うだるような夏の暑さがすっかり鳴りを潜めた頃。
俺は、静さんにひざ枕をしてもらっていた。
状況を説明したらさらに恥ずかしくなった。
「君はいつになったら落ち着くんだね?」
柔らかな太ももと手のひらに挟まれてずっともぞもぞする俺を、静さんが楽しげにからかう。
「いや、落ち着くわけないでしょ……」
「ふむ、それなら……こういうのはどうだ?」
Tシャツの上から乳首に触れられ、びくりと身体を震わせる。
「ぉ、ぁ、ちょ……っと……っ」
「ん、どうしたどうした?」
乳首を指でまさぐりながら股間に触れてくる。びきりと張り詰めた山を愛おしむように手のひらでさすられ、ますます張り詰めてしまう。
「そういえば比企谷、君は車の免許を持っていなかったか?」
「ぅっ、く……っ、こ、この状況で普通に会話するって……どういう神経してんすか……」
「私はノーダメージだからな……ぅあっ」
顔に乗る柔らかな膨らみの頂をかりりとこする。ブラを着けていないから攻めやすい。
「……こら、反撃は禁止だぞ」
「なんすかその理不尽すぎるルールは……」
じぃっ、と見つめ合ったまま、互いの弱い場所を攻め合う。
静さんはしばし迷うように目を泳がせたあと、会話を優先させたいのか手を離した。俺も合わせて手を離す。
「免許は……まあ、そうですね、去年の夏にとりました。一応ですけどね、一応」
心のどこかでこの人への憧れがあったことは否めない。あの頃はこんな関係になるとは思っていなかったけれど。
「ふむ、そうかそうか……」
静さんがあごをさすりながら、ごく自然に股間の膨らみを握ってくる。え、なに、とりあえず握ると安心しちゃうの? 抱き枕的な?
「それなら、私の車を運転してみるか」
「……へ?」
思わぬ提案に目をぱちくりとさせる。握られっぱなしだとマジで言葉が頭に入らないので、手をぺしっとはたいて起き上がる。静さんは「これくらいいいじゃないか」と言わんばかりに唇を尖らせている。子どもか。いや、やってることは子どもじゃないんだけど。
「えっと……保険って年齢制限があるんじゃないでしたっけ?」
「なぁに、君に合わせて下げればいいだけだ」
「いや、わざわざそんなことしなくても……」
「君と付き合ってから生活費がだいぶ浮くようになったからな。これくらい安いものさ」
静さんがからからと笑う。保険費用がどれほど高くなるかはわからないが、たしかに俺と静さんは半ば同棲という形になっていて、そのうえ静さんはあれほど吸っていたタバコにほとんで手をつけなくなっていた。代わりに俺が搾りとられているんだが、それはそれで悪くないと思っている。サキュバスと同棲していると思えばいい。や、よくはないんだけど。
「……まあ、ちょっとした体験ってことで……」
「うむ、それなら早速手続きをしよう」
静さんがさっそくスマホをいじり出した。行動が早い。
俺が静さんの車を運転する……。
なんとも不思議な気持ちになりながら、窓の外の穏やかな晴れ空をぼんやりと眺めた。
× × ×
数日後、無事に保険の適用年齢を変更できたということでドライブをすることになった。
静さんのマンションの地下駐車場で、これから自分が運転する車と対峙する。
フロントが面長な印象を受ける黒いスポーツカー。今までは「男前な車だな」くらいの印象しか持っていなかったが、自分が運転するとなると、とたんに得体の知れないものに思えてくる。軽自動車ならまだ気軽に乗れたんだが……。
「比企谷、そっちは助手席だぞ」
「へ? ……あ」
いつものクセで助手席のドアを開けようとしていた。いきなりやらからしてしまった。顔がひどく熱い。
さっさと運転席に乗り込もうとすると、きゅっと手を握られた。
「心配するな、私がついているから」
優しい笑みに見惚れる。しかしそれと同時に、これから運転しようとする男とそれを励ます女性という構図に気付き、
「……ありがとうございます」
礼を言いながらも、これは男としてどうなんだろうか……とうじうじしていると、ぐりぐりと頭を撫でられた。
「君は本当に可愛いな」
「……あのですね」
「いや、すまない。悪ノリが過ぎたようだ」
静さんがくつくつと笑いながら俺の背中を撫で、助手席に乗る。続いて俺も運転席に乗り込んだ。
「ふむ、左右が入れ替わっただけでずいぶんと新鮮なものだな」
「……ですね。なんか、すげぇ不思議な感じがします」
いつもは右にいる静さんが今は左にいる。ラーメン屋のカウンター席で同じことが起きてもなんとも思わないが、車内においては運転する人が変わるという大きな意味を持つ。
人の車を運転する――とだけ言えば簡単なことに思えるのに、今の俺にとっては大人になるための通過儀礼のように思えた。
「さてさて」
静さんがうきうきとシートベルトを着ける。今日の静さんはカットソーにカーディガンを羽織っていて、シートベルトがとてもいい働きをしてくれている。なるほど、右から見るとこうなるんですね!
