次回の更新ですが、
【8月11日(土)】
にします! コミケ2日目で、自分のサークルが参加する日です。
土曜日に東6ホール "ツ " 48bにいますので、よろしければぜひ(^^)!
後書きでもお知らせがあるので、確認していただけると嬉しいです!
――由比ヶ浜結衣と付き合いはじめたのは、総武高二年生の時からだ。
結衣と名前で呼ぶまでにずいぶん苦労したのだが、結衣はいまだに俺のことをヒッキーと呼んでいる。ふたりきりの時ならまだしも、公衆の面前で呼ばれると周りがギョッとするからそろそろ変えてほしい。しかし本人が嬉しそうに呼んでくるのでたしなめづらい。
俺も結衣も、どの大学に行きたいという明確な意思はなかった。一緒に受験勉強をしていくうちに同じ大学を目指すことになり、晴れて合格することができた。
実家から通うことができる距離ではあったが、小町の「お兄ちゃん、まさか実家に居座るつもりじゃないよね?」という鬼のような叱咤激励(というか叱咤のみにしか思えない表情だった)と一人暮らしへのちょっとした憧れもあり、大学周りの物件をちまちま探し回っていた。
しかしこのことをカフェデートの際に結衣に報告すると、なにやら物言いたげに口をもにょもにょと動かした。
「どうした」
「あのね、えっと……一人暮らしってさ、経済的にやりくりすることが増えて大変じゃん?」
「まあ、そうだな。でもまあ、社畜になってからのことを考えると慣れとかないと……」
「社畜になることが前提なんだ……。主夫になるんじゃなかったの?」
「その夢は今でも捨てていない」
「あ、じゃああたしがバリバリ働けば……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……な、なんか言えし!」
てしてしと二の腕をはたかれた。可愛い。
「で?」
「え、あ、うん……その、あのね? あたしも実家は出たいなって思ってるんだけど、一人暮らしは心細いかもー、なんて……」
「……ふむ?」
「だから、ね? その……」
ヒッキーさえよければ……と今にも消え入りそうな声でつぶやき、コーヒーカップに添えた手をもぞもぞと動かし、上目遣いで可愛らしく俺を見つめ、お団子髪をくしくしと撫でた。ためらうさまがいちいち可愛い。
「……い、一緒に、住んだりとか、どうかなーって……」
「なるほど、隣の部屋ってことか。たしかに同じアパートなら安心だな」
「この流れでなんでそうなんの!?」
けっこうマジで怒り気味にツッコまれました。周りの客から「お、痴話喧嘩か?」という生温かい視線を向けられ、結衣がしおしおとしぼんだ。
「……ヒッキー、どう、かな……?」
コーヒーカップを頼りなげに持ち、ちらちらと、意思表示を日頃しない子どもが精一杯頑張って親におもちゃをねだるような、そんな表情をする。恋人としての愛情はもちろん、庇護欲までそそるこの仕草はずるい。
「……まあ、今もほとんど同棲みたいなもんだしな。いいんじゃねえか」
「え、本当!? ていうか、い、今、同棲って……」
「……わざわざ言うな、恥ずかしくなってきた……」
「あ、ご、ごめん……」
ふたり揃ってうつむく。周りの客の視線がさらに生温かくなった。
――そんなやりとりがあり、お互いの家族に承諾を得ることにした。俺の家族は両親・小町ともに大歓迎で、すでに家に何度も出入りしている結衣のことがみんな好きでしょうがないらしく、「あんたの面倒を見てくれるなら大歓迎」と母親が言い、父親が激しく頷いていた。
小町は「結衣さん、料理以外で兄を支えてあげてくださいね!」とすこぶる可愛い笑みを浮かべて結衣を激励していた。結衣はけっこう本気でショックを受けていた。しょうがないよね、いまだにレシピの内容に三割くらいアレンジを加えるからね。
「今度ナツメグ買ってみようかなぁ……」とつぶやくだけで周りに動揺が走る人ってなかなかいないと思うんです。何をしでかすか分からない恐怖が常にちらつく……。
結衣の家族のところにも伺った。結衣のお父さんは渋々、それはもう渋々受け入れてくれた。嫌われたかな……? と本気で心配するほど渋々だったのだが、帰り際に呼び止められた。
