※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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 市立図書館に戻って勉強を再開する。人が増えても静かなのは変わらず、引き続き集中することができた。

 

 好きな本を探そうと棚を物色する人の足音や、隣のテーブルで勉強をする中学生のページを捲る音、本好きの夫婦がおすすめの本の情報を控えめな声で交わし合う音。

 

 どれもがこの空間を静かに楽しんでいて心地良い。隣に座っている三浦もかなり集中しているようで、勉強はかなり捗った。

 

 気が付けば1時間半ほど経過していた。時計を見ると14時半を回っている。

 

「ん……っ」

 

 三浦が両手をテーブルについてぐぐぐ……っと伸びをしている。さっきも見た仕草だが、やはり猫みたいだ。肩口が露出しているため滑らかな白い肌が目に飛び込み、反射的に顔を逸らした。

 

「ちょっと休憩するか」

「うん」

 

 ちょっと眠そうに、目の下をこしこしとこする。三浦が幼いときは、親にベッドへ連れられていくときにこんな仕草をしていたのかな……と微笑ましく感じていると、「あ、やば、化粧とれる……」とやけにリアルな言葉が聞こえた。

 

 別にスッピンでもいいのに……とは思うが、男がそう言ったところで女性からしたら知ったこっちゃないのだろう。性別特有のこだわりや悩みに口は出すまい。

 

 今いる2階には談話スペースのようなものがあり、2つのローテーブルを2人掛けソファが囲んでいて、すぐ横の壁際に自販機が3台設置されている。本格的に眠いのか、ちょっとふらついている三浦を気遣いながら自販機の前にたどり着く。

 

「…………」

 

 いつも使っている学校の自販機とは勝手が違うが……ふむ。

 

「これか?」

 

 カフェラテをしゅぴっと指差して尋ねる。三浦は「ん……?」とやけにゆっくりとした動作で顔を上げた。縁側で寝てる猫みたいだ。

 

「ん……それでいい……」

 

 他の飲み物をまるで見ることなく、財布からお金を取り出して俺に渡す。もはや自分で買う気力もないらしい。今の三浦なら、俺がおしるこやカップヌードルを指差してもそれでいいっていいそうだが……果てしなく怒られそうなので絶対にそんな真似はできない。ちなみにどちらもここの自販機にはないんだけども。

 

 カフェラテを買って渡し、俺は安定のマッ缶を買う。ソファに座ると、三浦は何の躊躇もなく隣に座った。あれ、別のソファに座ると思ってたんですけど……なんか急に恥ずかしくなってきた。

 

 2人掛けのソファだからかなり距離が近い。ふわりと漂う甘い匂いにくらりときて、座った位置は変えないまま首だけ水平移動して遠ざける。奇妙な妖怪の誕生である。

 

「み、三浦、その、なんだ、えっとだな」

「んぅ……?」

 

 いかん、本格的におねむだ、この子。さっきはメイクを気にして目の下をこするのをやめていたのに、またこすりだしてる。化粧がとれているわけではないので大丈夫だとは思うが、それにしても可愛い。何ですのん、この子?

 

 仕方ない、俺が移動するか。

 ソファから立ち上がると、三浦がぽけっと見上げてきた。

 

「ヒキオ……どっか行くの?」

 

 ちょっと寂しげに見つめられる。こんな感じで将来娘に「お父さん、お仕事行っちゃうの? やだやだやだ……」などとごねられたら、一切の躊躇なく一ヶ月間の有休をとってそれが原因で居場所が無くなって辞めるまである。

 

 即座に元の位置に戻った。おねむな三浦さんは、俺の行動にこてっと首を傾げるだけだった。

 

 三浦はまるで何かの義務を課されているかのように、カフェラテのペットボトルをくぴりと飲み、こぼさないようにふたを閉めて一度ローテーブルに置き、しばらくすると再び同じ動作を繰り返している。全ての動きがのろのろとしていて、正直訳が分からないくらい可愛い。何だこの子。

 

