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「ヒキオ。今日の放課後空いてる?」
帰りのHRが終わった直後、ボーッとした顔でどこを見てるかわからない隣の席のクラスメイトに声を掛けた。
「……ん、空いてる」
こっちをチラリと見て、まるで興味が無いかのように答える。ちょっと目が泳いでるから、少なからず動揺してるのは丸わかりだった。
話しかける直前のボーッとした顔。知り合った頃はなんでこんな間抜けな顔をできるんだろうと思っていたけど、今ならその表情の意味がわかる。何か小面倒なことを考えているんだ。あの顔はカモフラージュなんだろう。ほんとにボーッとしてるときも結構多いけど。
今ならきっと、あーしが話しかけるのを待っていてくれた。これ見よがしに待とうとせずに、ちょっと間抜けな顔で、待っていることがバレないように待っていてくれた。バレてるんだけど。ヒキオのくせにちょっと可愛い。
「外か?」
「ん」
2人合わせて4文字の会話。どこの老夫婦なんだろうと思った瞬間、顔が熱くなって慌てて顔を振った。ヒキオは首を傾げながらも席を立ち、「んじゃ、行くか」と呟いた。
人がたくさんいる場所だと、ヒキオの声はいつにも増して小さくなる。気を遣ってくれているのはわかるけど、これじゃ会話をしてるのか、独り言に対して返事をしてるのかわからななくなるときがある。
ヒキオの数歩後ろを歩いて教室を出る。廊下に出たところで左隣に並ぶ。最近できあがった『いつもの光景』だ。
「…………」
ふと、ヒキオの手を見る。左手はポケットに突っ込んでいるから、鞄を持って揺れてる右手を、ちらりと。
思ったよりも大きくて、思ったよりもごつごつした手。
今までもヒキオの手に偶然触れるようなことはあったけれど、最近はどういうわけか週2回ペースで頭を撫でられているから、その感触がよくわかる。
ポケットに突っ込まれた左手を見る。もちろん見えないけど、もぞもぞと動いてるのがなんだか可愛くておかしい。そのことを本人に言ったらムスッとしそうだけど。
――このポケットに手を入れたら、ヒキオはどんな反応をするんだろう?
湧き出した疑問は、ふっと浮かべた呆れ笑いと一緒に消えた。
空気を読まなかったり、急にわけわかんないことを言い出したりするくせに、妙に空気を読んでたり、優しくしてほしいところで優しくしてくれたりする。
すぐ隣を歩く、一見冴えなくて、2年生の最初の頃の自分なら興味も持たなかったクラスメイトとの距離が。
近付いている気はするけど、思ったよりも遠くにいる気がして。
なんだかずっと、掴めないでいる。
× × ×
市立図書館で勉強するという、もう何度やったかわからないお決まりのコース。図書館に行くと言うと、ヒキオは驚きもしなかった。当たり前だけど。
いつものように、学習室のある3階ではなく2階の端に座る。どこに座っても一緒だと思っていたけど、ヒキオに先を行かせると毎度のように端っこに行くから、いつからかあーしが選ぶときも端の席を選ぶようになった。
端の席に座るのもいつも通りだし、あーしが隣に座るとちょっとビクッとして挙動不審になるのもいつも通り。ヒキオはいつになったら慣れるんだろう、この数十センチの距離に。
……人のことは言えないけど。
× × ×
閉館時間の20時まであと30分を切ったところで、いつの間にか周りには誰もいなくなっていた。見えない位置に司書の人はいるはずだけど、それでも目に見える場所には誰もいない。
「ヒキオ、ここなんだけど……」
残り時間を考えると、これが今日聞ける最後の質問だ。ヒキオは優しいから、きっとこの後帰ってから電話で聞いても答えてくれると思う。けれど、あまり負担はかけたくなかった。だからこの質問で今日はおしまい。
問題集ごと身体を右に寄せると、ヒキオはビクリとしたものの何とか踏みとどまった。最初の頃はあーしが動いたのと同じ分だけスライドして逃げていたことを考えると、すごく変わったなと思う。
問題集の手前にノートを置いて、わからない部分をあれこれと説明する。ヒキオは一通り聞くと、あごに指を当てて考え込んだ。あーしは返事待ち。暇を紛らわすという言い訳を作って、ヒキオがあごに当てている右手を眺めていた。
「……ん。この場合は……」
一つ頷いたヒキオが、右手で問題集を指差した。あーしの意識はヒキオの指先と問題文へ。自分の右手をどこに置いてたか、とか。ヒキオの左手の位置はどこなのか、とか。そんなこと、わざわざ考えたりしなかった。
考えたりしなかったから、ヒキオの左手とあーしの右手が触れ合ったときは、心臓がはじけ飛ぶかと思った。
――ヒキオはすぐに離れると思った。声をひっくり返らせながら手を離して、そしてすぐさま謝ってくるんだろうと。
――あーしも、すぐに離れると思った。なるべく動揺を顔に出さないようにしながら、ヒキオとほぼ同時に謝るんだろうと。
――けれど。
(……あれ?)
