三浦と続けざまに二度のキスをして、理性が尋常でない勢いで削られていた。これ以上は本当に押し倒しかねないと思っていたが、三浦はどこか甘えるような表情で三度目のキスをねだってくる。言葉で何か言うわけではない。けれど、表情がはっきりと「もっとしたい」と語りかけてくる。整った眉をかすかに曲げ、綺麗な瞳を細め、しなだれかかるように密着してきた。
「んん……っ」
三度目ともなると余裕が出てくるのか、三浦は唇を重ねながらも細い手ですがるように背中をなでてくる。背すじに感じる甘い疼きにぞくぞくしていると、ぴたりと閉じた唇の割れ目に何かが当たった。
「んっ……んふぅぅ……っ」
悩ましい吐息を漏らす三浦の、小さな舌が俺の唇の割れ目をなぞっていた。あけてよと懇願するように、可愛らしくおねだりするように。まずい、ここで唇を開いたら確実に理性を保てなくなる……! と危機感を抱き、なんとしても唇を開けまいとしていると。
うっすらとまぶたを開いた三浦と目が合った。
(あけてくれないの?)
そう尋ねてくるような表情。今にも泣きそうな顔に、なんとか戒めようとしていた心が簡単に溶解してしまった。唇を引き結ぶ力をふっと緩めると、小さな舌がにゅるりと入りこんできた。
「んふぅぅ……ちゅっ、ちゅぴっ、はぁぁっ、んっく、ふぅぅぅ……っ」
「…………っ」
唇を開放するなり、三浦は顔を傾け、さらにピッタリと密着してきた。上下の唇をはむっと咥えてなぞり、口内に滑り込ませた舌を俺の舌にねっとりと絡ませ、上下の歯列をくまなく舐めていく。
「あむっ、ふぅぅっ……んっく、はぷっ、ヒキオ……んっ、ちゅっ、ちゅる……っ」
「んむ……ぐ……っ」
三浦の積極性が加速度的に増していく。舌を絡めながらうっとりと目を閉じ、時折うっすらと目を開けると幸せそうに見つめてくる。三浦が迫ってきたことで自然と後ずさり、あぐらの姿勢がほどけた。そこで三浦がすかさず身体をぴたりと密着させてきた。衣服越しに当たる胸の感触が信じられないほど柔らかい。胸越しにも高鳴った鼓動が三浦に聞こえてしまいそうだ。三浦は自分の胸が俺に触れていることにまったく注意を向けていない。ひたすら、キスに夢中になっている。
「……ぷはっ。はっ、はぁっ、はっ、はっ……ヒキオ……っ」
唇を離した三浦が、口を半開きにして朱い舌をてろりと垂らし、悩ましく息を荒げている。首や背中をさする腕も、密着した胸もそのまま。唇が触れていないだけで、互いの鼻先がこつんとぶつかっている。
待て、待て、待て、待て。
なんだこの可愛い生き物は?
俺の股座にすっぽりと収まり、もっともっとと口付けをねだってくる。一秒ごとに可愛く色っぽくなっていく乙女の姿に、心臓が痛いほど高鳴っていく。
「んむ……っ」
三浦がふたたび顔を傾け、唇を重ねてきた。軽い身体がゆっくりと体重をかけてきて、俺は自然とカーペットの上に仰向けになった。三浦は俺の両頬を柔らかな手で挟んで、にゅむにゅむと舌を絡めてくる。
「ん……むぅ……っ」
意識が徐々に霞んでくる。鼻で息をすることはできるが、そのたびに三浦の甘やかな匂いをいっぱいに吸い込むことになる。三浦の吐息や香りが肺に流れ込むような感覚に溺れる。
少しでも口で息をしようと思っていると、上に覆いかぶさっている三浦の口から唾液が流れこんできた。同じ人間なのに何故こうも違うのかと思うほどに、三浦の唾液は甘ったるい。
細指が頬から耳に移り、耳の中を艶めかしく触ってくる。ここまでされて男として反応しないわけがない。三浦のミニスカートに膨らんだジーンズがぐりぐりと押し当てられる。三浦はぴくりと反応したが、今はなによりもキスを優先したいのか、それ以上気に留めることはなくひたすら舌を絡め、俺の舌を啜り、唾液を流し込んでくる。
現実なのか夢なのかわからなくなるほど、甘い香りとやわらかな感触に包まれていた。
「……ぷはっ」
一体何度のキスをしたのかわからないくらい時間が経つと、ようやく三浦が身体を離した。しばらく俺を見つめてポーッとしていたが、何かに気づいたかのようにハッとした。おお、ようやく正気に――
