※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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(18)

 まずは小町・雪ノ下が挑戦する。銃を両手で構え、前のめりになった。

 

 1発目。小町が外し、雪ノ下が明らかに大きな猫のぬいぐるみの左腕に当てるも、身体が奥に傾くのみで倒せず。雪ノ下さん、好みがほんとわかりやすいですね……。

 

「ひゃー! これ難しいよお兄ちゃん」

「みたいだな」

 

 普段慣れようもない銃を持ってぶっつけ本番で挑むのだから、考えてみればなかなか難易度が高い。

 

 ……それにしても、雪ノ下が狙っている猫のぬいぐるみ……大きすぎないか? 頭に当てて倒れるような代物には見えないんだが……。まあ、雪ノ下は至極真剣に狙ってるようだし……って、目がマジすぎない? 狩人の目だよ?

 

 2発目。小町がまたも外し、雪ノ下が先程と同じぬいぐるみの左腕に再び命中させる。身体がますます奥に傾いた。

 

 ……まさか……狙ってやってるのか?

 

 3発目。小町がやっとお菓子の箱に当てたものの、傾いただけで倒すには至らなかった。

 

 雪ノ下は――同じぬいぐるみの、全く同じ場所に3発目を当てた。ぐらりと傾いたぬいぐるみが、足場の板からずるりと落下する。

 

「マジか……っ」

 

 思わず驚愕の声が漏れる。おっちゃんも唖然としていた。

 雪ノ下がくるりと振り返り、渾身のドヤ顔を浮かべた。

 うん、顔が整ってるだけに余計腹が立つ。

 

「ゆきのん、すっごーい!」

「雪乃さん、流石です!」

 

 女性陣がきゃーきゃーと騒ぐ。見物していた他の人も拍手を送る。軽く騒ぎになったことで雪ノ下は照れて俯いてしまったが、猫のぬいぐるみを受け取るとふわりと優しい表情を浮かべて抱きしめた。

 

「尊い……」

 

 後ろにいた女性客がよく分からないことを言って膝から崩れ落ちた。同行者と思しき女性が「あんたを介抱する身として恥ずかしくてしょうがない」とぼやいている。何も見なかったことにした。

 

 続いて由比ヶ浜・一色の挑戦。

 

「よーし、当てるぞー」

「うーん、どれも倒れづらそう……」

 

 意気揚々と銃を構える由比ヶ浜の横で、一色がぶつぶつと小言を呟く。おいやめろ、おっちゃんの頬がひくついてるぞ。そういう本音は祭りで言っちゃだめ!

 

 2人が揃って銃を構え、台に肘をついてこちらに尻を突き出す体勢になった瞬間――

 

「…………っ」

 

 反射的に目を逸らしたが、それでも目に飛び込んできた情報の奔流に脳を焼かれる。

 

 

 

――聞いたことがある。若者は女性の胸に執心しがちで、年を重ねると尻に関心が向くのだと。

 

 その説を初めて聞いたときは「そんなものなのか」という程度の感想しか抱かなかった。しかし、自分の視線が街中の女性や、PCの画像・動画の中の女性のどういった部位に自然に向くのかを改めて意識すると、関心のほとんどが女性の胸部に向いていることに気付いた。

 

 すれ違った時に、女性の胸の大きさをチラ見する。

 身体のラインが浮き出ている服は、をかし。

 谷間が見えているのは「あざとい」だの「ビッチなのでは」だの諸々考えてしまえど、結局は――いとをかし。

 

 俺の興味関心はそこでストップして、すれ違った女性の後ろ姿、あるいは自分の前を歩く女性の後ろ姿に関心を寄せたことは、ほとんどと言っていいほどになかった。

 

 思うに、何かに興味を持つことは、身近にいる人の影響が大きいのでなかろうか。

 

「父親がハマっていた戦隊もの」

「兄がよく観ていたアニメ」

「最近急に女らしくなった姉のタンクトップ姿からちらりと見えた胸の谷間」

「親戚のお姉さんが遊びにきたとき、落ちた紙を拾おうとしたときに見えた胸の谷間」

「クラスメイトの女子が暑い暑いと胸元に下敷きで風を送りこむときに見えた胸の谷間」

 

 こういった例はいくらでも挙げられるだろう。途中から例が偏ったのは気にしない。

こういったきっかけにより、それまでまるで気にも留めていなかったものが急に視界に留まり意識するようになるだろう。つまり胸に興味が湧くわけだ。

 つまり、胸に興味が湧く。

 胸に、興味が、湧く。

 大事なので3回言った。

 