「ヒッキーくん、だったかな?」
「比企谷八幡です……」
「うむ、そうか。では、ヒッキーくん」
「……なんでしょうか」
「二十歳になったら一緒に呑もう」
「え……? あ、はい、よろしくお願いします……」
呼び名が一家総出でヒッキーなのは納得がいかなかったが、結衣のお父さんに言われた言葉に安心した。いくら同棲すると言っても、一年後もまだ恋人関係が続いているかなど分からない。それでも結衣のお父さんの提案はなんだか無性に嬉しかった。
そしてもう一人……結衣のお母さん――俺の通称由比ヶ浜マ――つまり彼女。説明文が長すぎるな。彼女は同棲については快く了承してくれたものの、結衣のお父さんが席を外したところで物憂げにため息をついた。
「そっか~……結衣とヒッキーくんがこのうちに来なくなっちゃうのね~……」
「……そうですね」
「……ママの欲求はどうしたら……」
「……ママ、そろそろさすがに……ね?」
子犬のようにシュンと眉を曲げる彼女に、結衣がまるで年上のお姉さんのように諭した。
――欲求不満がたまっていた彼女と俺が、なし崩しに結衣の公認を得て肉体関係になったのは一年以上前のことだ。
それからの生活は、よく志望校に合格できたな……と思うほど爛れに爛れたものだった。結衣のお父さんは年齢が上がるにつれて性に衰えが生じ、彼女が誘ってもほとんど応じてもらえず、応じたところで昔に比べるとあっさりと事を終えてしまう。彼女は年齢が上がるほどむしろ性欲が増しており、その溜まりに溜まった欲求がすべて俺に向いた。結衣も彼女に触発されたのか、日々可愛くなり、エロさが増していった。要は三人ともハマってしまった。
しかしその生活も、あくまで俺が結衣の家に出入りしていたからこそ成り立っていた。当たり前と言えば当たり前なのだが、彼女が俺の家に来たことはない。俺が結衣の家に行った時だけ彼女との行為に及んでいた。楽しくなかったと言えば大嘘になるが、さすがに俺と結衣が一緒に暮らすとなればこの関係もおしまいだろう……と思っていたのだが、彼女は俺と結衣の予想の斜め上を行っていた。
「……時々、そっちに遊びに行ってもいいかしら?」
『え』
ふたり揃って、ちょっと濁った声を漏らした。彼女は俺と結衣の表情を見て拗ねたような可愛らしい表情を浮かべたが、不意に雰囲気を一変させて微笑んだ。
「結衣とヒッキーくんがお互いを満足させることができるならいいけど……結衣ひとりでは大変なんじゃないかしら?」
「そ、それは……」
彼女の問いかけに俺も結衣も言葉を詰まらせる。たしかに、ふたりを相手にし続けたことで俺の性欲は若さを考慮しても尋常でないほどに増していた。
エネルギーは使わずにいるとどんどん腐って減っていってしまう。だからどんどん使ったほうが、かえって泉のように湧き出して循環していく。
いつか読んだ本でこのような趣旨の言葉が書かれていた。この一年あまりの時間で自分の肉体に起きた変化を考えると納得がいく。運動をしているわけでもないのに身体がタフになったのも、ふたりと日々たっぷりと交わっていたからだろう。
「……たしかに、ちょっときついかも……」
だからこそ、結衣の言葉の意味がよく分かる。ふたりを相手にしてちょうど良くなるほど精力が強くなっている俺を、結衣がひとりで相手にするのは大変だろう。
「あー、でもまあ……そこは俺がひとりでなんとか補えば……」
「そ、そんなのやだ!」
「……すまん、今のは本当にだめなやつだよな」
結衣と交わって、足りない分は自慰をして……ということにしようと思ったものの、結衣が強く否定した。「あなたとしただけでは満足できないので、僕は一人で自己処理します」と言っているのだ。自分の浅はかさを恥じて謝った。
「ヒッキーくんがこんなに逞しくなっちゃったのはママに責任があるわよね~」
「そうですね、全責任があるかと」
「ママが悪い」
「そ、そんなにはっきり言わなくても……」
彼女がちょっと凹んだ。珍しいので写真に撮りたいくらいだった。
