※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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 平塚先生編リライト版、スタートです(^^)!!


平塚静は元教え子との恋に思うがまま浸る。
(1)


 かららら、と店の扉を開ける。

 

「へいらっしゃーい!」

 

 店員の威勢の良い声が耳朶を叩き、濃厚なスープの匂いが鼻腔を浸す。ぐぅ、と鳴った腹の音も店内の喧騒にまぎれて消えた。

 

 券売機で食券を買って店員に渡す。

 

「コナオトシで」

「ハリガネで」

 

 相も変わらず男らしい注文だな……と思いながら――隣にいる平塚先生を見やる。今日の先生は黒のノースリーブブラウスにジーンズというシンプルな格好で、引き締まった身体によく似合っている。ラーメンを食べやすいようにしているのか髪をポニーテールにしていて、いつも以上に凛とした印象を受けた。

 

「ところで比企谷」

「なんですか?」

 

 ラーメンを待ちながら雑談していると、平塚先生が急に改まり、真剣に切り出してきた。

 

「今日の私の格好はどうかね」

 

 え、このタイミングで?

 

「……似合ってますよ。先生ってすげぇスタイルが良いんだなって改めて思います」

「お、おぉ? う、うむ、中々ストレートな言葉だな……いつもひねくれる君とのギャップも相まって……な、中々良い一撃じゃないか」

 

 武道の師範みたいなコメントが返ってきた。平塚先生の顔がぽっぽっと赤くなる。

 

「先生が『女性はちゃんと褒めるものだ』って散々俺を調教したおかげで俺もすっかりこういうのに慣れまぐぇっ」

 

 脇腹に軽く手刀を繰り出され、変な声が漏れる。

 

「言葉遣いを選びたまえ……君を調教した覚えなどない」

 

 平塚先生の顔がほのかに赤い。

 

「言葉遊びですよ、言葉遊び……や、でも、すいません。さすがに場所が悪いですね」

 

 他の人がいる場で使う言葉ではなかったな……と反省しながら脇腹をさすっていると、平塚先生がふっと笑った。

 

「……君とこの店に初めて来たのは何年前だったかな」

「俺が今大学2年なんで……3年前ですかね」

「そうか……君がもう大学2年生……私も年をとったものだ」

「先生は変わってないですけどね。むしろ若返ってるように見えますけど」

 

 よよよと白々しい泣き真似をする平塚先生にさらりとフォローを入れると、目を見開いてぴたりと固まった。

 

「……君は本当に成長したな。3年前はくそ生意気な煽りを入れてきたのに……」

「先生の年を考えるとそういう煽りもあんまり入れない方が」

 

 ばきり。

 騒がしいはずの店内で、その破壊音だけがやけに高らかに響いた。

 

「おっと、割り箸が折れてしまった。何か言ったか?」

「い、いえ、何でもないです……」

 

 割り箸は割るものであって折るものじゃないと思うんです……。聖母もびっくりするレベルのまばゆい笑顔がなぜこの場面で登場するのでしょうか。

 

「でもまあ、先生がぜんぜん変わらないのは本当ですよ」

「へ? あ、そ、そうか……?」

 

 平塚先生がしきりに黒髪を耳にかける。横顔に平塚先生の照れ混じりの視線が刺さる刺さる。何だこの可愛い先生は?

 

 入口に近いカウンター席だからか、ドアの向こうからじわじわと蝉が鳴く声が聞こえる。湯気の立ちこめる厨房では威勢の良いかけ声が飛び交う。包丁がまな板を叩く音、ちゃっちゃっちゃっと湯切りをする音。秩序立った荒々しい音が耳朶に心地良い。

 

「へいお待ち!」

 

 俺と平塚先生の前に注文したラーメンが置かれる。濃厚な匂いはいっそ暴力的で、まるでスポンジに吸われる水のように空いた腹に染み渡る。

 

『いただきます』

 

 表面に張った油膜にレンゲを差し込み、陰陽図のような模様を作るスープを口に含む。こってりとしたとんこつ主体のスープが味覚を強烈に叩く。空腹は思いの外強まっていたようで、口内に唾液が一気に溢れた。

 

 続いて麺をいただく。細くストレートな麺は固めの食感で、濃厚スープが絡んだ味が何とも心地良い。

 

「うーん……うまい」

 

