目を覚ますと、何だか変なことになっていた。
「雪乃ちゃーん、出ておいでー」
「ゆきのん、出てきてー……」
「雪乃さーん、……雪乃さーん……」
「………………???」
目を覚ますと、仰向けで毛布を掛けられていた。そして聞こえてくる謎の言葉。
激しい疲労感を覚えながらむくりと身体を起こすと、皆が俺と雪乃の前にぞろぞろと現れた時と同様に、雪乃が布団に丸まって引き籠っていた。服を着て平静に戻った皆が、布団の前で細々と呼び掛けている。結衣や小町は布団をぽふぽふと叩いている。可愛い。
「あ、先輩。起きましたね」
後頭部が妙に柔らかいな……と思ってたら、いろはが膝枕をしてくれていたらしい。いろはは柔らかな笑みを浮かべて、俺の頭をくしくしと撫でた。
「ええっと……どういう状況? 何で天岩戸みたいなことになってんの?」
俺が発した疑問に、すぐそばに居た由比ヶ浜マが答えた。
「ゆきのんちゃんはね~、ヒッキーくんが気を失った後もしばらく皆に悪戯……色々されてたのよ。そしたら急に立ち上がってふらふらとシャワーに行っちゃって。あまりにもあっと言う間だったから皆呆然と見てたのよね~。それでしばらく待ってたら着替えた雪乃ちゃんがベッドに戻ってきて、今の状態になっちゃったって訳」
「成る程……成る程?」
納得したようなそうでないような。
俺が気絶した後に雪乃を引き続き責めるとか鬼畜過ぎる。あと悪戯って言い切ってから訂正しても意味無い。そして雪乃はわざわざ寝室に戻らなくても良いと思うんだが……まあ、他の部屋に籠ったら皆がどうしたら良いか分からなくなるっていう配慮か。身体を洗いながらそんなことを考えてたのか。何それ可愛い。
しかし……あまりにも微動だにせずに引き籠っているから、何だか皆の呼び掛け方が変なことになってきている。
「雪乃さーん、早く出てこないと、カマクラと遊べなくなっちゃいますよー」
「雪ノ下。お前が先日校舎裏で野良猫と戯れていたことを皆に言うぞ」
「あ、わたしも見たことあります。雪ノ下先輩がにゃーにゃー言ってるとこ」
「雪乃ちゃーん、あんまり出てこないと、雪乃ちゃんが猫を抱き締めてにゃーにゃー言ってる動画を上げちゃうよー」
「……!? ……っ!」
ね、猫責めや……。
一人一人が猫絡みの話を出す度に、丸まった布団がびくりと揺れる。多分顔は真っ赤になっているんだろう。ていうか陽乃さん、その動画をどこに上げちゃうの? YouTube? ニコ動?
しかし、これだけ羞恥責めをしても未だに天岩戸は開かない。
雪ノ下はずっと引き籠っている。
引き籠り……。
ひきこもり……。
ヒキコモリ……。
「このままじゃ、ゆきのんがヒッキーになっちゃう……」
『ぶっ!?』
皆同じワードを連想しかけていたのだろうか、結衣がぽそっと言った一言で一斉に噴き出す。布団は何かぷるぷるしてる。笑ってるのか、恥ずかしいのか。
陽乃さんが徐に腕を上げ、結衣に対して会心のサムズアップをする。物凄く良い笑顔だ。栄養ドリンクのCMに出られそう。
「(ナイスだよ)」
小声で陽乃さんが言うと、会心の笑顔は見る見る内に邪な笑みに変貌を遂げた。周りにちらちらと目配せをして、芝居がかった口調で話し始める。
「そっかー、雪乃ちゃん、引き籠りすぎてヒッキーになっちゃったかー」
「……っ!?」
布団が激しく揺れる。それを見た小町の目がビカリと光った。お久しぶりですヤマピカリャー。
「残念です雪乃さん。まさか雪乃さんがヒッキーになるとは……」
「ゆきのん、ヒッキーになっちゃったの……?」
「ゆきのんちゃん、ヒッキーなのね~」
「雪ノ下先輩、ヒッキーになったんですねー」
「雪ノ下、お前、ヒッキーになったのか……」
「雪ノ下さん、君ってヒッキーだったんだね……」
「雪乃って、ヒッキーなの……?」
「あんた、ヒッキーって……」
「雪ノ下さんってヒッキーなんだねー」
「……っ!? ……っ!!」
地獄である。
まさかの全員掛りでのヒッキー責め。ヒッキー責めって何だ。
由比ヶ浜母娘は普段から使っている呼称だが、他の人も皆して使うものだから何だか俺まで恥ずかしい。顔が熱い。やめろいろは、こっち見んな。にやにやすんな!
