※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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 最終的に、夏祭りに行くメンバーは由比ヶ浜、雪ノ下、一色、三浦、小町、俺の6人に決まった。

 

 俺、いらなくないか?

 

 まあ、かしましい女性陣の後ろをのろのろ付いて回って、時折小町に何かを買って貢いでいればそれで時間は潰せるだろう。

 

 いや、なんで貢ごうとしてるんだ俺は。

 

 由比ヶ浜から提示された集合場所は、何故か夏祭り会場から数駅隣の場所で、集合時刻も夕方と呼ぶには早い時間帯だった。理由は聞かされなかったが、取り敢えず従う以外の選択肢がなかったので大人しく向かうことにする。

 

 高校生活最後の夏休みの、最後のイベントが始まろうとしていた。

 

       ×  ×  ×

 

 集合場所まで小町と一緒に行こうとしたのだが、小町は他の友達と遊んでから集合場所に行くとのことだった。一日で2つのコミュニティに顔を出すなんてアクティブすぎません?

 

 電車に乗っていると、浴衣姿のカップルや女の子のペアをちらほらと見かける。夏祭りがある日はこういった光景をよく見るので、実にわかりやすい。

 

 ぬぼーっと窓の外を眺めているうちに集合場所に着いた。

 

「あ、ヒッキー! こっちこっち!」

「バッ……」

 

 俺を見つけた由比ヶ浜が、公衆の面前で堂々とあだ名で呼んできた。思わず「バカ」と言いそうになり口をつぐむ。ここで俺が反応すれば「やだ、あいつヒッキーって呼ばれてる……」「イジめられてるのかな?」なんて思われかねない。

 

 由比ヶ浜の呼び掛けには一切応じていないフリをしつつ早足・忍び足で合流すると、俺以外のメンバー全員が揃っていた。

 

「? ヒッキー、なんでいまちょっと遠まわりしたの?」

「……あのまま真っ直ぐ歩いて合流したら、俺がヒッキーだと思われるだろ」

「あー……あはは、なんかごめんね?」

「いや、いい。……他の人に聞こえないところで呼んでくれ」

「あ……う、うん、わかった……」

「…………」

 

 なんだろう、いまの俺の言い方。

 

 とりようによっては、「これは俺とお前だけの秘密だぞ」ってニュアンスにも思えるか……?

 

 ちらりと由比ヶ浜を見る。おい待て、なんで照れてるんだ。「えへへ……」なんて言いながら照れてるんじゃない。かわいいだろ。

 

 ふと視線を感じて周りを見る。

 雪ノ下が半目でこっちを見ている。

 一色が同じく半目でこっちを見ている。

 小町がにやにやしながらこっちを見ている。

 三浦が――あれ? なんかものすごく不機嫌じゃありませんか? あれ?

 

「……………………」

「あ、あの……三浦さん……?」

「……………………………………………なに?」

 

 こわっ!

 

 沈黙が1秒続くごとに心臓がキュッとなる。キュッて。

 

「そ、そういえば小町ちゃん! あのこと、まだあんまり詳しく聞いてなかったよね!」

 

 場の空気を読んだ由比ヶ浜が、苦笑いを浮かべながら明るく声を上げる。ナイス! ナイスフォロー!

 

 ……ん? あのこと?

 

 俺が首を傾げて小町を見ると、愛しの妹が「むふふ……」と不敵に笑った。よくわからんが腹が立つ。

 

「小町。あのことって何のことだ」

「お兄ちゃん。『これくらいは持ってきて』って金額を指定してたよね?」

「ああ、元々持ってくるつもりだった資金に加えて、小町に言われた分を持ってきてる」

 

 同様の話が伝わっているのか、女性陣もみなこくりと頷く。

 

 

「小町さんは『私服でお願いします』とも言っていたわね」

 

 雪ノ下の言葉に小町が頷く。

 

「むふふ……小町、こんなものを持ってきてみました!」

 

 ジャーン! と自分で効果音を付けそうな勢いで(実際は付けていない)、小町が財布から何かの券を取り出した。

 

「……浴衣レンタルの、クーポン券……?」

「わ! すごいね、かなり安くなってる!」

 

 俺が目を細めて券の正体を探っていると、由比ヶ浜が嬉しそうな声を上げた。たしかに、クーポン券に書かれた通常時の値段は高校生にはかなり厳しい値段だが、割引されたあとだと一気に手が届きやすくなっている。

 

「友達のツテでゲットできたんです。せっかくですから、みんな浴衣を着てみたいなーって思いまして!」

 

 小町がにこぱーと笑う。由比ヶ浜と一色が目に見えて喜んでいる。

 

「値段はいいのだけれど……着付けには時間がかかるでしょう? この人数がいて大丈夫なのかしら? それに祭りの直前なら混んでいそうだけれど……」

 

 雪ノ下がもっともな疑問を口にする。たしかに、仮に一人につき20分かかるとしたら、6人で2時間かかってしまう。

 

「それも大丈夫です! 予約をとってますし、着付けしてくれる人は複数人いますから! 1回で全員の着付けは無理っぽいんですけど、多くても2回で全員の着付けはできるみたいです」

 

 小町の説明に雪ノ下が頷く。なるほど、そういうシステムなのか。

 

「駅から歩いて3分の場所にあるんです。もうすぐ予約の時間になるので行きましょう!」

 

 小町の声に、由比ヶ浜と一色が「おー!」と元気よく返事をする。雪ノ下と三浦はどう反応したらいいか迷って、結局何もせずに終わった。安定の恥ずかしがり屋さんたちだ。

 

「ヒキオ」

「ん、どうした」

 

