※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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 夏コミC96のいろは本です!
 


(コミケ本)一色いろはは巧妙な策略をもって捻デレを篭絡する。
(1)


 

【挿絵表示】

 

 

 グラスの氷がからんと鳴った。

 

「せんぱ~い、聞いてますか~?」

「はいはい、聞いてるよ、聞いてます」

 

 カウンター席の隣に座る後輩、一色いろはがふやけた声で話しかけてくる。ほろ酔いの顔に上機嫌な笑みを浮かべ、総武高にいた頃より長くなった亜麻色の髪がふわふわと空気を含んだ。

 

 もう夜も遅いしおひらきにしても良いかと思ったが、一色の話はまだ終わりそうにない。仕方ないのでモスコミュールをもう一杯注文した。

 

「こないだバイトでちょーウザい客に絡まれてぇ~」

「その話、四回目だぞ」

「知ってます~。先輩がどんな反応するか見てみたくて~」

「試みが鬼畜すぎない?」

 

 呆れていると、グラスを持った一色の頭がふらふらと揺れた。サラサラの髪が俺の二の腕にそっと触れ、心臓が静かに跳ねる。

 

「は~、先輩といるとホント楽でいいです~……。どうでもいい世間話とかしなくて済むし」

「俺がちょっとでもつまらん話をすると一瞬で斬り捨てるヤツとは思えないセリフだな……」

 

 ジャブ程度のつもりで切り出した話題を「は? やり直し」と素で返すいろはすほんと怖い。

 

 それでいて俺が興味なさそうに聞いていると「リアクション薄いですよ?」とダメ出ししてくるのだ。鬱陶しいことこの上ないが、そんなやりとりもごく自然体でできてしまう。

 

 もしかして俺ってドMなのでは……という疑いが払拭できずにいるのがなんだか怖い。

 

 一色と目が合うと、ふにゃっと目を細めて笑う。酔ったときに見せる気の抜けた笑みは、元々の可愛さも相まって強烈に魅力的で。思わず目を逸らしてしまう。

 

「せんぱ~い、感謝してくださいよ~? こーんな可愛い後輩が先輩を追っかけて同じ大学に入って、こんなふうにしょっちゅう呑んであげてるんですから~」

「どんだけ恩着せがましいんだお前は……まあ、可愛い後輩ってのは否定しないが」

「へ? え、あ、えっと、その……」

 

 そこそこ酒が進んでいたためか、普段口にしない本音がぽろりと零れてしまった。一色は一色でさらりと流せばいいものを、急にあわあわと慌てる。

 

亜麻色の髪の毛先をちょんちょんとつまみ、唇をもぞもぞとして、嬉しそうに、続きを促すように流し目を送ってきた。何なのこの可愛い生き物は?

 

「……今のは聞かなかったことにしてくれ」

 

 一色がそれはそれは嬉しそうに口端を吊り上げた。良い笑顔すぎて腹が立つ。

 

「わっかりましたー! 可愛い後輩であるいろはちゃんはしっかり先輩の言うことをばっちり聞きます!」

「煽り方がえげつないんだよなぁ……」

 

 ごまかすようにモスコミュールを呑むと、アルコールが回って余計に顔が熱くなった。

 

「んふふー……」

 

 一色は鼻唄でも歌い出しそうなほど上機嫌だ。カルーアミルクの入ったグラスをゆらゆらと揺らし、コーヒーと牛乳が混ざり合うのを楽しげに眺めている。

 

 呑みに誘われると、いつもこんな風にウザ可愛く絡まれる。鬱陶しいとは思いつつも、このやりとりが案外楽しいと思ってしまう。

 

――こうやってふたりで呑むのは、もう何回目だろうか。

 

『先輩、今日ヒマですよね? だったら呑みません?』

 

 一色は毎回、付加疑問文で失礼な聞き方をして誘ってきた。バイトが入っている日もあったが、そのときはバイト後に会いましょうと言われて呑んだ。

 

『わたしが誘ってるのに呑まないとかありえなくないですか?』

 

 などと言わんばかりの態度だし、実際言われた。いろはす、遠慮なさすぎぃ!

 

 一色は総武高にいた頃よりもぐっと大人びていた。それでいてあざとさはさらに研ぎ澄まされていて、外国人に『小悪魔』という言葉のニュアンスを説明したいときは一色を指差して「あんな感じです」と説明すれば事足りるくらいには小悪魔だ。ほんとプチデビル後輩。

 

「一色、呑みすぎだぞ」

「え~? わたしたちの呑みはまだこれからですよ~?」

「打ち切りマンガの最後みたいなセリフを言うなよ……」

 

 左下に「ご愛読ありがとうございました!」と書かれるパターンな。好きな漫画だったのになぁ……と何度思ったことか。あと余韻に浸る間もなく、ページの下に来週からの新連載のタイトルが書かれる無慈悲さよ。アンケートを出すのもコミックを買うのもほんと大事。

 

「先輩ももっと呑んでくださいよ~」

 