当の雪ノ下は甚大ではすまないダメージを受けたようで、うつ伏せで丸まっていた背中が萎んだように見える。
「お……っ?」
やがて、丸まった布団がもぞもぞと動き始め、ベッドの端へと向かっていく。すごくシュールだ。
ベッドの端に行き着くと、丸まったまま起き上がり……真っ赤になった顔が、しゅぽっと出てきた。
「……ヒッキー呼ばわりは、恥ずかしいから……やめて……っ」
もじもじとしながら、布団から顔だけ出して上目遣いで言った言葉の破壊力は凄まじく。
『かはっ』
俺含め複数名が、妙な声を上げて倒れた。倒れない人も顔を真っ赤にして雪乃を見つめたり(主に留美)、顔を手で覆ってぷるぷるしたり(主にめぐり先輩)、反応が追い付かなくて口をぱくぱくさせたり(主に結衣)している。ちなみに小町は「さ、最高やでぇ……」と呟きながら痙攣している。いかん、瀕死だ……。
たっぷり10秒程経った後、結衣が「ゆきのん可愛い!」と言って抱き付き、「えっ、ちょっと、由比ヶ浜さん……こ、こら、やめなさい……っ!」などと言う百合百合しい展開になった所で俺は服を着ることにした。
一通り着た所で、小町がふと俺を見た。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「おう、どうした妹よ」
「これってそもそも何のお話だっけ」
「……何だったっけ……」
「あ、思い出した。お兄ちゃんの誕生日企画だ」
「……って言うと、始まったのは8月8日か……?」
「……そうだね……」
「……寒くなったな……」
「みんなコートを着て外出するようになったね……」
比企谷兄妹のメタい会話を聞いていためぐり先輩が、苦笑いをしながら頬を掻く。
「と、とにかく……随分遅れたけど……比企谷くん、ハッピーバースデー」
「……っ、あ、ありがとう……ございます……っ」
そうだ、肝心の言葉を言ってもらってなかった。
やばい、どうしよう。
物凄くどきどきする――
胸倉を掴まれた。
「先輩、ハッピーバースデー」
「比企谷、ハッピーバースデー」
「あ、ありがとうございやす……」
めぐり先輩にときめいていたら、いろはと静さんが洒落にならない圧を湛えた笑みを向けてきた。祝われてる筈なのに何だか死にそう。
めぐり先輩に対する反応を見ていたのか、皆むっとした顔で寄ってくる。由比ヶ浜マと陽乃さんは楽しそうだけど。雪乃も最後尾で顔を赤らめながらむっとしている。可愛い。
「よし、じゃあ今日はこのままこの家で比企谷くんの誕生日パーティーをしちゃおうか! 皆で買い出しに行こう!」
「え」
「うむ、それは良い考えだ」
陽乃さんの唐突な提案に、静さんが極めて自然に乗る。
おいおい良いのかよ、と雪乃をちらりと見ると、こめかみに手を当てて息を吐いた。
「勝手にしてちょうだい……」
雪乃の言葉に、皆がどう動くかを楽し気に打ち合わせ始める。その光景を見ながら、俺は頭をがしがしと掻いて隣を見やった。
「わりいな」
「……別に、これくらい構わないわ。……あと……」
「……あと?」
「……た、誕生日おめでとう、八幡」
「……っ、お、おう……ありがとう」
「先輩先輩、ハッピーバースデー」
「比企谷、ハッピーバースデー」
「恐い恐い恐い! いろは、静さん、首締まってる! 首が!」
「比企谷くん、君って……最低だね」
「なんかごめんなさい!」
――こうして。
俺の誕生日は和やかに過ぎてゆく。
……和やかではないな。物凄く賑やかだ。
お終い。
メタネタ最終回でした。最後はのほほんと。
「お終い」と書いたのがいつぶりでしょうか……?
ヤマピカリャーと皆がヒッキーヒッキー言うシーンと「比企谷くん、君って……最低だね」が書けて満足です。
現在連載中のエピソードはルミルミ、川崎、折本、はるのんの4人ですね。のんびりとお楽しみください(^^)
<お知らせ>
夏コミ本のDL販売を開始しました!!
詳しくは活動報告をご覧ください(^^)!!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!