活動報告にて詳しいお知らせをしております! そちらをよろしければぜひ(^^)!!
結局、三浦とは合計して4時間ほどキスをしていた。
途中途中で唇を離してベッドに寝転がっていると、どちらからともなく唇を重ねていた。あまりにも濃密で甘露のような時間だった。
お互いがファーストキスだったにも関わらず、まるでこれがごく当たり前に、朝起きたら顔を洗うかのような日常的行為になった気がした。夕方になっても、まだまだ俺にぴったりと密着して唇を重ねていた三浦に「そろそろ……」と言った時の、可愛らしく真っ赤に染まった顔はしばらく忘れられそうにない。俺が止めなかったら、下手をすれば小町が帰ってくるまで続けていたのではないだろうか。
気を利かせて外出してくれていた世界の妹・小町だが、三浦を送ろうと家を出ようとしたところでちょうど帰ってきた。
「あ、優美子さん! いらっしゃいませー!」
「あ、こ、小町……こんばんは……」
何も事情を知らないですよーと主張するかのような純真無垢な笑顔。うむうむ、ますます嫁にやれなくなったな。可愛すぎて。
三浦はさっきまでやっていたことがやっていたことだからか、別にやましいことはしていないのに小町への対応がやけに不自然になっている。というよりむしろ恥ずかしがっている。それもかなり。
「えー、もう帰っちゃうんですか? せっかくだからご飯食べてってくださいよー」
俺と三浦と交互に見た小町が、極めて清涼感のあるおねだり――清涼感のあるおねだりってなんだ――を三浦に繰り出す。顔を赤らめていた三浦はそれはもう盛大に戸惑っていた。
「お、親に、夜には帰るって言ってるから……」
「ん、分かりました。じゃあ、また今度食べに来てくださいね!」
「う、うん……」
あ、いいんだ。
あっさりと約束を取り付ける光景を目の当たりにして、小町はすごいなぁ……と月並みの感想を抱いた。
「それじゃ、三浦を送ってくるから」
「はいさー。行ってらっしゃい。それでは優美子さん、気を付けて帰ってくださいね!」
「うん、じゃあね」
三浦は別れ際になってようやく緊張がほぐれてきたのか、小町の挨拶には柔らかな笑みを浮かべた。自然に浮かべた笑顔はとても可愛らしく、思わず見惚れてしまう。
「……ヒキオ? どうしたの?」
「あ、ああ、すまん。なんでもない」
三浦が気遣わしげに、無意識になのか上目遣いで見つめてくる。もう感触を知ってしまっている唇から慌てて目を逸らすと、小町がなにやらニヤニヤと笑っていた。なんですのん。
「んじゃ、行ってくる」
「はーい。晩ご飯の用意しとくね」
「いつもすまんねえ」
「それは言わない約束ですよ」
比企谷兄妹恒例の中身のないやりとりをしていると、三浦がくすりと楽しそうに笑った。小町がなぜかビックリしていたが、詳しい話はまた後で聞けばいいだろう。三浦を連れて、駅へとのんびり歩き出した。
× × ×
三浦の家の前に着いた。あとは挨拶をして別れるだけ……と思ったら、三浦が何か言いたそうにもじもじとしている。
「どうした」
俺の言葉に、三浦はまるで小動物のようにびくりと跳ねる。目線を右、左と泳がせ、一歩だけ近付いてきた。近付いたために身長差が如実になり、三浦は自然と上目遣いになる。
「その……これから……よろしく」
「……お、おう、よろしく」
直接街灯が当たっている場所ではないので、三浦が顔を真っ赤にしているのを見ることができないのは非常に残念だった。俺も顔が熱いので、見られずに済んだのはよかったのかもしれないが。
それじゃあおやすみ……と言おうとしたが、三浦がまだ何か言いたそうにしているのに気付く。
「ん、どうした」
尋ねると、三浦が口をもにょもにょと動かし、数秒ばかり逡巡して、やがて意を決したように両腕を伸ばしてきた。俺は動揺しつつも素早く周りを見渡し、誰もいないことを確認する。
「ん……っ」
ほっそりした身体に俺が両腕を巻きつけると同時に、柔らかな唇が押し当てられた。いつ人が来てもおかしくないので注意しないといけないのに、つい数十分前まで耽っていた部屋での行為を思い出してしまう。理性が削られてしまう前に唇を離さないと……と思っていると、三浦の舌がちろりと伸びてきた。一瞬で諦めの境地に至る俺。
「ん……ふっ、んんっ……ちゅっ、ちゅぴっ、ふぅぅぅ……っ」
直前までの恥じらいはどこへやら、三浦は口付けを深めるごとに身体をぴとりと密着させてくる。何時間もキスをしてもまだ飽きないらしく、まるで俺の口内に蜂蜜が塗りたくられていて、それを舐め尽くそうとしているかのように丹念に舌を這わせてくる。