平塚先生が目を細めて唸る。なんだか以前よりも表情が柔らかくなった気がする。

 

「ん、どうした?」

「あー、いえ、なんでも」

 

 俺の視線に気付いた平塚先生から慌てて顔を逸らす。どんな言い訳をしようが、今の俺は平塚先生に見惚れていたようにしか見えないだろう。というか事実見惚れていた。ポニーテールってなんだよ、綺麗なのに可愛いとか反則だろ……と思いつつ。

 ラーメンを食べるときは毎回見ているはずなのに、いまだに見慣れないとはこれいかに。

 

――平塚先生は、総武高から異動した後も俺をちょこちょことラーメンに連れていってくれた。昼食だったり夕食だったりとタイミングはまちまちだが、それなりの頻度でこうしていっしょに食べている。

 

 俺が3年になってから誘われるようになり、今は大学2年。かれこれ丸2年以上経つわけだ。1ヶ月に1回のときもあれば毎週末誘われることもある。俺の忙しさを考慮してくれてもいるが、なんとなく、平塚先生が寂しいときに頻繁に誘われているような気がした。

 

 ちなみに平塚先生は、俺をラーメンに誘う際毎回めちゃくちゃ長いLINEをよこす。いちいち答えるのが大変なのでスタンプで「OK!」とだけ返すと、かわいらしいクマがべそをかくスタンプが送られてくる。毎回それがちょっとツボだったりする。

 

 ラーメンを食べたあとは缶コーヒーを飲みながらドライブをしたり海を眺めたりと、まるで恋人のようなこともよくしている。

 

 平塚先生はラーメンを食べるときや人生について語るとききはものすごく大人びているというかもはや男らしいのに、愛だの恋だの好きだのという言葉が会話に少しでも出ると途端にしおらしくなる。そのギャップが強烈で、平塚先生に会うのが密かな楽しみになっていた。

 

 けれど、ここ数ヶ月は平塚先生からのお誘いがなかった。前回行ったのは大学2年に進級したばかりの頃で、今はもう7月の末だ。

 

なんとなく、お誘いがなかった理由に察しはついている。その理由が理由なので、俺は自分から平塚先生を誘うことができなかった。

 

 ちらりと横を見ると、平塚先生が無言でラーメンを啜っている。綺麗な唇に脂が乗り、麺を噛む際に引き結ばれる仕草が妙に艶めかしい。それでいて顔はうっとりとしていてポニーテールがぴょこぴょこと揺れるのだ。いくつもの魅力で同時にぶん殴ってくるような真似はやめてほしい。

 

「ふぅ……ごちそうさま。……おや? どうした比企谷、いつもより食べるのが遅い気がするが……」

「……いえ、大丈夫です。すぐ食べます」

 

 きょとんとする平塚先生から視線を切り、まだ半分近く残っていたラーメンを急いで食べた。

 

       ×  ×  ×

 

「そういえば比企谷、もうすぐ君の誕生日だったな? 何かする予定はあるのか?」

 

 ラーメン屋を出て、平塚先生の車でドライブしているとふと切り出された。冷房の効いた車内で平塚先生と雑談をする時間は素直に楽しい。満腹感も相まってゆるゆるになった脳に缶コーヒーの糖分を流し込み、海を見ながら自分の予定を思い出す。

 

「……特に何も予定はないっすね。実家にいたら小町に祝ってもらってたんですけど」

 

 今は大学近くのアパートで一人暮らしをしている。小町からはお祝いのLINEが届くことを祈るばかりだ。総武高の生活が楽しくてお兄ちゃんのことを忘れてやしないか心配!

 

「実家にいてもイベントはそれだけなのか……。いや、私も人のことは言えないがな。特に20代半ばくらいからは1年がどんどん短く感じるようになって『あ、もう私この歳なんだ……』と思うようになって……」

「先生、辛気臭い話はやめにしましょう」

 

 車内に満ちていた心地良い冷気に瘴気が混ざり始めていた。ここって魔界だったかしら?

