※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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 8月が終われば、夏が終わる。

 なんとなく、こんな印象をずっと抱いている。

 

 もちろん、9月でもまだまだ暑い日は続く。残暑というには暑すぎないか……? と思うくらいには、学校が始まってもまだまだ熱量を保った日差しが、千葉の街をじりじりと灼くのは十分すぎるほど知っている。

 

 それでも、夏休みは8月で終わるし、イベントなどがほとんど7・8月に集中している。気温としての夏は9月になっても続くが、記憶としての夏は8月で終わるのだ。

 

 高校生活最後の夏が、もういくつも寝れば終わる――そんな日のこと。

 勉強の合間にリビングのソファでだらけていると、スマホの通知音がした。

 

       ×  ×  ×

 

『ヒッキー』

『やっはろー!』

 

 LINEのトーク画面を開くと、由比ヶ浜からのメッセージが届いていた。取り敢えず挨拶を返そうとすると、

 

『ってか既読つくの早くない?』

『ヒッキーにしては』

「…………」

 

 ちょっとイラっとした。

 

『現在、このトークルームは使われておりません』

『なんで電話みたいに!? てか使ってるじゃん、今!』

 

 どんな顔で文字を打ち込んでいるのかが手に取るように分かる。

 

『でさ、今ちょっと時間ある?』

『時間はあるかないかで語るものじゃない。作るものなんだ』

『へー』

 

 社畜っぽい言葉で返したが、由比ヶ浜にとっては毒にも薬にもならない駄菓子のごとき言葉だったらしい。心底どうでもよさそうだ。

 

 そうこうしている内に、トーク画面が突然電話の着信画面に切り替わった。ここで出ないと頬を膨らませて怒られそうなので、4コールほど聞こえたところで通話ボタンを押す。

 

「ヒッキー、今大丈夫だった?」

「心配すんな、大丈夫だから出てるんだっての」

「そっか。えへへ……」

 

 耳元で聞こえる愛らしい声に、ちょっとどきっとした。ほんのりと顔が熱くなり、万が一にも家族に見られてやしないかと心配になる。両親は今日も今日とて仕事だ。それなら大丈夫か……と思ったら、小町がリビングのドアを開けて、顔を半分だけ覗かせてニヤニヤしていた。ものすごくこっちを見てる。可愛いけど腹が立つ。

 

「それで、用ってのは?」

「あ、うん……えっとね、ヒッキーって明後日はヒマ……だよね?」

「なんで付加疑問文で聞いた?」

「付加疑問文?」

「え、そこ?」

 

 まずい、予想していなかった小ボケに翻弄されてしまっている。

 ちらりとカレンダーを見る。今日は木曜日だ。この時期の週末となると、考えられるのは……。

 

「あー、明後日はなー、ちょっとなー、忙しいかもしれないんだがなー」

「ヒマなんだ、やった!」

「話聞いてる?」

「えっとね、その……お祭り、どうかなって」

「ああ、祭りな。祭りについてどう思うかってことか? 世界中で催されているイベントだもんな。単調な生活を彩る数少ないイベントだし、とても良いと思うぞ」

「そんなこと聞いてないし! ていうかなんでそんなひねくれてんの!?」

 

 電話の向こうで由比ヶ浜が「むがー!」と怒っている。可愛いと思ってしまうのは仕方がないと思うんだ、うん。

 

「えっとね、去年みたいな感じじゃなくてね? ゆきのんとかいろはちゃんとかも誘って、その、……どうかなって」

 

 直接顔を合わせていたら、人差し指の先をもじもじと合わせていそうな声が耳をくすぐる。

 

「……勉強の息抜きに、っていうことか?」

「うん、そんな感じ。……高校生活最後の夏休みでしょ? 思い出作りって言っちゃうとなんかベタな感じするけどさ……せっかくだし、どうかな……?」

 

 言葉が進むにつれて、はつらつとしていた声が湿っぽくなっていく。

 ……こんな声で誘われて断れるほど、無神経な人間ではない。

 

「……何時にどこ集合にするんだ?」

「え、来てくれるの? やった! よっし! えへへ……」

 

 電話の向こうで、何輪もの向日葵が咲いたような気がした。

 

