――ヒキオと、もっと先のこと……したい――
昼休みに三浦から告げられた言葉が、5限、6限、HRのあいだとずっと頭の中を反芻していた。時期も時期なので勉強に集中しなければならない。そう思っていても、三浦の言葉が、表情が、頭から離れない。瑞々しい唇から、控えめに、薄紙のように頼りなく紡がれた言葉。ほんのりと朱が刷かれた頬。ふわりと吹いた風に揺れる金の髪。三浦の言葉だけでなく、そのとき目で見て、聞いて感じた全てが、曖昧さもなく、どこまでも生々しく、映像よりも高密度な情報を伴って、何度も何度も脳内で繰り返し再生される。三浦と目が合うたびに、彼女は照れくさそうに顔を逸らした。俺も顔が熱くなって同じようにすぐ逸らしていた。
先生の話す速度はこんなに遅かったっけ……と思うほど、放課後が待ち遠しかった。
× × ×
放課後。
三浦とともにする帰り道は静かだった。人目のないところでは手を繋ぎ、仲良くはしゃいでいる女子中学生の集団と出くわすなり慌てて手を離し、かしましい声が遠のくとまた手を繋いだ。口数は少ないどころか、言葉を発した記憶がほとんどなかった。三浦はほとんど俯いていた。この状況はネガティブなものではなく、これから訪れる時間へのたしかな確かな期待によるものだと痛いほど分かっていた。心臓が高鳴りすぎて痛かった。家に近づくほど周りの喧騒が遠ざかり、最後にはミュートしているかのように聞こえなくなっていた。
家に着くと鍵がかかっていた。そういえば小町は帰りが遅いらしく、夕飯は自由に食べてと言われていた。しまった、何も買ってない……適当に作るか……などと考えながら鍵を開ける。
「家……誰もいないんだ」
靴を脱いだところで三浦がぽつりとつぶやいた。湿った声音がぽとりと床に落ち、蒸発して、生々しく香りたち、空気が妖しく染まる。
「……そうだな」
三浦の髪を撫でると、まるで警戒心むき出しの子猫のようにびくりと震えた。怯えたのかと思ったが、ゆっくりと手で梳いていくと安心したのかとろんと目を細める。見上げてくるうっとりとした目の下が、ほんのりと朱くなっていた。
「……部屋、行くか」
「……うん」
このままでは玄関で抱きしめてしまいそうだ。平静を装いながら三浦の手を引いた。小さくてか細い手は震えていた。
× × ×
部屋に入り、鍵を閉めた。
「…………っ」
無意識にやったことだったが、三浦は目を見開き、そろりと、まるで幽霊でも見るかのようにドアノブを振り返った。何か言うでもなく、そのまま部屋の中をふらふらと歩いていく。
「コートはここにかけてくれ」
エアコンで暖房を点けつつ、壁にかけてあるハンガーを三浦に渡す。三浦はコートだけでなくブレザーも脱ぎ、ブラウス姿になった。衣替えの前は何度も見ていた姿なのに、改めて見る薄着にごくりと息を呑む。
「……あんまり、こっち見んなし」
拗ねたような声音で三浦がぽしょりとつぶやき、手のひらで頬をぺしっと叩いてくる。力はまったく込められていないが、今のって掌底ですよね……?