「君は本当にわかりやすいな」
「……すんません」
バレてた。
「構わんよ。いくらでも見るといい」
余裕たっぷりにくすくすと笑い、ミニのタイトスカートと黒タイツに包まれた脚を優美に流す。毎日痛感していることではあるが、この人はどうしようもないほどに大人の女性だ。しかも俺のうぬぼれでなければ、静さんはお付き合いをしてからどんどん綺麗になっている。いっしょに街を歩くときに視線を感じることも多くなった。
「免許をとったのが去年ということだが……ペーパーなのかね?」
そっと太ももに手を添えられる。不安を和らげるための優しい行動なのだろうが、痛いほどに心臓が跳ねた。
「あー……ちょこちょことレンタカーで練習してました」
練習、という言葉を無意識に使ったことにハッとする。
「何を本番として想定していたんだね?」
「何を、って……」
静さんはにまにまと笑っている。尋ねはしているものの、俺の真意を――いつか誰かの前で運転する機会を想定していたのだろうということを、すっかり見透かしている。小さな見栄さえ見透かされて、どんどん自分の存在が小さく感じられる。
「比企谷」
隣にいるはずなのにやけに遠くに感じられた静さんが、俺の手をそっと握った。顔を寄せ、吐息がかかるほど近くで囁く。
「心配するな。車の運転くらいすぐに慣れるさ」
流れるような手つきで股間を握り、
「……それに、君はこっちで毎晩私をいじめているだろう? 自信を持つといい」
吐息のたっぷり混じった声で囁かれた直後、唇が重なる。ちろちろとじゃれつくように舌が絡み合い、そのあいだも勃起肉をゆっくりともみほぐされる。
静さんのおかげで男としての自信がどうのなどというのはどうでもよくなったが、
「……あの、すげぇムラムラするんすけど」
代わりに、ドライブに行くどころではなくなってしまった。
「少しは不安が紛れただろう? それじゃあ行こうか」
「あんた鬼ですか……」
「なんだ、ここでいちど抜くか?」
膨らみの頂を爪でかりかりとこすり、ちろりと舌なめずりをする。なんでこうも的確に人の劣情を煽ることができるのか、この人は。
「……いや、今はやめときます。1回じゃすまなそうですし」
「はは、よく分かっているじゃないか。ドライブを延期させるところだった」
さりげなくすごいことを言って、
「さあ、行こうじゃないか!」
やけにテンション高めにびしっと前を指差す。海賊かな? 太陽を落としてそうですね!
薄暗い地下駐車場にまるで似合わない仕草がおかしくて、つい笑ってしまう。
「……まあ、気楽にやらせてもらいますよ」
「うむ、それがいいさ」
なんだかんだで肩の力が抜けたことにひそかに感謝しながら、シートベルトを着け、エンジンの点け方などを軽く教わり、おずおずと車を発進させた。
続く。
八幡と平塚先生の年齢差って、きっと10年後、20年後ならさほど気にならなくなると思うんです。だけど20歳の八幡からすれば平塚先生はどうしようもないくらいに大人で……というやきもきはあるんだろうなと。
話は変わりますが、俺ガイルの3期が始まりましたね! 僕はこれからゆっくり見るつもりです。
Twitterのトレンドに「川なんとかさん」が載っているのを見て、またコミケ本でサキサキを書きたくなりました。ヒロインごとに魅力は違いますが、サキサキは八幡とのやりとりを一番リラックスした状態で書けるんですよね。素敵な女の子。
それでは、今回もお読みいただきありがとうございました(^^)!!