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朝起きると、何も見えなかった。
目を開けたつもりだったのに、真っ暗闇の中にいた。
「……んん?」
自分が思った通りの呻き声が聞こえて、どうやらこれは夢ではないことに気付く。視界が真っ暗な夢って夢だと認識しづらいか……などとどうでもいいことを考えたが、そもそも何で視界が真っ暗なのかという疑問の波が勢いよく押し寄せてくる。
うーむ。
何これ?
可能性はいくつかある。
①やっぱり夢だった。この場合は明晰夢というやつだろうか。
②陽乃さんが何かやらかした。
③俺が寝てる途中で盲目になった。ホラーだなこれ。
④陽乃さん。
⑤どう考えても、
⑥陽乃さん。
「……だよなあ、やっぱり」
他の原因の何百倍もの説得力を持つ犯人が思い浮かんで、最終的に④~⑥で川柳(意味は全く無い)を作ってしまうくらいには、あの人がやったとしか考えられない。
「……むう」
しかも、何故なのか四肢が全く動かない。
見えないから何とも言えないが、恐らくムササビのような恰好になっている。両手首と両足首が柔らかな布で縛られているようだ。ベッドの感触は昨日感じたもののままだから、恐らくベッドの上で俺はムササビになっている。ムササビにはなってねえな。何回ムササビって言うんだ俺は。
目覚めたら、目隠しをされていて?
四肢ががっちり縛られている?
……陽乃さんが、それをやっている?
「……やばい」
思わず独り言ちる。
陽乃さんがこんなことを仕掛けてくる時点で、「えへへ、びっくりしたー? はい、イタズラおしまーい!」とはならないだろう。ていうか誰だこのキャラは。
試しに身体をもぞもぞと動かしてみるが、俺が多少暴れても手首や足首に痛みが走らないくらいには優しく、けれどがっちりとホールドされている。やだ、安心設計……。
今ので不安が倍増した。
つまりこの状態は、「比企谷くんがいくら暴れても大丈夫だよ」と言われているようなものだからだ。あの人がやっておいて、偶然柔らかい布で縛ったなんてことは有り得ない。意図的に決まっている。そして今、こうして俺が悶々としている時間も、もしかしたら自ら説明することなく俺に全てを悟らせるための時間なのでは――と、思った瞬間。
肌に、視線が突き刺さった。
外気に晒された肌に、ねっとりとした視線の矛がずぶりと刺さったような気がして……ここでようやく、温かい部屋で全裸になっているのだと気付く。
足音はしない。
けれど、視線が刺さる面積が広がってきたことで、視線の主が近付いてきたことがわかる。
ベッドがぎしりと鳴った。心臓が冗談のように跳ねる。
「比企谷くん、おはよ」
「……っ」
胸板に温かな手を当てられ、まるで心臓に直接針を突き付けられたような気がして――咄嗟に出そうとした挨拶の言葉が、全て形を成さず空気となって吐き出された。
「あはは、もう一通り状況は把握したでしょ? じゃなきゃそんなに恐がらないもんね」
「……ええ、まあ」
陽乃さんの声は明るい。けれど、目が笑っていないであろうことは見ないでもわかる。柔らかな声音にそぐわぬ艶めかしい手つきで、胸から腹にかけてゆっくりと撫でられる。
「……もう、おっきくなってるよ? わたしが触るとすぐこうなっちゃうよね? まるでパブロフの犬だね」
楽し気に笑う陽乃さんの言葉でようやく、いつの間にか肉竿が反り返っていたことに気付く。得体の知れない恐怖を感じていたというのに勃起してしまう自分に心底呆れていると、「ああ、でも……」と陽乃さんがくすりと笑った。
「わたしも似たようなもんかな、ていうか君よりひどいよね」
濃密な色香を何回も刷毛で塗り付けたような声で囁き、陽乃さんが肉竿の手前側に跨る。心地良い軽さと生々しい重さが身体にのしかかり、命を握られたように気持ちになった。
陽乃さんが前屈みになって、豊満な双丘の割れ目を肉竿に押し当てるような体勢にすると、互いの陰毛が絡まった。 君よりひどい……と陽乃さんが言った言葉の意味は、わざわざ聞き直さずとも分かる。陽乃さんの秘部からは、既に淫蜜がたっぷりと溢れ返っていた。
