ベッドの上に広げた道具を眺めて、まずはどの道具で責めるかを考える。あぐらを掻いて唸っていると、陽乃さんが俺の背中にぴたりと抱き付いてきた。骨が無いのではと疑ってしまう程の柔らかさに思考を放棄してしまいそうになるが、気を取り直して吟味を続ける。すると今度は抱き付いたまま頬を指でつついてきた。子供が大人にちょっかいを出しているような、優しい力加減でぷにぷにとつつかれる。背中に意識を集中させると、今さっきまで見惚れていた筈の下着の感触が無い。この人いつの間に脱いだの? 陽乃さんは相変わらず俺の頬をつついてくる。今度は両頬だ。頑張れ俺。今陽乃さんの顔を見たら、即座に襲いたくなるくらい可愛い顔をしているに決まっている。大丈夫、俺は大丈夫。平静を保つことが何でこの人耳に息を吹きかけてきたの? 大丈夫、俺は大丈夫。俺なら出来る何でこの人の耳たぶ噛んでんの? しかも何で可愛らしくあむあむ言ってるの? 大丈夫、俺は大丈夫。俺ならペースを貫ける何でこの人俺の乳首を指で撫で――
「……ちょっと」
「およ?」
両腕をがっしり掴んで陽乃さんの動きを止める、すっとぼけた声が聞こえた。何だろうこのシュールな体勢は。
「どうしたの比企谷くん、ちゃんと選んでくれないと」
「むぐ……っ」
陽乃さんは楽し気に言いながら、俺の鼻に今しがた脱いだばかりの、卑猥にも程があるブラを押し付けてきた。しかもちゃんと内側を押し付けられた。しっとりしている。良い匂い。いや、そうじゃなくて。
「ほれほれ、選んで選んでー」
続けざまに、じっとり湿ったショーツを肉棒に巻かれた。それだけでいやらしい匂いが分かって、肉棒が更に滾ってしまう。何でこの人、ショーツを巻いたままゆっくりしごき始めたんだろう。
それにしても、陽乃さんが本当に楽しそうだ。3日間一緒に居られるからこれだけ楽しそうにしてくれているのだろうか。そう言えば陽乃さんは俺の部屋に泊まりに来る時は決まってテンションがやたら高い。そうか、俺と居るのが嬉しいのか……。
…………。
……何だこの可愛い生き物……。
「……陽乃さん」
「ん、なに?」
呑気な声で返してくるが、手の動きは明らかに速くなっている。
「このままだと出てしまうので、この辺にしてください」
「嫌だって言ったら?」
「ん、うーん……あ」
ふと、目隠しが目に入った。アイマスクの形をした目隠しは摘まんでみると肌触りがしっかりしていて、かなりの遮光性を備えていると予想出来る。
「これを最初に着けてもらって、徹底的にいじめます」
「え……」
陽乃さんが身体を離し、一気に後ずさった。足の隙間から時々見えてはいけないところが見えてしまっているけれど、そこは敢えて見な……やっぱり見たいから見る。
「変態」
本能に従ったら一瞬でバレた。しかもちょっと頬を赤らめて言われた。
それにしても。
「陽乃さん、これ自分で用意したんですよね? 何で躊躇うんですか」
俺の言葉に、陽乃さんは珍しく「うっ」と苦しそうな声を上げた。
「あー、いや、うん、準備した時はさぞ楽しくなるだろうってくらいに考えてたんだけど……いざ、比企谷くんがハァハァしながら迫ってくると……ちょっと恥ずかしくなったと言いますか……」
え。
「……俺そんなハァハァしてました?」
地味に物凄くショックを受けながら聞くと、陽乃さんは顎に人差し指を当てて上を向き、んーと唸った。
「ん、それは嘘だけど、ちょっと恥ずかしくなったのは本当」
嘘かい。
「その嘘いらないでしょう……っていうか、ん? 恥ずかしくなったのは本当ってことは……」
目隠しを持ったまま、陽乃さんににじり寄る。
「…………」
陽乃さんが俺と距離をとった。ぎこちない笑みを浮かべて、足をしっかり閉じながら。
もう一度にじり寄る。
「…………っ」
陽乃さんが再び俺と距離をとった。頬を赤らめ肩を竦ませて、胸も隠しながら。
…………。
なんだろう。
何かこれ、楽しい。
いつもは陽乃さんが欲求全開で飛び込んでくる(語弊あり)から、こういう恥じらいや拒絶を見せられると妙に燃える。
もう一度、にじり寄る。今陽乃さんはベッドの端にいるから、これ以上は逃げられない。さあ、どうする……?