「ごめん……頭、痛かったよね?」
「……ああ、まあ、うん、だいじょうぶ」
戻ったかと思いきや、カーペットに寝そべっていた俺の後頭部をさすってくれた。心配してくれるのは嬉しいけど、超がつくほど積極的なキスをしていたことに対しては何も触れないんでしょうか……。
取り敢えず、現時点で分かったこと。
もしかしなくても、三浦は相当の甘えたがりらしい。
頭を撫でたり手をつないでいるときももしかしたら……と思っていたが、この短い時間で確信に至った。
「…………」
そんなことを考えていると、三浦は俺の胸に顔をうずめた。そのまま何も言わなくなったが、すんすん、すんすん、と鼻を鳴らす音が聞こえる。
ゆっくりと顔を上げると、幸せそうに目を細めた。
可愛すぎて鼻血が出そう。
三浦が金色の髪をかけ分けて薄く微笑むと、一瞬で艶っぽい大人の女性に変貌した。こころころと変わる表情はどれも魅力的で、どんどん好きになっていく。
さて、どうしたものか。
仰向けになったままで考える。
三浦はまだまだキスがしたりないのか、おでこ同士をこつんとぶつけてしきりに唇を重ねてくる。心を許した人にここまで甘えてくるさまは、普段教室で見ている時とのギャップも相まって洒落にならないほど魅力的だ。できることなら俺もまだまだキスに溺れてみたい。
しかしながら、三浦の心配は的を射ていた。それなりに後頭部が痛い。あと背中も。三浦の体重がいくら軽くても、カーペットだけではいかんせん諸々の衝撃を吸収しきれない。
「……ベッドに行くか」
キスの続きならベッドの方がやりやすいだろうという意図を込めて提案してみたが、よくよく考えるとどう考えても違う意味にとられるよな……とコンマ5秒後に気づいた。案の定、三浦の顔が一瞬で茹だる。
「え、あ、そ、その、えっと、ま、まだ、心の準備が……っ」
三浦が頬に手を当てて慌てる。積極的にキスをしてきた様子からは考えられない初心さだ。ベクトルの違う可愛さを次々とぶつけてくるものだから、心の防御がまるで追いつかない。俺のライフはとっくにゼロになっている。オーバーキルもいいところだ。
「だいじょうぶ、その、アレだ、キスをするだけだから」
恥ずかしがって言ったものだから、余計に妙な空気になった。三浦は目をぱちくりとさせて、それからクスリと笑った。
「うん。……ん……っ」
ベッドの上で……と言ったのに、三浦はそのままの体勢でもう一度キスをしてきた。
× × ×
ベッドに三浦が乗る。スプリングが軋む音がいつもより小さく、三浦がどれだけ華奢で繊細な存在であるかが分かる気がした。
俺が膝立ちになると、女の子座をしていた三浦はスッとおとがいを上げて目を閉じた。整った顔立ちに見とれながら唇を重ね、今度は俺から舌を絡める。
「んふぅぅ……っ? んっ、ちゅっ、ちゅぴっ、こくっ、こくっ、はむっ、んふぅぅ……んっ、こくっ、ちゅるっ、んんん……っ」
唾液を流し込むと、三浦はためらうことなく飲み込み、細喉を何度も鳴らした。その表情はまるで、渇ききった喉に水を流しこんでいるかのようだ。俺が体重をかけると、三浦はゆっくりと後ろに倒れ込み、仰向けに倒れこんだ。
「……はぁっ、はっ、ん……っ、ヒキオ、なんか、やらしい……っ」
口を腕で覆った三浦が、顔を真っ赤にしてつぶやく。空いた手はシーツの上に投げだされていた。見下ろす形で目にした艶姿にぞくぞくして、かすかな嗜虐心が芽生える。
「お互いさまだろ」
つぶやき、三浦の両手を握る。驚きに目を見開く瞳の両脇に小さな手を固定して、上から覆いかぶさる。
「ぅあ……んっ、あんっ、んんっ、やっ、んくぅぅ……っ」
体重をかけて押さえつけられるのが苦しいのか、あるいは恥ずかしいのか、三浦は舌を絡ませながらも時折唇を離し、顔を逸らす。目の前に現れた白い首筋にごくりと喉を鳴らし反射的に吸いつくと、三浦が悩ましく身体をくねらせ、長い髪を乱れさせた。
「やぁっ、あっ、そんな、とこ……んん……っ」