 一色が陽気にけらけらと笑い、とん、と軽い体当たりをしてくる。ノースリーブのカットソーを着ているため、彼女の素肌が触れた。生々しい温もりと甘やかな匂いに理性がぐらりと揺れる。十数分に一回程度の軽いスキンシップにはまるで慣れることがない。

 

「一色、いつも思うんだが……お前って、呑むと、……」

「ん~? なんですか~?」

「……いや、なんでもない」

 

 言葉を引っ込めると、一色はこてんと首をかしげた。そんな風に誰とでもスキンシップをとるのか、などとみっともなくて情けないことはとても聞けなかった。

 

「ていうか先輩、せめて呑んでるときは名前で呼んでくださいって言ってるじゃないですか~」

「別に承諾した覚えはないんだが……」

「つべこべ言わない! 屁理屈を言う男は社会に居場所はないですよ?」

「べつに今も居場所なんてないけどな」

 

 いつもの調子で軽口を返すと、一色が急に真面目な顔になった。

 

「それはウソです」

「え、お、おう、おお?」

「先輩、相変わらずめんどくさいキャラ全開ですけど、前よりずっと話しやすくなったじゃないですか。学部でもお友達と話してるのを見たことありますし、バイト先でもそれなりに上手くやってるんですよね?」

「あー、まあ、な、うん……そうかもしれん」

 

 奉仕部の活動で鍛えられたせいもあるのか、大学ではかつてほど孤立していない。ぼっちが好きなので大概ひとりで動いてはいるが、それでもたまに言葉を交わす友人と呼べるような存在は何人かいる。大学に入ってからできた友人なので、何気に大きな進歩かもしれない。

 

 俺が納得するのを見て、一色はふふんと得意気に笑った。カルーアミルクをくぴりと呑み、むふっと笑う。

 

「そんなわけで、先輩に居場所がないなんて言わせませんよ。……わたしだっていますし」

「そうだな、俺を引っ張り回す暴れ犬な後輩がいてくれるわけだな」

「わたしの扱い、ひどすぎません?」

 

 ぷっくりとあざとく頬を膨らませ、てしてしと二の腕を叩いてくる。スキンシップの間隔が少し狭まってきた。

 

「で?」

「ん、なに?」

「いつ名前で呼んでくれるんですか?」

「いや、だから……」

「で?」

 

 にっこり笑顔で一文字発するだけで、人ってこんなに圧を与えられるもんなのか……。

 

 これは逃げ場がないと判断して、こほんと咳払いをする。

 

「……いろは」

「……あ、は、はい、ど、どーもです……」

 

 一色の顔がぽわんと赤くなり、きょろきょろとせわしなく目を泳がせる。

 

「いや、なんでだよ……」

 

 年端もいかぬ少女のようなウブな慌てぶりに呆れるも、俺の顔もなんだか熱い。

 

「だ、だって、ほんとに呼ばれると思わなかったから……」

 

 頬に手を当てて一色がぽしょぽしょと囁く。カウンターに置いたふたりの手が近い。

ふたりの間を満たす、甘ったるい空気。

 

 本来は喜ぶべき状況なのだろうが、今は胸が高鳴ると同時にきゅっと締めつけられる。

 

「一色、そろそろ会計を――」

 

 一色が俺の手を握っていた。そろりと這ってきた指が蠱惑的に、甘えるように絡まってくる。

 

「……先輩。今日も、付き合ってもらっていいですか……?」

 

 牡の理性を揺らすためだけに特化した、とびきりの猫撫で声。何か答えるより先に、喉がごくりと鳴ってしまった。その音を聞いた一色が目を見開き、それからにぃっ、と三日月のように目を細める。先ほどのウブな彼女はもう、どこにもいない。

 

「それじゃ、オーケーってことでいいですね?」

 

 一色が口端をかすかに上げる。見えない糸が全身に巻き付いたかのように動くことができなくなり、唯一動くことの許された顔が、誘われるがままに小さく頷いていた。

 

       ×  ×  ×

 

 外に出て近くにホテルがあるか探していると、一色がそっと腕を組んできた。柔らかな温もりに触れて身体がびくりと震えそうになり、動揺が伝わらぬよう無理やり抑え込む。

 

 徒歩三分ほどのホテルが見つかり、そこにするりと入り込んだ。迷っていてもうやむやになどできないのだから、もはやためらう必要もない。

 

「……ここが良いです」

 

 一色が空き室のパネルのひとつを指差した。派手な装飾のない、少しだけ照明がピンクがかった部屋。一色の人差し指が思いのほか細くて華奢なことに不意に気付いた。

 

 ホテルまでの道のりも、エレベーターの中も、会話はほとんどなかった。けれど一色はときおり、すがるようにきゅっと抱きついてくる。理性がぐらぐらと揺れるのを懸命にこらえながら、部屋まで黙々と歩いて行った。

 

 部屋に入り、各々のバッグを下ろす。一色がきょろきょろと部屋を見回した。

 

「パネルで見た感じよりも狭いですね」

「そうだな」

「でも、これはこれで安心感があっていいです」

 