――といったやりとりがあり、なんだかんだで彼女が俺と結衣が借りたマンションに顔を出すようになった。初めは俺と結衣がふたり揃っている時に遊びに来ていたが、いつの間にか結衣に頼み込んで合鍵を作ってもらっていた。
それからは俺と結衣のどちらかしかいない時にも遊びに来るようになり、俺とふたりきりになった時は当然のようにたっぷりと貪られた。結衣もエロくパワーアップをしているが、彼女も日に日に艶っぽく、さらに若々しくなっていた。もう俺としても「もはや姉妹でよくないか?」と言いたくなるレベル。
「最近綺麗になったってパパに言われたのよ~」と嬉しそうに話していたのだが、俺は心境が複雑すぎてまともな返事ができなかった。
大学に入ってからの生活は総武高にいた頃と比べて抑えられるどころかますます激しく爛れていた。大学生活も意外と悪くないとは思っているが、いかんせん自宅での情事が濃密すぎて、せっかくの新生活が霞んで見えた。思わぬ誤算だ。
そんなこんなで数ヶ月経ち、初めての夏休みを迎えた。「いっぱいデートに行こうね」と満面の笑みを浮かべた結衣に言われ、灼熱の屋外に出るのはダルいと思いつつもまんざらでもない気分だったのだが……。
――未知の楽しみが詰まった夏休みの初日に、まさか寝起きで襲われるとは思わなかった。
× × ×
濃密すぎる朝の時間を終えて、俺と結衣はリビングのソファに並んで座ってくつろいでいた。彼女は遊びに来ると毎回お茶を淹れてくれたりお菓子を差し入れしてくれたりしている。今日は朝ごはんを作ってくれていた。寝起きにハードすぎる運動をしていたため、信じられないくらい腹が減っている。
「ね、ヒッキー。海行こうよ、海」
スマホをとっとっ……と手際よくタップしていた結衣が楽しそうに身を寄せてくる。柔らかな二の腕が当たって思わず動揺した。
「……海、か」
「……今、めんどくさいなーって思ったでしょ?」
「そ、そん、な、こと、は、ない、です、よ?」
「…………」
ジト目オブジト目、ってくらいのジト目で見つめられる。視線が頬に刺さる。ずぶずぶと。
はぁ……というため息が聞こえたかと思うと、二の腕がふにゅりとした感触に包まれた。Tシャツ越しだというのに果てしなく柔らかい。
「……ヒッキー、あたしの水着見た「超見たい」はやいな!?」
食い気味に答えると、結衣が困ったように笑った。
「……ヒッキーと海に行けるなら、あたし、けっこう頑張っちゃうよ?」
「……テスト勉強を?」
「そ、それは後期から頑張るから!」
同じ学部に入った俺と結衣だが、単位の取得状況はほぼ同じなものの、成績の内訳を比べると笑ってしまいそうなほどの差が出た。端的に言えば俺が余裕で合格で、結衣は常にぎりぎり、といった感じ。テスト期間に俺が本気で教えていなかったら落としていた単位が確実にいくつかあるだろう。
うー……第二外国語なんてわかんないよぉ……とテスト勉強の時のトラウマが蘇った結衣が犬のように唸る。下ろしている髪を手で梳くように撫でると、険しい顔から一転して気持ち良さそうに目を細めた。
「まあ、その、なんだ。別にいいぞ。どう頑張るのか楽しみにしてる」
「……っ! うん……ありがと。頑張るね」
結衣が向日葵のような笑みを浮かべてしなだれかかり、耳元でぽしょりと囁く。頭をくしくしと撫でると、うっとりとした瞳を向けてきた。
このままちょっとキスでも……と顔を寄せると。
「ご飯ができたわよ~。……ごめんなさいね」
『……いや……べつに……』
みそ汁の入った鍋を持ってリビングに入ってきた彼女が申し訳なさそうに謝り、俺と結衣はめいっぱい顔を逸らした。三人で行為に及んだことも数え切れないほどあるというのに、いまだにこうした初心なやりとりをしている。
ほかほかのご飯の匂いが、気恥ずかしい空気に優しく染み渡っていった。
<お知らせ>
オリジナル小説
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それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!