『比企谷くん、お姉さん鍋パがしたいなー』
『そうですか、ぜひ楽しんでください』
『やだなー比企谷くん、分かっててそういうこと言うんだからー』
『怖い怖い、なんか寒気が……』
『それで、誰呼ぼっか?』
『俺にそんな、Facebookの投稿が目的みたいなイベントに呼べる友達なんて……あ、そうか、俺には戸つ』
『わたしもよく話す子がいいなー』
『初対面でもきっと仲良くなれますよ、なんてったって天使ですから、戸つ』
『わたしもよく話す子がいいなー』
『待ってください、会えばわかります、天使なんですよ戸つ』
『あんまりしつこいと、……一晩中お仕置きしちゃうぞ?』
『こわっ!』
『いっぱいいるでしょ? 比企谷くんが呼べる子。最近の君ってもうハーレムものの主人公じゃん』
『いや、何を根拠にそんな……』
『ふーん、具体的な根拠を言ってほしいの? 長くなるけど大丈夫?』
『ご、ごめんなさい……』
『それで、誰呼ぼっか?』
『ええとですね……』
――こんな会話から、たった3時間後の18時。
比企谷家で鍋パーティーを開催することになった。
メンバーは俺、小町、陽乃さん、いろは、雪乃、結衣の計6人。急にも程がある呼び出しのため、一部のメンバーには時間の制約があるものの、それでもこれだけ集まれたのはすごいと思う。陽乃さんの指示のままにみんなをLINEグループに誘って(生まれて初めてグループを作った)今回の概要を説明したところ、雪乃が無言でグループを退会して焦った。慌てて陽乃さんに電話したら爆笑していた。この人ほんといい性格してる。雪乃は電話して15分くらいかけて説得をした。人質をとって立てこもった犯人を説得するような気の長さで頑張った。最終的に、カマクラを優先的にモフモフさせる権利を与えることで落ちた。チョロい。本人には絶対言えないけど。
『こんばんはー、お邪魔しまーす』
小町とリビングの片づけをしていると、ちょうど終わり掛けに4人の声が聞こえてきた。小町と一緒に玄関まで迎えに行くと、よっぽど寒いのかみんな若干疲れた顔をしていた。陽乃さんだけツヤツヤなのはなんでだろう、こっちに来る途中で雪乃をからかっていたんだろうか。
「雪乃さん、結衣さん、いろはさん、陽乃さん、こんばんはー! 寒い中ありがとうございます。ささ、どうぞどうぞー!」
小町が極めて滑らかにみんなを家に招き入れる。各々が具材を持ち寄ろうということで、それぞれの手に買い物袋を提げていた。
「それじゃ、ちゃっちゃと調理しちゃいますね!」
小町が腕まくりをして、ふんすっと息を吐く。普段から沢山料理をしている小町は、人が多いほど燃えるタチらしい。
「私も手伝うわ、小町さん」
「雪乃さん! ありがとうございますー!」
微笑んで手伝いを申し出た雪乃に、小町が満面の笑みを浮かべながら抱き付いた。何故か胸元で頬をスリスリしている。あ、めっちゃ匂い嗅いでる。雪乃の顔が真っ赤だ。敢えて止めないで傍観しておく。陽乃さんはニヤニヤしてるし、結衣は「うわぁ……」って顔してるし、いろはは……って、おい。
「なんで君は俺の手をにぎにぎしてんの?」
「いえ、なんか他の女の人の匂いがするなーと」
「……はて、何のことだろう」
「……先輩の発情魔」
「うぐ……っ」
色々と察せられて死にそうになった。
「それじゃあ、頑張りましょう雪乃さん!」
「ええ、よろしく」
「あ、ゆきのん、小町ちゃん、あたしも手伝おっか?」
「やめとけ結衣。せっかくのパーティーをトラウマに変えてくれるな」
「そんなにひどいことしないし!?」
「あの、結衣さん。みんなの買ってきたものをざっと見てみたんですが……なんでチョコが入ってるんですか? しかもトリュフチョコ……」
