折本との雑談がつらつらと続く。勉強会という当初の目的を果たしていないが、ちょっと楽しくなってきている感が否めないのでこれはこれで良しとする。
「あー、飲み物もうなくなったね」
「だな、何か頼むか」
「ん、確かここってアイスカフェオレならおかわり出来るらしいよ」
「え、マジか」
「そうそう、ウソウソ」
「おい……」
「ぶっ、くく……っ」
こういった感じで、既に数えきれないからかわれている。カフェオレがおかわり出来るって結構胸熱だと思ったのに……。
「ねえ、比企谷」
話と話の谷間、何をするでもなく店内を眺めていると、窓から外の景色を見ている折本がぽつりと呟いた。
「ん、どうした」
「比企谷って、あの部活の二人とまだ付き合ってないの?」
「……ねえよ。ていうかその言い方だとハーレムみたいだからやめろっての」
「あはは、確かにそうだね。そっか、まだか……意固地だなぁ」
折本が両肘をテーブルに乗せ、両掌に顎を乗せる。その表情はどこか大人びていて、俺を見て困ったように笑っている。実際に姉がいたら、こんな表情をされることがあるのだろうかと思った。
「意固地も何も……まあ、なんだ、うん、取り敢えず付き合ってねえよ」
俺のまごついた返しに、折本は目をぱちくりとした後にやっと唇の端を上げ、同じ体勢のままずいと顔を近付けてきた。
「何か色々あったって顔してる。……まあ、聞かないでおくけど」
「そうしてもらえると助かる……って、近い近い近い」
俺は俺でテーブルに肘を乗せていたので、気付けば二人の距離がかなり近くなっていた。
てっきりこのタイミングでまたからかわれるのかと思ったけれど。
「……あ、ごめん……っ」
さっきまでとは打って変わって、折本は頬をほんのり朱に染めて、しおしおと元の位置に戻った。想定したものとまるでリズムが違う反応に、こちらの調子が狂ってしまう。
「あ、いや、別にいやって訳じゃないぞ。ただ家族以外の人間との、こういう近さの距離感ってのに慣れてないだけだ」
「それどんな人生なの……っ」
顔を突っ伏して笑ってらっしゃる。何にせよ、ついさっきの妙な空気をうやむやに出来て良かった。
折本が顔を上げて目の端の涙を拭った。この子明日にはお腹が筋肉痛になるのではないかという危惧さえある。
「……そっか、付き合ってないんだ。ということは彼女はいないんだ?」
「俺の全女性交友範囲をあの二人に限定するな」
「でも大体はそうじゃない?」
「……まあ、言われてみれば……」
「70%くらい?」
「いや、30%くらいだな」
「ご家族は含めてないよね」
「あー、含めないと90%くらいだな」
「めっちゃ上がった……っ」
またしてもテーブルに突っ伏してぷるぷる震える。今日はテーブルの上でよくワカメが踊る日ですなあ……。
ちなみに残りの5%は平塚先生で、その他が最後の5%くらいだ。部活以外でそもそもまとまった時間一緒にいることが無いとこうなる。
「……まあ、どっちにしろ彼女はいねえけどな」
妹を嫁にしたいという願望を晒せば、折本が盛大に微妙な顔をするのは目に見えているので控えておく。
「そっか。じゃあ、好きな人は?」
「すげえ追求してくるな……女子かよ」
「女子だって」
「そうだった、立派な女子だった。すまん」
「あ、うん……」
顔を逸らされた。何ぞや。
好きな人……即ち会って話したいなと思う人……と考えて、真っ先に戸塚を思い浮かべた俺を責める人はいないと思う。
「好きな人……まあ、いねえな、うん」
まるで好意を持つ女性がいないという訳では全く無いので、何とももやっとした返事をしてしまった。折本も俺の空気を察して、「そっか」と短く答えた。
さて、ここで考える。
会話のキャッチボールとは、基本的に同じ質問を相手にも投げかけることだ。相手がしてくる質問というのは、往々にして自分もされたい質問という場合が多い。