 駅から出ようと歩いている途中、最後尾を歩いていた三浦がぽつりと話しかけてきた。

 

「ヒキオって、どんな浴衣が好きなの?」

 

 思わぬ質問に面食らう。

 

「え、あー……すまん、浴衣の好みはないな。正直あんまよく知らんし」

「……そう」

「ただ、まあ……その人に似合ってれば、いいと思うぞ」

「……ん」

 

 三浦の返事はなんとも言えない曖昧なものだったが、ふとこぼれた笑みは木漏れ日のように優しかった。

 

       ×  ×  ×

 

 着付けレンタルをしている店の中は広々としていて、冷房がよく効いていた。でかでかとした垂れ幕があり、「着付けレンタルフェア開催中!」と書かれている。着付けスタッフが複数人いると小町が言っていたが、このフェアに合わせて増員しているのかもしれない。

 

「いらっしゃいませ。予約されていたお客様ですね。ただいま対応できるスタッフが4人までなので、多少時間差が生じてしまいますがよろしいですか?」

 

 店員の言葉にふむと頷く。

 

 

「俺は後でいい。お先にどうぞ」

 野郎は後回しで……と先に譲る。しかしどちらにしろもう1人も後にならざるを得ない。残りの5人がちらちらとお互いに視線を巡らせたかと思うと、

 

「あーしも後でいい」

 

 三浦がぽつりとつぶやいた。

 

「優美子、いいの?」

「早く決めたほうがいいでしょ? ほら、行った行った」

「う、うん……ありがと」

 

 三浦が由比ヶ浜の背中をぺしぺしと押す。なんだかおかんみたいだ。残りの4人も俺と三浦に軽くお礼を言って先に入っていく。

 

 4人がスタッフに案内されるのを見届けると、三浦との間に落ち着かない沈黙が訪れた。

 

 どうしたものか……と思って視線を巡らせると、茶屋にあるような長椅子を見つける。三浦に目配せをして、2人で腰を下ろした。

 

「……元気だった?」

 

 三浦の質問に少しおどろく。ちらりと見れば、なんだか恥ずかしそうに視線を巡らせている。どうやら自分の話題のチョイスに恥ずかしくなったらしい。

 

「……昨日も電話しただろ」

「……顔見たのは久しぶりじゃん」

 

 横目で隣を見やる。顔を逸らしているが、瑞々しい肌がほんのりと朱に染まっていた。

 

「…………」

「…………」

 

 いつもは心地良いと感じるはずの沈黙が、何故か今日は不安になる。

 2人の空気が、なんだか落ち着かない。

 

 本当は、聞きたいことはあった。

 三浦は今、誰にどんな気持ちを向けているのか。

 

 ほんの少し前まで、ひたすら、純粋に、純朴に、気持ちを向け続けていた相手のことを、今はどう思っているのか。

 

 そうは思ったところで、こんなタイミングで聞けるはずもない。

 待ち時間は20~30分と聞いている。ううむ、長いな……と思っていると。

 

「お客様。お待ちの間にこちらをご覧になっていてくださいますか? 浴衣の種類を載せております」

 

 柔和で上品な笑みを浮かべた女性店員がやってきて、俺と三浦それぞれに薄いカタログを渡してきた。三浦が手に持つカタログには女性用浴衣の文字があり、俺の方には男性用浴衣と書かれている。

 

 読みながら話すのなら、いくぶん気も紛れる。このカタログは2人の良い緩衝材になってくれる気がした。

 

 俺も三浦もカタログを開き、黙々と読み始める。

 

 かすれ十字。お、なんかの技の名前みたいだ。

 

 亀甲。亀甲!? あ、別にこの言葉自体が卑猥な意味というわけではないか。

 

 吉原つなぎ。妙な名前だなと思ったら、説明文に由来が書いてある。「鎖の連続文様で、吉原の遊郭に入ったらその場所に縛られて、なかなか解放されないことにちなんだ名前といわれている」……重くない?

 

 なにげに種類があって面白い。昔ながら、それこそ何百年単位での昔からあるであろう柄もあれば、ここ10年くらいで出来たと思われる今風の柄もある。

 

 気が付けば熟読していて……ふと、隣から視線を感じた。

 

「……んん?」

 

 カタログをひたすら読んでいる俺の顔を、三浦が妙に柔らかい笑みを浮かべて見ていた。

 

「……どうした」

「別に? なんか楽しそうだなって思って」

 

 ちょっと恥ずかしいんですが。

 

「三浦は見なくていいのか?」

 

 

 顔が熱くなってきたので、苦し紛れに話題を振る。

 

「? ……あ」

 

 俺の質問に三浦がぽけっとした反応を返し、自分の手に持っているカタログをちらりと見た。

 

「……まだ全然読んでなかった」

 

 三浦にしては珍しく、ぽわんとした声音でつぶやく。

 

「なんだ、ずっと俺の顔を見てたのか」

 

 振り向いたら俺の顔を見ていて、且つ自分のカタログを全く見ていない――その状況から導き出された結論を、よく考えもせず口にしてしまった。

 

「…………っ」

 

――自分の言葉に対して、三浦がどんな反応をするかを考えもせずに。

 

「……そんなわけ、ないし……っ」

 

 消え入りそうな声で呟いた三浦が、膝の向きを俺から遠ざかるように変えて、食い入るようにカタログを見始める。さらりと流れた髪から覗く耳が真っ赤になっていた。

 

 ……なんだこの可愛い生き物は?

 

 

 

 続く。

 

 

 

 




 本当はこの回でみんなの浴衣を披露しあって、「さあ次回は夏祭りです!」と言うつもりだったんですが、思ったより膨らんで1話分の尺になってました。よくあること。

 それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!
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