※この作品はR-18です。

俺ガイル 日常の何気ないエロス。   作:高橋徹

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 8月8日、俺の誕生日。

 

 友人と呼べるような存在が極限まで少ない俺にも、日付が変わると同時にいくらか連絡が来た。いの一番に送ってきたのが材木座だったのでなんとも言えない気持ちだったが、その直後に戸塚から連絡が来たので今までの人生が報われた気さえした。そのあとも午前1時頃までにかけてぱらぱらとメッセージが届いた。

 

『成人おめでとう。これで君も形式上とはいえ、大人の仲間入りだ。大変なことだらけだとは思うが楽しみたまえ。夜は楽しみにしているぞ』

 

 そんなお祝いメッセージの中にするりとまぎれていた平塚先生の言葉。最後の言葉で心臓がどくんと跳ねた。わざとじゃなかろうか、いや、絶対わざとだろう。かつての先生、なおかつ美人で性格も合う(であろう)人の家で呑むという緊張が全身に満ちて、中々寝付くことができなかった。

 

 結果、寝たのは朝の3時で起きたのは11時。ぐっすり寝てしまった。大学生の退廃的休日の典型例のような生活だ。

 

 起きてLINEを確認すると、小町からメッセージが届いていた。受信時刻は8時頃。

 

『ごめん、寝てた』

『お兄ちゃん、誕生日おめでとー!』

『じゃ、今日も奉仕部の活動があるから学校行ってきまーす!』

 

「…………」

 

 最初の言葉はまだ恋仲に至らないもどかしい関係の男女が使いそうな手口だし、肝心のお祝いが極めて手短……。忙しいことは良いことだけどね? 身体には気を付けてね? そしてお兄ちゃんの誕生日をもう少し祝ってもらえると嬉しいです。

 

 各々への返信を済ませたところでベッドから起き上がると、ぐぅ、と腹が鳴った。夜食もとらずに遅くまで起きていたので、エネルギーが枯渇しているらしい。

 

 のろのろとした足取りでキッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。今飲みたいとは思わない飲み物に、まるっと鎮座するキャベツ、豚肉、そしてなぜか冷凍ブロッコリー。

 

「……コンビニだな」

 

 適当に作ろうと思えば作れるのだが、外の空気を浴びたくなったのでコンビニ飯に決定。決してフライパンを持つのが面倒だからとか、そういうネガティブな理由ではない。断じて。

 

 11時の時点で外の気温は34℃だった。アスファルトの照り返しも相まって、外に出たのを瞬時に後悔した。

 

       ×  ×  ×

 

 のんびりと本を読み、配信されたアニメをまとめて観て、ソシャゲを1章分進めたところで夜を迎えた。今日は平塚先生が俺の家の前まで迎えに来てくれることになっている。先生の家で呑むのだから俺が行きますよと言ったのだが、「構わないよ」と男らしい笑みとともに一蹴されてしまった。どうにもまだまだ、俺と平塚先生は教師と教え子という感覚が強い。当たり前ではあるのだけれど。そんな訳で、おとなしく厚意に甘えることにした。

 

 アパートを出ると、見覚えのある車がするりと俺の前に止まった。スムーズなブレーキ。窓が開いて平塚先生が微笑む。うす、と軽く会釈してドアを開けようとしたところで、ちょっとした違和感に気付く。

 

「ん、どうしたんだね比企谷?」

「いえ……なんでもないっす」

 

 平塚先生はこうやって送ってくれた際にいつも窓を開けるのだが、そのときは窓を全開にしていた。

 

 けれど今、先生はどういう訳か顔しか見えない程度にしか開けなかった。窓を全開にしてのあいさつを今まで何度も行なっているので、些細ながらも違和感があった。

 

 ドアを開けて乗り込んだ瞬間、疑念が一瞬で氷解する。

 

「ん、どうしたんだね比企谷?」

 

 先ほどと同じ言葉。けれど平塚先生はくりんと小首をかしげ、どこかいたずらっぽい笑みを浮かべている。いつもの少年のような笑みとは違い、大人の女性であることを強烈に感じざるを得ない笑み。

