6月4日(日)の更新は体調不良によりお休みします、申し訳ありません。
余裕があれば数日以内に更新して、次の日曜からまた元のペースに戻そうと思います。
めぐり先輩に可愛らしく諫められ、未だにちょっと落ち込みながら出かける準備をする。
「…………」
「……?」
ふと後ろを見やると、めぐり先輩が何か言いたそうな顔をしていた。
「どうしました」
「比企谷くん……その、ごめん、ちょっと先に出て外で待っててくれないかな?」
言葉を濁すめぐり先輩。何やらもじもじしている。視線を彷徨わせ、口元ももにょもにょと忙しなく動いている。可愛いけど一体どうしたんだろうか。
「大丈夫ですか?」
「な、何でもないから。大丈夫。とにかく外に出てて?」
俺が近寄ると、めぐり先輩が同じ歩数だけ遠ざかる。結構ショックだ。あと動きが地味に機敏。
「いや、心配ですよ。無理して出かけなくてもいいですから」
なおも近付くと、更に後ずさっためぐり先輩の背中が壁に当たる。「いたた……」と唸るめぐり先輩を心配しつつも、更にじりじりと詰め寄る。もしめぐり先輩がデートのためにと体調不良を隠そうとしているなら、何としても顔色から判断して然るべき決断を下さねば……と思っていると。
「うぅ~……」
めぐり先輩がスカートの裾を掴んで俯き、何やら小動物のように唸った。
……んん?
「めぐり先輩?」
名を呼ぶと、めぐり先輩は意を決したようにバッと顔を上げ、しかしまたすぐに俯いてしまった。
そして、
「……し、下着!」
「え」
突然の3文字。
予想していなかったワードに思考が止まる。ぎゅっと握り締めためぐり先輩の手に視線を落とし、そして更にそこから下へと視線を滑らせると……。
「……あ」
綺麗で白い脚を伝う液体に気付き、めぐり先輩の状況をやっと察する。いやもうこれは察すると言うには遅すぎるか……。
「……うぅぅぅ……っ」
今にも泣き出しそうな声を聞いて、胸がきゅっと詰まる。
「ええっと……本当にごめんなさい」
どうしたら良いか分からなくなり、めぐり先輩の頭をぽんぽんと撫でる。
すると、めぐり先輩が僅かばかり顔を上げてくれた。
「……比企谷くんのばかぁ……っ」
「……っ」
涙目。
上目遣い。
か細い声。
…………。
……えー……?
……これは……もう……。
「……襲ってもいいってことですか?」
「そんな訳ないでしょ!」
結構本気で怒られた。
「回れ右!」
「は、はい」
めぐり先輩の一声で、一応恋人と呼べる関係が、尻に敷かれる夫婦どころか軍隊の上官と部下のような関係に一瞬で変貌する。めぐり先輩はこんな状況でもまだ声音に羞恥が混じっていて、怒られても可愛いと思ってしまうのだから手に負えない。
「ドア閉めるから、リビングから出てて!」
「イエス、マム」
「…………」
「ごめんなさい、ほんとごめんなさい」
逃げるようにリビングを出た。怒られない内にドアを閉める。
無心になってしばらく待っていると、扉の向こうで微かに衣擦れの音がした。反応してしまう下半身を必死で諌めながらもうしばしの間待っていると、二人を隔てていたドアが静かに開いた。
別のブラウスとミニスカートに着替えためぐり先輩が、仄かに顔を赤くして両手に何かを抱えている。
「……せ、洗濯機は廊下にあるから……っ」
俺に質問されるのは恥ずかしかったのか、先にそんなことを言ってきた。
……流石にそこまで無粋ではないんだけれども。
俺の横をそそくさと通り過ぎて洗濯機に下着を入れためぐり先輩が、ちょこちょことこちらに寄ってきた。
そして、袖をちょんちょんと引っ張られる。
「……今度こそ、行こ?」
「……はい」
