昨日突然「あ、マッサージしたら楽しそう」と思って書いてみました。
極力3話程度で終わるようにします。
(1)
季節は春。高校3年生になって間もなくの休日のこと。
俺は雪乃の家に遊びに来ていた。
休日は何か用事でも無い限り、必ずどちらかの家で会っている。別に取り決めをした訳でも何でもなくて、自然と今の状況になっていた。
平日は雪乃の家だとお泊まりが容易いのでよく行っている。高校生だろと言われる所だろうけども。驚くなかれ、うちの母は「早く可愛いお嫁さんとの食事会を設定しろ」という段階の飛び過ぎた命令をしてくるし、父は「早く家から出て行って俺がもっと小町と話せるようにしろ」と言ってくるばかりで、お泊まりのことをまるで気にしていないのである。俺が家を出たとしても小町は父と大して話さないと思うけども。
そんな状況だし、俺も雪乃も一緒に夜を越えたからと言って勉強を疎かには決してしない(睡眠時間は削れるが)ので、すっかり比企谷家公認の仲になっていた。
ちなみに以前雪乃の家に泊まった時、陽乃さんが気紛れで強襲をかけてきて、全裸で毛布に包まった俺が押し入れに隠れるという間男ぶりを発揮したことがあった。
『雪乃ちゃん、おひさー』
『姉さん、何で急に……っ』
『おや、何だか雪乃ちゃん、雰囲気がとってもセクシー……それにこの匂い……』
『な、何でもないわ。今ここに居るのは私一人よ。誰もいないわ』
『雪乃ちゃん、わざわざ墓穴掘るのとっても可愛いね。ところで、もし本当に一人だったら何で玄関に男物の靴が置いてあるの?』
『そ、それは……』
押入れ越しに、二人の声を聞く。一枚の壁越しに聴く2人の会話は妙に遠く思えた。
しかし。
『んー……こことか?』
陽乃さんが少し悩む声を上げたかと思うと、真っ暗だった空間に一気に光が差し込んだ。俺を見た陽乃さんがきょとんとした顔をしている。
「……どうも」
「……ほんとに居た……」
「…………」
静止画みたいな空間では、気まずそうに動く目もよく見える。
陽乃さんがあんなに複雑な顔をするのを見るのも。
陽乃さんが小さな声で「……なんか、ごめんね」と謝るを聞くのも。
あの時が初めてだった。
そんなこんなで、今日はのんびりと過ごしている。
俺も雪乃もリビングのソファに座って、互いに好きな本を読んでいる。雪乃は俺にぴったりと密着していて、内心気が気でなかった。初めて会った頃の雪乃が今の自分を見たら卒倒するんじゃなかろうか。
心臓がバクバクしている俺をよそに雪乃は、
「伏線の張り方が甘い……」
「…………」
読んでいる小説に厳しめのダメ出しをしていた。雪乃は本を読みながらこうして独り言を言うことがたまにあるが、一人で居る時はそれが無いらしい。俺と居る時だけ独り言を言うってなんなの俺に聞いてほしいのと言ったら、頬を赤らめた雪乃に何故か説教された。長引く前にキスをして強制的に中断させた。お互い顔が真っ赤になった。
今はこうして読書に興じている訳だが、俺は今日、とある目的を持って雪乃の家に来ている。
集中出来ないなりにキリの良い所まで読み終わると、雪乃も丁度本を読み終えた所だった。
「どうだった」
「まあまあね。所々作りの甘い所はあったけれど、瑞々しい人物描写はとても良かったわ」
「さいですか」
いつも通りの会話をしていると、雪乃が俺をじっと見つめた。
「どうした」
俺の言葉に答えず、雪乃が立ち上がって俺の前に来る。
「八幡、足を開いて」
「え、あ、おう」
言われるがままに足を開くと、雪乃は身振り手振りで俺に後ろに下がるように伝えてきた。ソファの背もたれに背中をぺたりと貼り付けると、雪乃は身体を半回転させて、俺の股座にすっぽりと収まった。見事なフィット感である。
「えーと、雪乃さん?」
「何か文句でもあるのかしら?」
「ないです……」
なんなの、強がらないとこの状態に持っていけないの?
