俺の部屋で、雪ノ下とテレビ鑑賞会。
「……ふふっ」
お笑い芸人のネタで、意外にも雪ノ下はちょこちょこと笑っている。段々雰囲気に慣れてきたようで、笑う頻度が増えてきた。
なんとなく、なんとなーく、そんな雪ノ下を後ろから抱きしめてると、
「……んっ」
すんなりと受け入れてくれて、俺の二の腕にこてんと頬を寄せた。服の生地越しに雪ノ下の柔らかな肌の感触が伝わり、じんわりと心が温まる。
そのままテレビを見続ける。
…………。
いかん。
幸せすぎて、死ぬ。
内心吐血しそうになりながら、雪ノ下の肩にあごを乗せる。ふわりと香る匂いがたまらなく心地良い。
「……なぁに、どうしたの?」
雪ノ下がお姉さんのような雰囲気で、くすりと笑って俺の頬に手を当てる。あまりに居心地が良い為、その体勢のまましばらくの間ゆっくりしていた。
× × ×
「さて、じゃあそろそろ他の番組に」
「待って」
「え?」
番組もある程度の時間観ていて、他の番組は何をやっているか調べようとリモコンを手に取ると、雪ノ下から突然の制止がかかった。
「や、どうしたんだ急に」
「あれ」
雪ノ下がこれまでと一転して、学校で見慣れたきりっとした手つきでテレビ画面を指差す。そちらを見やると、
「……ああ、なるほど」
極めて納得の行く企画がやっていた。
『さあ、今回はパンさん特集です! 今月都内にオープンしたパンさん専門店が大変人気になっており、話題を呼んでいます』
云々かんぬん。
「………………………………」
うっわ。
すげぇ真剣な目つきで見てる。
多分、多分だけど、この子、受験の時より今の方が真剣な気がする。
話しかけない方が良いのか? しかしこの緊張感に、密着した状態で耐えるのはちょっと……。
「あの、雪ノし」
「静かに」
「…………」
……えぇぇ……ここ、映画館か何か? それか美術館。
喋らせてもらえないなら、せめて撫でよう……なんて思い、雪ノ下の頭をくしゃりと撫でる。
「…………」
超絶無反応。
つら。
「ゆ、雪ノ下さ~ん、お元気で」
「静かに」
「……はい」
この部屋には、鬼が居る。
結局、そこから10分程、俺は雪ノ下の首に腕を回したまま微動だに出来なかった。
× × ×
パンさん特集が終わって、雪ノ下がふっと息を吐いた。俺は雪ノ下に密着したまま何も出来ない生殺し状態で居た為にすっかりグロッキーです。ヒッキーグロッキ……うるせぇよ。
「……どうしたの?」
「……なんでもねぇよ?」
「……? ……あ、もしかして……。……ごめんなさい、ちょっと真剣になりすぎたかもしれないわ」
げんなりしている俺の雰囲気に気付いたのか、雪ノ下が振り向いて心配そうに眉を寄せて謝ってきた。この子もすっかり素直になったもんだとしみじみ思う。ちょっとどころじゃない真剣味でしたけどね!
