静さんに「いつでも家に来ていいぞ」と言われたことは、俺の中でとてつもなく大きな意味を持った。
俺は夏休みの暇な時間を持て余した大学生で。
静さんは凛とした魅力的な女性で、アレなところがある性格も俺にとっては心地いい。
そして何より、ふたりとも互いを求めている。
それらの要素が掛け合わさった結果、俺と静さんは付き合いたての高校生カップルもかくやというペースで会うようになった。
日曜夜は静さんが俺の部屋に泊まり、平日はほぼ毎日俺が静さんの部屋に泊まった。
今まで自慰をすると言ってもせいぜい一日に1回、多くて2回といった具合だった。高校生としては多いとは言えないが少なくもない程度だろう。
それが静さんと過ごしていると、平気で3、4、5回としてしまう。それでいてさらにムラムラしてくるのだから、いつか本で見た「エネルギーは使えば使うほど湧いてくるもの」という言葉は本当なのかもしれない。
ほぼ同棲では……と思えるような日々を送った週末、初めてふたりでデートすることにした。付き合う前であればしょっちゅうラーメンを食べに行っていたが、付き合ってから外出するのは初めてだった。
× × ×
「あっつ……」
8月も後半に差し掛かった土曜日。容赦ない真夏の日差しが身体とコンクリを焦がす。街路樹にとまったセミが今こそ命の盛りなりと全力で鳴いていた。
待ち合わせ場所の駅前でスマホを確認する。待ち合わせ時間の20分前に来たが、予定より1時間早く起きてしまったので目は冴えわたっていた。しゃっきりした頭の割に集中力はなく、LINEの通知が来るだけでぴくぴくと反応してしまう。
「比企谷、待たせたな」
「あー、や、ぜんぜん……」
聞き馴染んだ声に振り返ると、
「……ぜんぜん……」
ぴたりと思考が停止して、同じ言葉を繰り返してしまった。直前の口の動きをなんとかそのままたどったような、そんな喋り方。
静さんはノースリーブのサマーニットにミニスカート、ミュールという格好だった。シンプルながらも豊満な身体のラインがくっきりと浮かんだ上半身、すらりと伸びた脚、そして何より、ちらちらとこちらの反応を窺う照れた顔。
「は、はは、すまない、さすがに無理があったか? デートだからといって年甲斐もなく……はは……」
静さんがスカートの裾をしきりにくいくいと引っ張り、俺の視線に気付いて身をよじらせる。
「……大胆なのか恥ずかしがりなのかどっちなんですか……」
「す、すまない……見てほしいんだが、見てほしくないような……」
「……可愛すぎですって」
「……へ?」
「何でもないです、行きましょう」
「比企谷? いま可愛すぎと言ってくれたな?」
「ばっちり聞こえてんじゃないですか……しかも付加疑問文……」
灼熱の陽射しと羞恥心が、顔の外側と内側から炙ってくる。
照れ隠しになにか言おうと振り向く。
静さんは艶やかな黒髪の毛先を指にくるくると巻き付け、上機嫌に笑っていた。無邪気な表情に力が抜ける。
「……似合ってます、すごく」
ここできちんと本音を言わないのは、彼女が俺に使ってくれた時間に報いていないような気がしたので、ぽそりと告げる。なるべく小さな声で。
静さんがぴたりと動きを止め、にぃっと肉食獣のような笑みを浮かべた。
「ふふ、君も成長しているようで何よりだ」
「全力で褒めちぎってやりましょうか」
「それは……嬉しいが、デートどころじゃなくなりそうだ」
「デートどころじゃなくなった場合はどうなるんですか?」
「私の家に行く」
「乙女なのか肉食なのか……」
「どちらも私だよ。さあ行こう」
静さんが俺の手をぱしりととって足早に歩きはじめる。
「え、あ、ちょ……」
慌ててついていく俺は、傍から見れば下手をすれば弟、あるいはいとこのように見えるかもしれない。そう思われるのは恥ずかしいし、静さんにも申し訳ない。
なので、
「お? 比企谷も乗り気じゃないか」
静さんに並んで歩くと、しっかり手をつないでなるべく悠々と歩くようにした。
「まあ……せっかく初めてのデートなわけですし」
「君からデートという単語を聞く日が来ようとは……」
「俺だってそれくら言いますって」
「どうかな? 私を誘うとき、『ちょっと買い物行きません?』という言い方だったろう?」
「……記憶にございません」
「裸のときはもうちょっと素直なんだがなぁ」
「静さん、今日の格好めちゃくちゃ似合ってます。可愛いです」
「う……ぐぐ……」
俺と同じくベッドの上以外は乙女な静さんの顔が赤くなる。けれど俺の顔も熱かった。つないだ手はどちらも熱くなっているのか、変化が起きているのかどうなのかがいまいちわからなかった。