 一色がにこりと微笑む。イメージ的に「は? 狭いんですけど」などと言いそうなものだが、この子は日常のちょっとした不満に対してポジティブな見方をする能力に意外と長けている。

 

「先輩」

 

 狭い窓から無機質なビル街を眺めていると、つんつん、と二の腕をつつかれた。振り返ると、一色がじっとこちらを上目遣いで見つめている。パンプスを脱いだ身体は毎回少し驚いてしまうほどに小さい。庇護欲をそそるサイズ感、とでも言えばいいのだろうか。

 

 俺が返事をするよりも先に、首にするりと腕が巻きつけられた。華奢な身体つきに柔らかな感触。この子はどこまでも女の子なのだ、ということを強く強く実感する。

 

「ふふ、先輩……思ったよりもおっきくてドキドキしちゃいます」

「……そうか」

 

 ほんのり酒気を帯びた吐息と、いたずらっぽさを含んだ甘い声。ほんの数文字の返事が上ずらないようにするのがやっとだった。

 

 鼻先が触れ合いそうな距離で、デニムのタイトスカートに包まれた尻をふりふりと悩ましく揺らす。一色はうっとりと目を細めていたが、急に、少しだけバツが悪そうに目を逸らした。

 

「……先輩。今日も、練習ですからね?」

「知ってる」

「もー。そこは『練習だけでいいのか?』って返すとこじゃないですかー?」

「いやそれはねえよ……ていうかなんだ今のやたらめったら良い声は……」

 

 他愛のない会話。ルーティンと化したやりとり。酔いが混じり、ホテルに入り、ふたりきりで抱き合った状況でも、まるで総武高にいた頃と同じような軽い言葉の応酬。それが照れ隠しであることは、お互い充分すぎるほどわかっている。

 

「先輩……」

 

 一色が目を細めた。完全に閉じることのない目は、まるで俺がとつぜん消えるのを恐れるような、そんな幼い子どものような不安が見える。そっと背中を抱きしめると、一色は目をぱちくりとさせて嬉しそうに微笑んだ。

 

 一色がもういちど目を細め、唇が重なる。

 

「ん……っ」

 

 小さな鼻の奥で鳴る色っぽい声に身体が強張る。一色の唇と触れているときだけは、まるで何十倍もの神経が唇に集まったかのように感じる。一色が身をよじった拍子に触れ合う唇が少しだけ滑る。それだけで全身がひりつくような興奮に焼かれる。

 

 一色が抱きしめる力を強める。俺も応じると、ふたりの身体がさらに密着した。サマーニットに包まれた胸は信じられないほど柔らかく、俺の胸板に合わせてふにゅりとひしゃげる。

 

「ん……ちゅっ、れるっ、んっ、んふぅぅ……っ」

 

 顔を傾けて密着を強め、徐々に、徐々に舌を絡め合う。乾いた舌でつつきあい、徐々に唾液をまとわせ、口の中でねっとりとじゃれあう。

 

「んふぅっ? んっ、へぅっ、んくぅぅ……っ」

 

 いたずらで一色の舌を啜ると、彼女のひざががくがくと震えた。一色はどうやらキスに弱いようで、毎回自分から仕掛けておきながら腰砕けになっている。

 

「ぁ……せん、ぱい……っ?」

 

 亜麻色の髪をそっと撫で、小さな耳の形をなぞる。徐々に手をすべらせ、首筋に指を這わせていく。一色がとろんとした瞳で見上げ、瑞々しい唇を震わせた。

 

「あっ、ふぁっ、せん、ぱい……もう、だめ、ですよぉ……っ?」

 

 言葉ではたしなめているものの、その瞳はとろとろに蕩けている。愛おしさが込み上げて、それに比例するように虚しさが込み上げた。どろどろに混じりあった感情を振り払うようにもういちど唇を重ねる。

 

「んっ、ふっ、ふぅぅ……っ、こくっ、んっく、こくっ、んふぅぅ……っ」

 

 一色の腰を抱いて上から覆いかぶさるように唾液を流し込む。戸惑ったのは初めだけで、あとは素直にこくこくと呑み込んでいく。髪や腰をさすると一色はそれだけでひくひく震え、身体を艶めかしくくねらせた。

 

「……ぷはっ。……先輩、キス、すっごく上手くなりましたね」

「誰かさんのおかげでな」

「へー、誰なんでしょうねー?」

 

 白々しいことを言って笑う一色がどうしようもなく可愛らしい。

 

「うぐ……っ」

 

 ジーンズを押し上げる肉竿に細指がそっと触れた。

 

「ふふ、おっきくなってますねー……今日も」

 

 一色の声が湿り気を帯び、質感を持って耳朶にずるりと入り込む。女性の声はこうも変わるものなのかと戸惑う。

 

「先輩、これ、すっごいキツそーですよー? だいじょうぶですかー?」

 

 にんまりと目を細め、がちがちに膨らんだ肉茎を楽しそうに両手で撫でてくる。

 

「ぐ……ぁ……こ、こら……っ」

 