 

「えっと、先生、その格好は……」

 

 平塚先生の服装に、声が上ずらないわけがなかった。

 

 白のノースリーブブラウスとタイトスカート。滑らかな二の腕や色香を感じるむっちりとした太ももに視線が吸い寄せられ、慌てて視線を逸らす。正しい視線の置き場所がわからない。

 

「……ふふ、わかりやすい反応をしてくれて何よりだよ」

 

 口元に手を当てて、くすくすと笑う。いつもは男らしさと少女っぽさが同居したような面を見ているけれど、今日はこれ以上ないほど「大人の女性」という魅力を振りかざしている、ような気がする。シンプルながらも露出の多い格好はあまりに刺激が強い。

 

「……けっこう、というかかなり驚きました。先生でもそういう格好をするんですね」

 

 ぽつりと呟くと、平塚先生は目をぱちくりとさせ、それから前を向いてこほんとわざとらしい咳払いをした。車が動き出す。シートベルトが豊満な胸を強調してしまっていることに気付き、また視線を不自然に逸らした。

 

「ま、まあ……いくら元教え子とはいえ、男性が家に来るのだからな。多少は気合も入れるさ」

 

 強烈な色気ともじもじとしたウブな仕草が入り混じる。密室という状況も相まって頭がくらくらした。

 

「そ、そうなんですね。びっくりするくらい似合ってます」

「そ、そうかね。ならば、うん、何よりだ……」

 

 だめだ、視界の右端で平塚先生がかすかに身じろぎするのが見えるたびに、猛烈に振り向きたくなる。

 

 先生の家までは車で30分ほど。

 その時間は相変わらずゆるやかで楽しいものだったが、同時に気が気でなかった。

 

       ×  ×  ×

 

「さあ、どうぞ」

「お邪魔します」

 

 案内された平塚先生の部屋はすっきりと片付いていた。意外と言えばいいのか、予想通りと言えばいいのか。

 

 小ざっぱりとしたリビングにはソファとローテーブルが置かれていた。クッションなどの小物の色合いはモノトーンで理知的な印象を受ける。

 

 デスクに置かれたこじんまりとした観葉植物と、揚げパスタもといルームフレグランスからほのかに香るバニラの匂いが部屋に柔らかな印象を与えていた。

 

「このあいだ片付けをしたばかりでな」

 

 平塚先生がこほんと咳払いをする。

 

「もともと綺麗にはしてるんですよね? 大掃除したようには見えないので」

「まあそうだな。ビールの空き缶が多すぎて捨てるのが大変だったが」

 

 ダイニングキッチンの隅に置かれた大量のビール缶入りの袋を、苦労しながら片付ける平塚先生を想像して苦笑する。

 

「とりあえず休んでいてくれ。買っておいた酒とつまみを出してくるから」

「何から何まですみません」

「構わないよ、君の誕生日と成人祝いなんだから」

 

 いつもの優しい笑みを平塚先生がふっと浮かべる。けれど視線をほんの少し下げれば刺激的な格好が目に入る。いつもはパンツスタイルだからか、露出が増えただけでこうも強烈に理性が揺らぐのかと改めて動揺する。

 

「どうぞ」

 

 促されるがままにソファに座る。デスクに置かれたPCやペン、ソファの軋み、平塚先生が冷蔵庫へ向かう足音。何気ないところに先生の生活の息遣いを感じる。この人が学校以外での時間の大半を過ごしている場所。そう思うだけで心拍数がじりじりと上がる。

 

「待たせたな」

 

 平塚先生がローテーブルに次々と酒とつまみを並べていく。ベタなものが呑みたいという俺の希望に合わせて、チューハイ、ハイボール、梅酒、ビールなどを用意してくれていた。つまみはチップスター、堅あげポテト、じゃがりこ、チーザ、柿の種などなど。

 

「生まれて初めて呑むお酒……という認識で合ってるかな?」

 

 平塚先生がさりげなく隣に座る。車で並んだときよりもずっと近い距離感に身体が強張る。

 