「わたしから一方的に触っただけでこうなっちゃうんだから……呆れるよね」
俺の返事が無くとも、独白を楽しむかのように陽乃さんはくすくすと笑う。
やがて、身体の前面に何度味わっても信じられない柔らかな感触がした。
「ねえ、比企谷くん」
ぎゅっと抱きしめられ、耳に唇が付くほどの距離で囁かれる。ねっとりと粘液を纏った細い触手が耳に入り込んで、脳を作り変えられてしまいそうな気がした。
「わたしね? 多分、君が思ってる以上に……君のこと、好きだよ。大好き」
思慕と恋慕と、執着に近い愛情がたっぷりと染み込んだ言葉に――ぐらり、と世界が揺れる。
伸びていた触手が、脳をぐるりと囲ってぎちりと締め付けてきた気がした。あまりにも恍惚として、今なら何でも聞いてしまいそうな、そんな危うげな幸福感。今この距離で囁かれたら、「お願い、死んで?」と言われても思わず従ってしまいそうな――それほどの酩酊感を伴った、危険な幸福感が脳内を支配していた。
「すごく、好き。君と会ってる日はまだ良いの。会えない日は一人でするのが大変なんだよ? お風呂でしないとどこもかしこもぐしょぐしょになっちゃうんだよ?」
それは俺といる時でも同じでは……なんて無粋なことは、まかり間違っても言えなかった。
「わたし、多分だけどね。だいぶ歪んでると思うの」
はい!
とは言えない。まかり間違っても。
「……今、何回も頷いたの自分で気付いてる?」
「いででですみませんすみません!」
頷いていたらしい。
乳首をつねられた。しかも両方。
マジで痛いからやめて頂きたい。いやほんとに。
はあ……と可愛らしいため息を吐いて、陽乃さんの身体が再び密着する。何も囁いてこないのでどうしたのかと思っていると、耳に息を吹きかけられた。吐息にほんの少しだけ混ぜられた声がたまらなく艶っぽくて、鈴口から先走りの汁がこぷりと零れ、隆起した竿を静かに伝った。
「わたしの愛情表現って、ノーマルからは程遠いなーって思うの。…………」
やばい、頷かないか監視されてる気がする。思い切り頷いてしまいそうなので必死で首の筋肉に呼びかけて動きを制止させる。しばらく我慢していると、ちょっと残念そうな声で「……惜しい」と言う声が聞こえた。何が惜しいのか、怖くて聞けない。
わたしね……と囁くのが聞こえた直後、不意に唇が塞がれた。甘い吐息が口内を満たし恍惚としていると、長い舌が絡められることもなく唇が離れた。
「好きだから、比企谷くんに壊されたいし、比企谷くんを壊したいの」
燃える氷の槍で心臓を貫かれたような、矛盾した感覚。
「比企谷くんの意見は聞いてあげない。反論は聞くけど……何一つ採用してあげない」
底冷えのする恐怖と、抗いがたい快感への期待。
「昨日まではわたしのこと、いっぱい可愛がってくれたでしょ? 壊してくれたでしょ? ほんとに気持ち良くて幸せだったよ。だから……わたしにも、比企谷くんのこと、壊させて?」
気持ちよくなりすぎて苦しくなる恐怖と、陽乃さんの本音を味わえる幸福。
「……いいよね?」
有無を言わさぬ質問の仕方。反論は採用しないなんて言っておきながら、随分と可愛くしおらしい声で意思確認をしてくる。どうしようもないほど可愛いと思えてしまうのだから手に負えない。
「……いいですよ。どうぞお好きなように」
「……好きにしていいの? ほんとに?」
「ここまで準備しておいて何言ってんですか……どうぞどうぞ」
「……ん、わかった」
陽乃さんが幸せそうに呟くのを聞いて、やってしまったな……と少しだけ後悔する。
陽乃さんが身体を起こし、俺の身体に跨ったままゆっくりと両手でまさぐり始めた。
どうやら俺は今から――大変な目に遭うらしい。
続く。
はるのんでした。
今回のお話を漫画にすると全て暗闇でシュールだなと思いました。3日目は大変なことになりそうです。
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それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!