食事を終えると、俺とめぐり先輩はカフェの裏手の庭に出た。小さな空間は隣の建物の高い塀に囲まれていて、この店の一部からしか見ることが出来ない。寝転がると気持ち良さそうな芝生と、色とりどりに咲いた花、そして何よりねこ、ネコ、猫。
「わぁぁ……っ」
隣で満面の笑みを浮かべるめぐり先輩の反応からも分かる通り、ここは一つの可愛らしい楽園に思えた。
「遊び道具は色々あるよ。芝生は座っても寝ても問題無いからね」
店主の言葉の通り、庭に繋がるドアの前に置いてあったテーブルには猫と戯れるため様々な道具が置いてあった。
「よーし……」
めぐりん先輩がふんすと鼻息を吐いて、猫じゃらしと手鞠を持った。流石に同時に遊ぶのは厳しいだろうと思い、鞠を一旦預かる。
「じゃあ、じゃあ……まずはこの子と遊んでみよっと……!」
まるで子どもが、初めて来たファミレスでメニュー表を見てうんうん悩んで決めるかのような仕草。大人びたと感じためぐり先輩の幼い面は、ただでさえカンストを起こしている彼女への好感度を更に叩き上げる。
芝生の上をとてとてと歩いているちんまりとした子猫の下にゆっくり近付くと、するりとしゃがみこんだ。見えてはいけないものが見えてしまいそうになり、咄嗟に目を逸らす。
…………。
深淵を覗いた時、深淵もこちらを覗いているのが事実ならば。
スカートの中を覗いた時も、スカートの中がこっちを覗いているのだろうか。
…………。
混乱するあまり、本当に意味の分からないことを考えてしまった。
俺が脳内で茶番を繰り広げている間に、めぐり先輩は子猫の前でねこじゃらしを取り出した。俺は手鞠を持った状態で芝生にあぐらをかいて見守ることにした。
「ほーらほら」
『にゃー』
ぷるぷると揺れるじゃらしの先っぽを、子猫が興味深げにぺしぺしと叩く。
「か、可愛い……っ!」
物凄く愛らしい猫の仕草を見て、更に愛らしい反応をめぐり先輩が見せる。片手で口を押さえて感動していらっしゃる。
更に猫じゃらしをゆらゆらさせると、子猫の動きのキレと可愛らしさが増す。
「ほーらほら、にゃー、にゃー」
『にゃー、にゃー』
「にゃー、にゃ?」
『にゃー、にゃ、にゃー』
「にゃー!」
『にゃー!』
俺を殺す気だろうか。
めぐり先輩はだいぶテンションが上がっているのか、子猫と猫語で会話し始めた。多分だけどあんまり噛み合ってないのがまた可愛い。とにかく可愛い。
「……ん?」
ふと、身体が妙に温いことに気付く。
視線を落とすと、あぐらをかいた俺の足の上にいつの間にかやや大きめの猫が上がりこみ、ばっちりお休みモードに入っていた。俺の足に程好くすっぽりと収まるようで、一点を見つめたままゆっくりと目を開けたり閉じたりしている。おうふ……これ、俺が動けなくなるやつですやん……。
「……む」
更に、手鞠に興味を持った子猫が3匹ほど群がってきた。
『にゃー、にゃー、にゃー』
「おうおう、ほれ」
試しに手鞠をころろ、と転がしてみると、1匹の子猫がその上に飛びかかり、くるんと反転してしまった。転がった猫が体勢を整える間に、もう2匹の猫が手鞠をぺしぺしと蹴り合い始める。あれ、この子たちパスし合ってる……? 蹴鞠、蹴鞠なの?