細指から送り込まれる焦れったい快感に腰が揺れる。嬉しそうに見つめてくる後輩に強烈な劣情が湧き上がり、サマーニットを盛り上げる双丘に触れた。

 

「ぅあ……っ」

 

 両手で下から掬うように触れると、一色の唇から艶めいた声が漏れた。すぐに唇を引き結び、咎めるような表情で見つめてくる。肉竿をまさぐる指の動きはそのままだ。

 

「だめ、ですよぉ……っ? わたしが、責めるんです、んんっ、からぁ……っ」

 

 俺の手から逃れようと身をよじる仕草がかえって色っぽく、そろそろ本当にジーンズを脱がないとつらくなってきた。

 

「……俺のターンは来ないのか」

「そうですね、ずっとわたしのターンです」

「なんでそのフレーズを知ってるんだ……」

 

 一色が俺の手首を掴んで引き離し、するりと腰を下ろした。ジーンズのベルトを外してチャックを下ろす。

 

 一色がこくりと喉を鳴らす音が聞こえた。

 

 数秒のためらいの後に、ジーンズとボクサーパンツが同時に引き下ろされる。勢いよく飛び出た肉茎は呆れるほどに勃起していた。ぐんと反り返った竿には何本もの青筋が浮き、亀頭はぷっくりと膨らんでいる。

 

「やぁ……っ、おっきぃ……っ」

 

 一色の声が上ずる。羞恥や照れ、そしてそれ以上の興奮が見てとれる声音と表情。

 男性器を凝視されているあいだにさっさとジーンズとパンツを足から抜いた。

 

「あ、上も脱いでもらえます? じっくり見たいので」

「あいよ……ん?」

「早く早くー」

 

 今この子、さりげなくすごいこと言わなかった……? と首をかしげつつ全裸になる。

 

「準備オッケーですね。それじゃあ……ん……っ」

 

 一色が両手で肉竿の根元をそっと挟み、鈴口にちゅっと口づけをする。鋭い快感が尿道を駆け抜け、先走り汁がごぷりと溢れ出した。

 

「んふぅ……先輩、しょっぱいですよぉ……? 汗もかいてるしぃ……だめですよぉ……こんなの女の子の前に出しちゃあ……」

 

 ちゅっ、ちゅぴっ、と音を立てて亀頭を舐めながら咎めてくる。カウパー液をためらいもなく舐め取り、嚥下し、さらにすんすんと鼻を鳴らしてうっとりと目を細めている。矛盾した言動と挙動に、炙るような愉悦が背すじを走る。

 

「先輩、ひくひくしてますよー? かーわいい」

「言わんでいいから……っ?」

 

 呆れ混じりのツッコミが止まる。一色はてろんと舌を垂らし、その上に肉竿を乗せてゆらゆらと左右に揺らしていた。信じられないほど卑猥で、けれど目が釘付けになる強烈な行為。舌の上に透明な我慢汁が噴き出し、一色が楽しげに呑み込んだ。

 

「先輩が感じてるときの顔、けっこう好きですよ?」

 

 だから、もっと見せてくださいね……?

 

 そう言わんばかりの笑みを浮かべ、一色が亀頭をぱくりと咥え込んだ。温かな口内の感触に浸る間もなく、ざらついた舌が亀頭に巻き付き、瑞々しい唇がぬるぬると竿を滑る。

 

「おぉ……ぁ……っ」

 

 一色はずっと俺の顔を見ていた。少しでも気持ち良い舐め方を探るような健気な視線。

 

「んっく、んっ、ちゅっ、ぢゅるっ、ぢゅるるる……っ」

 

 柔らかな唇がカリ首に引っかかるたびに悶絶する。ますます硬度が増した竿は透明な唾液で淫猥にぬめり光っていた。

 

「うぐ……っ?」

 

 固めた舌先で鈴口にちょんちょんと触れられると情けない声が出た。一色が口を離し、にんまりと笑みを浮かべる。どこまでも可愛らしくて、ちょっとだけ腹の立つ顔。

 

「先輩って、ほんとここ弱いですよね~……」

 

 しっとりと囁くなりふたたび咥え込んでくる。瑞々しい唇でカリ首をにゅむりと締めつけ、鈴口を舌先でぐりぐりと念入りにほじくる。

 

「ぉっ、あっ、ちょ、一色、それ、やば……っ」

「……ぷはっ。だめでーす。名前で呼ぶまでやめませーん」

 

 いたずらっぽい笑みを浮かべ、ふたたび鈴口をほじくってくる。口淫に加え、左手が玉袋をふにふにとまさぐり、右手は爪で竿の根元の裏スジをかりかりとこすってきた。

 

「い、いろは、だめだっ、これ、立ってられない……っ」

 

 亜麻色の髪を掴む。腰を情けなく引いてしまい、今にも崩れ落ちそうだった。俺が話しているさなかも一色は亀頭を舐め続け、カウパー液がびゅるりと何度も何度も噴き出した。

 

「え~、どうしようかな~」

「せめて座らせてくれると助かるんだが……」

「え~? そんなにじっくり舐めてほしいんですか~? 先輩のエッチ~」

 