クッションを並べて隣同士で座る。三浦は膝を抱えるようにして猫のように背中を丸めていた。この空気感で勉強ができるはずもなく、それぞれが何かを自由にするでもなく、ただただ黙って座る。
「……小町、帰り遅いの?」
「みたいだな。でもまあ、帰ってきてても問題はねえよ。気が利くからな」
「なんだっけ、世界一の妹、だっけ?」
「ああそうだ」
「バカみたい」
「うっせ」
ぽそぽそと言葉を交わし、微笑みあう。三浦の柔らかな笑みに鼓動が高鳴る。もっと一緒にいたい、色んな顔が見てみたいと思うような、そんな表情。
他愛のない話を続ける。ぽつ、ぽつと、途切れ途切れに、自由気ままに。
どちらから近付いたのか、徐々にふたりの距離が縮まっていく。二の腕が触れ合うと、まるで火傷したように熱く感じた。互いの服を超えて熱量が伝わるような、そんな感覚。三浦が小さく震えたのが腕越しに伝わる。
「……今年もあと1ヶ月と少し……」
「……だな」
そっと手を重ねると、三浦が何気なく発する言葉に質量が増した気がした。他愛ない会話を続け、指をゆっくりと絡めあう。ひりひりとした興奮の糸が全身を這い回っていく。会話の内容だけはそのままに、互いの声音と挙動が徐々に淫靡なものに変わっていく。
三浦がそっとしなだれかかってきた。ちらりと横を見やると、三浦と目があう。
「……ん……っ」
吸い寄せられるように唇を重ねる。三浦から舌を出してきた。いたずら心で唇を離してみると、綺麗に整えられた眉が拗ねたように曲がる。わるいわるいと苦笑しながらもういちど唇を重ね、舌先をちろちろと重ねる。ピリピリとした甘い痺れが走った。三浦の瞳がうっとりと細められる。
「んっ……ふっ、んふぅぅ……あっ、んんっ、ふぁ……っ、はっ、んくぅぅ……っ」
三浦の肩を抱き寄せ、正面から向き合う。小さなくるぶしをトントンと叩くと、三浦は恥ずかしそうにスカートを押さえながら両脚を上げ、あぐらをかいているの腰にするりと巻きつけた。
「ちゅっ、ちゅるっ、れるっ、はっ、んむ……んっく、ふぅぅぅ……っ」
身体がぴったりと密着すると、三浦の口づけの熱量が上がった。上下の唇を順に咥えてなぞり、歯列の表裏を舐め、まるで交尾するかのように舌を根本からねろねろと絡めてくる。くぐもった声が頭蓋を焼き、甘ったるい匂いに鼻腔が犯される。下半身に血液が行き渡り、スラックスがむくむくと膨らむ。三浦は股間に押し付けられている感触に目を細めると、挑発するように自分の腰を悩ましくこすりつけてきた。三浦のスカートの内側と股間の膨らみがこすれる。女性の柔らかな部分にくにくにと勃起が押し付けられる感覚にぞくぞくする。
「……ぷはっ。……あっ、んっ、はぁっ、んんん……っ」
唇を離しても、互いに息を荒げながら見つめあい、ゆっくりと腰をくねらせる。相手の性感を、そして自分の性感を高めるように、静かに、ねっとりと。三浦が脚を巻きつけた状態で密着しているため、ふたりとも服を着ているのにまるでこういった体位で身体の奥底まで繋がっているかのようだ。
「……これ、めちゃくちゃエロいな……」
「……ヒキオ、おっきくしすぎだし」
三浦が顔を赤らめながらつぶやく。股間の膨らみはミニスカートに覆われて見えない。ふにふにと柔らかな部分に勃起を押しこむと三浦の目の光が霞み、劣情で上気した音が唇から漏れ出る。腰をぐいぐいと押し込むとスカートの下の柔らかさが増し、三浦はますます蠱惑的に身体をくねらせる。鼻腔をくすぐる吐息がどんどん熱くなり、頭がおかしくなりそうだった。
「……ねえ、脱いでいい?」
三浦の言葉に目を見開く。『もっと先のこと』と三浦が言っていたが、いざこの場面が来ると俺まで緊張してしまう。
「ああ、どうぞ」
声が上ずりそうになりながら返事をすると、三浦はスカートの中を隠しながらもぞもぞと両脚を戻す。これから脱ぐのにわざわざそんなことをしなくても……とは思うが、雰囲気が大事なのだろう、きっと。
