雪ノ下が落ち着くまで、由比ヶ浜が慰めてくれていた。俺はこの場合下手に慰めても悲しいばかりだと思い、いつもの位置から見守っていた。何この悲しい状況…。
「…ふう。お待たせしてごめんなさい。では、早速取り掛かりましょうか」
え、何でさも何事も無かったかのように振る舞えるの?アイアンメンタル過ぎるでしょ?本当に?
由比ヶ浜の胸中の複雑さたるやそれはもう計り知れないものがあるな。
片や関東平野、片やヒマラヤ山脈…。
同じ立場に立てず、気持ちを共有出来ないと言う意味では、今回はある意味男である俺よりも距離が遠いかもしれん。んなことないか。
すげえ真面目に考えちゃったよ!
「…まあ、そうだな。まずはネットで調べてみるか。大体雪ノ下も調べてるとは思うけど、新しい方法が提示されてる可能性もあるし、俺の検索の方法でたまたま雪ノ下とは違うものを見付けるかもしれない」
検索ワードを考えながら、キーボードをかたかたと打ち始めた。
「あ、あまり…」
「ん?」
雪ノ下がえらく小さな声で、ぽそりと言った。
「あまり…わ、私の名前で言わないで…もらえる…?そ、その…恥ずかしい…の…」
頬を赤らめ、完全に目を見ない訳にも行かないと思ったのか俺をちらっとだけ見て、すぐに目を伏せた。
ちょっと待て、その仕草可愛いからやめろ。何か変な気持ちが芽生えちゃうぞ。あんまり純粋でない何かが。あ、むしろ純粋か。
「ゆきのん…!!」
ああ、ほら、可愛さのあまり百合ヶ浜さんが飛びついちゃったじゃねえか。
雪ノ下は嬉しさと恥ずかしさとその他の若干毛色が違う何とも言えない感情が混ざった表情をしている。
「…今は、由比ヶ浜のハグも雪ノ下にとっては辛いかも、な…」
「「!!」」
ぽそっと言ってみた。
豊満な胸を雪ノ下に押し付けていた由比ヶ浜がぴたっと止まる。雪ノ下も止まった。世界も止ま…らないな。
事態はすぐに把握したようで、由比ヶ浜は申し訳無さそうに雪ノ下から離れる。
「ゆきのん…ごめんね?」
「由比ヶ浜さん…謝られた方が辛いことだってあるのよ…。」
ものすごく気まずい雰囲気が流れる。あれ、なんかすーごい罪悪感。
仕方ない、ここはフォローに入るか。
「由比ヶ浜はどうやってそのメロンを入荷したんだ?その方法を挙げて言ったら雪ノ下の参考になるかもしれない」
「だれがメロンだ!?」
オブラートに包もうと思ったら、ついいつもの例えが出てしまった。
「あ、や、だって、そんな見事なもん持ってたら、もはやそう例えるしか…」
実際、由比ヶ浜の胸は大きい。ただ大きいと言うよりは、きちんと締まった身体を維持している上での張りのあるおっぱいの形をしている。爽やかだしエロい。なんかもう、エロい。
「あ、え、ええ!?そ、そんな風に…思ってたの…?」
やばい、怒らせたか。…ってあれ、ちょっと、ガハマさん?胸を抱くように腕で隠しながら、半身で顔を真っ赤にしてこっちを見てらっしゃる。あれ?
「う、嬉しいな…えへへ」
その体勢のまま、はにかんだ。おいやめろよ何だその可愛さは。二人して俺の可愛いランキングを超速で揺さぶりに来るんじゃねえよ。この部室には!3人しか居ないのだから!変な気持ちになっちゃうよーーー!
「あ、ああ…」
へったくそな返事をしてしまった。口数少ない男ってクールって思われるらしいしいっか!だめか!
「比企谷くん」
「ひゃいっ!?」
びっくりした。急に呼ぶなよ。おかげで変な声が出ちまったじゃねえか。
「…私は?」
「…ん?」
「私の、その、胸は、例えるなら何なの?」
え、何この拷問。そんな真剣な、でもどこか助けを求めるような目で見つめてくるの?
何て言えば良い?どうすればこの場が丸く収まる?ちくしょう、答えが見つからねえ…!