 可愛らしく煽りつつもノリノリです、この後輩。

 

 とんとんと腰を押されベッドに腰を下ろすと、一色は俺の股座にすとんと女の子座りをした。

 

「先輩ってほんと舐められるの好きですよねー」

「……一色もこういうことするの、かなり好きそうだけどな」

「…………」

 

 恥ずかしそうに睨まれた。どこをどう考えても事実だと思うんですけど……。

 

 一色は亜麻色の髪を耳にかけ、ふたたび肉幹をぬむりと咥えた。俺の内ももをいたわるようにすりすりと撫で、ゆっくりと唇をすべらせていく。

 

「んっ、んっ、んっ、んふぅぅ……っ」

 

 顔を傾け、少しでも奥まで咥え込もうとする。苦しいのか、ときおり眉間に縦の皺が浮かぶのがたまらなく色っぽい。

 

「うっ、くっ、ぅあ……っ」

 

 蠱惑的ながらも優しい快感に呻き、亜麻色の髪をそっと撫でる。すると一色は、まるで親に褒められた子どものように嬉しそうに目を細めた。愛おしく思いながらも、なんで俺にこんな目を向けるのか、向けてくれるのかと複雑な気持ちになる。

 

「んっ、ちゅるっ、ぢゅろっ、ぢゅるるる……っ」

 

 いやらしく啜る音が大きくなっていく。一色の唾液が睾丸にまで垂れてきた。反撃したくなって胸に手を伸ばす。

 

「お……っ?」

 

 柔らかな乳房に触れる前に、一色に両手首を掴まれた。きゅっと眉を寄せて「メッ」とでも言うように見つめてくる。そして俺と両手をつなぐと、きゅっと指を絡めた。

 

「先輩、そろそろ出そうですか?」

「……ああ、もう限界だわ」

「はーい。……いっぱい出してくださいね」

 

 俺が射精寸前まで高まっていることが心底嬉しいのか、一色は優しい声音で囁いてふたたび肉竿を咥え込んだ。

 

「んっ、んっ、ちゅぷっ、んっ、んふぅっ、んっ、んっ……」

 

 手をつないだまま、一色がゆっくりと一定のリズムで竿に唇をすべらせる。瑞々しい唇がぬるっ、ぬるっと這い回るたびに唾液が竿を伝い、陰毛を浸していく。

 

「くっ、ぅっ、おぁっ、いろは、そこ、めちゃくちゃ気持ちいっ、くぁ……っ」

 

 カリ首に唇が触れるたびに腰が揺れ、ベッドが軋む。一色はにんまりと目を細めると、カリ首を唇で締めつけて顔を傾けた。にゅるり、にゅるっと卑猥な感触とともにカリを締めつけられ、ねろねろと這い回る舌が亀頭や鈴口をたっぷりと舐る。

 

「んふー。先輩、もう『ほんと限界だー!』って感じですねー」

 

 嬉しそうに囁き、震える俺を上目遣いで見つめてくる。俺が何か言葉にしようとすると、それを封じるようにふたたび肉幹を咥え込んだ。

 

「んっ、ちゅっ、ぢゅるっ、ぢゅるるっ、ぢゅるるる……っ」

 

 一色が口をOの字に開き、頬をぎゅっとすぼめる。唾液の量が増え、淫猥に啜りたてる音が際限なく耳朶を叩く。小悪魔で、そしてどこまでも淫らな顔。ふだんキャンパスで見る一色の延長線上のような、あるいはまったくの別人のような顔。

 

「ぐ……うぅ……い、ろは……もう、出る、出る、出る……っ」

 

 こらえがたい射精の欲求がむくむくと湧き上がる。内ももを力ませてぶるぶると震えると、一色は穏やかに目を細めて小さく頷き、ふたたび顔を前後にスライドさせていく。むやみに強い刺激を与えようとしないことが何よりありがたかった。

 

 下腹部の奥底から込み上げる射精の予兆に歯を食いしばると、一色の温かな口内に精液が勢い良く噴き出した。

 

「んふぅぅぅ……んっく、んっ、ふっ、んふぅぅぅ……っ」

 

 一色は一瞬だけ目をぱちくりとさせたものの、次々と噴き出す白濁を遠慮なく細喉に流し込んでいく。ごくっ、ごくっ、とまるで清涼飲料水を飲み干すかのように。

 

「おっ、おぁ……っ」

 

 尿道に一滴とて残すまいと、一色がゆっくりと顔を前後に揺らす。強すぎず、けれど確実に最後まで濃厚な射精を促す口愛撫。愛おしさが湧き、亜麻色の髪をくしりと撫でる。

 

「んふぅぅ……っ」

 

 一色が猫のように目を細める。両手で肉竿の根元をいたわるように撫でながら、亀頭をねろねろと舐めまわす。大量のカウパー液と精液は、後輩の喉奥に残らず消えていた。

 

「……ぷはーっ。いっぱい出ましたねー」

「死ぬほど気持ち良かった。……その、ありがとな?」

「なんで疑問形なんですか……えへへ、どういたしまして」

 

