1.
心臓が爆発しそうなまま、電車の中でしばし抱き合う。
……早く着いて、お願い。
や、違うんです、この状況がいやなんじゃなくて、心臓が耐えられそうにないんです。
あと3駅……あと2駅……あと1駅……と、まるでカウントダウンのようなノリで目的地に着くのを待つ。
油断して下を向くと、あごのすぐ下に小町の頭があるので、シャンプーの良い匂いを嗅いでしまわないように必死で前若しくは上を向く。
あくまで不自然じゃない程度に、怪しまれない程度に。
……ちょっと、首を攣りかけた。
攣りそうになって身体がぴくっと動くと、小町の背中に回している腕も少し動いてしまい、
「んんっ……」
と、悩ましい声が聞こえてきた。
……自分から手を回して良いって言ったのに、なんでいちいちこんな色っぽい反応するのん?
死んじゃう、マジで。可愛すぎて。
色っぽい声を聞いてしまい、跳ね上がるように再び上をぐりんっと向くと、また首を攣りかけた。
攣るなぁぁぁ、俺、耐えろぉぉ……と心の中で唱えながらぷるぷるしていると、電車が目的の駅に着いてドアが開いた。
やっとのことで解放されたと喜びながら手を離すと、小町が不満げな顔でむーっと唸ってきた。
いや、なんでだよ。目的地だよ?
「……ほら、行くぞ」
声をかけると、唸り声を上げるのを止めて、握手を求めて来た。
「え、なに、仲直りかなんか? ケンカしてないよね俺ら?」
むしろ、10秒前まで異常なくらい仲良しだったと思うんだけど……。
すると、小町は目をぱちくりとさせて、直後に顔が更に不満げになった。
あっれー?なんでなんで?
「……ごみいちゃん、ごみにも限度ってもんがあるよ。手、手!」
言うと、小町が差し出していた手をくいっくいっと動かす。
……犬? やだなぁ、俺、由比ヶ浜じゃねえんだけど……。
訳も分からぬまま、犬のテイストで小町の手に自分の手を乗せた。
……「殺したろか」って言わんばかりに睨まれた……なんでなのん?
「……わかった、わかったよ、お兄ちゃん。もうエスコートしてもらおうなんて淡い希望は抱かないよ。ほら、行こ?」
肩を落として大きくため息をつくと、小町がお手をしている俺の手をぱっと握った。
……あ、そう言う事でしたか……。
ボケでやったなんて誤魔化しをしようものなら、もはや八幡的なポイントが0もしくはマイナスに食い込みそうなので、何も言わずただ気まずい顔をした。
……超かっこ悪い。
2.
買い物に向かったのは、以前クリスマスパーティーの買い出しに皆で訪れたショッピングモールだった。
あれから2ヶ月と経っていないけれど、クリスマスムードの装飾が無いとまた随分と違って見える。
小町は初めは不機嫌だったものの、俺と繋いだ手を見る度に段々とにやけて行き、途中で有無を言わさず恋人繋ぎをしてきてまた更ににやけ、とどめにさっき通りかかった店の前で店員さんに「そこのカップルのお二人! こちら今セールとなっていますよ! 記念日のプレゼントなどにいかがですか!」などと煽ってきたもんだから、もう顔の筋肉がでろっでろになる勢いでにやけている。
ちなみに、その店員さんに「いや、兄妹なん――」と言いかけたところで、小町の強烈な水平チョップを腹にもろに食らった。身体の捻りによる力を利用した見事なチョップだった。
お前、あれご飯の後に食らってたら絶対リバースしてたぞ……。
しばらく歩いていると、小町が不意に立ち止まった。
「あ、お兄ちゃん、あれ……」
「ん? ……あ」
以前訪れた時に小町がハマっていた、人をダメにするソファだった。
君はまだ、そんな所に留まって道行く人をダメにし続けているのかい――?
心の中で語り掛けた。
虚しかった。
「……」
小町が無言でふらつくようにソファに近付いて行く。
いけない! 妹が堕落してしまう!
小町の腕をむんずと掴み、説得を始める。
「行くな、小町。あれは人をダメにするソファだぞ」
「止めないで、お兄ちゃん。小町はあそこに行かなきゃいけない。あの子が呼んでるの」
お前の中であのソファはどういうキャラ設定なんだ。
「行くな。ヤツは炬燵の仲間だ。受験を目前に控えたお前をダメにする悪魔の使徒だ」
「それでも……止めないで、お兄ちゃん。初めて出会った後、あの子が小町を呼ぶ声が、頭の中で何度も聞こえていたの。ずっと……ずっと、気になってた。目の前に来て、こうしてあの姿を、寂しそうに待っているあの姿を目の当たりにしたら、もう、止まれないよ」
話が大きくなってきた。やたらと重いストーリーになってる。
冷静になったら負けだ。
「いや、それでも、俺はお前を止める。だって、俺はお前の、たった一人の兄なんだから」
きりっと表情を引き締めて言うと、対照的に小町の表情が急に緩んだ。
「はー、もう飽きた。そろそろソファに沈んで良い?」
え、鬼?