ちなみに「可愛いね」「良い声だね」「優しいね」といった褒め言葉も、普段から自分が意識していて「こういう風に褒めてもらいたい」と意識している事が多いから、相手のそういった面に気付く確率が上がるが故に出てくるんだそうだ。何この豆知識。
なので。
「……折本は?」
「ん?」
それとなく返してみると、折本は再びさっきと同じく肘をテーブルに乗せて、悪戯っぽい笑みを浮かべた。「何のこと?」と言わんばかりの表情は、俺に具体的な発言を求めている。絶対分かっていながらこの返しをする悪戯っ子にいつか仕返しをしたい。
「……彼氏とか、好きな人とか、いねえのかって話だよ」
「……んー、どうだろ?」
恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら発した言葉に、折本は意味深な言葉で返す。
「いや、それじゃ全然分かんねえっての」
「ふふ……っ、ごめんごめん。比企谷って反応が良いからついね」
この場面でもからかってきなさる。
「彼氏はいないなー。好きな人も……別にいないかも」
「お、おう、そうか……」
「……うん……」
さらりと返された言葉に、気の利いた返答が消失する。
妙な空気に困り果ててメニューに視線を巡らせると、ふと考えが浮かんだ。
「あ、ここのカフェオレ、本当におかわり出来るぞ。お一人様一回までだってよ」
「え、ほんとに?」
「ああ、うそうそ」
「…………」
折本が高速で顔を逸らす。頬がほんのり赤い。恨み気のある視線を流し目で送られた。
そうか、攻めるのは得意でも、攻められるのには弱いのか。
…………。
語弊しかなかった。
「……あー、それならアレだ、こういう所に一緒に来るような男友達はいるのか。一般女子の感覚が分からんもんでな」
雪ノ下はあんなだし(失礼)、由比ヶ浜に以前この質問をしたら頬を膨らませて拗ねてしまい、平塚先生は俺の襟を引っ掴んで「皮肉か? 皮肉なのか?」と涙目になってたもんで。ちなみに一色は小間使いとして男どもを利用しているがあれは例外なので除いておく。小町が誰か男と一緒にいようもんなら俺はショットガンを持ってうきうき気分で散歩に出かけてしまうだろう。どうでも良いけど、出来ちゃった婚って英語でショットガンマリッジと言うらしい。妊娠した女性の父親がショットガンを持って娘の恋人である男性に迫り、「責任を取って娘と結婚しろ!」と言ったのが由来だそうだ。だから何なんだよこの豆知識。
「んー、大人数で来ることはあっても、二人では行かないかなー。比企谷は?」
「大人数で来るっていう発想が無かった」
「日本ってもっと自由に生きて良いと思うんだけど。……そうじゃなくて、二人でってこと」
「ああ……まあ、うん、滅多にない」
俺の返答にまたしても色々と察してくれた折本が、「ああ……」と意味深に笑う。
「たまにはあるよね、うん」
「まあ……な」
「…………」
「…………」
会話が不自然に途切れ、視線を個室内に巡らせていると、折本とぱちりと目が合った。何とは無しに目を逸らすと、頬に熱のある視線を感じた。
何だろう、会話中は何とも無いんだが……会話と会話の谷間に感じる折本の視線の熱量が、やはりほんの数十分前までと違う。
どうしたものかと思っている内にお昼時になり、このままここで食べていくことにした。幸いそこまで混んでいなかったので、長居しても良いだろうという判断だ。
まだ正午を回った程度。
この後はまあ、ご飯を食べたら勉強するだけ……勉強するだけ……と、二人の間に流れる奇妙な空気を振り払うように考え続けていた。
続く。
折本でした。ゆーるゆる。折本との会話のノリが徐々に掴めてきた感があります。
ただダべるだけで1話使うというのをよくやってますね僕。のほほん。
また平日頑張りましょう。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!