 ゆるゆると会話しながら、一色の耳をすりすりと撫でる。薄い唇がかすかに震えた。

 

「……毎回思うんだけど、ムリして呑まなくていいからな?」

「大丈夫ですよ、呑みたくて呑んでるんですから。……わたし、今すっごいこと言いました?」

「言ったし、実際やってるんだよなぁ……」

「それもそうですねー」

 

 一色がへにゃりと気の抜けた笑みを浮かべ、耳をくすぐる俺の手首をあむあむと咥えた。

 

「……エラく上達してたな」

「そうですか? やったー」

 

 素直に喜ぶ後輩の髪をわしゃわしゃとかき回す。

 

「ひゃっ……っ? もー。まあ、このあとシャワー浴びるんでいいですけど……」

 

 口でこそぶつぶつ言いながらも、なんだかんだでされるがままになっている。案外許容範囲が広いんだよな……と思いながら、むーと頬を膨らませる後輩の表情に頬をゆるませた。

 

「先輩、どうします? もうちょっとしましょうか?」

「え? いや、もうだいじょう……」

 

 言葉が止まる。一色の手に包まれていた肉竿は、いつの間にかふたたびがちがちにそそり立っていた。一色がにんまりと目を細める。なんだか狐みたいだな、と思った。

 

「それじゃあ、今度は寝てもらっていいですか?」

「大丈夫だけど……一色は脱がないのか?」

「えー? どうしよっかなー。……先輩は、わたしが脱いだほうが興奮します?」

「するに決まってるだろ。ぜひともお願いします」

「強い口調と敬語の組み合わせって斬新ですね……」

 

 一色が呆れたように笑い、サマーニットの裾に手をかけた。そんな何気ない仕草だけで、ぐびりと喉が鳴ってしまった。

 

 このあと、俺が寝転がった状態でもう二回抜いてもらった。三回目の射精をする頃にはもう、温かな口内と肉竿の境界線がすっかり曖昧になってしまっていた。

 

       ×  ×  ×

 

「はー、すっきりしました。先輩もどうぞ……って、あれ? あれれー?」

 

 バスローブを羽織った一色の肌はほんのりと上気していて、健康的な色気に下腹部が反応してしまった。俺の股座にすすすと腰を下ろし、むくむくと膨らんだ肉幹をつんつんとつつく。

 

「なんですかー? 可愛い後輩の湯上り姿を見て興奮しちゃったんですかー?」

「……そうだっつの。悪いか」

「あ、あれ? 先輩、今日は一段と素直ですね……。……よしよし」

 

 肉茎の表側をすりすりと撫でられた。なぜそこを褒める。

 

「……もう一回、します?」

「いや、さすがに疲れただろ」

「んー、わたしは平気ですよ。先輩のは舐め甲斐がなんでもないです」

「舐め甲斐がなんだって?」

「……ねちっこい男は愛想つかされちゃいますよー」

 

 可愛らしくぷいと顔を逸らしながらも、引き続き肉幹を撫でる仕草につい笑ってしまう。

 

「むー。何を笑ってるんですか、何をー」

「すまんすまん……っ!?」

 

 肉幹を半分ほどぬるりと呑み込まれ、変な声が出てしまった。一色がバスローブの前をほどき、よつんばいでにゅるにゅると唇を這わせてくる。

 

「ちょ、まて、いろは……ぉ、ぉあ……っ」

 

 静かに顔が前後しはじめると、これはもう射精するまで止まらないな……と確信した。

 

       ×  ×  ×

 

 四回目の射精を終えると、一色は平然とした顔で「それじゃ先輩、シャワーどうぞー」と促してきた。へろへろになった俺に対して、一色はむしろ肌がツヤツヤとしていた。

 

 シャワーを済ませて歯磨きをしようとすると、すでに歯ブラシが片方使われていた。丁寧に歯を磨いて部屋に戻ると、一色が布団にもぐってスマホをいじっていた。バスローブは脱いでいるようで、すべすべの二の腕が覗いている。

 

「おかえりなさーい」

「……ん、ただいま」

 

 恋人同士しか見えないんだけどなぁ……と思いながら、俺も裸になって布団の中に潜り込む。

 

「あとは寝るだけですねー」

「……だな」

 

 一色がすすすと近寄り、ぴったりと身を寄せてくる。温かくて柔らかな人肌。細指が俺の首や胸板、腹や太ももを撫で、肉竿をさわさわとまさぐる。

 

「ひゃん……っ?」

 

 お返しに尻をまさぐると、可愛らしい悲鳴が漏れた。一色の尻は小ぶりできゅっと引き締まっていて、信じられないくらいに触り心地が良い。

 

「あっ、んんっ、せん、ぱぁい……っ」

 

 さわさわ、と慎重に撫で回すと、一色の声がとろとろに蕩けていく。瑞々しい唇が乳首にちゅっと吸い付いてきた。思わず変な声を上げそうになる。

 

 尻の谷間にそっと指をすべり込ませようとすると、一色に手首を掴まれた。

 