鼻と鼻が付きそうなくらい近付くと、雪ノ下の甘い吐息がふわりと香って、たまらなく愛おしくなって唇を重ねた。
「んっ……」
雪ノ下の唇の柔らかさと、身体にじんわり染み込んでくる香りがする吐息と、うっすら目を細めた色っぽい表情を楽しむ為の、優しいキス。舌を入れるとあっと言う間にお互いのスイッチが入ってしまうから、今はしないでおく。
唇を離すと、雪ノ下は微かに眉根を寄せて、どこか寂しそうな顔をした。待って待って、またスイッチ入るから。
その表情をあまり長い時間見ないように、くしゃくしゃと髪を撫でる。絹の糸のように滑らかな髪の毛の感触は、本当に同じ人間なのかと疑ってしまう程指に心地良い。
「気にすんなって。好きなものの前だと我を失うもんだよな」
拙いなりにフォローをすると、雪ノ下が柔らかく微笑んだ。この微笑み方は、徐々に見せてくれるようになっていたから良かった。もし初対面でこんな微笑み方をされたら、その場で告白してフラれて奉仕部に入らなかった可能性さえある。
「あら、あなたもそうなのかしら?」
くすっと笑いながら雪ノ下が言う。
――何も、本当に何も考えず、いつものような軽口のつもりで、
「ああ、そうだな。俺もお前と居るといっつも我を失ってるぞ」
「え……」
「あ……」
はい。
放送事故、ドーン。
「…………そ、そう…………」
雪ノ下さん、目を背けないで。耳まで真っ赤なの見えてますよ。
「…………………………………………………………………………………………………………」
おい、八幡。おい、比企谷八幡。うおぉぉぉぉい、比企谷八幡くーん!?
このタイミングで、なーに小っ恥ずかしいこと言っちゃってんの!?
うわーん! やべぇよ! 身体が熱いよ! 雪ノ下の身体も熱くなってるよー! これと同じ現象が風邪っ引きの時に起きたら1時間くらいで菌がやられて完治しちゃうよー!
この体勢では逃げるのも厳しい。俺は俯いて膝におでこを引っ付けている雪ノ下さえも視界に入れないように、ぐぎぎと首を背ける。
「…………」
「…………」
無言。無言。無言。
これはマジできつい。
「……そ、その……」
沈黙に耐え兼ねて、雪ノ下は俯いたまま、気遣いと恥ずかしさと気まずさに満ち満ちた声音で小さく切り出した。
「……ん」
短く声を発して続きを促すと、雪ノ下が顔を上げてもじもじとしながらこちらに目を向けた。その表情は色っぽいといった類ではなく、純粋な……自分で言うのは非常に難だが……乙女の瞳だと思った。
「……わ、悪い気は、……しない、わ……」
「……そ、そうか……」
「え、ええ……」
「…………そう、か……」
「……そう、よ……」
死にそう。
2人の熱量が、なんだかんだでもう一段階上がった。
× × ×
復帰にしばらく時間がかかったものの、ようやく落ち着いてきて、再びテレビ番組を観始める。雪ノ下は時折くすりと笑っては、身体を小さく揺らす。その慎ましい笑い方が何とも愛くるしい。俺は先程と同様に雪ノ下の首に腕を巻いて、ふわりと抱きしめたままテレビを見ていた。雪ノ下は特にそれを気にする様子も無く、平和そのものな時間が流れている。
……うん、なんか、良い。
穏やかな時間に身も心も浸っていると、ふと、雪ノ下が俺の手を握った。そしてにぎにぎとしながら、俺の二の腕にこてんともたれかかった。滑らかな髪の感触と小さな耳たぶの儚い感触がして、どきりと胸が高鳴る。
雪ノ下は何も言わず、二の腕に頬をすりすりとこすり付けてくる。俺の手をにぎにぎする手は2本に増えていて、段々と……むらむらしてきた。や、待て、まだじゃれついているだけの可能性もあるじゃないか。この甘ったるい空気の中、俺が性欲の暴走を見せて流れを壊すなんて真似したことないし出来る訳もない。うそ。壊したことは多分結構ありますごめんなさい。しかし過去はどうであれ、今はなるべく雪ノ下を無理やりどうかしてしまうなんてことはしたくない。言い方がまずすぎるなこれ。
などと悶々と考えていたら、雪ノ下が顔をこちらに向けた。唇と唇が触れる程の距離で、目をうっすら開けて、くいくいと首を動かしてまるでおねだりするような仕草を見せる。
……おねだりするような、ではなくて、これはもう、紛れもなくおねだりだよな……?