――胸に対して、尻というものはそういったチャンスが幾分少ないように思われる。

同年代の女子であれば、そもそも尻がある程度の大きさになるまで成長するのに時間がかかるが、例え尻が未発達であっても、胸チラする機会があれば一気に興味が胸に傾くだろう。

 

 尻に興味を示す例として、パンチラはどうだろうか? これはそもそも遭遇機会がそうそうない上に、例え中の下着が見えたとしても「下着が見えた!」とは思っても「うお、良い尻!」という感想を抱くには至らないことが多いのではないだろうか。

 

 こういったことを鑑みても、若者が尻よりも胸に関心が向きやすいという説は納得がいきやすい。

 

――信じられないほど長くなったが、尻に関心が向くようになるには「身近な家族や友人などの尻を見て、性を意識する」というハプニング、いやライフイベントとも言うべき事態に遭遇することが肝要と思われる。

 

 つまり、つまりだ。

 

「…………」

 

 俺は今、目の前で突き出された、由比ヶ浜と一色の、意外にむっちりとした尻をほんの一瞬見ただけで――新たな性癖に目覚めた。

 

 簡潔に言うと、今この瞬間に尻も好きになった。

 

 由比ヶ浜の尻は胸同様に強烈な主張をしており、色気と同時に安産型ともいうべき安心感を備えている。予想通りでいて予想以上の双丘が俺を追い詰める。

 

 対して一色の尻は由比ヶ浜ほどの大きさこそないものの、ほっそりした身体からは想像もできないほど意外なまでの肉感があった。思いもよらぬギャップが俺を追い詰める。

 

 なんで俺は追い詰められているんだ。

 

 

 

「あー、だめだったー」

「難しいですねー」

 

 ……顔を逸らしたまま思考を重ねているうちに、由比ヶ浜と一色が撃ち終えていた。

 

「…………」

 

 ずっと顔を逸らしていたのは恐ろしいほど不自然だし不審者にしか見えないだろうが、今は祭りの真っ最中だ。俺の奇行になど誰も興味を示さないだろう……とタカをくくっていると。

 

「…………」

「…………」

 

 雪ノ下と三浦が信じられないくらい冷たい目を向けていて。

 

「お兄ちゃん、ひねくれてるくせにそういうとこは分かりやすいよねえ……男の子だねえ」

 

 小町は呆れたように笑いながら俺の肩をぽんと叩き、なにやら親戚のお姉さんみたいなことを言ってきた。

 

 いたたまれない。

 なんだか、とっても、いたたまれない。

 

       ×  ×  ×

 

「次は俺らだな。……なあ、流石にそろそろ……」

「なんか言った?」

「いえ、なんでも……」

 

 機嫌直せよ、などとは口が裂けても言えなかった。

 

 俺が尻を見ていたことに対して存分に遺憾の意を示している(と思われる)三浦さんが超怖いです。助けてください。

 

 銃を受け取って並んで立つものの、隣から感じるオーラの圧が洒落にならない。なんか左肩がヒリヒリする。助けてください。

 

「……ん?」

 

 どうやったらこの地獄から抜け出せるんだ……と悩み抜いていると、三浦の視線がある一点に縫い付けられていることに気付く。

 

「何か欲しいものでもあるのか」

「……っ、別に、なんもないし」

 

 俺の言葉にハッとした三浦が、なぜかつかなくていいウソをつく。

 

「別に気にする必要ないだろ。俺は欲しいものはないから、協力するぞ」

 

 空気感を元に戻したい思いもかなり強いが、それ以上に単純に――三浦が欲しいと思うものなら、協力を惜しむという発想自体が湧かなかった。

 

 俺の言葉に三浦が顔を逸らす。出店の古びた味のある電球に照らされた三浦の頬がほんんのりと朱に染まっていて、思わず見惚れた。

 

 ロールの巻かれた髪の毛先をくりくりといじったかと思うと、

 

「……あれ」

 

 後ろにいる小町たちにも聞こえないほどの消え入るような声で呟いて、景品の中に混じっていた少し大きめのウサギのぬいぐるみを指差した。

 

「わかった。一緒に狙うか」

「……うん」

 

 更に小さくなった声で頷く。よほど恥ずかしいらしい。俺は銃を構えながら、さり気なく狙いをウサギのぬいぐるみに定めた。

 