× × ×
静さんの提案で、今回のデートでは普段やらないことをやってみることにした。
俺も静さんもひとりでの時間をいくらでも楽しめるタイプだ。
なのでふだんひとりでどんな感じで過ごしているかを確認しあったところ、ふたりして買い物は即断即決タイプだということがわかった。
ぼんやりと食材を買いに行くことくらいはあるが、服にしろ何にしろ基本的にすぐ決める。5~10分くらいで店を出ることがザラなのだが、静さんも同じくらいの速度というのが驚きだった。アパレル店員も話しかけるヒマがないだろう。
そういったふたりの行動を鑑みた結果、試しに世の若き女子もすなるウインドウショッピングといふものを我らもしてみむとするなり。あのときのふたりの浮かれようを思い出して恥ずかしくなった結果、なにやらおかしな言い方をしてしまった。
店の商品をただ見て回る。それこそ秋葉原に行って好きなジャンルを眺めるならまだしも、汎用性抜群で老若男女に届けとばかりのこのショッピングモールでそんなことをして何が楽しいのか……と危惧していたが、結果としては普通に楽しかった。
商品を見る行為自体が……というよりは、商品を見ている静さんを見ることが楽しかった。
衣服、楽器、靴、本、その他諸々の店をのんびりとひやかす時間。静さんは思いのほかノリノリで、まるで箱入り娘が初めて外に出たかのようにあらゆるものに興味を示していた。家ではあれほど大胆なのに、デート中の彼女は本当にウブな少女のようにしか見えない。歪なくらいのギャップの破壊力はすさまじい。
「静さん、今日はいつになくテンション高いですね」
「そうか? ふふ、浮かれているのかもな。……待て、今のはナシで頼む」
「手遅れですね」
といったやりとりもした。静さんの顔はほんのりと赤らみ、俺の顔も熱かった。
週末の賑わいを見せるフードコートで昼食をとってからもウインドウショッピングを続け、ここを最後にしようと雑貨店に入った。女性向けのリーズナブルな商品が所せましと並んでいる。
「うーむ……普段はこういった場所にぜんぜん来ないからなぁ……」
静さんが腕を組み、ずらりと並んだネックレスを眺めている。むっちりした二の腕に目が釘付けになり、それを静さんに気付かれ、ひじで小突かれた。痛みでのけぞって危うく後ろの品物にぶつかるところだった。
「静さん、こういうのあんまり着けてる印象ないですね、そういえば」
そっと近づくと、静さんが俺の手を握った。誰からも見えない角度で、俺の手のひらをすりすりと指の腹で撫でる。
「たまには買うんだがね。じっくり買い物を楽しむ感覚がない分、本当にささっと決めてしまうからなぁ……コンビニと所要時間が大して変わらんのさ」
「それはすごいですね……」
ネックレスを眺めながら、むき出しの白い二の腕をふにふにと押しつけてくる。え、なにこの人、可愛すぎるんですけど。
「今日はただ眺めるだけのつもりだから、勉強するくらいのつもりで……お?」
静さんが手を離し、ひょいと手を伸ばした。
俺に背を向けてもぞもぞと何かしたかと思うと、
「これなんかどうだ?」
雫の形をしたターコイズブルーのイヤリングを耳に添え、どこかいたずらっぽくはにかんだ。
さらりと流れる黒髪、ほんのりと赤らんだ頬、そして淡い光を放つターコイズブルーのイヤリング。
「……それ、プレゼントします」
「へ? あ、いや、私はそういうつもりではなかったぞ? 買うなら自分で……」
「いや、俺がプレゼントしたいだけなんで。バイト代もそれなりに貯まってますし。気にしないでください」
「あ、う、そ、そう、か……あ、ありがとう……」
静さんがしきりに髪を撫で、上目遣いで礼を言う。家にいたら迷わず抱きしめていた。
イヤリングを耳に添えた静さんはあまりにも綺麗だった。この場限りでこの光景が見れなくなるというのはあまりにもったいない。機会損失にもほどがある。そう思っての提案だった。
会計をする前に、静さんが店員に何か伝えていた。会計後、イヤリングは袋に包まれることなく、タグを外して静さんに直接手渡される。
「比企谷、店の外で待っていてくれ」
「ん、わかりました」
とんとんと背中を押す手のウキウキが伝わってきて、俺まで楽しくなってしまう。
数メートル先の自販機のラインナップを眺めていると、ためらいがちに肩を叩かれた。
「比企谷、ど、どうだ……?」
両耳にきらりと光る雫の形をしたイヤリング。静さんは半歩だけ俺と距離を詰め、上目遣いではにかむ。