雪ノ下の瞳は潤んでいて、薄めの唇は物欲しそうに震えている。慌てるな、落ち着いて、落ち着いて……と自分に言い聞かせながら、ゆっくり唇を重ねる。
「……っ」
驚いた。
さっきとはまるで違う温度の唇に反応して、急激に下半身に血液が集まる。
「んっ……ふぅっ……」
雪ノ下は唇を重ねたまま、ゆっくり身体を反転させて俺と正面から向かい合う体勢になった。体育座りのような体勢をとっている俺の足の隙間に雪ノ下は足を通して、女の子座りになっている。
どうしたんだ急に……と戸惑っていると、口の中に舌が侵入してきた。
「んふぅっ……ちゅぷ、ぴちゃ、れる、ちゅる、ちゅぴ、ちゅぽ、ちゅりゅりゅ、れろれろ……んっ、んんっ……」
「~~~~~~~~っ」
体液と吐息が染み込んでくる濃密なキスに、視界が明滅する。
そうか、雪ノ下はもう、発情しているんだ――そう思った途端、雪ノ下の身体をもっと味わいたくなって、雪ノ下の首から耳の下にかけての肌に手を添えた。
「んはぁっ……!?」
唾液の糸が伸びるのも厭わず、雪ノ下が艶っぽい声を上げて唇を離した。
「え……?」
突然の事態に、俺も雪ノ下も呆然とする。
「あ、わ、私、今、え……? 比企谷くんに触られただけ……なのに……」
雪ノ下の首に目をやると、ぶわっと鳥肌が立っている。自分の指先にも、雪ノ下の快感が伝わったかのように甘い痺れが残っている。
……敏感なのは十分分かっていたけど、なんでここにきて……? ほんのついさっきまでは何とも無かったのに。
不安げな雪ノ下の顔を見てこのままではいけないと思い、短い時間で頭をフル回転させる。今まで過ごした時間、そして特に今日一日してきたこと、それらを思い出す。
…………。
何となく見当はついた。ふっとため息が漏れる。
「……雪ノ下、大丈夫だ」
「え……?」
自分の身体はどうなってしまったのかと不安がる雪ノ下の揺れる瞳に、出来るだけ気さくな調子で語りかける。
「あー、その、なんだ。俺とお前はさ、結構、その、なんだ、こういうことをしてきた訳だろ? それで益々身体が……開発されたんじゃねぇかなって」
「な……っ」
「まあ待て、最後まで聞いてくれ」
顔を真っ赤にする雪ノ下を宥めて、話を続ける。
「そんで、それに加えて……さっき、俺がぽろっと言っちまった言葉も関係あるのかもしれない。後は……さっきみたいに、こういう事をする気が無い時は何とも無いように身体が上手いこと働いてくれて、いざスイッチが入るとその分一気に反応しやすくなる……のかもしれない。あくまで仮説だけどな」
「あ、それ……あう……うぅ……」
ある程度納得したからだろうか、物凄い勢いで赤面して、湯気が止めどなく立ち上る。
どれか1つが正解ではなく、或いは3つとも正解なのかもしれない。心と身体は密接に繋がっているからこそ、身体と身体との繋がり、気持ちと気持ちとの繋がり、そして気持ちの切り替え等様々な要素が絡んで、雪ノ下の今の状態が出来上がったのかもしれない。そしてそのスイッチは、たまたまなのか必然なのかも分からないが、雪ノ下からの濃厚なキスではなく、俺からの軽いタッチだった――のかもしれない。
ぞくぞくとして、好奇心が止めどなく湧いてくる。雪ノ下は、もしかしたら俺も本人もまだまだ知り得ない境地があるのかもしれない。
「雪ノ下……んっ」
「んんんっ……!?」
試しに、俺から口付けをする。恐らく舌を入れるととんでもないことになるので、取り敢えず唇が触れ合うだけのキスを……と思ったのだが、たったそれだけで、雪ノ下はまるで乳房の突起を弄り回されているかのように激しく反応する。
「んふぁっ、ふあぁ……っ」
とろとろに蕩けた目になって、腕がだらんと垂れ下がる。