拒絶の言葉すら弱々しく、扇情的に身体をよじらせるだけの三浦にぞくぞくする。三浦の首筋は、まだ誰も足を踏み入れていない処女雪のように白く、同じ人間かと疑ってしまうほどにやわらかい。固めた舌先を肌に押しつけるたびに、三浦は艶っぽい声で悶えた。
いったん唇を首筋から離すと、驚くほど華奢な肢体に体重をかけて、三浦の口内に舌を侵入させてじっくりと舌同士を絡ませる。唾液を絶えず流し込み、時折唇を離してふたたび首筋に吸いつく。
「はぁぁ……あっ、んくぅ……ヒキオ……ぅあ……っ」
つないでいた手を離すと、三浦が背中に腕をまわして抱きしめてきた。愛おしむように何度もさすり、泣きそうな表情を浮かべて唇を密着させてくる。触れ合えば触れ合うほど、膨らんだ股間をぐりぐりと押し付けてしまう。それでも三浦は、仄かに顔を赤らめただけで特に何も言ってこなかった。
俺が上になり、互いに横向きになり、三浦が上になり、また俺が上になる。
互いの位置を次々と変えて、互いの名を呼び合いながら、ただただ唇を重ね続けた。
「……ぷはっ。……今、何時だ……?」
これまでの人生で体験したことがないほどに時間を忘れていた。俺の言葉に、三浦が枕元に置いていた自分のスマホに手を伸ばした。
「……2時間くらい経ってる」
「マジか……」
初めてキスをしたときは、2時間のあいだずっとキスしてました! などと人に発表することはまずないだろうが、とんでもないことをしたんだなと実感する。
いくら三浦が可愛くて色っぽかったとはいえ、俺も盛りすぎだろう……でも襲ったりしなくてよかった……いやでもこれって半分襲ってるようなもんじゃねえか? などと己の心の中で問答していると――三浦が俺の首にするりと腕を回してきた。目をぱちくりとさせる俺に、三浦はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ヒキオとこんな関係になるなんて、思わなかった」
「奇遇だな、俺もだ」
俺の返しに三浦がくすくすと楽しそうに笑う。本当に魅力的な女の子だな、と思った。
「あとは……ヒキオがこんなにやらしいなんて思わなかった」
「……さっきも言ったけど、それはお互いさまじゃねえか?」
頬を赤らめながら告げてくる三浦にカウンターを食らわせると、色白の頬が一瞬で朱に染まった。さっきはキスに夢中になっていたから反応がそこまで大きくなかったが、今回は効果大のようだ。
「……ち、ちがうし。あーしはただ、夢中になってただけで……」
「……夢中になってやらしいことをするってことはんぐっ!?」
最後まで話すことができなかった。何が起きたのか一瞬分からなかったが、三浦が俺をやわらかな胸に抱き寄せたのだと気付く。
「……それ以上言うなし。恥ずかしいんだから……」
「お、おう、すまん……」
胸に思い切り顔が埋まってるのは恥ずかしくないのか……? とは言えなかった。とても良い匂いがします。
「今日はこの後、どうする?」
やわらかな胸から解放されて――別にそのままでもよかったのだが――尋ねると、三浦は質問の返事を考えながら自分の胸を見つめてポッと頬を赤らめた。今ごろ恥ずかしくなったんですかね?
「ん、夜までには帰るって言ってあるから……」
言いながら、三浦がちらりとスマホの時計を見る。あと2時間の猶予があった。
「漫画の続き、読むか?」
「ん……たぶん、集中できないからいいや。また今度読ませて」
「……それもそうだな、わかった」
集中できない理由には思い当たる節しかなかったので、素直に応じた。
三浦の頬にそっと手を添えると、ほわっと幸せそうに瞳を細めた。
「続き……するか」
「……うん」
今にも消え入りそうな掠れた声で返事をした三浦が目を閉じる。
華奢な肢体を優しく抱きしめると、もう一度あの濃密な時間を味わうべく、やわらかな唇に自分の唇を重ねた。
続く。
5000字弱に渡り、ひたすらキスをする回でした。いろはす以来のキス魔が誕生しました。
それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!