「えーっと…由比ヶ浜との比較でいいか?その方が考えやすい」
「ええ、構わないわ」
「台所にあるもので言ったら…由比ヶ浜がメロンで、雪ノ下がまな板だな」
「」
ごめん、食材ですら無かった。
「んで、山で言ったら…由比ヶ浜がエベレストで、雪ノ下が…砂丘?」
「」
首を傾げて言ってみた。目が腐ってるし男だから可愛くなかった。あ、戸塚は可愛いな。じゃあ目が原因だ。
…山じゃなかった。丘じゃん…。
あれ、雪ノ下から反応が無い。
ちらっ、と雪ノ下の顔を見てみた。
顔が固まったまま、涙がつつーっと頬を伝ってらっしゃるー☆
そこから、嗚咽を漏らす雪ノ下・女子女子した責めを浴びせる由比ヶ浜・手を合わせて全力謝罪(土下座は何か見たくないと由比ヶ浜に止められた)する俺と言う地獄絵図が展開された。マジで地獄だった。
雪ノ下が泣き止んだ。もう、あなたにとってこの話どれだけトラウマなのん…。
泣き過ぎでしょう。何、教室の後ろの方に居る縦ロールさんなの?論破とガチ枕投げで泣いちゃうの?
「…その、ほんとに悪かった。お詫びに何でもするわ」
「…ぐすっ、…本当ね?」
泣き腫らした目で、上目遣いで確認してくる。
いやちょっと本当に今日どうしたの?ギャップで責められ過ぎて俺の心がどんどん攻略されてるんだけど。やめてー!戸塚ルート又は小町ルートから逸れるー!2つ挙げてる時点で既にぶれてるー!
「そ、そうだ、あたしがやってた方法だよね!えーっとえーっと…」
由比ヶ浜が話題を戻してくれた。マジ感謝、尊敬。やっすいラップみたいになってしまった。
「あ、そうだ、キャベツと牛乳!」
「…ぐすっ、それは…もう試してるわ…」
おお、流石だ。
「由比ヶ浜、後はなんかあるか?」
「後は…ストレスをためない様に発散しながら、いっぱい寝る!」
「おお…まともだ…。バカの子は胸が大きくなるんだな」
「だれがバカの子だ!?」
「あ、や、すまん。それにお前も、ただのんびり過ごしてた訳じゃないもんな。今まで見て来たんだから、それくらいは分かる」
何の気無しに言ってみたんだけど、由比ヶ浜の様子がおかしい。なに、進化するの?更に胸大きくなるのかな…。
「あ、え、あ、そっか…見てて、くれたんだ…」
お団子頭をくしくしと触りながら、嬉しそうな顔で俯く。
ああ、どうしよう、今日のこの状況は危険な気がして来た。ルート変更を迫られている。いや、今選択してる戸塚ルートも小町ルートもイレギュラー過ぎるんだけどね!
「あ、まあ、な…。あ、ストレスって言うので思い出した。神経質な人はストレスをためやすいから胸が小さい人が多くて、大らかな癒し系の人は胸が大きい傾向があるらしいな」
後者をなるべくやんわり言っておいた。由比ヶ浜の表情が胸同様にやんわりしてきた。良かった。…何が良かったんだ?
この理論で行くと我らがめぐり先輩も良い感じに隠れ巨乳なのかもしれない。あれ、ここに来て新ルート?
「だから、具体例で言うと長女の人だとストレスを抱えて小さいままの人が多いみたいだ。…あ」
思わず、あって言ってしまった。
これ、雪ノ下姉妹に当てはまらないじゃん。
雪ノ下を見ると、固まってる。アストロンかけたのってくらいに。
「…なぜ、姉さんが…」
震えだした。チワワか。猫に例えた方が良かったかな、ごめんね。
「ゆきのん…。陽乃さんのストレス発散を、ゆきのんがくらい続けたのかな…」
「うっわすーごい納得しちゃった」
「…言い得て妙ね。思い返すと思い当たる節が多すぎるわ…」
悲しみが止まらない部室。
そこへ、部室のドアをがららと開ける音がした。
「おー、やってるかねー?」
平塚先生だった。
「…ん?何か調べものをしているのか?それに、雪ノ下、お前その涙の跡は…おい、比企谷」
「俺もう犯人確定なんですか」
結構がっつり関与してるけどね!
早めに話題を逸らそう。
「先生は今日は何用ですか?相手を見付ける方が先だと思うのですが」
「ほう…」
先生の右拳が力強く握られた。なんでただ握っただけでめきっと音がするの?俺死んじゃうよ?俺の身体のタフネス、豆腐だよ?
「…まあ良い。何、少しばかり時間を持て余していてな。…で、君たちは今何をしているんだ?」
「あ、や、その、胸を大きくする方法を調べてまして…」
由比ヶ浜が言いづらそうに伝える。まあそうなるわな。
「ほう、しかし、比企谷は男だし、由比ヶ浜も…あ」
平塚先生が小さな声を上げた瞬間、雪ノ下がびくっと跳ねた。
やめて!雪ノ下を見ないであげて!彼女のライフはもう0よ!