舌を絡め合っていないにも関わらず、唇を離すと2人の間に糸が引いた。何事かと思い雪ノ下の顔を見ると、唇の端から我慢出来なくて零れ出た唾液が伝っている。唾液を口内に留めることさえ我慢出来なくなっているのだ。
止まらないどころか益々溢れ出して来るぞくぞくに身体の中を掻きむしられながら、今度は両耳に手を伸ばす。
「んひぃっ……!」
雪ノ下が淫らな声を上げて、肩を竦めて涙目になりながら、歯をかちかちと鳴らした。
「雪ノ下、これ、気持ち良いんだな?」
痛い程張り詰めた股間の膨らみを強く自覚しながら、雪ノ下の耳の中を丁寧に指の腹で撫でて犯す。
「あっ……ひっ、だ、だめ、これ、もう、もう……っ」
涙声で首をいやいやと振る雪ノ下に我慢ならなくなり、ずいと顔を近付けて、その耳の中にちゅっと軽く舌を挿し込むと、
「あ――」
一瞬だけ声を上げた次の瞬間、全身を激しく痙攣させて、くてんと仰向けに倒れた。慌てて頭を押さえてぶつけないようにする。
……覚醒するにも、程があるだろう……。
初めて雪ノ下の肩を揉んだ時のことを思い出す。あの時のことは人生最大の衝撃と言っても過言ではなかったが、今、それを上回ることが起きた、そう感じた。
「雪ノ下……ベッド、移動するぞ」
ぐったりしている雪ノ下の背中と膝の裏に手を回して、ひょいと持ち上げる。予想以上に軽くて驚いたが、それ以上に、
「あふぁ……っ!」
悲鳴じみた喘ぎ声を上げて、俺の腕の中で再び痙攣した雪ノ下の反応に戦慄さえ覚えた。
ベッドに寝かせると、身体を断続的に震わせながらも虚ろな目で俺を見ている。
ちらりとテーブルに目をやる。どれくらいの時間部屋に居るかも分からないから、念の為にと水やその他の飲み物を沢山置いておいた。これなら大丈夫だろう。
「雪ノ下……じっくり楽しむか」
「ひあぁ……っ」
雪ノ下は泣きそうな声を上げたが、抵抗の素振りはまるで見せない。
これでいきなり裸にひん剥いて愛撫や挿入なんてしては勿体ない。第一それでは雪ノ下が壊れてしまうかもしれない。
慎重に、愛おしんで、ねっとりと。
どこから触ろうか――夢を膨らませながら、雪ノ下の横に腰を下ろした。
続く。
ゆきのんでした。当初は割と普通に本番に行く予定だったんですが、石田衣良先生の短編に触発されて、且つ「元々はるのんと姉妹揃って敏感にした訳だけど、ゆきのんが更に敏感になるのもありだし、その状態になってもはるのんとはまるで違う雰囲気を楽しめるんじゃないか?」と思ったため書いてみました。
八幡がうっかり恥ずかしいことを言っているくだりを思い付き、その後敏感パワーアップのくだりを思い付き、それらを繋げてみました。
ちょっと次話以降がエロさ大爆発しそうです。
ちなみに、石田先生のテイストを少し取り入れて、ほんの少しだけ地の文の書き方を変えました。変えたというよりは表現の仕方を増やしたと言う方が適切かもしれませんが。
お祝いコメントありがとうございます。初期から見て頂いている方からの感想にはすごくしみじみとしました。今日初めて読んだと言う方でも一向に構いませんのでぜひ!w
感想以外にも、1日でかなり沢山の方に評価を付けて頂きました。色々な作品を見ていますが、この投票人数でこれだけ高い点数に投票して頂いているというのは相当稀有でありがたいことだなと思いました。何ですか何なんですかもう、本当にありがとうございます。ありがとうございます!!!
残りのシルバーウィークも楽しみましょう!
それでは、また明日ここでお会いしましょう(^^)!
今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!