1.
戸塚と別れた後、歩きながら少しぼーっとしてしまった。
……ああ、戸塚……。
……嗚呼、戸塚……。
「ところで」
隣から聞こえた冷たい声に、反射で身体がびくりと跳ねる。
恐る恐る顔をそちらに向けると、信じられない程冷たい瞳で雪ノ下が見つめている。
「な、なんでしょう……?」
「今、あなたと一緒に居るのは誰かしら」
「ゆ、雪ノ下さんと、小町……さんです……」
怯えすぎて妹にまでさん付けしちゃった。小町が引いてるのはきっと気のせいだろう。
「そうね。じゃあ、比企谷くんが今考えるべきは誰のことかしら」
「ゆ、雪ノ下様と、小町……様です……」
ランクを上げちゃった。
小町、憐れむような目で兄を見ないで……。今のは弾みだから……。
「……分かってるのなら良いのよ」
ふいと横を向かれた。
むう、このままではご機嫌斜めなまま次の場所に突入してしまう。
挽回の言葉を伝える為、雪ノ下の手をきゅっと握る。
雪ノ下は少し驚いた顔でこちらを振り向いた。
いざ正面から相対すると、どうにも緊張してしまう。TSUNAMIか。言って懐かしくなった。
「ええと、その、なんだ、悪い。ちゃんとお前のこと見てるから、心配しないでくれ」
超くさい。
雪ノ下を見ると、急に慌てたように視線が泳いでいる。
「……あ……そ、そう、まあ、それくらいの誠意を見せてくれるのなら、いくらあなたのような軽薄で浅薄で意志薄弱な男に対してでも、憐憫の情を抱いてあげないでもないわ。これからこのようなことが無いようにきちんと責任感を持つようにしてさえくれれば、私としても安心だし、あの、その……」
……わぁ……。
効果覿面だった。
饒舌な中にも、若干デレが混じってる。
思わず。本当に思わずなんだけど。
ぽそりと。
「……ちょろノ下さん……」
呟いてしまった。
――と。
横で何か、ピシっと言う音が聞こえた気がした。
ん、大虚が登場するのかな?
体感温度が明らかに下がる。
そして、雪ノ下が俺の両手を取ると、目を細めて、口角を上げて、今まで見たことのない素敵な笑顔を向けてきた。
それを横から見ていた小町は「ゆ、雪乃さん……!」ときらきらした目で見つめている。俺の呟きは聞こえなかったのだろう。
でも、正面から見ている俺には分かる。
目が笑ってない。
恐怖で固まっている俺に、声音だけはすごく穏やかな、雪ノ下の言葉が飛んでくる。
「 なにか いった ? 」
こえぇよ、こえぇ。あと怖い。
今の絶対テロップだったら血文字だぞ。泣いちゃう。
なんで全部平仮名なんだよ。ドラクエなの?
俺の罪:ちょろノ下さんと呟く。
雪ノ下からの罰:冷たい声音。
……逆らったら、多分、死ぬ。
「……何も、言って、無いです……」
多分、俺史上最も震えた声で言った。
「…………」
無言で見つめないで。どきどきするから。動悸的な意味で。
「……次は無いわよ」
すんごいこと言われた。
雪ノ下さん、こういう関係だとこんな感じになるんですのん? 指示語が多くなった。
2.
しばらく進むと、小町がある場所に目を留めた。
「あ、こことかどうでしょう?」
「おー、いいんじゃねえの」
小町が指した場所は、ボーリング場だった。
……ほーん? なーんかつい最近来たような……。
記憶が曖昧なまま、とてとてと元気に走る小町に俺と雪ノ下は付いて行く。
「あ、卓球場もあるんですねー。むー、ボーリングも良いけど、卓球をのんびりやるお兄ちゃんとお義姉ちゃんも眺めたい……むむむ……」
「あ」
思わず声に出してしまった。
あれじゃん。
ちょっと前に、一色とデートで来たとこじゃん。
なんで忘れてたんだ俺、こんな危険地帯を……!
この二人の前でこんな間抜けな声を出したら、もはや命に関わる……!
そう思って二人をちらりと見ると、きょとんとしながらも明らかに怪しんでいる。
「……お兄ちゃん?」
「……比企谷くん?」
「……や、その……」
どういう意味での怪しさなのか、二人も最初は分かっていなかったと思う。
だけど、友人関係が皆無の俺が、こんな場所で不意に思い出したように声を上げて、更に今、意味ありげに言い淀んでいる。
迂闊の極みだった。
「誰かと来たの?」
小町がにぱっと笑った。目が笑ってない。
雪ノ下を見ると、彼女もにこっと笑った。目が笑ってない。
下手に誤魔化すと、命に関わるので早めに白状することにした。
「……あー、や、その、前に、一色と、ちょっと」
「行くわよ」
「行きましょう」
食い気味に言われた。
「はい……」
何だろう、思い出の上書き目的なのん?
3.