ぺたりと女の子座りになった三浦が、ブラウスのボタンに手をかける。俺の顔をちらちらと上目遣いで見つめ、ぷいと顔を逸らし、徐々に外れていくボタンをちらりと見て、また俺の顔を見て……と、せわしなく動くさまが可愛らしくてしょうがない。
ようやくブラウスのボタンを全て外し、静かに脱ぎ捨てた。
「…………っ」
三浦のブラは、可愛らしいピンクのフリルがついたものだった。教室で見る彼女の印象とは程遠いが、ふたりきりでいる時の可愛らしく甘えてくる態度を知っているとこの下着が破壊的なまでに似合っていると思える。
「……すげえ、似合ってる。可愛い」
耳まで真っ赤にして、上目遣いで何かコメントしろと言わんばかりに見つめてくる三浦に、つっかえながら思ったままのことをつぶやく。
「……変じゃ、ない?」
普段から見た目にも気を遣っている三浦とはかけ離れているような、まるで自信のない声音。こんな一面を見るとこの子のことがまた好きになる。
「ぜんぜん変じゃないぞ。すげえ良い」
顔を左右に振って全力で肯定すると、
「……ばか」
顔を逸らしてぽつりとつぶやかれた。なんで? なんの照れ隠しなのか、ブラウスを投げつけられた。ぼふっと顔に当たるとともに信じられないほど良い匂いがしたが、これ以上嗅ぐと確実に変態認定されるのでやめておいた。どちらにせよもう手遅れだとは思うが。
三浦は腕で胸を覆ったまま立ち上がり、俺のことをじっと見つめてきた。え、なに、見下したいの……? と思ったが、なにやら泣きそうな顔をしている。
「ヒキオ。その位置だと……その、すっごい恥ずかしいんだけど」
「え? ……ああ、なるほど」
俺があぐらをかいて座り、三浦が立っている。この状況では、三浦の大事な部分が俺の目の前にきてしまう。
「そうだな」
「い、いや、そうじゃなくて……っ」
三浦が羞じらうのは分かるが、それがまた可愛いので譲れない。俺が頑として動こうとしないことに諦めたのか、「ほんとにばか、ドスケベ……」と罵りの言葉を可愛らしくつぶやきながらスカートのホックに手をかける。
金属のかみ合わせがほどける控えめな音とともに、スカートが床に落ちて乾いた音を立てた。
――ブラと同様の、可愛らしいフリルがあしらわれたピンクのショーツ。可愛らしいと同時に、しっとりと濡れた生地が下腹部にぴったりと貼りついているのが妙に生々しい。鼻腔を包む匂いに濃厚な牝の気配が混じった。
「……綺麗だ」
ぽそりとつぶやくと、三浦が瑞々しい身体をぶるりと震わせた。
「……ありがと」
消え入りそうな声で返事をすると、三浦がぺたりと座った。
「ね。……寒いんだけど」
「……はいはい」
おねだりをする子どものような声音が可愛らしい。にじり寄って抱きしめると、先ほどと同様にしゅるりと両脚を巻きつけてきた。キュッと抱きしめると、耳元で安心したような吐息が漏れる。
「よかった……変とか、似合ってないとか言われたらどうしようと思ってた」
「そうなのか。三浦なら何を着ても似合うと思うんだが」
三浦が目をぱちくりとさせ、チュッと口づけしてきた。流れがいまいち分からないがとにかく可愛い。
「似合ってる?」
「ああ、ほんと似合ってる」
「可愛い?」
「ああ、めちゃくちゃ可愛いぞ」
おでこ同士をくっつけた状態で三浦がぽつりぽつりと尋ねてくる。なんだこの可愛い生き物は……とテンションが上がってしまい、舞い上がったまま褒めちぎる。なんだか顔が熱くなってきた。
「……興奮する?」
「……それは、もう……」
三浦の声がいたずらっぽくなる。腰がくんっと寄せられて、硬い膨らみに柔らかな部分がふにゅりと押しつけられた。三浦の口から漏れ出た湿った吐息が唇を濡らす。
「……ヒキオ、さっきよりおっきくなってる」
いたずらっぽくて、少し子供っぽさもある声音。なのに言葉は淫猥そのもので、自分が感じるのもいとわずにもぞもぞと腰を揺らす。くにくにと下腹部がこすり合わされてぞくぞくとする。