小町が急に一歩引いた。
あと、沈むって言うな。堕落前提じゃねえか。
引き止めるのは難しそうだ。しかし、このまま一人で行かせても小町が無限に堕落して行くのは目に見えている。
がしがしと頭を掻いて、
「あー……じゃあ、俺も一緒に沈むわ。それならどっちかが歯止めをかけるだろ」
ポイントは「俺が」歯止めをかけるとは言わないところ。正直あのソファの魔力にやられる可能性は超高い。
「お、お兄ちゃん……!」
なんで感動した風のリアクションをとったの?さっきのノリが戻ったのだろうか。
「よし、じゃあ一緒にあの悪魔の使徒を倒しに行こう」
「あー、そう言うの良いから。じゃ、行こ行こ」
……。
……このやろう。
「あ~~~~……」
「うおっ……あ~~~~……」
濡れ場ではない。
二人同時にぼふんとソファに座ると、あっと言う間に二人揃って落とされた。
これは……想像以上だ……。
こんなものを家に置いた日には、意識があってももはやまともな会話もろくに出来ない自信さえある。
その時の俺は、声をかけられてもきっとへんじがない。ただのしかばねのようだ。おお、八幡、死んでしまうとは情けない……。
それにしても、小町と並んでソファで喘ぐとか、どんな幸せイベントだよ。
人目を気にして一応控えめなリアクションだけど、もし誰もいなかったら大声で「っあ~~~~……!」って言ってた。高いところから落ちた訳でも、絶頂に達した訳でもない。
もっとこのソファの柔らかさを味わおうと、うつ伏せになってもぬもぬしてみる。やばい、沈む。もぬもぬ。
ふと、横を向くと、小町と目が合った。
小町も同じくもぬもぬしていたようだ。
同じタイミングでもぬもぬするとは、流石妹。
しょうもない事を考えていると、小町がにこっと笑いかけてきた。
小町の微笑み方は、いつものにぱっとした快活な笑い方ではなく、うっすら目を細め口角を上げる、艶っぽい笑い方だった。
「……っ~~~~!」
その笑みを見た途端に、さっきの電車の中での事を思い出してしまった。
腕に力を入れ一気に立ち上がり、小町の方に向き直る。
「……そろそろ行くか」
「え~、もう行くのー?」
不満げに言う小町の手を引き、足早にその場を去った。
……あの笑顔がきっかけで思い切り勃って、居ても立っても居られなくなったなんて言えない……。
続く。
推敲も含めて、1時間強で書いてみました。
ここまでのキーワードは「人をダメにするソファ」だけで、後は勢いで。
本当はこの後の微エロ(だけど、どエロ)のシーンまで書くつもりでいたんですが、ここまでで意外と字数が多くなったので区切りました。焦らしてごめんなさい←
お詫びと言うのか分かりませんが、最低でも明日は、状況によっては明後日も、小町エピソードの続きを書きます。
本番に行く手前のエロエロシーンが6つ程浮かんでるので、焦らすけれどやたらエロいって感じのシーンがめっちゃ続きます。単純に考えたらさきさきエピソードを越える長さになりそうです。
さきさきエピソードの最終回、気に入って頂けて良かったです。書いた感触と皆さんの感想から得られる感触から考えて、もう絶対after的な話を書こうと決めました。
4連休って書いたものの、確認したら7連休だった……!
しかし書き溜めると力が抜けてしまうので、一日一話、今日みたいに短時間集中で仕上げたいと思います。クオリティも上げるぞおぉぉぉぉ……。
これだけ多くの方にご覧頂いて、毎回新しく感想を書いて下さる方が居て、常連さんとはもはや顔馴染みになりw、嬉しい限りです。
本当に、ありがとうございます。
仕事中に「あと何話くらい書けるかな~」と考えてみたんですが、いろはすやはるのんの話も数に入れると、各ヒロインのafterを含めずに考えてもあと丸一ヶ月は続けられそうです。すご。
このペースで書けるのは、
①小説を読んでインプットをがんがん増やしている
②日常のシーンも入れて、エロ以外の要素を一定量混ぜている
③僕が変態
と言う理由からかなと思ってます。③が一番重要。
皆さん、良いゴールデンウィークをお過ごし下さい(^^)
毎日見に来て下さっても良いんですよ←
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!