢いで、すごいことを言ってしまった……。
横に目をやると、小町と雪ノ下が、それはそれはごみを見るような目で見ていた。
人って、こんなに冷たい目が出来るものなんですね! 八幡、知らなかった!
可愛い戸塚は可愛く戸惑いの表情を見せて、可愛くきょろきょろしてる。形容詞と副詞の乱用。
「あ、それは嬉しいけど、流石に家までなんて……あ」
ここで、戸塚が俺と雪ノ下の手に気付いた。
顔を真っ赤にして、あわあわと慌て始める。可愛すぎて抱きしめたい……。
「あ、そ、そう言うこと? やだなー八幡、先に言ってよ! じゃ、お邪魔しました!」
たははと笑って、戸塚は足早にその場を去って行った。
恐らく、繋いだ手を見ていなかったら、この後少し一緒に遊ぶくらいは出来たのだろうけども。
「と、戸塚……!」
思わず続けて「ち、違うんだ! これは誤解なんだ!」などと言いそうになったけど、血を見ることになりそうだったので思い留まった。
直後、強烈に冷たい声が耳に届く。
「……比企谷くん、仲が良いのは構わないけれど、あまり予定を崩されてもこちらが困るのよ……?」
「は、はい……」
数十センチ横から発せられる凍てつく冷気が怖すぎて、遠ざかる戸塚の背中から視線をずらせなかった……。
続く。
エロシーンばかり書いていて脳内がだいぶひどいことになっていたので←、ゆるゆるな感じで書きました。
このエピソードは次回or次々回くらいまではこんな感じで書きます。
完結したエピソードに何かしら印を付けてみては、と言う意見を頂き、確かにそうかもと思いました。
かさばらないような程好いマークの具体例などをご存じの方がいましたら、ぜひ教えて頂きたいです!
連休も折り返しました。それなりの日々……。もうちょっと書くペースを上げたいところです、色々と。
通りすがりの方も、常連の方も、感想お待ちしております(^^)もう簡潔に「かわいい」「エロい」「いつも見てる」「高橋、変態だな」とかって書いて頂くだけでも十分ですので!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!