「え、あれ? だめだった?」
「あとはマシュマロも入っているわね……」
「え、あれ、ふわっと溶けたら美味しいかなって思ったんだけど……」
「結衣、おい、結衣」
「え、な、なに? ヒッキー」
「いろはと陽乃さんの顔を見てみろ」
「え……、……ちょ、ちょっと、なんでそんなに引いてるんですか!? いろはちゃんまで!」
「結衣先輩……ごめんなさい、何でもないです」
「最後までちゃんと言って!? すごい気になるんだけど!」
× × ×
そんなこんなで数十分後。
具材の調理その他諸々を終えて(多分卑猥なことはしていないはず)、みんなでこたつを囲んで鍋をつつく。こたつの四面には、俺の向かいに陽乃さん、俺から見て右に雪乃と結衣、左に小町といろはの組み合わせで座っている。1面に2人いてはかなり狭いだろうと思ったが、こたつがある程度大きいのに加えて、女子同士くっついても楽しいらしいので良しとした。小町といろはが肩を寄せ合ってきゃーきゃー言っているのは何だかとても和むし、雪乃と結衣がちょっと照れながら肩を寄せ合っているのは何だかとても百合姫コミックの匂いがする。俺が両サイドの光景をぽけっと見ている様を陽乃さんはガン見していた。恥ずかしいのでやめてほしい。
「はい比企谷くん、あーん」
「待って、ちょっと待って、豆腐はダメでしょう豆腐は……あっつ! あっつ!」
「比企谷くん、うるさいわよ」
「ひふひんは(理不尽だ)……」
「雪乃ちゃんも比企谷くんにあーんしてあげたら? いつもしてあげてるでしょ?」
「な!? そ、そんなこと、いつもはしないわ……」
「……ふーん、たまにやってるんだ?」
「ち、ちが、今のはそういう意味じゃ……」
「はい先輩、あーん」
「むぐ……っ」
「……雪ノ下先輩、いくら不意打ちだったからってそんな目で睨まなくても……」
「え、あ、その、今のはそんなつもりじゃあ……」
「ゆきのん可愛い……」
「今日も百合百合しいなお前ら……」
「あー、白菜美味しいなー。……さてお兄ちゃん、今のは誰のセリフでしょうか?」
「メタい上にバレバレじゃねえか」
「ねー比企谷くーん、面白いことやってー」
「それこの世で一番やっちゃいけない無茶ブリですからね? それ言われて面白いこと出来る人って多分この世に片手で数えられるくらいしかいませんよ?」
「じゃあ比企谷くんが6番目に入ればいいじゃない。ほらほら、頑張れー」
「なんでスマホいじりながら煽ってんですか。途中で飽きたなら言ってくださいよ」
「やだなー比企谷くん、君をイジメ……イジるのに飽きる訳ないじゃない」
「今イジメって言った、確かに言った」
「ね、ね、ヒッキー。具も減ってきたし、そろそろ……」
「チョコなら入れんぞ」
「え、あ、なら」
「マシュマロもだめだ」
「あ、うぅ……そ、それなら……」
「認めません」
「まだ何も言ってないし!? うぅ……ゆきのーん、ヒッキーがイジメるぅ……っ」
「由比ヶ浜さん……ごめんなさい、今回ばかりはあなたを庇えないわ……」
「あれ!? ゆきのんまで敵になった!?」
「大体普通の鍋に甘いものを入れてどうすんだ、地獄しか待ってねえぞ」
「う、うーん……」
「……まあ、初めからそういう趣向でするのはありだと思うけれど」
「! ゆきのん!」
「あー、そういうのありますねー。チョコ鍋もあるし、あと鍋ではなくなっちゃいますけど、たこ焼き器でチョコとかマシュマロを焼くとすっごい美味しいみたいですよ」
「い、いろはちゃん!」
「……まあ、今度そういうのをやるのもありかもな」
「え、ヒッキー……いいの?」
「ああ、いいぞ。俺はちゃんと家で寝てるから」
「参加する気ゼロだ!?」
