勉強会はその後もゆるゆると続いた。
いつの間にかこちら側に来ていた一色が葉山の隣を陣取ったことで、三浦が俺を押しのけて葉山を2人で取りあったり。
除け者にされて一人静かに勉強している俺を由比ヶ浜が心配そうにちらちらと見て、由比ヶ浜の仕草に気付いた小町が目をキュピーンと光らせて俺を自分たちが座っている側へ招いたり。
俺が座ろうとすると小町が由比ヶ浜の隣を空け、自動的に隣り合わせになり、更に雪ノ下が俺の隣になるように無理やり雪ノ下を連れてきたり。
気が付けば向こうでは三浦と一色に葉山が囲まれ、こちらでは由比ヶ浜と雪ノ下に両隣を、そして後ろを小町に囲まれた俺がいるという状況になったり。
これ、小町勉強する気ないよね? と思ったり。
わちゃわちゃした中でも何とか勉強しようとしていると、誕生日席にいた平塚先生が俺たちを見て静かに「許容量オーバーだ……」と呟いて笑顔のまま血を吐いていたり。
こうして、一部では負傷者の出る騒ぎもあったりしたが、全体的にはまあまあ有意義な時間を過ごすことが出来た。
葉山の隣にいる割には、やけに三浦と目が合うのは少し気になったが。
× × ×
民宿の食堂で昼食をとると、午後はみんなで海へ行くことになった。
「じゃあ、俺は部屋で休んでるから。気の済むまで遊んでくれ」
「は? お兄ちゃん何言ってんの?」
「え? ヒッキー、来ないの……?」
「はい? 先輩、何言ってるんですか?」
「私は比企谷くんに来てほしい理由は無いけれど、由比ヶ浜さんのことを考慮するならあなたも来るべきだと思うのだけど」
「ちょ、ちょっとゆきのん!?」
冗談半分(もう半分は本気)で言ってみると、案の定というか予想よりも遥かに強い勢いでぼこぼこにされた。葉山は困ったように笑っていて、平塚先生はニヤニヤしている。三浦は興味無さげにそっぽを向いて……あ、目が合った。
「分かった分かった。行く、行くから」
「先輩、その言い方だとなんか上から目線な気がしてすごく腹が立ちます」
「俺にどうしろと」
げんなりしながら、一旦部屋に戻った。
× × ×
『先にパラソルを差すなど諸々の用意をしておくように』
「ええ……」
俺と葉山が玄関に行くと、海で使うのであろう諸々の道具と、明らかに平塚先生が書いたであろうメモが置いてあった。ていうかなに、なんでこんな重そうなバッグがあるの……? 中から明らかに水鉄砲が覗いてるし……しかも結構ガチのやつ……。
「まあ、これは男の役目だろうな。歩いて数分だし、これくらいはやろう」
「……しゃあねえな」
一人ならばどうサボってやろうか真剣に考えるところだが、生憎今この場には出来た人間の極みである葉山がいる。ため息を吐き、頭をがしがしと掻き、もう一度深くため息を吐いた。
「比企谷。行かないのか?」
「いや、行く。すまんすまん」
一人で面倒事に取り掛かる前によくやっている、「これやんの面倒だなー、でもやんないとだよなー、でもなーめんどいなー」とひたすら躊躇うルーティンをこなしていると、先に重いバッグを担いだ葉山に声をかけられた。完全に無意識でやってしまっていた。人に見られると地味に恥ずかしい。葉山はこういう場で人をイジるようなタイプではないのがせめてもの救いか。
「……妙に手馴れてる気がしたが、あれはいつもやってるのか?」
「そこは触れてくれるな……」
イジってきた。
マジか。
葉山との関係もちょっとずつ変わってきたんだなぁ……海老名さんに見られなくて本当に良かった……としみじみ思いながら、飲み物が入っているクーラーボックスとパラソルを担いだ。
めっちゃ重い。
肩にすげえ食い込む。
× × ×
「きっつ……」
松林の間を抜けて砂浜に辿り着くと、葉山が広げたシートにクーラーボックスとパラソルを下ろした。肩が痛い。拷問にかけられたかのようだ。
肩が痛い。
改まって言ってしまうくらいには肩が痛い。大事なことなので三回言いました。
「比企谷、大丈夫か?」
サッカー部で鍛えている葉山はごく平然としている。俺よりも重いバッグを持っていたのに……。基礎体力の差というものをまざまざと見せつけられた気がした。
「この後遊ぶ気になんて到底なれないんだが……」
