手を繋いだまま眠りに就いていた川崎が、徐に目を覚ました。よっぽど疲れていたのかその表情はぼんやりとしていて、視線を巡らせるための首の動きも緩慢だ。そして糸よりも細い拠り所に縋るかのように繋いでいる手に力を込め、軽く目を細めた。やっと親と再会出来た迷子のようだと思った。
「お腹……空いたかも」
川崎がむくりと起き上がり、手を繋いだまま仄かに顔を赤らめてお腹を押さえる。可愛らしさににやけそうになりながら、ベッドから立ち上がって持ってきたバッグからタッパーを取り出した。
「それは……お粥?」
ぼうっとした表情の川崎が、こてんと首を傾げる。俺はこほんと咳払いをして頷いた。
「ああ、昨日のお礼にな。味は保証しかねるが」
頬をぽりぽりと掻きながら顔を逸らすと、くすりと笑う声がした。「……なんだよ」と聞いても、「別に?」と笑ってはぐらかされてしまう。
「もう冷めただろうから、温め直すわ」
「え……いいって、別に」
「レンジ借りていいか? 場所は覚えてるんだが」
「え、あ、うん、でも……」
「いいから寝てろ、まだ熱あんだろ」
川崎の髪をくしくしと撫でて、おでこ同士をくっつける。「んな……っ!?」と川崎が驚きの声を上げたが、そこまで熱を感じなかったので安心した。
「ほれ、寝てなさい、ほれほれ」
「あっ、や……っ」
川崎の両肩をぐいぐいと押して倒すと、何とも艶っぽい声が聞こえた。こちらが気を抜けばすぐ無理しそうな性格だから、ちゃんと寝かせようとした訳だが……。結果的に、仰向けになる川崎の上に俺が四つん這いで覆いかぶさると言う、誤解しか生まない状況になってしまった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
川崎の耳をそっと撫でると、目をきつく閉じて「んん……っ」と湿っぽい声が漏れる。
「…………」
「…………」
あかん。
「……お粥、温めてくる」
「え……? あ、うん……」
努めて平静を装って言うと、川崎が拍子抜けしたような声を漏らした。
今のは、絶対期待されてたよな……と思いながら立ち上がる。
名残惜しそうな視線を背中に感じながら、タッパー片手に部屋を出た。
× × ×
温め直したお粥をいざ食べようとした所で、まるで当然の流れであるかのように俺が川崎にあーんをすることになった。ベッドの縁に2人で並んで座り、食事が始まる。
「ん……っ」
恥ずかしげに目を閉じて、長い睫毛を頼りなげに揺らしながら、俺が差し出したレンゲに盛られたお粥を咥えてもぐもぐと噛み、こくりと飲み込む。熱がある為か川崎の何気ない挙動は一つ一つがどこか艶めかしく、動作の始まりから終わりまで見惚れてしまう。俺と視線が合った川崎はその度に顔を真っ赤にしていた。食欲はだいぶ回復していたらしく、用意していたお粥はぺろりとたいらげられた。
「ごちそうさま……ありがとう。美味しかった」
「ん、それなら良かった」
タッパーをテーブルに置いて、川崎がふっと息を吐いた。満足げな少女が浮かべた柔らかな笑みに心地良い昂揚感を覚えていると、何やら太ももに両手を挟んでもじもじとし始めた。俺のことをしきりにちらちらと見やり、何か言いたそうにしている。
「どうした」
俺の言葉にびくりと震えると、川崎が口元をもにゅもにゅと動かした。俺と何度も視線を絡めては離すのを繰り返していると、ゆっくりと口を開く。
「そ、その……ちょっと、やって、みて、ほしいことが……あるんだけど……」
「ん? 何だ」
「えっと、その、だから、えっと……」
未だに口元をもにゅもにゅさせているもにゅ崎が俺の手をきゅっとつまみ、2人の後ろの壁を指差した。
「あそこ、座って……? 体育座りみたいな感じで」
「? いいけど……」
一体何事……? と思いながらも言われた通りにする。ベッドの片側は壁にくっつけている為、ベッドに座りながら壁に背を付ける形になった。