「……家にいたら色々とやばかったです」
静さんが目をぱちくりとさせ、それからにやりと笑う。
「ほう? それは具体的にどういう心理状況なのかな? 詳しく説明したまえ」
「そろそろ帰りましょうか」
「待て、逃がさんぞ」
すたすたと歩きだす俺の背中を楽しそうに、実に楽しそうにでしでしと叩き、俺の手を取り、「ほれほれ、どうなんだ?」といたずらっぽく問い詰めながらにぎにぎとしてくる。静さんは今この瞬間も俺を殺しにかかっている自覚はあるんだろうか。ちょっと説教してやりたい気持ちになった。
× × ×
車の中でも静さんは上機嫌だった。鼻唄を口ずさみ、信号待ちでは俺の手の甲をすりすりと撫で、しきりにイヤリングに触れていた。プレゼントひとつでこれだけ喜んでもらえる姿を見ると、遥か昔の人が国を傾けるのも厭わぬほどにひとりの女性に入れ込む気持ちもわかる気がした。
静さんのマンションの地下駐車場に着くなり、唐突にキスをされた。
「んむ……っ?」
驚いたものの、密室でこんなことをされたらムラッとするにきまっている。周囲に誰もいないことを確認して舌を入れた。静さんは目を見開いたものの、すぐにうっとりと舌を巻き付け、俺の股間をすりすりと撫でまわした。
「今日は君との純粋なデートを楽しみたかったわけだが」
「そうですね」
「ぶっちゃけるぞ」
「どうぞ」
「ムラムラしてた」
「…………」
「硬くなったな」
静さんが下腹部の膨らみを嬉しそうにきゅっきゅっと揉む。
「普通に手をつないでいる分には良いんだがな。食事で満腹になったあととか、あとは雑貨屋で触れたときとか……正直、君のここを触りたくてしかたなかった」
「……静さん、エロすぎることを言ってる自覚あります?」
「もちろん」
静さんがチャックを開け、細い指をするりと忍び込ませる。肉竿に優しく触られただけで先走り汁が溢れ、パンツに染みが浮かび上がった。
「私はどうやら、外ですることにも興味があるようだ」
しゅるしゅるとパンツ越しに竿を撫でながら静さんが囁く。湿った吐息が耳朶に吹きかかり、肉茎の勃起は増すばかりだ。
「どんだけエロいんですか……まあ、やりたいなら付き合いますよ」
「本当か? しかし、無理やり巻き込むのは避けたいな……ん……っ」
ノースリーブの腋の部分から指を挿し込み、ブラ越しに乳房をふにふにと揉む。静さんの目が甘く蕩けた。周りをちらちらと伺いながら、ついばむようなキスを何度も繰り返す。
「場所とか状況によりますけどね。スリルがありすぎる状況じゃなかったら、まあ、たぶん大丈夫です」
「そうか、ならば考えておくよ。……ここでこれ以上するのはさすがにまずいか」
「俺はいいんですけど、見られたら静さんが気まずいですよね」
「たしかにな」
静さんが困ったように笑い、肉竿をくにくにと揉んで名残惜しむようにキスをした。
車を出ると、静さんは辺りをきょろきょろと見回し、にっと笑って股間をすりすりと撫でた。
「また楽しみが増えたな……」
ちろりと舌なめずりする静さんの尻をそっと撫でる。静さんは唇を引き結んで「んっ」と甘く喘ぎ、ギラついた目で俺を見た。
「今にも襲いかかりそうですね……」
「こんな凶悪なものを持っている君が悪い」
エレベーターに乗るなり、静さんが遠慮なしに勃起肉を握り締めた。
このあと、力尽きるまで一晩中交わった。静さんは裸になってもイヤリングを着けていて、間接照明を浴びて昼とは違う妖しい輝きを帯びるイヤリングと、俺に跨ってねちっこく腰を振る静さんの艶姿にただただ見惚れた。
続く。
雑貨屋でのスキンシップはプロット段階では入ってなかったんですが、ごく自然と入れられたうえにものっすごくエロい空気が出ました。平塚先生のあふれ出るエロさよ。
<コミケ本について>
今回のC98はなくなってしまいましたが、新刊のはるの本は出します!
しかし現地で頒布するいつもの状況とは色々と異なるため、
①4月26日(日)を目標に電子版の頒布開始
②同日に試し読みをこの場所で投稿
③紙書籍の委託は夏頃を目安にして、イベントでの頒布は次の冬コミで行なう
といった対応をとろうと思います。
今回のはるのん本は大学生八幡×社会人はるのんで、何気ないエロスでのお話とは独立しています。
しかし何気ないエロスでも書いたはるのんの特性を、さらにエロくしてもりもりと入れていますので、鼻血必至な作品に仕上がっているかと思います。
どうぞご期待ください(^^)!
それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!