陽乃さんは困ったように笑って、そして美しい顔をくしゃりと歪めて泣きそうな表情を浮かべた。
「だめ、恥ずかしいの……っ」
「……っ」
陽乃さんの言葉と仕草に、目を見開いて固まってしまった。
陽乃さんは口元に手を当てて、普段は意志力に漲った瞳を潤ませている。
適度な肉付きのすらりと伸びた足はしっかりと閉じて、もじもじと内股をこすっている。
弱々しい乙女を体現したようなこの姿は、陽乃さんの普段をよく知っている俺からすれば演技としか思えなかった。
しかし、それでも。
その表情はあまりに可憐で、色っぽく、嗜虐心をそそって――
「……陽乃さん」
「……なに?」
「ティッシュありますか」
「久しぶりだね……」
鼻血が出た。
シーツを汚す前に手早く拭いた。
ティッシュを俺にくれる陽乃さんも、それを受け取る俺も、一連の流れに慣れてきている感があり動きがとても滑らかだ。
綺麗に拭き取った所で、こほんと咳払いをする。
「まあ、目隠しはもうちょっと後でやることにしましょう」
「ん、わかった」
「陽乃さんが寝てる隙に着けます」
「…………」
「それ以上逃げたらベッドから落ちますよ」
機嫌を直してもらおうと陽乃さんの頭を撫でると、不機嫌そうな顔で睨まれた。しかし拒絶はされない。未だに撫でるのに適切なタイミングが掴めない。
さて、と改めて道具を見渡す。
「……初めはこれですかね」
じっくり責めるなら……という基準で、とあるものを選んだ。
× × ×
筆。
書道で用いるような、世間一般でよく見られる毛筆だ。
この毛触りは、陽乃さんをじっくり責めるのにはぴったりと言えるだろう。くすぐったさをほとんど全て快感に変換させてしまう陽乃さんが一体どんな反応をするのか、楽しみでならない。
「陽乃さん、これで責めますね」
「……うん、わかった」
小さく頷くと、俯いて上目遣いで俺を見つめてきた。潤んだ瞳は艶を帯びていて、ついさっきまでとはまるで雰囲気が違う。今なら何を命令しても言うことを聞くんだろうな、と思った。
まずは軽い所から責めることにする。
「それじゃ、手を上げてください」
「ビンタすれば良いの?」
「暴力的な意味じゃなくて」
一瞬調子が狂ったが、俺が左手を差し出すと、陽乃さんはおずおずと右手を差し出した。
――綺麗な手だ、と思った。
人間のどんな黒い部分をも飲み込んで、それでも尚色が全く濁らなさそうな程白い肌。
全ての指輪はこの人の為にあるのではないかとさえ思える程、すらりと細く長く伸びた指。
この美しさは、今だけのものではない。これから先何十年経って、この指にどれだけの年輪が刻まれようとも、いやむしろ刻まれば刻まれる程、更に美しくなりそうだ。
そんな陽乃さんの手首に左手を添えて、右手に持った筆を近付ける。指輪を着ける動作みたいだな……と思ったら、少し顔が熱くなった。
陽乃さんの手の甲を、筆先が柔らかに撫でる。
「んぅ……っ」
陽乃さんが目をきつく閉じて、声を震わせる。緊張感も相俟って、かなり反応が良い。心根の奥をどす黒い感情がぞわりぞわりと侵食してくると、とあるアイディアが浮かんだ。
「陽乃さん、一つ指示を出します」
「……なに?」
「今から陽乃さんの全身を筆でなぞります。その間、陽乃さんは絶対イカないでください」
「……っ」
陽乃さんの瞳が見開き、唇が震える。
陽乃さんの体質からしてみれば、地獄のような命令の筈だ。
なのに、それでも。
「……うん、がんばる……っ」
震える声で返事をした陽乃さんの口の端が、微かに上がった気がした。
続く。
はるのんでした。第4話の最後にしてやっと道具を使い始めるという。
はるのんは素っ裸でもこういうノリで居てくれそうだなーと思って書いてみました。楽しいです。
2日間お休みしてどうもすみません。今後もこういう時がある可能性が十分ありますので、ぜひTwitterのアカウントをフォローして頂けると助かります(露骨な宣伝)!
takahashi_toru_
です。よろしくお願いします。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!