一つ一つの仕草が、俺を殺しに来てるのではないかと思うほどに愛くるしい。頬を緩ませながら返事をすると、めぐり先輩はちょっとだけ厳しい表情になってピッと人差指を立てた。
「……外ではエッチなこと禁止だからね?」
おっと。
…………うーん…………。
「……は……ぁぁ……いぃぃ……」
出来るだけ曖昧な返事にしてみた。
「え、それはイエスなの? ノーなの?」
案の定追及される。
「よし、行きましょうか」
「…………」
無駄に明るい声で話を無理やり切ってみたが、後頭部に感じる視線の圧が尋常でない。
「……とう」
「わわ……っ?」
くるりと振り返って抱きしめ、後頭部をぽんぽんと撫でると、めぐり先輩の態度が見る間に軟化していった。
よし、これならさっきの返事を曖昧に――
「……なーんかごまかされてる気がするんだけど……」
「よし、行きましょうか」
「…………」
やっぱりごまかせなかった。抱きしめていた腕を離し、靴を履きにかかる。
先程よりも増した視線の圧を後頭部にがんがんと感じながらも、結局、最後まで返事はしなかった。
何故なら、久しぶりに会って更に素敵な女性になっているめぐり先輩に、何もしないでいられるほど俺は大人じゃないからだ。
2人とも靴を履いて部屋を出る。手を繋いで歩き始めると、「もう……しょうがないなぁ」と呆れたように笑ってくれた。
……アレな行為に及ぶことを認めてくれたのだろうか。
……ちがうか。
× × ×
マンションを出ると、春の暖かさがふわりと身体を包み込んだ。冬は冬で魅力があるが、春は植物などの生を感じさせる匂いが沢山あって何だか心が浮き立つ。
「風……気持ち良いね」
めぐり先輩が穏やかな声で呟き、そっと髪をかき上げる。その瞬間に強めの風が吹いて、艶やかな黒髪がふわりと躍った。目の前で起きた映画のワンシーンのような光景に視線が吸い込まれて固まっていると、めぐり先輩はくすりと笑って俺の手を取った。
「比企谷くんに教えたかった場所があるの。ちょっと歩くけど……いいかな?」
「……あ、いえ、はい、大丈夫……です……」
なおも惚けたままの俺を見て、めぐり先輩は目をぱちくりぱちくりとさせる。上目遣いで覗き込まれ、狭い部屋で全力でスーパーボールを投げたかのように心臓が激しく跳ね回る。
もう一度風が吹き、めぐり先輩の髪が舞う。髪の毛先に俺の視線が行くと、めぐり先輩は悪戯っぽく微笑み、前を向いた。まだ風が吹いている内に、先程と同様にそっと髪をかき上げ、俺の反応をちらりと流し目で覗いてきた。
「…………」
今度は俺の反応を見るためにわざとやっている――そう分かっていても、俺は、心の底から見惚れていた。
「……比企谷くん? どうしたのかな?」
「……え、あ、いや、その……まあ……」
「……ふふ」
めぐり先輩が満足げに頷き、再び手を繋ぐ。
手の温もりを感じながら、参ったな……と思い頬を掻く。
天使でもあり、女神でもあり、母でもありながら、更に小悪魔にまでなることが出来るのか、この人は。
「……無敵か」
「? 何か言った?」
思わず呟いた言葉に、めぐり先輩がきょとんとして尋ねてきた。
「いえ、なんでも」
俺の返事にきょとんと首を傾げつつ、繋いだ手をにぎにぎとされる。手のひらの柔らかさを堪能しながら、俺とめぐり先輩はのんびりと歩を進めた。
「あ、あそこだよ」
未だに落ち着かない鼓動を落ち着けようと静かに深呼吸していると、めぐり先輩が楽しそうに前方にある建物を指差した。
どうやらあそこが、お目当ての場所らしい。
続く。
めぐりんでした。
あーしさん編もめぐりん編アフターも、極めてゆっくり進みます。週1更新なので本当にゆるゆるとお楽しみください(^^)