事故のように触れ合った小指は、数秒経っても触れたままだった。
「……三浦?」
「……あ、ご、ごめん。聞いてなかった」
大して気にしていないのか、ヒキオは小さく頷いて、すぐに説明をし直してくれた。
ちらりと視線をずらす。小指は触れ合ったままだ。
どうせならとしばらくそのままにしていると、段々、細い指の側面が触れているだけでは寂しくなってきた。ちょっとずつ、ちょっとずつ小指をよじ登らせて、ヒキオの小指を跨ぐ。ほんの数センチ移動するだけで、心臓がおかしくなるくらい高鳴っていた。
ヒキオはピクッと動いただけで、構わず説明を続けていた。
あーしがこんなにドキドキしてるのに、なんでヒキオはそんなに平気なの……?
疑問が湧いて、ちょっと悔しくなって、怒りたい気持ちになった。
めんどくさいヤツだと自分でわかっていても、目の前で平然と説明を続けているヒキオをどうにか動揺させたくなった。
「……でだ。ここで……」
ヒキオの説明を聞きながらも、あーしの小指はヒキオの小指に続いて薬指、中指、人差し指を跨ぐ。ヒキオの左手の上に、あーしの右手が丸々重なった。ヒキオの手の方がずっと大きくて、なんだか妙に頼もしい。
ヒキオは動揺してる……?
ちらりと顔を見ると。
「……ええと、すまん。どこまで説明したか忘れた。……ああ、そこか。うん……ええと……ちょっと待った、すまん、なんか頭の調子が悪い」
明らかに動揺していた。それで動揺が隠せていると思っているんだろうか。
何をしても平気なように見えたヒキオが動揺するのを見れて満足していると――あーしの手の下にあったヒキオの左手が、急にひっくり返った。
「……っ!?」
思わず声を出しそうになって、すんでのところで抑えた。
ヒキオの右手は手のひらが上になっていて、あーしの右手に指を絡めてきていた。すぐ下に感じていたたくましさを手のひら全体に感じて、身体の奥底から熱くなる。
「三浦、どうした?」
「え、あ、うん……なんでも、ない……」
あーしが動揺したからなのかはわからないけど、ヒキオはまた冷静になっていた。手は汗をかいてるから緊張してるみたいだけど、あーしに比べるとまるで平気なように見える。
なんだか悔しいけど、それ以上に幸せで。
閉館ギリギリまで、あーしとヒキオは手を繋いでいた。
――帰りはいつものように送ってくれたけど、まともに顔を見ることができなかった。ヒキオはやっぱりいつも通りで、それが悔しかった。手をもう一度握ってみようかと思ったけど、恥ずかしくてできなかった。
「ヒキオのくせに……」
自分の部屋に入るなり制服のままベッドに飛び込み、うつ伏せで枕に顔をうずめて呟く。たった3文字の呼び名を口にするだけで、身体中が熱くなって、どうしたらいいかわからなかった。
× × ×
部屋に戻ると、制服のままベッドに飛び込んだ。うつ伏せで枕に顔をうずめて、深く息を吸う。
「え、なに? あれはどういうこと? 俺は知らんぞ、あんな難易度の高いイベントは知らんぞ。え? え? びっくりしすぎて声出なかったんですけど。そんでびっくりしすぎて発狂したとしか思えないことやっちゃったんですけど。なに? どういうこと? なんなの? Why Japanese people !?」
「お兄ちゃんうっさい!」
「ご、ごめんなさい」
食い気味に壁ドンされた。
続く。
突然のあーしさん視点でお送りしました。思い付きでやってみたんですが、すごく楽しかったです。書きながら「なんでこの2人付き合ってないの?」と首を傾げていました。
手を繋ぐくだりですが、マーガレットで連載されていた増田里穂先生の「スタンドバイミー・ラブレター」を基にしました。帯を見て衝動買いした、唯一持っている少女コミックです。
<書籍化します!>
小説投稿サイト・ノクターンノベルズにて連載中の作品「社会人が築く亜人ハーレム~ラブコメとエロを分ける理由なんてない~」が、2018年から電子書籍で刊行されることになりました!!
何気ないエロスでずっと応援していただいていたおかげです。本当にありがとうございます!! 詳しい情報は追々お伝えしていこうと思います!
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小説投稿サイトノクターンノベルズにて、新作「コンビニで出会ったエロい女の子と爛れた関係になりました。」の連載をしています!! タイトル通りの内容で、1組の男女がエロく、ゆるく、そしてエロい生活を送ります。
活動報告にURLを貼っていますので、よろしければぜひご覧ください(^^)!
今年も何気ないエロス及びオリジナル作品をどうぞよろしくお願いします(^^)!
それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!