可愛すぎて死ぬ。
背もたれから身体を離して、雪乃のお腹に両腕を回して抱き付く。小さな肩にあごを乗せると、柔らかくて甘い匂いが鼻腔を包み込んだ。伝わる感触も、匂いも、何もかもが優しい。
雪乃は俺の手に自分の手を重ねて、俺の頬に自分の頬をぴとりとくっつけた。言葉では平静を装っていても、頬の熱さで動揺がバレバレだ。にやけそうになるのを堪えながら、蜂蜜のような時間を堪能する。
もう少し続けていたいなと思ったが、先程も言ったように俺には目的がある。やりたいことがあるのだ。
だから、勇気を持って切り出すことにした。
「なあ、雪乃」
「お小遣いは増やせないわよ」
「なにこの夫婦みたいなやりとり」
「え」
「え?」
「……あ……」
「…………」
自分のセリフで自爆する雪乃が可愛くてしょうがない。ていうか俺、小遣い増やしてもらえないんだ……。これは最初の金額交渉が重要だな。
いや、何の話だこれ。
「雪乃、この後なんだけど」
「……何かしら?」
「最近疲れてたりはしないか?」
「……どうしたの急に? まあ、勉強疲れは多少あるけれど……」
「そうか、そうだよな、よし。それなら「マッサージは無しよ?」俺まだ何も言ってないんだけど?」
先手を打たれた。
しかも当たってる。
「そんなこと言わずに、な?」
「……口では優しく言っておきながら、抱き締める力を強めるのは反則よ……?」
雪乃の声が震える。首筋に息を吹きかけると、微かな音で歯が鳴った。
「……な?」
「……変態」
「それはオーケーということか?」
「変態」
「どっちだ?」
「……別に、あなたがやりたいのなら、許してあげなくも、ないわ……っ」
「……じゃあ、ぜひ」
これ以上いじめると泣いてしまいそうだったので、ぎりぎりで抑えておいた。
雪乃の頭をくしゃくしゃと撫でて、寝室に向かった。
× × ×
突然だが、雪ノ下雪乃という人物の魅力とはどう言った点にあるだろうか。
何度身体を重ねようと、まるで処女のような純白さを保ち続ける容姿。
触れた埃が全て滑って流されそうな程流麗な黒髪。
凍てつくような雰囲気を纏わせていながら、時折ふっと優しくなって強烈なギャップを醸し出す瞳。
上げようと思えばいくらでも挙げられる。以前試しにWordで打ち出してみたら物凄い字数になった。雪乃に覗かれそうになったので押し倒して誤魔化した。誤魔化し方が野蛮すぎるけどやむをえまい。あんなの見られたら責任をとるしかなくなる。とるけど。
本当に好きな人のことはもはや「何となく好き」と言ってしまえるらしいのだが、俺には当てはまらないらしい。
……と、まあ、こんな風に沢山ある雪乃の魅力の中の一つに、「溢れ出す語彙による罵倒」が挙げられると思う。これを魅力と言うとなんだこいつドМかよと思われるかもしれないが、大丈夫、あいつの方がМだ。たまに攻守交替するのも楽しいけども。
そんな、いつもなら俺が思い付きもしない言葉を組み合わせて罵倒してくる雪ノ下雪乃が。
「ばか、変態、ばか」
「色情魔、ばか、ばか」
「ばか、ばか、ばか」
ご覧の通り、とってもボキャ貧になっているのだ。
恐ろしいくらい可愛い。
現在2人がいる場所は雪乃の寝室。
俺はベッドの縁に座って、雪乃はうつ伏せになって寝ている。
――下着姿の上に、薄いバスタオルを掛けただけの状態で。
俺は子供のような罵倒を繰り返す雪乃(色情魔という言葉だけ妙に難易度が高いが)の背中を眺めている。
「早く、するならしなさい……っ」
俺にとっては短い時間でも、雪乃にとっては果てしなく長い時間だったらしい。わりいと一言謝り、雪乃の腰を跨いで膝立ちになる。
「じゃ、行くぞ。ここをもっと揉んでほしいって所があったら言ってくれ。いくらでも揉むから」
「変態」
「ああ、そうだな。逆にここは本当に痛いって思ったらそれも言ってくれ。他の所をたっぷり揉むから」
「変態」
「違いない違いない。よし、じゃあ行くぞ」
「変態」
「…………」
言ってることは同じなのに、毎回声音や仕草が違う。最後なんかは腰をくねくねと揺らしたし。
何この可愛い生き物……と思いながら、俺は身体を屈めて雪乃の背中に両手を伸ばした。
続く。
ゆきのんでした。お久しぶり。
現在のルミルミ、サキサキ、折本の布陣でしばらく連載していたんですが、不意に書きたくなりました。
仕事の都合で2日休んでしまいました。楽しみに待って頂いている方は申し訳ありません!
<お知らせ>
コミケ用原稿、現在最終調整中です。僕の作品タイトルは「エロデレな一色いろはが禁欲に挑戦すると、とても大変なことになる。」です。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!