「雪ノ下、お前って卓球出来んのか?」
俺は小町とやりなれているため、念のため聞いてみた。妹接待プレイなら手慣れたもんだ。
「以前体育でやったことがあるくらいかしら……」
言いながら雪ノ下はコートを脱ぎ、靴を履きかえ始めた。
すらりと伸びた足が、ロングスカートの下から微かに垣間見える。
……何度見ても、見惚れちまうなぁ……。
見つめているのがバレて変態扱いされる前に、急いで目を逸らした。
既に靴を履きかえて暇だったので、ラケットで適当に玉をこんこんとリフティングする。
まあ、雪ノ下のことだ。経験が少なくとも、このプレイ中にどんどん吸収してしまうに違いない。っていうか、下手をすればガチで負けるかも。
小町を見ると、既にデジカメを構えていた。撮る気満々ですやん……。
「じゃ、やるか」
「ええ、お先にどうぞ」
あらま。サーブを譲られた。
まあ、最初だから、なるたけ打ちやすい球を――と思い、程よい高さに跳ねるように、程よくぽこぺんと打ち込む。
――と。
「――あ?」
多分、同じ台詞で、古今東西のあらゆる噛ませ犬の敵キャラが一瞬で死んでいると思う。
玉が雪ノ下の手前で落ちたと思った瞬間、雪ノ下は既に振り抜いた体勢になっていて。
そして玉は、俺の横をすり抜け、あっと言う間に後方の壁に打ち付けられた。
「……い、1-0……」
数秒遅れて、小町がポイントを宣告する。
ポイントが入ったのは、雪ノ下だった。
何が起きたか分からないと言う顔で雪ノ下に目をやると、出会った頃を思い出すような、心底勝ち誇った顔で俺を見ていた。
「……勝負だから、手加減はしないわよ」
……くおぉ、この負けず嫌いさんはぁ……!
「お前、体育でやったことがあるくらいなんじゃねえのかよ!?」
「ええ、そうよ。何故か途中から誰も相手をしてくれなかったからつまらなかったわ……卓球部の子も、先生も」
「それは相手をしないんじゃなくて相手にならないんだろう……」
どんな吸収力なんだこいつは。スポンジって言葉じゃ足りない。ゲルマニウム? 吸収するのが衝撃になっちゃった。じゃあ衝撃貝? 放出出来るようになっちゃった。
……さて、どうしたものか。このままではこっちが0得点でタコ殴りなんてことになりかねない、というか絶対なる。
「雪ノ下、ルールをまだ決めてなかったよな」
「ん、ああ。そういえばそうね」
「……1セットにつき11点先取で、先に3セット取った方が勝ち、って言うのはどうだ? んで、俺が勝ったら……もう昼は食ったから、その内おごってもらおう」
「セットの方は分かったわ。でも賭けの方は却下よ。それだと私が勝った場合何も得られないじゃない」
「ぐ……」
バレた。
おっかしーなー、一色には見事にはめられたんだけど……。
「ひょっとして、一色さんにそんなことを言われてはめられたのかしら?」
「うぐ……」
全部見透かされた……。
雪ノ下は小さく肩を竦めると、ラケットをこちらにびっと突き付けた。
「まあ良いわ。負けた方が何かしらおごると言うことで。では、始めましょう」
言って腰を落とす雪ノ下。その構えがやたらと堂に入っているのはなんでなんですかね……
しかし、ストレートでやられなければ勝機はある。
3セット先取にすることで、雪ノ下の少ない体力が切れるのを狙う。
ぜぇはぁ言っている雪ノ下相手なら、きっと勝ち目が見えるはず。
汚いなんて! 言わせない!
続く。
じっくり書いたら、エロ部分に行くまでに割と書けたので区切りました。次回はエロに入ります。
ちなみにこのエピソードなんですが、こういう日常とエロを含めると全12~3話くらいになりそうです。
なんか、今のこのゆきのんエピソードのようなくだりをのんべんだらりと書きたいなと思いました。その為には各ヒロインのエピソードを書き切らなくては……!
各ヒロインのエピソードを書いたら、このエピソードのゆきのんのようなゆるい絡みをするすると書けそうです。
平塚先生編を完結させつつ、ガハマさん編を進めつつなので……いろはすは来週中に始まる感じかと思います。いろはすらしさがそれなりに出せそうです。
連休が終わるーーーーーー
休み疲れを感じてしまいました。あかん← 今日はちょっと気が抜け過ぎでした。そんな日があっても良いかなーとは思いますが。
小説を5冊程並行して読みながら書いています。書くとなると難しいなぁ……。
ホラーやらサスペンスやらと並行して、ラブコメの類も読んでいます。と言うかそっちの方が多いですね。
そこから吸収したきゅんと来る成分を、少しでもここで活かせたらなーと思います。
毎日書いていると言うことは、この後書きがほぼ日記代わりになることに気付きました、今。割とそうなってますね。
俺ガイルへの愛なら誰にも負けないぞーーーーーと言う思いを、僕の場合はここでひたすら表しています。言ってどうするんだって話ですが!
取り敢えず今週は土曜日出勤がありますが、ゆうて3連勤です。リハビリやでえ……。
明日からまた日々が始まる人も多いかと思います。互いに頑張りましょう!!!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!