 1発目。俺の弾はウサギの隣のお菓子の箱に当たったものの倒れず、三浦の弾は屋台の壁にパチッと虚しく当たった。

 

 2発目。三浦の弾がウサギのぬいぐるみの肩に当たったものの倒れず、俺の弾は空を切った。

 

 そして3発目。真剣に狙いを定めている三浦の横顔を一瞥して引き金を引くと――俺と三浦の弾が同時にウサギのぬいぐるみの頭に当たり、まるでスロー再生しているかのようにゆっくりと倒れた。

 

「ぃよっしゃ……っ!」

 

 予想以上にテンションが上がってしまい、慣れない声を上げて左隣を向く。三浦も興奮で顔を上気させていて、自分のテンションに心が付いていっていないようだった。

 

 目が合ったまま、2人の距離がわずかに近付く。時間感覚が圧縮されて、ゆっくり動く身体をどこか他人事のように眺めながら、高速で思考が巡ってゆく。

 

 まずい。このままだと舞い上がってハグしてしまいそうだ。三浦も何が何だかわからないといった顔をしている。たぶん、このまま身体を慣性に任せてしまえばコンマ何秒後かには三浦と抱き合っているだろう。

 

 ただしそのイベントの直後、俺は死ぬ。社会的にも、肉体的にも。ちなみに肉体的死とは凍死のことを指しています。雪女さんがすぐ後ろにいるので。

 

 どうしよう、身体の動きをぴたりと止めることはできそうにない。しかしこのままでは――!

 

 焦りに焦った俺は、咄嗟に右手を高く上げた。三浦が目を見開き、釣られて右手を上げる。

 

 次の瞬間――パァン、と小気味の良い音が鳴り。

 俺と三浦は、ハイタッチを交わしていた。

 

『……………………』

 

 射的の屋台の前のごく限定的な空間に、奇妙な沈黙が流れる。

 

 今日この祭りに来ているメンバーの中で、ハイタッチを自然にできそうなのは小町、由比ヶ浜、一色だろう。雪ノ下と三浦と俺はとても自然にはできない側だ。それは普段のテンションや振る舞いの違いであって、どちらが優れているなどといった話ではない。

 

 俺と三浦、ともにハイタッチをしそうにないキャラの2人が、ハイタッチをする。

 テンションに任せて、柄にもないことをする。

 

 それすなわち――死ぬほど恥ずかしい。

 

『……………………っ』

 

 相手のリアクションを見る余裕さえなく、俺と三浦は全力で顔を逸らした。顔が熱い。なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!

 

「おめでとう! やるねえお二人さん。はいよ、景品だ」

「あ、ありがと、う、ござい、ま、す……」

 

 死角ギリギリのところで、おっちゃんが三浦にウサギのぬいぐるみを渡している。三浦がゼンマイが切れかけた人形のような声で答えて受け取った。

 

「そ、それじゃ、次に行きましょうか!」

 

 三浦も絡むと流石に対処に困ったのか、小町が不自然に高いテンションで促してくる。由比ヶ浜と一色も小町同様にテンションを上げ、雪ノ下は何やら複雑な表情でこちらを見ている。なんだ、同族としては己も辿るかもしれない悲惨な末路を見てしまった気分なのか?

 

「ヒキオ」

 

 4人がするすると祭りの喧騒の中を進むなか、俺の半歩後ろにいた三浦がか細い声で呼びかけてきた。振り向くと、ウサギのぬいぐるみを片手で抱きしめながら恥ずかしそうに目を泳がせた三浦が、上目遣いでじっと見つめてきている。

 

「……ありがと」

「……あー、まあ、2人でやったからな、大したことねえよ」

 

 頭をがしがしと掻いて答えると三浦が目をぱちくりとさせ、やがてふっと柔らかい笑みを浮かべた。

 

「……ふふ、素直にどういたしましてって言えばいいのに」

「うるせえな……」

 

 心臓が鷲掴みされたかのように鼓動が高まるなか、喉から這い上がってきた言葉は情けないくらい素っ気ない言葉だった。

 

 そんな俺の言葉に対しても、三浦はまるで年上のお姉さんのような柔らかい笑みを浮かべた。

 

 

 

 続く。

 

 

 

 




 八幡の尻に関するモノローグは、何気ないエロス史上屈指のくだらなさだと思ったんですがどうでしょう。

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 活動報告にて、夏コミC92で出したはるのん本のとらのあな委託分&DL販売の宣伝をしています! ぜひご覧ください(^^)!

 それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!
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