「ダメ……ですよぉ? これ以上は」

 

 目を合わせ、優しく囁いてくる。興奮で強張っていた身体からふっと力が抜けた。

 

「……そう、か。そうだな」

「そうですよ。……襲ったら、言いつけちゃいますから」

 

 今日はまだいちども口にしていなかった第三者の存在。いろはは気まずそうに目を逸らし、俺の胸に顔をうずめた。温かさは増したはずなのに、心臓が冷え固まる。全身に冷たい血液が巡り、心を仄暗い感情が満たす。

 

 いっしょに泊まりはすれど、それ以上の行為には及ばない、及べない。

 

 いつからこうなったのか、どうしてこうなったのか……後悔とも呼べる感情が、すぅすぅと穏やかな寝息を聞いているあいだもずっとぐるぐると渦巻いていた。

 

       ×  ×  ×

 

 一色が同じ大学に入ってきたときは驚いた。総武高卒業後も何かと連絡はとっていたが、彼女の志望大学はずっとはぐらかされていたからだ。

 

 入学すると、一色のあざとさはさらにブラッシュアップされた。軽くいなしているからあまりわからないが、相当数の男のアプローチを受けていただろう。

 

 そんな彼女だが、同じ大学になってからはしょっちゅう食事や遊びに誘ってきた。

 

『先輩の灰色のキャンパスライフを、健気な後輩が彩ってあげてるんですよ』

 

 そういって笑う一色の気持ちには、薄々勘付いてはいた。というか流石にあれだけ露骨にアプローチされて、気付かないわけはなかった。

 

 それでも、どうしても一歩を踏み出すことができなかった。大学生になってますます魅力的になった一色いろはという女性が、俺の隣にいていいのかと。ずっと、ずっと迷っていた。

 

 踏み出せないまま一年が過ぎ、俺は大学三年に、一色は二年生になった。

 

『わたし、もうすぐ誕生日じゃないですかー』

 

 四月に入って間もない頃に言われた言葉。俺はとぼけつつも、実際は覚えていた。小町同様に家族のような親密さを覚え始めていた一色の誕生日を忘れるはずもなかった。

 

 一色は成人祝いにふたりで呑みたいと言った。友達に祝ってもらったりしないのかと聞くと、「他の日に祝ってもらうんで大丈夫です」とのことだった。

 

 バーで呑んでみたいとのリクエストを受け、数件のバーに当たりをつけて下見をした。慣れないにも程がある行為だったが、一色が喜ぶ顔を思い浮かべると苦にはならなかった。

 

 そして一色の誕生日、四月一六日にふたりで呑むことになった。一色はバーの雰囲気をすっかり気に入り、「よく見つけましたね」と珍しく尊敬した目で見てきた。「まあ、そこそこ通ってるからな」と慣れないウソをつくと秒でバレた。向かいにいるマスターも笑っていた。穴がなければ掘ってでも入りたかった。

 

 一色は頬を緩めて「美味しいです」と言いながら、次々とカクテルを呑んだ。呑みすぎるなよとたしなめていたのだが、気が付くと上手いこと誘導されてするすると呑まされていた。

 

 しばらくすると一色はほろ酔いになり、俺も今まで経験したことがないほど酔っていた。

 

 

『先輩。わたし、実は……』

 

 

 そんな、ふたりとも酩酊した中で一色が話し出したことは、忘れたくても忘れられない。

 

 

――ちょっと前に彼氏ができたんです。

 

――同じ大学で、先輩と同じ学年の人でして。

 

――友達から無理やり紹介されて、口説かれて。

 

――初めはウザいなーって思ったんですけど、話しみたら意外と良い人で。

 

――気が付いたら告白をオーケーしちゃってたんです。

 

 

 聞き慣れたはずの一色の声が、言葉が、まるで初めて聞いた異国の言葉のように聞こえた。あのとき、自分がどんな相槌を打っていたのかをまったく覚えていない。動揺が色濃く表れていたのかもしれないし、案外普通に受け答えしていたかもしれない。

 

 ただ一つ覚えているのは、身体がまったく動かなかった、ということだけだ。一色の一言一言に凝固剤が混じっているようだった。言葉を聞くたびに少しずつ心と身体が固まり、金縛りにあったかのようにぴくりとも動けなくなっていた。

 

 一色の話を聞きながら、そういえば年明けくらいから一色に誘われる頻度が少なくなっていたことを思い出した。そのときはさほど気にしなかったが、今になってそういうことかと納得して胸がずんと重くなった。

 

『……それでなんですけど。最近、彼氏と良い感じになってきて。そろそろキスとかしそうなんですよ。だけど、慣れてないなんてバレたら恥ずかしいじゃないですかー?』

 

 いや、慣れてないとか知らんし……などと、いつもなら軽くツッコめたのだろうか。そのときは「そうか」としか言えなかった、気がする。その辺りも記憶も定かではない。

 

 ぼんやりと話を聞きながら、一色は今までキスをしたことがあるのかとふと思った。慣れていないとぼかされたため、聞くに聞けなかった。

 