「三浦。ちょっと寝てもいいぞ」

「ん……ありがと」

 

 礼を言うや否や、三浦はソファの背にもたれかかってこっくりこっくりとし始めた。

さて、俺ものんびりするか……と思っていると。

 

「んん……っ!?」

 

 ニャンちゅうみたいな声が出た。

 

 三浦が俺の左肩にしなだれかかってきた。夏祭りの帰り道を思い出すが、今は肩出しのフリルカットソーを着ている。すなわち俺のTシャツ越しに三浦の肌が直に当たっている。

 

 この実況なんか変態みたいなんだけど混乱してるだけですごめんなさいそうだロジカルシンキングで論理的にいこう俺本当に何言ってんだいつの間にか俺の手はろくろを回しているぞどういうことだろう。

 

 漫画やアニメを見ていると、キャラの脳内で天使と悪魔が争うというくだりを見かけることがある。最近はすっかり見なくなったが。

 

 この状況に当てはめると、「寝てる間に抱きしめちまえよ!」「そんなことしちゃダメだよ!」みたいなやりとりがあるのだろうが、あいにくと俺の中の天使と悪魔は、普段から人とのコミュニケーションが不足しているために(100%俺の影響だ)、こういうときの免疫がまるでない。

 

 天使と悪魔が揃いも揃って「このレベルの幸せを知りません。キャパオーバーです。何もアドバイスは差し上げられません」とそっけないAIみたいなことを言っている。つまり俺は今全力で固まっている。

 

 しかしまあ、この状況を誰かに見られたりしなければ何てことはない。俺が今胸に抱いた恥ずかしさを墓にまで持っていけば済む話だ。

 

――と、思っていた矢先。

 

「おかあさーん、どこー?」

「え……」

 

 聞き覚えのある幼い声に振り向くと、朝に図書館前で見かけた小さな女の子がこっちにとっとことっとこと歩いてきた。なんで? お母さんはこっちにいないよ?

 

 なんかいやな予感がする。

 なんかいやな予感がする!

 

 女の子は俺と三浦が座っているソファとローテーブルの間に立って、こちらをじっと見つめてきた。

 

 ジーー。

 

 ジーーーー。

 

 ジーーーーーー……。

 

 何でも鑑定団の人でもここまで見ないだろって勢いで見つめてくる。ファッションだの健康状態だのまで判定してるのかしら。視線自体は純粋そのものなんだが、何も言わずきょとんとした顔でじっと見つめられるのはいかんせん耐えがたい。

 

 女の子による長い長い審査時間(?)が終わると、小さな顔いっぱいに花が咲いたような笑みを浮かべた。

 

「やっぱりかっぷる!」

 

 やっぱりってなに?

 

 女の子は俺たちの関係に(極めて一方的に)決断を下して満足したのか、足早に去っていった。階段近くで「あ、おかあさんみつけた!」と元気に叫んだので、ほっと胸をなで下ろす。

 

 しかしまあ、今のは三浦が寝てたからまだ良かったな……と不幸中の幸いに安心していると。

 

「…………」

 

 三浦が目を閉じたまま、顔を真っ赤にしてぷるぷると震えていた。

 

 ……そりゃまあ、あれだけ元気に通る声で騒がれたら起きますよねぇ……。しかも俺の肩にしなだれかかってるのにも気付いただろうし。ダブルで恥ずかしいんだろう。

 

「…………」

 

 三浦は俺に気付かれていないと思ったのか、俺にしなだれかかったまま再び寝始めた。マジか。思った以上に強心臓。

 

 俺も気付かずに寝たフリをすることにしたが、眠気は吹き飛んでしまっていた。三浦も同様だったのか、先ほどのような寝息が聞こえてこない。二人揃って寝たフリをするという奇妙な構図ができ上がった。

 

 言葉の辻斬り、だめ、ぜったい。

 再犯は尚のこと、だめ、ぜったい。

 

 

 

 続く。

 

 

 

 




 ニャンちゅうの声、好きです。

 それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!
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