数多の死線をくぐり抜け、ようやくの思いで小町が調理を完遂する。「出来たー! お兄ちゃん、小町はやった、小町はやり遂げたよ!」と、まるで四獣でも倒したかのようなテンションの高さではしゃぐ小町を見て、兄としてばりばり褒めてやった。そうか、小町は捕獲レベル350までならいけるのか……。
「雪ノ下、ご飯出来たぞ」
後ろから抱きしめたままで、すやすや寝息を立てている雪ノ下に声をかける。
「う……ん……」
低血圧なのか、目をゆっくり開けると緩慢な動きで辺りを見回している。状況把握なんだろうか。のろのろと周りに視線をやり、頬をくっつけるくらいの距離に居る俺を見て一言。
「……あら、濁ってるわよ? どうしたの?」
「元々だっつの……」
寝ぼけ罵倒ってレベル高すぎない? 不意打ちで心折れそうなんだけど。
「そう……ふあぁ…………すぅ」
「いや、こら、寝るな寝るな」
すげぇナチュラルに二度寝に入ったぞこの子。
「うりうり、起きろ、うりうり」
試しにほっぺたをぷにぷにとつつく。やだ柔らかい……。
雪ノ下はこれでもかってくらいに怪訝な顔をして指を避けようとするが、生憎この人差し指はホーミング機能を搭載しているため決して逃げることは出来ない。うりうり。しかし眠りかけの状態だと怪訝な顔もなんか可愛いな。ふてくされた子どもみたい。
雪ノ下は度重なる俺のいやがらせに我慢出来ず目を覚まして――という展開になると思ったのだが、不意に雪ノ下の動きが止まった。
何事か――と思っていると、不意に人差し指が温かいものに包まれる。
「え……」
目の前の光景に、目を疑った。
雪ノ下が、目を閉じたまま、俺の指をぱくりと咥えていた。エサだと思ったのだろうか、そのままぺろぺろちゅーちゅーと、起きている時なら絶対やってくれなそうなことをしてのける。ぞわわっと、何か、背徳感に近いものに背中をなぞられる。
「ぐはっ!」
近くで雄々しい悲鳴(声は可愛い)が聞こえたかと思うと、小町が血を吐きながら膝から崩れ落ちた。フローリングにだんっと強い音を立てて膝を付き、そのまま前に倒れる。顔の部分に丁度良くクッションが落ちていて、ぼふんとうずまった。そしてそのままぴくぴくと痙攣している。なんだろう、オーバーキルもいいところだな。体力ゲージが0になったのに仕合が終わらなくて、延々とローキックをげしげし食らってる感じ。
や、まあ、俺も。
「……………………」
目を閉じたまま、相変わらず俺の指をぺろぺろちゅーちゅーと美味しそうに咥えている雪ノ下を見て、吐血しながらがくがく痙攣していた。なんだこの兄妹。
× × ×
「あら、私結構寝ちゃって……って、2人とも、どうしたの?」
10分程経っただろうか。
雪ノ下がようやく目を覚ましたのだが、比企谷兄妹は相変わらず死にかけていた。小町はさっきの位置のままうつ伏せになってクッションに顔をうずめて、痙攣の合間合間に「うへへへ……雪乃さんかわええのぉ……うへへへ……」と末期症状みたいなことを言ってる。駄目だこいつ……早くなんとかしないと……。カマクラは小町のクレイジーぶりを気にかけているのか、とてとてと小町の下に寄っていき、クッションに埋まった小町の頭を前足でぺしぺしやっている。平和な光景だと僕は思うんです。
かく言う俺も。
「ああ、雪ノ下。起きたかぐはっ」
「比企谷くん!?」
まだ興奮のダメージが残っていたようで、喋るだけで吐血した。やべえな俺も。
× × ×
結局、ご飯を食べている間も雪ノ下は終始眠そうにしていた。よく見ると肌艶が尋常でない程良かった。超つやっつや。絶対さっきのお風呂じゃん。なんなの、ローション様様なのと真剣にローション導入を考える。費用を考えて2秒で案を取り下げた。
小町が血反吐を吐きながら(物理的に)作った料理を1品ずつくもくもと食べては、うっすらと目を細めて、「……ん、おいし」とお姉さんっぽいような、それでいて幼さの残る声音で感想を呟いていて、小町はその度に椅子から崩れ落ちていた。いつからきみはそんなリアクション屋さんになったのん?