よろめく身体をこき使い、パラソルを設置する。周りを見渡すと何組か観光客らしき人が海で戯れているが、場所の問題なのか家族で来ている人がほとんで、若い人はほとんどいない。
俺と葉山は、松林の通路から出てきてすぐの、営業する意味があるのかを疑うような海の家の奥に陣取っていた。この位置だと女性陣が来た時、海の家の陰から出てくるのを見ることになる。
「比企谷、なんでニヤけてるんだ?」
「戸塚のことを思い出してただけだ」
葉山の指摘に声を上ずらせながら咄嗟にウソをつくと、
「それでなんでニヤけるんだ……?」
中々本気で訝し気な目を向けられた。
それもそうだな、と思った。
しかし戸塚は天使なので、戸塚との思い出を記憶から引っ張り出すだけで幸せな気持ちになるのは否定出来ない。
「あ、お兄ちゃーん!」
聞き馴染んだ声がして振り向くと、小町が海の家の陰からぴょこっと飛び出していた。
ふちがフリルで彩られたオレンジのビキニを着ていて、元気いっぱいな小町のイメージとよく会っている。去年は確かイエローだったかな……と思い出していると、後頭部と腰に手を当てバチコーンとウインクをしてきた。
「はい、どう?」
「ん、ああ。そうだな。去年に引き続き世界一可愛いよ」
「わぁー、やっぱり適当だなぁー」
見せ甲斐が無いったらありゃしない……とあからさまにがっかりされた。家でタンクトップとショートパンツ姿でいる時と露出度がほとんど変わらないのでね、ごめんね。
あれ、そういえば葉山は……? と振り向くと、どうやら風で飛んできたらしい麦わら帽子を拾って若い女性グループの下へ返しに行っていた。向こうではきゃーきゃーと歓声が上がっている。いかん、三浦や一色に見せられない光景だ……!
「あ」
げんなりしていた小町が横に視線をやったかと思うと、俺を見てムフフと怪しげに笑った。
「じゃあ、こちらの皆さんは!?」
いやな予感がする……と思った次の瞬間、小町が海の家の陰に引っ込んだ。そして何やらかしましい悲鳴が聞こえたかと思うと、「まあまあまあ、どうぞどうぞ!」と小町が楽しげに声を上げ、1人目がひょっこりと顔を出した。
「せ、先輩、どうでしょう?」
最初に目に飛び込んだのは、フリルとスカートが付いた白ビキニを着ている一色の姿だった。瑞々しい肌艶に可愛らしい水着が映え、いつもは見ることが無いもじもじと恥じらう姿が庇護欲をそそる。
「え、あ、まあ……すげえ良い、と、思うぞ……」
「そ、そうですか……」
一色が目を泳がせ、俺をちらりと見ると……柔らかくはにかんだ。
おっと、心拍数がおかしなことになってるぞ?
一色がちょこちょことこちらに近付いて来ると、2人目が顔を出した。
「うぅ……まだ心の準備が……」
続いて現れたのは、目にも鮮やかな赤ビキニを着た由比ヶ浜だった。去年は確かブルーの水着だったが、去年の可愛らしさとは対照的にこの水着は色も攻めていれば布面積でも攻めている。
ただでさえ暴力的な魅力を備えている豊満な肢体を頼りない広さの布が覆っていて、思わず喉を鳴らしてしまう。過激とも言える水着を着ていながら、一色よりも恥ずかしそうに、顔を真っ赤にして腕で上下の水着を隠すのが却って蠱惑的に映る。
「ああっと、なんだ、ほんと似合ってる……と、思う、ぞ……」
「ほ、ほんと? えへへ、良かった……」
照れくさそうに頬をぽりぽりと掻くと、下半身のガードが解き放たれた。むっちりとした太ももと、ぴっちりと食い込んだ布に視線が縫い付けられてしまい、俺の視線に気付いた由比ヶ浜が耳まで真っ赤に茹だる。
「わわっ!? ど、どこ見てんの! バカ!」
「す、すまん」
高速で顔を逸らした。
ええっと、あと何人いたんだっけ……と一向に落ち着きを見せない心臓を押さえつけながら、「ささっ、どうぞどうぞ!」と小町が次の女性を連れてくる声を聞いていた。
ていうか、何で順番に顔を出す流れになっているんだろうか。
何のファッションショーなの?
続く。
あーしさんでした。と言いつつほぼ出番無しですが。
千葉村の時を思い出しつつ、当時から変わったところを出してみたいなーと思っていたところ、突然のファッションショーが始まりました。
引き続き、ゆるゆるとお楽しみください(^^)
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!