「そうですね。俺は本当に初めてです」

 

 大学に入学すると、『大学に進学するのが18歳で、お酒を呑んでいいのが20歳以上』という状況の歪さに気付いた。俺はサークルに所属していないので影響を受けなかったが、クラスメイトの話を聞くと、サークルの新歓時期はまだしも、夏合宿などの時期になると当たり前のように1年生も呑む空気らしい。お酒が苦手ならば断わってあっさり終わるが、呑もうと思えば呑める人が成人するまで断り続けるのは何かと大変なようだ。

 

「それでは、無難にチューハイから行こうか。ほろよいぶどうなんてどうだ」

「じゃあそれで。いただきます」

 グラスを持つと、平塚先生が缶を開けてくれた。

 

「君に酌をする日が来ようとはな」

「俺もびっくりですよ」

 

 くすくすと笑い合っていると、グラスを持つ俺の右手人差指と、缶を傾ける平塚先生の右手親指がちょんと触れた。少しばかりの、ほんの少しばかりの接触。

 

 それでも、俺と平塚先生の身体はぴくりと震えた。互いにごまかしが効かないくらい、はっきりと。

 

「……こ、この距離ではな。多少触れ合うのも仕方ないだろう」

「そ、そうですよね、すいません」

「い、いや、私こそ、すまない……」

 

 ふたりしてわたわたと慌てる。なまじふたりとも弁が立つので(俺の場合は屁理屈だが)、こういうときに口が先に動いてしまう節があるな、と今さらながらに気付いた。

 

「せ、先生はどうしますか?」

「ん、そ、そうだな……缶ビールをそのまま呑もう。昨日も呑んだしな」

「どんだけ呑むんですか……身体、大丈夫ですか?」

 

 平塚先生に缶を渡しながら、ふと心配になる。のん兵衛の人が世の中に一定数いるのは知っているし、平塚先生もその一人なのかもしれない。どこかの知らない人がアルコールを大量に摂っていても何も思わないが、ずっとお世話になっている平塚先生に何かあったらと思うと気が気でない。

 

 俺の真剣な声音に気付いたのか、平塚先生がふっと苦笑する。

 

「心配するな。それなりにセーブはしているさ。……しかし最近、ストレスで酒量が増えている気はするな……」

「セーブできてないじゃないですか……」

「あとできちんと話すさ」

「……根本的に酒量を減らすことはできないんですか?」

 

 俺の言葉に平塚先生が「ふむ……」と考え込み、かしゅっと小気味よい音を立ててプルタブを開ける。

 

「そうだな、元々酒が好きということもあるが、やはり日々のストレスを解消しきれないがために呑んでいるという面も多分にある。何か良いストレス解消法があれば良いのだがなぁ……」

「ストレス解消法……」

 

 ぽそりと呟いたところで、またしても豊満な膨らみに目が行ってしまう。慌てて顔を逸らしたところで平塚先生と目が合った。

 

「今日は、君の視線をいつになく感じるな」

 

 照れといたずらっぽさが入り混じったような、ふたりの関係性を忘れてしまうような可憐で魅力的な笑み。こんな人が同じクラスにいたら秒で惚れて1ヶ月後に告白して一瞬でフラれただろうどうしたんだ俺は。

 

「……すいません、めちゃくちゃ見てました」

「お、おぉ? 急に素直になったな……酒でも呑んだのか……って、まだこれからか……」

 

 平塚先生が頬に手を当て、もじもじと身を揺らす。これ以上可愛らしい仕草で動揺させないでほしい。俺はいったいどこまで心を許されているのかと考えてしまう。

 

「そ、そろそろ呑もうか」

「そ、そうですね」

 

 何年もの付き合いがあるとは思えないほど浮ついた雰囲気の中、俺たちはぎこちない笑みを交わした。

 

 

 

 続く。

 

 

 




 ゆっくりのんびり、じりじりと。ふたりのスイッチが入る瞬間が楽しみです。


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 道のりは長いです。
 どうかこれからもお見守りいただけると嬉しいです(^^)


 それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!


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