 

「しかし、そうか、予定はないのか……」

「どうかしました?」

「いやなに、今度の誕生日で君は成人する訳だろう? それなら、せっかくだしいっしょに呑まないかと思ってな」

 

 平塚先生の提案に目を見開く。照れているのか、先生の横顔はほんのりと赤い。

 

「……いいんですか? 俺としてはありがたいですけど……」

 

 平塚先生は俺の中で大人の代表だ。酒を呑める歳になったお祝いにそんな人と呑めると聞いて、自分でも驚くくらいに舞い上がっている。

 

「食事やドライブで君とある程度話してはいるが、もっとじっくり話すのもありかと思ってな。……思ったよりも喜んでくれて良かったよ」

 

 いつものんびり話すときに使う駐車場に車を停め、平塚先生がにかっと笑う。

 

「……じっくり話すなら、静かな所がいいです」

 

 シートベルトを外し、顔を逸らして答えると、平塚先生がくすくすと笑った。

 

「君の言う事は一理あるな。しかし、じっくり話せる静かな場所か……」

 

 

 先生があごに人差指を当てて考え込む。

 お酒が飲める静かな場所というとバーくらいしか思い浮かばなかったのだけれど――。

 

「それなら、私の家に来てみるか?」

「へ?」

 

 思わぬ提案にきょとんとする。俺の反応を見た先生がわたわたと慌てる。ほんのり紅潮した顔が強烈に可愛い。

 

「あ、いや、その、なんだ、君との付き合いも長いし? それに酒を飲むとなると私も運転ができないしな」

「いや、電車で移動すればいいんじゃあ……? それか代行を使うとか……」

「い、いや、それはそうなんだが……」

 

 誘い自体は嬉しいが、今はそれ以上に戸惑いが大きい。それに、ここ数ヶ月平塚先生に誘われていなかった理由を推測すると、先生の自宅に行くのはためらわれた。

 

 先生はしばらくあーだこーだ言っていたが、やがてふっとため息をつき、シートに深く身を沈めた。どこかぐったりとした様子で顔をこちらに向ける。

 

「……君の成人祝いをしたいという気持ちは本物なんだが、私は私で君に話したいことがあるんだよ」

「……愚痴みたいなもんですか?」

「愚痴みたいなもんだな」

 

 くすくすと笑い合う。自然に、とてもスムーズに生じる柔らかな空気に心が安らぐ。

 

「バーみたいな場所だと、店員に聞かれちゃいますもんね」

「うむ、そうなんだよ。テーブル席であったとしても、きっと私は声が大きくなってしまう。店員からすれば十把一絡げの話だろう。けれど私は聞かれたくないんだ」

「……俺になら話していいと?」

「そうだな、君になら話していい……というか、君にこそ話したいんだ。……だめか?」

 

 平塚先生がほんのわずかに身を乗り出し、じっと見つめてくる。ずるい。この人は計算でやっていないんだろう。普段はあんなに頼りになるくせに、どうしてこういうときにこんなウブな乙女のような破壊力が出るのか。

 

「……いいですよ。色々教えてください」

「……今の言い方、なんだか意味深に捉えてしまうんだが……」

「お酒のことと、先生の愚痴のことですよ。何を考えてたんですか?」

 

 平塚先生がぷいと顔を逸らしてジト目で見つめてくる。

 

「……君は成長して、タチが悪くなったな」

「失礼な」

 

 もういちどくすくすと笑い合う。

 

「それじゃあ、軽く打ち合わせをしようか。呑みたい酒があれば聞いておこう。用意する」

「ありがとうございます」

 

 スマホを取り出し、酒やつまみをググりながらあーだこーだ話し合う。

 

 成人すると言っても、ただ19歳から20歳に変わるだけのことだろうと思っていた。

 

 そんな何てことのない日が、平塚先生のおかげで心浮きたつ時間に変わることが、たまらなく嬉しかった。

 

 

 

 続く。

 

 

 




 平塚先生編は何気ないエロスの初期に書き、そのアフターも書いて……という流れだったのですが、ここいらで一から書いてみたいなと思いました。
 全部で20話台くらい書こうかなーと思っています。

 個人的に、平塚先生は俺ガイルヒロイン勢の中でも指折りの「エロくなる人」だと思っています。楽しみだぜぇ……!
 激甘の濃厚エロをお送りしますので、どうぞお楽しみください(^^)!


【お知らせ】
 活動報告にて、コミケ本や昨日発売された書籍のキャンペーンなどのお知らせをしています! よろしければぜひご覧ください(^^)!


 それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!
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