「……取り敢えず、お茶どうぞ」
「あ、あり、ありがと……」
「…………」
折本の家の前で初めてキスをした翌日。
勢いで自宅に誘ってみた所、オーケーを貰ってしまった。そんなに展開を急ぐつもりは無く、単純に自分が安心出来る場所で折本と過ごしたいという気持ちで誘ったのだけど……当の折本はと言えば、それはもうがっちがちに緊張していた。多分学校の上位カーストの女子グループに俺が突然放り込まれたらこんな感じになる。借りてきた猫って感じだ。
「…………」
お茶に手を付けることもなく、せわしなく辺りに視線を巡らせる折本を見て、何気なくその髪をくしくしと撫でる。
「あ、ちょ、なに……? んん……っ」
「…………」
顔を赤らめながら、俺の手を引き離すか迷っている。
何だ、この子。
意外に……と言えば失礼に値する訳だが。
折本かおりは、とても可愛いと言うことが分かった。
「……まあ、なんだ、のんびりしてくれ」
視線を逸らしながらぽそりと呟くと、折本がくすりと笑う。
「フォロー下手……っ。でも、ありがと。何しよっか?」
柔らかく微笑まれて、心臓が鈴のように鳴る。
「あー、まずはその、何だ、無難にこういうのはどうだろう」
言って、今日折本が来るまでに借りた映画を3本程テーブルの上に並べる。どれも比較的新しいもので、人気のあった恋愛映画だ。これなら女子も無難に興味を持ってくれるのでは……と思っていると。
「へー! あ、これとこれ見てみたかった。これは初めて見るかも……面白いのかな。うーん、どれにしようかな……」
折本が思いの外良い反応を見せてくれて、ほっと一息を吐く。
「うーん……一番見たいのはこれかなぁ……」
楽しそうに迷いながら、折本が視線を巡らせる。
不意に、折本が隣にいる俺の側に身を乗り出してDVDを眺め始めた。その瞬間、ふわりと甘い匂いがして、2人の距離がとても近くなっていることに気付く。
「あ……ご、ごめん」
顔が熱くなっていると、折本も距離感に気付いて頬を赤らめる。しかし彼女が離れようとする寸前、反射的に右肩を掴んで抱き寄せた。
「え……んん……っ!」
勢いのまま唇を重ねる。昨日は重ねるだけの口付けだったが、昨晩はずっとそれ以上の感触を求めていた。折本が抵抗をしないのを確認して、舌で唇の割れ目をなぞる。
「ん……ふぅ……っ? んんん……っ!」
折本が目を白黒させ、こちらの太ももに不安げに手を重ね置く。震える手に自分の手を重ねると、徐々に舌を温かな口内へ侵入させていく。
「ん……ちゅくっ、ちゅろっ、んふぅぅ……ふっ、んんん……っ」
口内を舌で丹念に舐め回し、恐る恐る出てきた折本の舌を咥え込んで啜る。ずじゅる……と音を立てて啜ると、折本の目が見開かれ、そこからうっとりと細められていく。
窓を閉め切った部屋には何の音も入ってこない。ちゅぴ、ちゅぴ……と2人の舌が絡まる音だけが妖しく響いて、今までの日常を新たな日常が侵食していく。家に招いたとは言ってもあまり関係を急ぐ気は無かったが……これだけは絶対にしたかった。まさかこんなに早くやってしまうとは思わなかったが。
「……んぅ……っ」
唇を離すと、2人の間にうっすらと透明な糸が引く。指で掬うと折本は真っ赤になった。どうするか数瞬迷って、唾液を掬った指を折本の唇に割り入れる。
「んっ、ふぅ……っ? んっ、ちゅっ、はむっ……んんん……っ」
「……っ」
うっとりとした顔で指を舐められて、鼓動が爆発的に高まる。どんどん入り込んで行く人差し指を理性が弾ける前に引き抜くと、折本はハッとして顔を赤らめた。
「あっ、あはは……ちょっと、もう……早いって……っ」
言いながら、俺の肩にとん、と身を預ける。
「……キスって……こんなにドキドキするの……っ?」
折本が囁いた言葉に、ぐっと身体が固まる。
「……そう、だな……。……映画、見るか」
「……うん……」
押し倒すのを我慢して何とか予定通りの流れに持って行ったが、折本がどこか残念そうにしていたのは気のせいだろうか。
× × ×
ついさっきはどれにしようかと意気揚々と選んでいた折本だったが、キスにより興味が完全に逸れたらしい。折本が一番良い反応を示していたものを選んで観始めたものの、ずっと顔に視線を感じる。折本を振り向くとふいと顔を逸らされ、テレビ画面を観ているフリをされる。冒頭の15分くらいを全く観ていないのを知ってるんだぞ、こっちは……。試しに折本が映画を観ている間、今度は俺が折本をじっと見つめてみる。すると折本は視線をテレビ画面に向けながらもそわそわとし初めて、俺の手をきゅっと握った。力強く握り返すと折本はびくりと震えて、恐る恐るこちらを振り返る。
目が合った。
テレビの音量を落とす。
顔が近付いた。
折本の睫毛が長いことに気付く。
綺麗な顔をしているな……と思っていたら、唇が重なった。
「ふ……っ、うんん……っ」
悩ましい声を漏らして、折本が舌と腕を絡めてくる。じゃれつくように抱き付かれ、身体が徐々に倒されて行く。伸ばした手でリモコンを掴んでテレビを消すと、映画を観る為にカーテンを閉め切った部屋は暗闇に包まれた。
「うんんん……うんんん……っ」
折本の声に、いつものさばさばとした明るさが全く見受けられない。仰向けに倒れた俺の首に腕を絡め、身体を擦り付けてくる。猫がじゃれついているような、そんな甘え方。流れ込んでくる唾液は甘露のようで、ごくりと飲み込む度に恍惚として、折本を抱き締める腕に力が入る。
「あ……っ?」
背中を抱き締めていた手を、我慢出来ずに尻に滑らせていくと、折本がどこか惚けたような声を出す。
……と、ここでふと思うことがあった。
「……電気、点けて良いか? 顔が見たい」
「……下手なこと、しないんじゃなかったの?」
耳元で、悪戯っぽい声で囁かれる。その声に批難の色は無かった。
「それはまあ、あれだ……下手って言われないように頑張るっつうことで」
頬をぽりぽりと掻いて呟くと、折本がくすくすと笑った。
「ぷっ、くく……っ。うん、分かった」
折本が身体を離し、電気を点ける。折本は顔をほんのりと赤らめていて、まだ寝転がっている俺に身体を屈めて微笑んだ。
でも、ちょっと怖いから……と呟き、俺の上に覆いかぶさって、耳元で囁く。
「……優しくして?」
「――――っ」
身体中にざわざわとした欲望が走り抜けた。危うく暴走しかけるが何とか踏み留まる。
「……善処する」
「硬いって……っ」
また笑われてしまった。
けれど、折本が笑うのを見るのは本当に心地が良い。
どこまで出来るかは分からないけれど、事を終えた後も折本の笑顔が見られるように……目一杯頑張ろうと思った。
「……気張んなくて良いからね?」
「……おう」
おうふ。
折本の方が一枚上手だった。
続く。
折本でした。
他のヒロインより展開は早めですが、その分多少違った流れも書ければと思います。書けたら良いな!
更新頻度が少ないのもありますが、折本好きなんで続き楽しみにしてますという声をしょっちゅう聞けてありがたいし嬉しいです。ありがとうございます!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!