「…ふふ、そうか、君たちはそんな分かりやすいアピールをするんだな」
「え、ええ!?ちょ、ちょっと先生、何言ってるんですかーもう!」
由比ヶ浜が慌てて否定してる。なに、何の話?
しかし先生も巨乳だよな。試しに聞いてみよう。今日は何かこういう話題の口が回りやすくなってるし。…それ、やばくね?
「先生めちゃくちゃスタイル良いですよね。胸めっちゃ大きいし、くびれもすごいし。先生が前ドレスを着てるのを見たときなんかマジで一瞬呼吸を忘れるくらい見惚れましたし。どうやって維持してるんですか?」
「あー、確かに!先生のウェディングドレスやばかったー!」
もっとも、俺の場合はウェディングドレスの前にも、先生が出席していた結婚式にたまたま出くわした時に先生のドレス姿を見ていたんだけど。
どちらの時も、あんまり綺麗なもんで一瞬誰か分からなかった。
「…先生?」
由比ヶ浜の言葉で気付いた。先生が固まっている。
「…あ、ああ!や、その、あ、そ、そんなに…褒められるとは、な…」
いつもの白衣にズボンと言う出で立ちは、イメージで言えば男前と言う言い方がふさわしい。
しかし今はどうだろう、頬を赤らめ、身体をもじもじとくねらせ、同じ格好なのにまるで違う印象を受ける。
一言で言うと、可愛い。え、何これ、また新規ルート?今日は大漁だー!
「…ふう、こほん。私は特に意識はしていなかったな。気付いたらこの方法が役立っていた、と言うパターンはあるかもしれんが…」
咳払いで一度立て直した先生が冷静に答える。
ま、そんなもんだよな。
「そうですか、ありがとうございます」
「うむ。ああ、そう言えばもうじき下校時刻になるな。そろそろ帰り支度をしたまえ」
先生の言葉を聞いて時計を確認すると、確かに良い時間だった。今日はここまでだ。
「分かりました。では先生がいらっしゃる内に片付けをして、鍵をお渡しすると言うことでよろしいでしょうか」
「ああ、それで構わんよ」
いつの間にか復活した雪ノ下が、いつもの調子で話した。
部室の片付けを終えて先生に鍵を渡すと、3人で校舎を出た。
「じゃ、俺は駐輪場に行くから。また明日な」
そう言って俺が二人に手を振って別れようとしたら、弱い力でくっと後ろに引っ張られた。
振り返ると、雪ノ下がもじもじとしながら俺の袖を引いている。
「ひ、比企谷くん、それに、由比ヶ浜さん…」
「?どうしたんだ?」
顔を赤くして、ためらいながらも何かを伝えようとしている。
「その…今から、私の家に来ない?一人では出来なくて、部室でもやれそうに無い方法があるから、その…試したいの…」
「おー!いいよいいよー!ヒッキー行こうよ!早速小町ちゃんに連絡するね!」
「え、俺の意志、ってかお前が連絡すんのかよ?」
俺の意志なんて無いよねーはーい分かってまーす!にしても、家じゃないと出来そうにない方法って何だ…?なーんか嫌な予感がするな…嫌なのかも分からんな。なんかやたらどきどきする。
…女の子の家にお呼ばれしてんだから、それもそうか。
「…電話、終了!」
「小町、何て言ってた?」
「『結衣さんと雪乃さんで兄を美味しく頂いちゃってください』だって!どういうことだろね?」
…あのバカ妹…。
由比ヶ浜も雪ノ下も意味は分かってねえだろうけど。ってか何で中3の妹のが色々とませてんだよ。
「…そうか。まあ、良いぞ。あんまり遅くならないようにはしろよ?」
「あ、そこは小町ちゃんが『朝帰り上等ですって言うか帰ってもドアを内側から開けないようにするので絶対朝まで戻って来るな!って伝えておいてください』って…言ってたよ…」
「…そう、小町ちゃんったら…」
…あんのバカ妹…。
今度は流石に由比ヶ浜も雪ノ下も頬を赤らめてる。この空気マジ危険。でももう僕には帰る場所が無いんだ!
「…まあ、そのときそのときで判断すれば良いか」
渋々了承した。ほ、ほんとに渋々なんだからね!
そう言う訳で、雪ノ下の家に行くことになった。
危険なかほりがする。
何の危機感だろう…あ。
貞操だ。
続く。
次からエロゾーンに入ります。1~2話くらいを予定しています。今日又は明日には!
どんどんお気に入りの数に嬉しい悲鳴を上げております。本当に嬉しいです。
リクエストもお待ちしています!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!