昼食後はショッピングモールをブラついた。俺から手をつなぐと三浦の目が泳ぎ、会話が急によそよそしくなって思わず笑ってしまった。可愛らしく睨みながらつないだ手をにぎにぎとされ、なんだこの可愛い生き物は……と激しく動揺した。
ショッピングモールに行くということは決めていても、具体的にどうするかは決めていなかった。なので目に入った店に適当に入る流れを繰り返した。ひとりでいる時ならば絶対にやらないことだが、三浦と一緒にいるとなんとなくなんでも楽しめる。
よくわからないアジア雑貨屋で民族色が強すぎるネックレスを試着させられ、三浦がめずらしく大笑いしたり。
ゲーセンのエアホッケーで三浦が予想外にやる気を出して熱戦を繰り広げ、暑い……とコートを脱ぐ仕草に思わず見惚れていたら三浦が恥ずかしがって脱ぐをやめてしまったり。申し訳ないことをした。
店員の「どういったものをお探しですか?」トークに巻き込まれるのがいやで普段なら絶対入らない服屋で、三浦が俺に何度も試着をさせて満足げにうなずいたかと思うと「今度プレゼントするから」とさらりと言われてどきりとしたり。なんでそんなに男前ですのん?
今度は俺が三浦に似合う服を選んで、これが似合うと思うと言ったら「……そう? あんまり……」と濁されてものすごくショックを受けたり。三浦が「うそうそ、冗談だから。……ありがと、すっごい嬉しい」と言われてテンションが上がりすぎて心臓が爆発しそうになったり。
つれづれなるままに、ふらりふらりと過ごす時間。
徐々に日がかたむき、気温が下がってきたことにも気付かないほどに、俺も三浦もふたりきりの時間を楽しんだ。
× × ×
楽しい。
とても楽しい。
しかしそれでも、身体は正直なものだ。薄い本的な展開のことをいっているのではない。
「……疲れた……」
夕方5時をまわった頃、思わず本音をつぶやいてしまった。タタン、タタンと揺れる電車の音にため息が溶けてまぎれる。
「まあ、ヒキオにしてはがんばったんじゃない?」
三浦はせっかくのデートでため息をつくなどという愚行を咎めることもなく、それどころかくすりと笑って賞賛までしてくれた。いや、まあ、賞賛といっていいのか微妙なところではあるんだが。
俺と三浦は外出デートの最後の目的地に向かっていた。そこで夕方のひとときを過ごして、夕食は家でとる予定になっている。
休日の電車は混み合っている。遊園地帰りと思われる親子連れ、デートをひとしきり楽しんだのであろう中学生カップル、男友達3人組、イヤホンで動画を見ている人……様々な人が狭い空間で一緒に揺られている。
俺はつり革を掴んでいて、三浦は入口横のバーを掴み、空いた手で俺のコートをちょんとつまんでいる。控えめにいって死ぬほど可愛い。
「三浦は、なんだ、その……前から行きたかったのか?」
いま向かっている目的地は三浦が見たいと言い出した場所だった。尋ねると、くい、と上目遣いで見つめてくる仕草が可愛すぎて変な声が出そうになった。「おはよー!! 起きてー!!」とか言ってしまいそうだ。
「……うん、興味はあった」
三浦の返答はやけに短く切られてしまった。他の話題と比べて会話が膨らむ感覚が薄い。
――興味があったのがいつからなのか、その時は誰と見たいと思っていたのか――
三浦の歯切れの悪い回答に心が揺れ、しなくてもいい邪推をしてしまう。
「……そうか」
平静を装ったつもりの声が、ひどく沈んでいた。三浦がハッとして顔を上げる。今にも泣いてしまいそうな表情で、申し訳なさが胸にあふれた。
「……その、あーし……今は、ヒキオとすっごい行きたいから。……ていうか、もう、ヒキオとしか行きたくないし……」
「……そうか」
三浦の優しい言葉で胸に温かな火が灯る。電車が揺れ、三浦の顔が俺の胸板にぽすんと押しつけられた。
「……今さら気にすんなし……ヒキオのバカ」
ぽしょぽしょと、ちょっとだけ恨みがましい声でつぶやく。ついでに可愛らしいボディブローを何発か。いや、ボディブローは可愛らしくねえか。胸をぽすぽすと叩くとかなら可愛いんだけど、わりと強めに腹にパンチを入れてくる。あれ、怒ってる?