この後どうすれば良いんだと川崎に視線を向けると、川崎はベッドに上がって四つん這いになりこちらに近付いてきた。突然の行動に目を白黒させながらも、視線はしっかりとパジャマから覗く豊かな谷間に固定されている。まだぼうっとしている川崎は俺の視線にも気付かないのか何も言わず、俺の目の前まで来ると身体の向きを変え、俺の足と足の間にすっぽりと収まった。硬い壁と川崎の柔らかな背中にサンドされる。
「……ええっと……?」
「……そ、その、後ろから、その、だ、だ、抱き……っ」
川崎はいよいよ緊張がピークに達しているようで、口がまるで回っていない。しかしここまでされれば何を望んでいるかは朴念仁の俺でも流石に分かる。未だに最後まで言葉を紡げないでいる川崎の髪をそっと撫でると、後ろから腕を回して包み込むように川崎を抱きしめた。汗でしっとりと湿った肌はほんのりと熱く、腕に力を込めた瞬間に汗と甘い匂いの混じったたまらない匂いが鼻腔を包み込んだ。
「あ……っ」
「……これでいいのか」
ため息を漏らす川崎に尋ねると、前を向いたままこくりと頷いた。青みがかった黒髪をまとめて横に流し、真っ白なうなじに顔をうずめる。
「ひゃんっ!?」
「すげえ良い匂いする……」
「ば、ばかぁ……っ」
恥ずかしそうにもぞもぞしながらも、川崎は決して拒否しようとはしない。大なり小なりこんな状況を望んでいたんだなと感じ、ぞくぞくとした欲求が身体の奥底から湧き出て来るが……必死に抑える。
さて、理性が持つかな……と遠くを見やっていると、川崎がぽそりと呟いた。
「あの、さ……」
「ん、どうした?」
「比企谷……我慢してるでしょ?」
ぎくり。
「……っ、いや、そんなことは……まあ、あるけど」
嘘を吐いてもしょうがないと思って正直に白状すると、川崎がこちらを振り向き、にこやかに微笑んだ。
「ふふ……別に良いんだよ? 我慢しなくて」
「いや、それだとお前の身体が……」
「具合はだいぶ良くなってるから大丈夫。……それともなに、比企谷は一度始めたら全く手加減出来なくなるの?」
この子にしては珍しい挑発的な言葉と笑みに、俺はむっとする。
「舐めんなよ。きっちり見極めながらいじめてやる」
「え、ちょ、いじめるって……っ!?」
川崎が余裕のある笑みを崩し、俺の腕の中でぱたぱたと慌てる。しかしそんな抵抗もすぐに終わって、俺の手をそっと握ってきた。
「……いいよ、難しく考えなくて。……好きにして?」
「……っ、……わかった」
言いながら、目の前の魅惑的な肢体を目にしてごくりと息を呑む。
川崎の挑発には強気に返したが……果たして本当に手加減出来るだろうか? と言う疑念を抱く。好意を持った女性、魅力的な身体に更なる魅力を追加した状態で好きにしてと言うのだ。経験の無い自分にブレーキ等付いているのかと疑ってしまう。
それでも川崎が許してくれたのだ。素直に甘えることにしよう。
「……行くぞ?」
「……うん」
短い会話はすぐに空気中に霧散して、2人の間にひりついた空気が充満する。
手のひらに汗をかきながら、一体どうやってこの身体を味わおうか……と考え始めた。
続く。
サキサキでした。何気にもう35話。
好きな体勢はかなりの頻度で書いているなーという実感。今回の体勢も正に。股座に座ってもらうのはとても素敵だと思うのです。
中々忙しくて更新頻度が落ちています。すみません。今の所2~3回続けて投稿したら1回休みになることが多いです。2日以上の連続のお休みはよっぽどしんどいと言う状況が故なので、その際は察してくださいませ笑
9月11日は当時のことを思い出しました。15年経つんですね。
それでは、また1週間頑張りましょう。
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!