 後になって思えば、のんびりと呑んでいたのが一時間半ほどで、一色のカミングアウトを聞いていたのが十分ほどだった。けれどその十分は、今までの人生でもっとも長い十分だった。

 

『先輩、このあとなんですけど……』

 

 呆然とアルコールを喉に流し込んでいると、一色にくいくいと袖を引かれ、潤んだ目で見つめられた。ささやかなスキンシップ。彼氏がいると聞いたばかりなのに、こんなことで喜ぶ自分がみじめでしかたなかった。

 

 このあとの細かい流れは覚えていない。一色は端的に言えば『キスやもっと深い行為の練習がしたい』とのことで、半ば自暴自棄になっていた俺は一色の誘いに乗ってしまった。

 

 行為を終えるとそのまま泊まったが、添い寝はすれど一色と最後まですることはなく、それどころか彼女の身体に触れることも制限された。

 

 初めていっしょに泊まった翌朝は、こんなことはもう二度としないと思った。けれど一色は俺を呑みに誘うたびに「練習がしたい」と誘い、俺もその誘いに乗り続けた。

 

一色の今まで見たことのない魅力的な表情、瑞々しい肌の温もり、そしてキスの心地良さ、咥えられる快感。これらを忘れることができず、ずっと抜け出せずにいた。

 

 てっきりすぐにでも彼氏との関係が進展するのかと思ったが、スケジュールが合わなかったり一色の気分が乗らなかったりとかで、ウブな関係が続いているとのことだった。

 

『ウソだと思ってます? それなら証拠を見せてあげますよ、ほら』

 

 疑いを持ちはじめた俺に、一色は彼氏とのLINEのやりとりを見せてきた。相手は『涼』というらしい。さばさばした会話の端々に互いへの愛情が感じられて、かすかに抱いていた淡い期待が打ち砕かれた。憎からず思っている後輩とその彼氏との会話を眺めると、俺はいったい何をやっているのかとますます自己嫌悪に陥った。

 

 一色はいつ彼氏と一線を越えるのか。それまでずっと俺との関係が続くのか。そして一線を越えたとき、俺は一色のことを忘れられるのか。

 

 ぐるぐると考えながらも数ヶ月が経った頃。

 

 ベッドで添い寝する一色が、「先輩の家に泊まりたいです」と言い出した。

 

「……は? いやいや、なんで?」

 

 もうじき眠りに落ちるというところでいきなり意識が覚醒した。冷水をかけられるよりも効果が高いかもしれない。

 

「えー、なんでですかー? 別にいいじゃないですかー」

 

 一色は平然とした顔で、むしろなんで俺が渋ってるのかと言わんばかりの顔をしている。

 

「むしろなんで渋ってるんですか? 可愛い後輩が家に行きたいって言ってるんですよ?」

 

 というか実際に言った。いっそ清々しいな……。

 

「つうかなんで俺の家なんだよ。別にいいだろ、今の感じで」

 

 今の感じ、という曖昧な言葉が、俺と一色の関係を端的に表していた。心の中で自嘲する。

 

「いいじゃないですかー。なんですか、汚部屋なんですか?」

「んなわけあるか。それなりに片付けてるっつの」

「じゃあいいじゃないですか」

 

 もう少し理由を言えばいいものを、一色はぷりぷりと怒るばかりだ。追及しようかとも思ったが、きっと一色はのらりくらりとかわすのだろう。

 

 頭をがしがしと掻いて、天井を見上げる。今日初めて入ったホテルは値段の割に案外新しくて広かった。気が付けば一色とホテルに入る行為がすっかり日常と化している。

 

「……しゃあねぇな。招いてやるよ」

「わー、エラそう」

「お前な……」

 

 亜麻色の髪をぐしぐしと撫で回すと、「うひゃー」とはしゃいだ。え、なにその可愛いはしゃぎ方……。なんだかいつになくテンションが高いんですけど。

 

 手を離すと、一色は俺の胸板におでこを当ててしおしおと縮こまった。

 

「もっと撫でてもいいんですよ?」

「そんな言い方でいいのか? 俺はべつに撫でなくてもいいんだが」

「ごめんなさい、撫でてください」

「お、おう、おお?」

 

 思いのほか素直な言葉と態度に慌てる。

 

 亜麻色の髪の中に指を入れる。ふんわりと空気を含んだ髪が、じゃれつくように指に絡み付いた。髪の毛だけでも一色なんだとわかり、ふっと口端が上がる。

 

「えへへ……」

 

 一色がご機嫌な笑みを浮かべる。ふだん何かと面倒くさい後輩だが、素直なときや真面目なときは純粋に魅力的だな、と思う。

 

 そして、そんな風にこの子に惹かれれば惹かれるほど、どうして一歩を踏み出せなかったのかと、強く強く後悔している。

 

 

 

 

 




 続きはコミケ本で! とらのあな及びDLsiteで現物&電子版両方の販売予定ですが、会場に来ていただけるのが一番ダントツで嬉しいです!!

 詳しくは活動報告に載せていますので! お待ちしています(^^)!!

 それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!
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