熱くぬめった舌と唾液が絡まって生じる淫靡な音が、心地よく頭蓋を満たしていく。
下半身が反応してしまうが、三浦はまるで気にせず、もっともっととせがむように身体を寄せてくる。三浦の肌は、まるで俺の身体に馴染むかのようにふにゅりと柔らかく形を変えぴったりと寄り添ってくる。安心と興奮が同時に湧きあがり、庇護欲と嗜虐心という矛盾した思いがせめぎ合う。
「んっ、はぁぁ……っ、ヒキオ……んむふぅぅ……っ。……ぁ……っ」
何かに気付いたかのようなか細い声を漏らすと、三浦がパッと身体を離した。
「……ご、ごめん……また夢中に……って、あの、そうじゃなくて……」
我に返ってよほど恥ずかしくなったのだろう。盛大に慌てている。なんだこの可愛い生き物は……。
「別にいいって。俺はいっこうに構わねえよ」
どこぞの中国武術の天才みたいなことを言ってしまった。靴と靴下を脱いだら足先が凶器になるよ! 黒曜石の打岩とか作っちゃう。
俺のどうでもいい雑考をよそに、三浦は両頬に手を当てて口元をもにょもにょと動かしている。数分おきに可愛くなっていく気がするんですが……。
「……じゃ、じゃあね」
取り敢えずこの場を脱しないと恥ずかしさに耐えられないと思ったのか、三浦が焦ったように数歩ばかり離れ、くすりと笑ってしまいそうになるほど上ずった声で別れの挨拶をつぶやいた。
「おう、おやすみ」
「……ん、おやすみ」
最後は柔らかな笑みを浮かべてくれた。
「……ふぅ」
帰り道、一人になると自然と深い息を吐いた。ネガティブな吐息ではない。集中して勉強をしていて、一息ついたときのような感覚。しかし勉強の時とは比べ物にならないほど吐いた息は深かった。
濃い。
あまりにも濃い。
三浦と付き合うことが決まった、今日という日が――今までの人生で、一番濃密な一日に思えた。
× × ×
「ただいま」
「おかえりー。あ、お兄ちゃん」
「ん、どうした」
家に帰ってリビングに顔を出すと、調理を進めていた小町がとてとてと寄ってきた。俺の顔を見てにんまりと、可愛らしくもちょっとワルい笑みを浮かべる。
「おめでとう」
「受験は来年だぞ」
「おめでとう」
「お兄ちゃんのボケを流さないで……」
トボけようとしてみたが、通じるはずもなかった。小町の言葉は情報が足りないにも程があるが、それでもこの状況で何を言わんとしてるのかはさすがに分かる。
「……なぜ気付いた」
探偵に証拠を突き付けられた犯人のようなセリフを呟くと、小町は「んふふー」と楽しげに笑った。
「お兄ちゃんと優美子さんが並んでるのを見た時ね、なんかすっごく距離が近くなってたの」
「……え、ほんとに?」
「うん、ほんとに」
これは俺も三浦も気付かなかっただろう。第三者の目で、しかも小町のように人を見る力がある人が見ていないと気付かなかったに違いない。
俺が驚いていると、小町は「まだあるよー」と得意げに笑った。
「それとね、なんだか優美子さんの笑い方、すっごく可愛くなったなって」
「それは俺も思う」
「はい、お惚気いただきましたー」
反射的に答えてしまい、妹に盛大に煽られる兄。顔がものすごく熱い。
小町は俺から得たい情報はもう全て得たと思ったのか、「そっかー、ついにくっついたかー」と恥ずかしい言葉を呟きながら、満足げにうんうんと頷いてとてとてと元いた場所に戻った。そして手早く調理を再開する。
「お兄ちゃん」
「ん」
小町がぴたりと動きを止めた。くるりと振り向き、にひっと笑みを浮かべる。過ぎ去った真夏の向日葵を思い起こさせるような、人の気持ちを明るくしてくれる笑顔だ。
「よかったね。おめでとう」
「……あいよ、ありがとな」
ご協力、感謝いたす……と敬礼をしてみると、小町は片手にボールを持った状態でシュピッと敬礼をし返した。
「なんか手伝えることあるか」
「んー? それじゃあねー……」
ご機嫌な小町の支度を手伝っていると、胸の中がぽかぽかと温かい気持ちに満たされていることに気付いた。
嬉しい、だとか。
楽しい、だとか。
幸せ、だとか。
そういった言葉に分類される気持ちには違いないのだが、それでもなにか――今までの人生で味わったことのない温もりの火が、心に灯っているような気がした。
続く。
次回、あーしさんが部屋で一人で悶えます。
今月の21日でこの作品が3周年を迎えます!! わーい!!
それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!