「……わかった。もう気にしない」
「……ん」
綺麗なつむじの見える金の髪をぽんぽんと撫でると、三浦が安心したように吐息をもらした。言葉にこそしていないが、「許す」といってくれていたのがわかる。
間もなく、電車が目的地に着いた。
× × ×
生ぬるい空気が漂う地下鉄の駅から地上に上がると、真冬の凍てつく空気が肌をなでた。しっかりと手をつないで数分歩くと、目的地が見えた。
「わぁ……っ」
三浦がいつになく興奮した声を上げた。
――俺たちが見に来たのは、都内で毎年冬の名物になっているイルミネーションだった。この場所は辺り一帯が落ちついた青白い光に包まれていて、その中を散歩することができる。考えることはみな同じなのか、周りはカップルだらけだった。
「きれい……」
うっとりとつぶやく三浦の横顔を見る。青白い光に照らされた恋人の横顔。ただただ見惚れてしまう。俺がイルミネーション以外のものを見ていることに気付いた三浦が、つないだ手を可愛らしくにぎにぎして咎めてくる。
「あーしばっか見てどうすんの……バカ」
「……わるい」
「べつにわるくはないから、謝んなくていいし」
「俺にどうしろと」
「さあ、自分で考えれば?」
言葉こそつっけんどんだが、その表情は心底楽しそうだ。俺も自然と頬がゆるんだ。青白い光の中へとゆっくり歩き出す。
道の両端をなぞるようにライトが置かれ、昼間ならば芝生や小さな丘が見えるだろう場所に幻想的な光の花が咲いている。イルミネーションは場所によっては色とりどりの光を発している場所もあるが、この場所は青白い色で統一されていて、雰囲気がとても落ちついている。この辺りを歩いているカップルも年齢が俺たちよりもずっと高い。みんな会話をほとんどせずに辺りを見回しているが、しっかりと手をつないでいるカップルが多かった。
「ね、ヒキオ。あそこ……」
三浦が指差した先では、一際大きなツリーが光に包まれていた。青白色以外の色も使っているが、それでも全体的に落ちついた色合いを保っている。大きなツリーをベンチに座って見ているカップルが何組かいた。この場所にいるカップルは、なんというか他の場所を歩いていたカップルよりも熱量が高い気がする。具体的に言うと明らかにイチャついている。
なんだか変な気分になりかけていたので、これは立ったままちょっと見てすぐに引き返したほうがいいか……と思っていると、タイミングが良いのか悪いのか、ちょうどベンチがひとつ空いた。ちらりと三浦を見ると、「あそこ、座るよね?」と実に分かりやすく表情で訴えかけてくる。うん、これは拒否する選択肢はないね!
「おお……」
どうしたもんかな……と思っていたにも関わらず、いざベンチに座るとそういった不安が一瞬で吹き飛んだ。俺たちが座ったベンチはクリスマスツリーの真正面で、見上げるほど大きなツリーをまるで映画のスクリーンを見ているかのように楽しむことができる。三浦は声にならないといった様子でぽーっと見つめていた。
「あーし……今日、ここに来れてよかった」
三浦がぽつりとつぶやき、俺の太もものうえでキュッと手を握ってきた。指を絡めて握り返すと、三浦がちらりと俺を見た。なんだか泣きそうな表情に見えた。
「ヒキオは?」
三浦の質問は、さまざまな含みがあるように思えた。
俺たちが恋人になるまでの経緯を考える。俺もそれなりに色々思うことはあったが……三浦は俺よりもずっと悩んで、ずっと苦しんで、前に進もうと努力して、心を折られて、ゆっくりと立ち上がって、今こうやってふたたび前を向いて歩いている。その隣にいつの間にか俺がいたかのような、そんな感覚。
「……俺も、ここに来れてよかった。本当に」
「……そ」
俺の言葉に三浦はそっけなく答えるが、その声音は嬉しくてたまらないのを必死でこらえているかのように思えた。この推測が慢心でないことを祈る。
おそるおそる腕を伸ばし、肩をそっと抱き寄せると、三浦は目をパチクリとさせ、それから嬉しそうに目を細めた。俺の肩にしなだれかかり、俺の存在をたしかめるように絡めた指にキュッと力を込める。
「……きれい」
「……そうだな」
ふたりの会話はここで終わる。
真冬の屋外で座っているだけなんてあっという間に風を引いてしまいそうなものだが……俺の手も、三浦の手も、いつもより熱い気がする。身体も柔らかな温もりに包まれていた。
それからしばらくのあいだ、俺と三浦は目の前で静かに光を放つツリーをただただ眺めつづけた。
続く。
しっとり、しっとり。
<コミケについて>
今回は2日目に参加しました。たくさんの方に買っていただき本当に嬉しかったです! 何気ないエロスをずっと読んでいるという方やオリジナル作品をWEBや書籍で読んでいるという方もいらっしゃって、本当に励みになりました。まだまだ楽しく頑張ります、ありがとうございます(^^)!!
今回出した由比ヶ浜母娘&サキサキ本ですが、現在とらのあなとDLsiteで販売できるよう準備中です! 今回初めて個人サークルで参加して何もかもひとりでやっているため、手続きが何かとのろのろしてるんですがご了承くださいませ!
あーしさん編、まだまだ続きます。ごゆっくりお楽しみください(^^)!
それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!