「ぅあ……っ」
ブラ越しに乳房にそっと触れると金の髪が揺れた。10本の指を波打たせて、指の腹をそっと這わせていく。
「んっ、あっ、やぁっ……ヒキオ、手つき、やらし……んふぅぅ……っ」
可愛らしいフリル越しにたっぷりと撫で、乳房の上の部分で露出しているところをそっと指を這わせていく。三浦は指を咥え、おとがいを上げて背すじを弓なりに反らした。ぞっとするほど艶めいた仕草に、知らず知らずのうちに生唾を嚥下する。
「ん……あっ、はぁぁぁ……んくぅぅっ!?」
左手は乳房に這わせたまま右手でそっとショーツに触れると、甘ったるい嬌声が一段跳ね上がった。ショーツをくにくにと押すと卑猥な湿り気を感じる。
「はっ、はぁぁ……っ、ヒキオ、だめ、それ、待って、あっ、あぁぁ……っ」
三浦が指を咥えたまま、へなへなと左手を後ろについて傾く。女性としての魅力に溢れたスタイルを惜しげもなく晒しているさまは、まるでなにかの淫猥なショーを見ているような気持ちにさせられる。
柔らかな谷間に顔をうずめると、ほんのりと汗の混じった甘ったるい匂いに包まれた。左手でふにふにと乳房をまさぐり、右手でショーツの湿った部分をくにくにと何度も押しこむ。土の下から水が染み出すように、下腹部の湿り気と濃密な牝の匂いがじわりじわりと増していく。
「あっ、うぁっ、だ、め、ほんとに、これ……あっ、あふぁぁ……っ」
三浦が咥えていた指を離し、両手を後ろにつく。だめと言いながらなにも抵抗せず、艶めかしく身体をくねらせるのがたまらない。下着越しだとより感じやすいのか、胸も下腹部も羽が触れるようになぞるだけでびくびくと戦慄く。寒いと言っていた肌からはじっとりと汗が噴き出し、ショーツの染みが徐々に広がっていき、にゅく、ちゅく……と卑猥な感触が指から伝わってくる。あまりの興奮に、亀頭の先から先走り液が断続的に溢れ出してパンツを濡らしていく。
「はぁぁ……んっく、はっ、あっ、はぁぁ……ね、ヒキオ……んんん……っ、ヒキオってば……あっ、はぁぁぁ……っ」
「ん……ああ、わるい。どうした?」
初めて見ることができた恋人の下着姿を夢中で貪っていて、つい反応が遅れてしまった。愛おしげにすりすりと頭を撫でられて初めて返事をすることができた。三浦は俺の反応の遅さに困ったように笑い、しっとりと潤んだ瞳で見つめてきた。
「……これも、脱いでいい?」
「…………っ」
今までずっと見ることができなかった下着姿を見られただけでも充分で、今日は、いや、しばらくはひたすら下着姿を堪能しよう……と思っていたのだけれど。
三浦は、さらにその先も望んでいたらしい。
切実な、それでいて耳に届く前に消えてしまいそうなほどか細い言葉に、下腹部がぶるりと戦慄き、鈴口からカウパー液がこぷりと溢れ出る。
こくりと頷くと、三浦は綺麗な顔をくしゃりと歪めて、泣いているような笑みを浮かべた。
続く。
開高健先生の「夏の闇」という本を読んでいるんですが、この作品の熱量に当てられてめきめきと色んな作品を書きたい欲が湧き上がっています。まだまだ伸ばしていこうと思います。
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こちらの有料会員(月540円です)になっていただいた方に「淡恋に濡恋(あわこいにぬれこい)~純朴な高校生が恋と性に耽るお話~」という作品を公開しています。
第3話までなら無料で読むことができます。
何気ないエロスを読んでいただいている皆さんなら、とても見慣れたのんびりとしたリズム感かと思います!
活動報告で詳しい説明を書いていますので、よろしければぜひ覗いてみてくださいませ(^^)!
それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!