※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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(22)

 夏休みが終わり、二学期が始まった。街を歩けば太陽とアスファルトの熱で挟み撃ちに遭うのは相変わらずだが、それでも夏休みという期間が終わるのは精神的に夏の終わりを思わせる。夏の熱波を盛り立てるような蝉の鳴き声も、今では徐々に終わりゆく夏を惜しんでいるように聞こえた。

 

 二学期の初日。俺の席の前に座る三浦と葉山の様子を見ていた。2人は、一度目の告白のときと比べるとずいぶんと自然に会話していた。時折俺の名前が聞こえたかと思うとこちらをちらりと見て笑うというケースがずいぶん増えたが、まあ俺が陰口を叩かれてイジメられているんだろうと思えば気が楽に……ならねえな。会話の内容がものすごく気になるんだが。

 

 三浦の二度目の告白以降、気まずさはほとんどないものの、以前のように三人で勉強会をするということはなくなった。誰が何を言うでもなく、あまりにも自然にその流れができあがっていた。

 

 流石にこの状況で勉強会をやったら、目の前の問題よりも人間関係で胃がやられそうだ。それはしょうがないよな……と思っていた矢先。

 

 席替えで、三人の位置関係ががらりと変わった。

 葉山が教室のど真ん中になり、俺と三浦が窓際最後列で隣同士。

 

 これはこれで、何だか心臓に悪くないですか?

 

       ×  ×  ×

 

 席替えをした日の、初めての休み時間。

 

 多くのクラスメイト(ほとんどは名も知らない)は、このごく短い時間でも話し相手を求めて教室のあちこちにグループを作る。グループ内の誰の下に集う、というのを予め決めているかのように、一切の相談なくスムーズに集まる。なんなの、LINEグループで授業中に打ち合わせでもしてんの?

 

 視線を斜め前に向けると、葉山は複数の男女に囲まれていた。同じサッカー部と思われる男子やら、きゃーきゃー騒ぐ類の女子(失礼)数名ずつに見事に囲まれている。

 

 他のクラスからも来ているようだった。なんで急に……? と思ったが、今まで葉山は基本的に三浦と話していたから、その雰囲気に気おされていたのかもしれない。三浦さん、縄張り意識強そうですもんね……。

 

 当の三浦はどうするのかしらと隣を見やると、既に次の授業の教科書とノートを机に出し終えた彼女と目が合った。

 

「…………」

 

 互いに何の言葉も発さぬまま、瞬きを二度、三度。

 三浦は俺を見たまま、ふむ……とまるで品定めでもするかのようにあごに手を当てた。何かのオーディションでしょうか。

 

「ヒキオ、飲み物買いに行こ」

「え」

 

 予想もしなかった言葉に間抜けな声が漏れる。三浦は俺の戸惑いをまるで気にせず(少しは気にしてほしい)、勢い良く立ち上がった。

 

「ほら、早く」

「え、あ、ああ」

 

 シャキシャキと教室の後ろを横断する三浦の背中を慌てて追う。傍から見れば姐御と舎弟にしか見えないだろう。周りからの視線もいくつか感じたが、今はそれ以上気にしている余裕がなかった。

 

 教室を出ると、クラスを跨いで雑談に花を咲かせる男女があちこちにいた。人ごみの間をぬって歩いていると、数日前の祭りを思い出す。三浦の隣に並んで歩調を合わせると、わざと気だるげな声を上げた。

 

「話が読めないんだが」

 

 三浦はちらりと俺を見ると、何やら楽しそうに微笑んだ。

 

「あーしの好きな飲み物を把握しといてほしいの。今後買いに行ってもらうから」

 

 おっと、中々の女王様ぶりですね。

 

「え、なに、俺はパシリ認定されたの?」

 

 確かに、下駄の鼻緒を直したりとか帰り道の安全を確保するとか、パシリと言えなくもないけども。面と向かって宣言されるとちょっと泣いちゃいそう。

 

 仲良くなったんだが遠ざかったんだかわからない状況に困惑していると、三浦は俺をちらりと見やり、頬を仄かに赤らめた。

 

「……言っとくけど、あーし、こんなの誰にでも頼むわけじゃないからね?」

 

 思わぬツンデレ発言に戸惑う。よくよく考えなくても理不尽なはずなんだが、理性とは対照的に、心臓はわかりやすいほどに高鳴っていた。

 

「……そうなのか?」

「そうだし。適当な人に頼んで、毒でも盛られたらやじゃん」

「どこの戦国時代だよ」

「あ、あの自販機がいい」

 

 さらりとツッコミを流された。

 

 三浦が指定したのは、校舎の端も端にある、特別教室がある棟の自販機だった。今は話しながら来たからまだいいが、一人でふらっと来るような場所ではない。

 

「え、なに、ここまで買いに行かされるの?」

 

 思わず本音を漏らすと、三浦が金髪の毛先をくりくりといじり、ぷいと顔を逸らした。

 

「……いやなら、別にいいし」

 

 可愛らしく拗ねていて、それでいてちょっと悲しげな表情を見て一気に慌てる。よくよく考えなくても理不尽なことを言われているのには変わりない――信頼してる人をパシらせるってどんな思想だよとか思わないでもない――んだが、いかんせん可愛さが俺の思考判断能力を極めて低下させている。

 

「いや、行かないとは行ってないんだが、その、うん、なんていうか」

 

 いかん、軽口さえ出てこない。高速でろくろを回して意識高い言葉を繰り出そうとしても何も出てこない。ところでスタバのハイチェアーに座ってMacを使ってる人って未だにいるんだろうか。

 

 俺が慌てる様子をしばしじーっと見ていた三浦が、ぽつりと呟いた。

 

「……じゃあ、あーしが一緒ならいいの?」

「え」

 

 思わぬ発言に戸惑う。

 なんだこの子は。休み時間という貴重な交流時間を、俺とこんな寂れた場所まで飲み物を買いに行くのに費やそうと言うのか。

 

「……いいのか」

 

 様々な意味を込めて言うと、三浦は視線をせわしなく泳がせたあと、上目遣いで見つめてきた。

 

「……別に、ヒキオとなら、……い、いいし」

「……そ、そうか。まあ、それなら……俺も、構わんけど」

 

 気だるげな自分の声が、面白いほど上ずっている。三浦は三浦で、顔を逸らして無言になってしまった。

 

 とはいえ、短い休み時間に往復でそれなりに時間がかかる場所に来ている。妙な気恥ずかしさを拭えないまま、三浦から「あーしがさっぱりしたいときはこれ、疲れたときはこれを飲んでるから」などと説明を受けた。

 

 どこか上の空で説明を聞いていると、「……どうせ一緒に来るから、そのうち覚えて」と頬を赤らめて言われたものだから、余計に説明されたことが頭から飛んだ。

 

 

 

 夏に高まった熱は、秋が訪れて冬が舞い降りればいずれ冷めるのではないか。ましてや受験生という立場では、とにかく心の余裕が削られる。「あの時の良い雰囲気は何だったんだろう」などと数ヶ月、あるいは一年以上後に思い返すことになるのが関の山なのではないか。

 

――そんな風に思っていたけれど。

 

 まだ、この熱は。

 

 もやもやして、正体が逃げ水のように掴めなくて、それでいて心地良い温もりを宿した、この熱は。

 

 まだまだ、冷めそうにない。

 

 

 続く。

 

 

 

 




 のんびりのんびり。ゲーガイル続の一部シーンを参考にしています。

 JDEに反応していただけて嬉しかったです! 最近感想欄で見ない常連の方は元気かな~、とふと思いました。

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 それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!
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