わいわいきゃーきゃーと騒ぎながら、鍋パーティーは楽しく進む。2時間ほど楽しんでいたが、その間に色々な方向から足で股間をまさぐられていた。毎回とっつかまえる前に逃げられて、結局いつ誰にやられたか分からなかった。何が怖いって「今の足は恐らく……」と予想をつけた人を見ると必ず楽しそうに喋っていたこと。なんでみんな表情一つ変えずにこんな卑猥なことを出来るんでしょうか……。
× × ×
一通り遊んで、時刻は21時を迎えた。
「あ、そろそろ雪乃さんと結衣さんはお帰りになられるんでしたっけ?」
満腹のためか目がとろんとしている小町が(可愛い)、目をこしこしとこすって対面の2人に言葉を掛けた。今日は雪乃と結衣が元々の用事があるため早く帰ると言っていたが、その用事が何なのかは聞いていなかった。
「あ、うん……今日はゆきのんの家にお泊まりに行こうとしてて……」
思いの外百合百合しかった。
頬を赤らめてもじもじとしながら言うのはやめてほしい。
「ごめんね、ヒッキー?」
「ああ、気にすんな。というかむしろ、わざわざ2人の時間を邪魔しちまってこっちが申し訳ないくらいだ。もっと2人でイチャつきたかったよな? すまん」
「あたしとゆきのんをどんな目で見てんの!? もう……でも、楽しかった。ありがと」
「私も……ありがとう、小町さん」
「あの、企画したのは陽乃さんで、直接誘ったのは俺なんですけど……」
「……ありがとう、小町さん」
「……強情すぎるだろ……」
げんなりとしていると、小町が照れ照れとしながら頬を掻いた。
「いえいえ、こちらこそありがとうございました! 鍋とかは片付けておくので!」
「……そう、お言葉に甘えさせて頂くわ、ありがとう」
「それじゃあ、お邪魔しました!」
「お邪魔しました」
雪乃と結衣がそれぞれにお辞儀をして家を出る。玄関まで見送りに行き、ドアが閉まるまで2人の顔を見ていた。ドアが閉まった瞬間に手を繋いでやしないかという根拠の無いドキドキを抱きながらリビングに戻る。小町が調理をしてくれたということで、俺が皿洗いをしようとしたら陽乃さんといろはも手伝ってくれた。何とも言えない空気感だった。
片付けも終わり、小町が用意したみかんを剥きながら4人でのほほんとする。俺から見て右側にいろはが移り、後は同じ位置のままだ。
ううむ、のんびりしている……。
このままだとちょっと眠くなってくるな……と思っていると。
「……ん?」
右ひざを撫でられて、視線をいろはに向ける。
顔を逸らされた。
「……んん?」
左ひざを撫でられて、視線を小町に向ける。
顔を逸らされた。
「……んんん?」
あぐらをかいた右足のすねを足でまさぐられて、視線を陽乃さんに向ける。
めっちゃ笑顔でこっち見てる。
なんでなのん?
一体なんなんだ……と訝しみながらも、視線をみかんに落として黙々と口に運ぶ。
顔に視線を感じた。
恐らく、視線の数は3つ。
ついさっきまでの和気藹々とした雰囲気からは想像も付かないような、ねっとりとして、湿度に満ちて、艶っぽい熱を孕んだ――そんな視線。
「…………」
3人の視線を、強く感じる。徐々に密度を増す視線は、顔をどこに向けても肌の表面を満遍なく刷いて、ずぶりとめり込んできて脳内を犯す。常に誰かが俺の下半身に触れている。手を触れると逃げられ、時折2人3人と同時に触れてきて、その触れ方も徐々にいやらしく変わっていく。
何かが始まる。
確固たる予感を胸に抱き、反射的にごくりと大きく喉を鳴らすと――こちらに向けられている視線の熱量が、一気に増した気がした。
続く。
メタネタでした。このメンバーが残ることだけは決めてました。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!