※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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(8)

 部屋は俺と葉山の2人、そして残りの女性陣という分かれ方をした。女性陣は6人ということでかなり広々とした部屋のようだが、俺と葉山の部屋は2人用のこじんまりとした広さだった。ふとした時に葉山との距離が妙に近くてなんだか落ち着かない。

 

 ……海老名さんが見ていなくてよかった。……ほんとにいないよな? 見てないよな?

 

 野郎2人で部屋に荷物を置くだけなので、特に楽しいイベントもない。黙々と荷物を置いて部屋の中をざっと確認し、さっさと出ようとしたが、

 

「比企谷。外が綺麗だぞ」

 

 葉山の爽やか且つ強制的に外を見ざるを得ない圧を発する声に足を止めた。

 

「ん……おお」

 

 ほんの数mの距離を歩いて窓を覗き込むと――防砂と防風を兼ねているであろう松林と、その先に蒼く光り輝く海と真っ白な砂浜が見えた。波打ち際が泡立ち、そこで母娘連れが楽しげに遊んでいる。海の家ででも買い物してきたのか、父親が食べ物を持ってくると母娘の顔に幸せいっぱいの笑みが咲いた。

 

「確かに、息抜きには丁度良いな」

 

 葉山が楽しげに笑い、眩すぎてこっちの目が潰れそうなくらいの笑みを浮かべてくる。思わず目を細めてしまった。こいつの光度、スマホの明るさみたいに調整出来ないものか……。調整出来るなら迷わず真っ暗にするんだけど。それはそれで恐いな。

 

 何とはなしに窓を開けると、むわっとした熱気と同時に心地良い風が流れ込んできた。

 そこからしばし、何を言うでもなく海を見つめる。

 

「…………」

 

――葉山と二人きりになると、三浦のことについて触れたくなる。

 

 しかし今、俺が聞いたところで葉山ははぐらかすだけだろう。それかもしかしたら、俺が聞きたくないことを言うかもしれない。

 だから、何も聞かなかった。聞けなかった。

 

 葉山も俺の心中を大なり小なり察しているのかもしれない。何も言うことなく、夏の海を至近距離で眺め続けていた。

 

 ……海老名さんがいなくて本当に良かった。こんな状況を見たらあの人は死んでしまうかもしれない。

 

 そういや海老名さんは去年の千葉村の時、水着がスク水だったよな……と無限大にどうでもいいことを思い出していると、部屋のドアが軽くノックされた。

 

「せんぱーい、葉山せんぱーい。もうこっちは準備出来ましたよー?」

「ああ、ごめん、いろは。俺たちもすぐ行く」

「はーい。先輩も早くしてくださいねー」

「あいよ」

 

 先輩、葉山先輩と呼ばれると、俺と葉山が呼ばれてるのか葉山の呼称を1回目と2回目で変えてるのか分からんな……と思いながら部屋を出る準備をする。こんなどうでも良い質問をすれば、一色にとてつもなく冷めた目をされるのは目に見えているのでとても聞けなかった。

 

       ×  ×  ×

 

 平塚先生の指示で、俺たちは広間へとやってきた。今日明日と使う予定も無いからと民宿の主人が使用を許可してくれたらしい。

 だだっ広い空間に畳という畳が緻密に敷き詰められている。

 

「わー、広いですねー!」

 

 小町が楽しそうに声を上げ(可愛い)、行儀が悪くならない程度に広間の中を小走りで駆け抜けていく(可愛い)。広間はまだエアコンを点けたばかりのようでムッした熱気に包まれていて、それが却ってテンションを上げてくれる。

 

「わ、すごーい!」

 

何枚も取り付けられた窓へと向かったかと思うと、自慢の妹はテンション8割増しといった声を上げた。大体の女子がテンションを上げた声というのは俺にとってかしましいというよりは至極騒がしく不快なものでしかないのだが、小町の声はもはや可愛いとしか思えない。

 

「え、なになにー? ……わ、ほんとだー!」

「すごーい!」

 

 はしゃいでいる小町に続いて一色が窓の方へ駆けていき、続いて由比ヶ浜まで駆けていく。窓から見える景色によっぽど感動したのか、三人娘がきゃっきゃと騒いでいてとっても楽しそうで何よりです。

 

「……おお」

 

 俺を含む残り5人も空気を読んで窓の景色を見ると――部屋から見た時に比べて、明らかに視界いっぱいに広がった海と砂浜と松林に一瞬で魅入られた。部屋で見た時は一枚の絵画を観ているような感覚だったが、今はその絵画の中に飛び込んだような感覚だ。薄い窓一枚越しに、海の息遣いや遊んでいる人達の幸せな感情を感じて、何だか心躍ってしまう。

 

「…………」

 

 ふと隣を見やると、三浦も同じように窓の外の景色を見ていた。しかしその視線は色鮮やかな海と、すぐ隣にいる葉山の間を何度も往復している。葉山は三浦の視線を知ってか知らずか、海を見て「すごいな……」とどこか空々しい感嘆の声を上げていた。

 

「さて諸君、こうして我々は宿に着いてひとまず落ち着いた訳だが……まずすべきことがあるな?」

 

 平塚先生がこほんと咳払いをして、意味深な笑みを浮かべる。ちらりと目の前の海を見やることで、小町と一色と由比ヶ浜の三人娘の目が輝いた。

 

「まずすべきこととは何か……分かるな?」

 

 平塚先生がにやりと笑い、三人娘に視線を投げかける。三人がちらりと海を見て、嬉しそうに言葉を発しようとした瞬間――

 

「勉強ね」

 

 まずは雪ノ下が。

 

「ああ、勉強だな」

 

 続いて俺が。

 