「細かいことはまだ決めてないから、後でまた連絡するね!」

「くれぐれも嘘の日時と場所を教えたりするなよ? 泣くぞ?」

「そんなことしないし! 何そのひどいイジメ!?」

 

 中学の頃の昏い記憶がちょっとだけ顔を出した。

 この後もつらつらといつも通りのくだらないやりとりをして、気がつけば30分ほど電話をしていた。

 

 通話を終えた後、ソファに寝転がって天井を見上げる。祭りとなると、祭りに行っている時間に加えて行き帰りの時間も考慮しないといけないし、場合によっては誰かしらを送ることも有り得る。祭りから帰って勉強したところで大して実にならないだろうから、出かける準備は大方済ませた上で、出かける直前まで勉強をしておくのが吉だろう。

 

 頭の中でスケジュールを練っていると、小町がリビングに入ってきた。電話をしていたようで、「ほんと楽しみにしてますー! ではではー!」などと楽しげに喋って通話を終えた。

 

「お兄ちゃん、小町も夏祭り行くよー」

「……おう、そうか」

 

 手を回すの早いなー。

 元々するつもりはなかったが、俺が急に気が向かなくなりドタキャンをする……などという可能性も、住処を共にしている小町が同行するとなれば一瞬で潰えてしまう。元々そんなことをするつもりはなかったが。ほんとに。

 

「俺ってアレなんだよな」

「違うんじゃない?」

「話を聞かずに食い気味に否定するのはやめてくれ、心が折れる」

「おやすみー」

「待て待て待て、第一いまはまだ昼の2時だぞ」

「で、なに?」

「心底興味無さそうに聞くなよ」

「だってお兄ちゃん、今にもどうでもいい話しそうなんだもん。上司だったら絶対嫌われてるよ?」

「上司になったらこんな話はしねえよ。しょうもない話をするのは家族だけだ」

「ふーん……家族ねえ……」

 

 何やらによによしている。腹立たしいが可愛い。

 で、結局なに? と話を促されたので、やっとこさ本題(?)に移る。

 

「俺ってアレなんだよ、いざ約束事をすると、その日が近付くにつれてどんどん憂鬱になるんだよ。例えその約束事の内容がどんなに楽しみだったとしても」

「ふーん。で?」

「それだけだ」

「それだけ」

「ああ、それだけ」

 

 小町の目が限界まで細められた。ものすごく怪訝な目である。やだ、キャラが変わってる……。

 

「ほんじゃ、小町はお昼寝しまーす。おやすみー」

「お、おう、おやすみ」

 

 有無を言わさぬ口調で会話を切られた。

 約束事の日にちが近付くにつれて憂鬱になる傾向がある、だから当日も頑張って行こうとする俺はそれだけですでに結構頑張ってるんだぞ……というささやかすぎるアピールは、小町には伝わらなかったようだ。いや、むしろ伝わってるからこそのあの態度か。流石我が妹、斬り捨てるときの目つきが水風呂より冷たい。

 

 しかし、由比ヶ浜が企画して夏祭りに行くとなると……誰が行くんだろうか。由比ヶ浜と俺以外だと、既に名前が出ている雪ノ下と一色、それと小町。

 

 あとは……と考えたところで、今日も由比ヶ浜から連絡が来る前にとりとめのない電話をしていた相手を思い出す。

 

 由比ヶ浜はあいつを誘ってるんだろうか……? 聞いてもいいものなのか……? と逡巡していると、LINEにメッセージが届いた。

 

『ヒキオ、あんたも夏祭り行くんだって?』

『あーしも行くから』

「…………」

 

 メッセージを読んで、自分でも驚くほど安心していた。頬が少しばかり緩んでしまう。

 

『おう』

 

 短く返すと、可愛らしいうさぎのスタンプが返ってきた。最近三浦はスタンプを使い始めたのだが、これがまたいちいち可愛い。会話はここで終了のようなので、俺からもスタンプを返してトーク画面を閉じた。

 

 8月が終われば、夏が終わる。

 だからその前に、あと少しだけ――由比ヶ浜が言うように、思い出作りをしてもいいのかもしれない。

 

 

 

 




 あーしさんでした。来週は夏祭りです。

 それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!
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