「比企谷くん、人気者だねー」
猫じゃらしで戯れるのに満足したのか、めぐり先輩が楽しげに微笑みながら歩み寄って来た。一緒に遊んでいた猫も付いてくる。やだこの人、あっと言う間に虜にしてしまったのね……。
「よっ、と」
めぐり先輩が俺の隣に腰を下ろすと、猫じゃらしで遊んでいた子猫がめぐり先輩の太ももにすりすりと頭をこすりつけた。この子が♂だったらちょっと今後の対応を考えざるを得ない。
「良い天気だね」
めぐり先輩が呟き、ころんと仰向けに寝転がる。俺の足の上で猫鍋状態で寝ていた猫がするりと離脱したので、俺もめぐり先輩に習って寝転がった。途中まで建物に切り取られた空を眺め、流れゆく風によりさわさわと庭の花々がなびく音を聞く。
「気持ち良いね……」
「そうですね」
誰かと過ごす休日が、こんなに楽しいものだったとは。綿密な計画を立てて自分の行きたい場所を味わいつくす行為とは対極にあるような、ゆるくて緩くてゆるゆるの時間。せかせかとスピードを上げていた生活の流れが、急に穏やかになったような気がした。
「比企谷くん」
「はい、なんでしょう」
視線を感じたので横を向くと、めぐり先輩がこちらを見ていた。日を浴びて鮮やかに咲く向日葵のような笑みに、心臓が柔らかくとくんと脈打つ。
「比企谷くんと今日ここに来れて、ほんとによかった。ありがとね」
「……っ、……はい、こちらこそ」
裏表などない、そんなものを考えるのさえ無粋に思えるほどの、柔らかな笑み。
ずっと、この人の笑顔を隣で見続けていたいと思った。
「めぐり先輩」
「ん、なあに?」
よし、ここは一つ、柄にもないなんて考えずに愛の言葉を……と思って静かに息を吸うと。
『にゃー』
「え……」
「あれ……」
ちょこん。
俺とめぐり先輩の顔の間に子猫が割って入ったかと思うと、2人の間をすっぽりと埋めるように座り込んだ。
『にゃー』
「……ふっ、ふふふっ」
「……はぁ」
めぐり先輩が堪えきれないといった具合に笑い出し、俺はため息混じりに笑う。
猫に視線を阻まれたまま、俺とめぐり先輩は手を繋ぎ、もう一度空を見上げた。
「むぐっ」
「あれ? 比企谷くん……あはは」
子猫が顔に乗ってきた。
めぐり先輩の楽しげな笑い声を聞きながら、「この子をどかしていいものか……」としばし悩むことになった。
× × ×
カフェを出た後は、2人で大型書店に行って楽しんだ。たった2週間の間にも、俺とめぐり先輩それぞれのアンテナは種類の違う情報をいくつも受信していたようで、お互いが最近良いなと思っている作家やジャンルを紹介し合うのが純粋に楽しかった。
スーパーに寄って夕飯の買い出しをして、家に帰る。早速調理を始めようとするめぐり先輩を手伝おうとしたが、「今日は作ってあげたいの。今度手伝ってほしいな」と言われて大人しく待つことにした。
めぐり先輩の料理はごく家庭的で、何を食べても安心する優しい味だった。俺が食べるのをにこにこしながら見守られるのは正直かなり恥ずかしかったけど。しかも微笑み方が母性たっぷりなものだから、何だか数年先の未来を垣間見た様な気がして余計に恥ずかしくなった。
食事の後は一緒に歯磨きをした。
さてこの後は……と内心ドキドキしていると、めぐり先輩に「別々にシャワーを浴びよう」と先制攻撃をくらった。心底残念そうな顔をしている俺を見てめぐり先輩は「ごめんね? その、……この後の備えが必要でして……」と妙に恥ずかしげに囁いた。可愛いのでなんかもう何でもオーケーだった。
× × ×
「ううむ……」
シャワーを先に使わせてもらい、腰にバスタオルを巻いた状態でベッドの縁に座っている。めぐり先輩の寝室は程好く女の子をしている部屋で、番のように置かれたクマのぬいぐるみが可愛い。そして何よりほんわりと香る甘くて良い匂いが俺を落ち着かせてくれない。落ち着くんだけど落ち着かない。
ガチャリ、と浴室のドアが開く音がする。そこからドライヤーを使う音等々がしばらくの間聞こえていたかと思うと、寝室のドアがゆっくりと開いた。
「……入るね?」
「どうぞどうぞ……って、うお……っ」
めぐり先輩が。
あの、どこまでも純粋なめぐり先輩が。
淡いピンクの、ミニスカートほどの丈しかないネグリジェを着ていた。
上下の下着を着けておらず、薄いベールに隠された奥にうっすらと乳頭が見え、下腹部の茂みも仄かに見えている。
髪を下ろしためぐり先輩の表情はほんのりと上気していて、大人っぽい艶を帯びている。俺の視線がよほど強いのか、もじもじと脚をこすり合わせる様がまた可愛らしい。
「ど、どうかな……?」
寝室の入口から歩み寄り、俺の隣に腰掛けためぐり先輩が震える声で問うてくる。頭のてっぺんからつま先まで余すことなく色香を纏った恋人の姿に、匂いに、声に、激しく心が揺れる。
「……本当に、綺麗です……」
「そっか、嬉しい。頑張ってみた甲斐があったな、えへへ……」
照れくさそうに笑うめぐり先輩が、不意に「きゃ……っ」と小さな悲鳴を上げた。
「どうしました……か……」
腰に巻いたタオルが、鋭い山を作っていた。
「……すいません。あまりに魅力的なもんで……」
「ふふ、大丈夫だよ。嬉しいから。……ほんとに……」
めぐり先輩の視線が、膨らんだ山に注がれる。その視線の熱量は、俺がめぐり先輩の艶姿に注ぐものとほとんど変わらない。
甘くて良い匂いが鼻腔を刺激する。
ごくりと喉を鳴らすと、つられたのか白くて細い喉がこくりと鳴った。
続く。
めぐりんでした。めぐりんの可愛さは無限大。そしてエロさは普段とのギャップがたまらない。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!