「そうだな、まずは目的をきちんと果たさないと」

 

 更に葉山が。

 

 とんとんとん、とリズム良く畳み掛けた。

 

「うへぇ……」

「マジですか……」

「あはは、そりゃそうだよね……」

 

 小町がげんなりし、一色がどんよりと瞳を曇らせ、由比ヶ浜がぽりぽりと気まずそうに頬を掻いた。

 

「……ん?」

 

 そういえば三浦が何も喋ってないな……と思って隣を見てみると。

 

 

「…………」

 

 パーマのかかった毛先をくりくりと弄りながら、

 

「…………」

 

 ちょっとだけ名残押しそうに、

 

「…………」

 

 海をちらちらと見ていた。

 なにこの可愛い子。

 

「……あ。…………」

 

 目が合うとぷいっと顔を逸らされた。

 ……なにこの可愛い子。

 

       ×  ×  ×

 

 各々の部屋から勉強道具を持って来る頃には、程よくエアコンが効いていた。大きな台を囲うように座り、それぞれ磨きたい教科の教科書や問題集を広げた。

 

「私は総監督の立場をとる。各々好きにやりたまえ。質問があれば随時受け付けるぞ」

 

 平塚先生はお誕生日席でそんな風にのたまうと、徐にノートPCを広げた。そしてあっと言う間に真剣な顔つきになり、ひたすらキーボードに文字を打ち込んでいく。ここに来ても仕事ですと……先生って怖い……。

 

「さあ、由比ヶ浜さん、一色さん、小町さん。まずは目標を決めましょうか」

「え、ゆ、ゆきのん? そんなに本格的にやるの?」

「……由比ヶ浜さん。一色さんや小町さんはともかく、私たちは今年度に受験するのよ?」

「そ、そうだよね! う、うん、頑張る!」

「はあ、葉山先輩に教えてもらいたかったなぁ……」

「……一色さん、なにか?」

「ぴゃいっ!? ななな何でもありません!」

「雪乃さん……ちょっとここを教えて頂いてもよいでしょうか……」

「ええ、いくらでもどうぞ。そうね、ここは……」

 

 向かいでは雪ノ下、由比ヶ浜、一色、小町の4人がかしましく勉強している。ブーブー言っている一色も含めみんな雪ノ下を信頼しているためか、雪ノ下が最初から先生モードになっている。平塚先生はこの状況になることを予想していたのか、特に動じる様子は無い。

 

 一方こちら側は――

 

「ねえ、ヒキオ。ここなんだけど……」

「葉山、ここってどう解くんだったっけ?」

「比企谷。ここなんだけど……」

 

 俺を真ん中にして、右隣に三浦、左隣に葉山という配置になっていた。

 初めは三浦と葉山を隣り合わせにした方が良いかと思ったが、でもそれだと気まずいか……いやでも……などと逡巡している内に、二人して極めてナチュラルに俺の隣を陣取った。

 

 それは良い。別にそれ自体は良い。今までの勉強会で似たような状況は度々あったので。

 しかし――

 

「……ねえ隼人、ここなんだけど……」

「……っ! …………っ!」

 

 三浦さん、ちょくちょくと葉山にも質問をするんですが。その時に俺がいることを忘れているかのように身を乗り出してくるんですが。緩めのブラウスが危なげに揺れて、見てはいけないものが見えてしまいそうになるし何だかとっても甘い匂いまでする。

 

 動揺していることがバレないように……と、精一杯平静を装いつつも首を後ろに引っ込めていると。

 

「じー……」

 

 何だか視線を感じた。

 ていうか「じー」って効果音を口に出している妹がいた。

 小町さん、めっちゃ目を細めてこっち見てます。生温かい目をやめてほしい。

 

「じー……」

 

 一色さんもでした。それなりにマジで引くのはやめていただけますか……?

 

「むむむ……」

 

 由比ヶ浜さんも片頬を膨らましてこっちを見てらっしゃる。可愛いけどもとっても居心地が悪い。

 

「…………」

 

 雪ノ下は興味の無いフリをしつつもちらちらとこっちを見ている。そんな雪ノ下を小町がにこにこと笑いながら見ている。何だこの図は。ティッシュ配りのバイトを監視するバイトを監視するバイトってこんな感じなんだろうか。何を言ってるんだ俺は。

 

「……ふむ」

 

 平塚先生が俺を見ながらにこやかに微笑んでいる。この状態でそんな優しい笑みを浮かべられても恥ずかしいだけなんですが……。

 

 5つの視線に身をよじっていると――右の手の甲を、コンコン、とシャーペンの持ち手でノックされた。

 

「ヒキオ、なにボーッとしてんの? ここ教えてほしいんだけど」

「あ、ああ、すまん。ええっとだな……」

 

 何とか動揺を抑えようとするが、一度意識してしまった甘やかな匂いは、鼻腔に強い記憶を残していて中々消えてくれない。

 

 依然として5つの視線を感じる中、何故か途中から左隣からの視線も感じながら、三浦に聞かれた部分を教える。

 

 早く休憩時間にならないのだろうか……と思いながら、俺はふと思う。

 

――戸塚に会いたいな――。

 

 

 海を見て

 去年の君を

 思い出す

 なんでパーカー

 羽織っていたの?

 

 

「……はぁ……」

「比企谷くん、どうしたの? 顔が気持ち悪いわよ?」

「…………」

 

 千葉村での戸塚を思い出して心の一句を読んだだけで、とんだ罵詈雑言が飛んできた。

 

 

 

 

 続く。

 

 

 

 




 引き続きあーしさんです。

 前回は皆さんのビーダマンへの食いつきっぷりに笑いましたwww 同世代の方がなんと多いことでしょうか……!

 それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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