本当に眠そうなので、ばれないかなーと思って食事中の雪ノ下のあごをこしょこしょと撫でてみると、一瞬「?」といった表情でこちらを見るも、そのまま気にせず食べ続けていた。こしょこしょする度に気持ち良さそうに目を細める。小町は呼び掛けてもへんじがない。ただのしかばねのようだ。俺も死にそう。
「ごちそうさま。小町さん、美味しかったわ。ありがとう」
礼儀正しく両手を合わせて、雪ノ下がぺこりと頭を下げる。こういう時に育ちの良さが見えて、なんかもう他のヤツらに自慢したくなる。何をだ。他のヤツらって誰だ。
「がふぁっ、かはっ、お、お粗末さまでした……小町が、洗っときますから、雪乃さんはお兄ちゃんとテレビでも見てくつろいでてください……」
ダメージを受け過ぎたのかふらつきながら小町が言う。
「いえ、これくらいは私も……」
「小町と並んじゃだめです! 雪乃さんは小町を殺す気ですか!? 萌え死にさせたいんですか!? きちんと小町の雪乃さんに対する耐性を見極めてもらわないと困ります!」
「えっ、えっ、えっ……?」
小町錯乱。
雪ノ下混乱。
比企谷八幡ツッコミ困難。
雪ノ下は小町の言葉に大いに動揺しながらも、渋々引き下がる。
「そ、そう、ならご厚意に甘えさせてもらうわ。それじゃあここでテレビを……」
雪ノ下の言葉に小町が髪を逆立たせた。メイちゃんかよ。
ずびっと俺の部屋の方を指差して、だだだっと捲し立てる。
「ダメです! お兄ちゃんの部屋で見てください! 小町が後ろを振り向いた瞬間に殺す気ですか!? 『振り向いて 雪乃さんを見て 果てたから 今日という日は 雪乃記念日』ですか!?」
「え、え……えっと……?」
「なんでサラダ記念日風味なんだよ」
頭を使いながら錯乱するとか器用なヤツだなぁ。辞世の句みたいだ。
小町は本来であれば、今日これまでのように俺と雪ノ下のやりとりを見たり撮ったり撮ったり撮ったりしたかったのだろうけども。雪ノ下の攻撃は小町の耐久力を上回っていたようで、ここで無念のリタイアと相成った。次回の挑戦をお待ちしております。
× × ×
自室に雪ノ下を連れて行く。片付けはしたけれど、微かに残る匂いが鼻腔をくすぐり、さっきまでの行為を思い出して下腹部が疼く。雪ノ下も同じように感じたのだろうが、頬を赤らめて俯いている。あかん、押し倒しちゃいそう。
「えぇっと、じゃあ……」
分かり切っているテレビの位置を確認して、床に置いたクッションに目をやり、雪ノ下をちらりと見る。今はただテレビを見るだけなんだけど、なんかそれでも落ち着かない。
「……先に座ってちょうだい?」
「ん? あ、ああ、分かった」
雪ノ下の理由の分からない指示に従って先に腰を下ろそうとすると、袖を摘まんでとことこと付いてきた。数歩分の出来事なんだけど、もう、もう、もう!
予想は当たり、雪ノ下は再び俺の股座に座り込んできた。どうやらこのポジションがかなりお気に召したらしい。恥ずかしいけどまあ良いか。俺が座った時点で雪ノ下の分のクッションを手に持っておいて、雪ノ下が俺のすぐ前のカーペットをじーっと見ているのを確認してさっと俺の股座に置いて、そこにすぽっと収まってくるという流れだった。猫鍋もこんな感じなんだろうか。雪ノ下が大きな段ボールの中で丸まって寝てたら、俺はもう写真を7000枚くらい撮って起こさぬよう慎重に運んで家で大事に飼うまである。ゆき鍋……。名前のカブりはしょうがない。
漫然とテレビを点けると、バラエティで割と好きな芸人がネタをやっていた。雪ノ下ってこういうの興味無さそうだなぁ……と思っていると、
「この人たちはなんていう名前?」
と、案の定な質問をされた。名前を教えてしばし2人で鑑賞する。ううむ、笑いのツボが分からない人と一緒にこういうのを見るってなんか神経使うなぁ……今までは小町とくらいしか見ないから分からなかったけど。何それ泣いちゃう。
そんな風に思っていると、
「……ふふっ」
俺に寄りかかった体勢で、雪ノ下が口に手を当てて上品に笑った。
「おお、お前もこういうの面白いと思うのか」
言うと、雪ノ下が振り向いて不満げに眉根を寄せて、ぷくっと片頬を膨らました。死んだ。
「失礼ね、私にだって一般的なユーモア感覚はあるわよ」
さいですか。
失礼なことを言った俺に対する反撃なのか、テレビ画面を見つめたまま俺の太腿をぺちぺち。え、何この可愛い反撃? すんごいむずがゆいんだけど。
まあ、見始めてまだ10分も経っていない。ゆっくりするとしよう。
続く。
のんびりのんびり。小町を交えての3人以上の会話は書いていてもう楽しくてしょうがないです。
今日は一日お出かけしてました。明日以降またもりもり読んで書いてと行きたいと思います。
氷菓人数間違えた評価人数が200人に達しました!!本当にありがとうございます!!こちらのコメントも欠かさず読ませて頂いています。コメントの返信したいなぁ……。本当にありがとうございます。
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!