1.
小町との電話を終えて、俺と由比ヶ浜は支度を始める。
由比ヶ浜は自分が既にシャワーを済ませていたことから、俺にもシャワーを勧めてきたのだけれど、着替えは持ってきてないし、勢いで入ろうものなら何かしら洒落にならないToLOVEり方をしそうだったので、自分ん家で済ませるからと言って遠慮しておいた。
あー、風呂入ってたら突然浴室がめっちゃ広くなって、そこに戸塚が気付かずに入ってきて広々とした湯船にはしゃいで泳いじゃって途中でばったり俺と目が合って戸塚の顔が真っ赤になるイベント発生しねえかなー。具体的すぎた。
支度とは言っても、俺はコートを着て荷物をまとめるくらいなのでさらりと済ませる。
自分の支度はなるべく早めに済ませて、由比ヶ浜が着替えられるように部屋の外に出た。
――別にいいのに……恥ずかしいけど。
俺がぱぱぱっと急いで支度をしていると、由比ヶ浜が俺に背を向けたまま、少し拗ねたような声でそんな言葉を呟いた。……やたら気恥ずかしくて、さりげなく曖昧な返事をして流してしまった。多分全然さりげなくなかったけど。ていうか後半に「恥ずかしいけど」って付けたりすんじゃねえよ。お互いただただ顔を真っ赤にして部屋に佇む地獄の着替えタイムになるぞ、分かってんのかこのメロンパンナちゃん(主に胸)が。
2.
由比ヶ浜の着替えが終わり、二人で玄関に向かって階段を降りる。
由比ヶ浜の髪はいつものお団子ヘアーではなく、下ろしたままだ。それが妙に大人っぽく見えて、彼女にばれない範囲で何度かチラ見した。……バレるかなあこういうのって……。
「……ん?」
靴を履こうとした時、由比ヶ浜が立ち止まってぽけっとしているのに気付いた。
目を向けて何やってんだと顔で言うと、由比ヶ浜がはっと我に返って、目を見開いて手をぶんぶんと左右に振る。
「あ、ご、ごめん……」
なんかさ、と指で頬をぽりぽりと掻く。
妙に照れている様子から、何かすごい恥ずかしいことを言ってきそうな気配がする……。
「ヒッキーと二人で支度して家を出るのって……なんか、すごい良いなーって……」
手を合わせてもぞもぞと指を絡ませながら、頬をほんのり朱に染めて流し目で俺を見る。
「…………」
…………。
「なんで無言だっ!?」
全力でツッコまれた。
しまった。
つい。
これが呆然自失というやつか。
……予想以上の恥ずかしさだった……。
「……あ、や、すまん、そう、か、まあ、良いんじゃねえのかな……」
頭をがしがしと掻きながら、動揺を隠さんと全力で視線を泳がせる。
玄関の靴箱、壁にかけられた絵、由比ヶ浜の胸、階段、由比ヶ浜の胸、リビングから見える台所、胸、階段、胸、胸……。
由比ヶ浜が、腕を抱きながら身体の向きを変えた。
「ヒッキー、胸ばっか見すぎ……」
「うぐ……すまん」
すぐバレた。
「あと、あたしがお団子じゃないとそんなに変かな? 階段降りてくる前まですごいちらちら見てたよね?」
「うぐぉぉ……」
さっきのもバレてた。死にたい。
「あ、や、変ではないと思う、ぞよ……」
「誰なのそれ……」
もう。
動揺しすぎて、キャラがぶれぶれだ。
勢い余って「生きることは劇的だ!」とか言っちゃいそう。僕のことは親しみを込めて比企谷菌と呼びなさい……やっぱやめなさい……泣いちゃうから……。
だいたい、バリアー効かないってどんだけ強力なんだよ比企谷菌。強力すぎて、比企谷菌に端を発したバイオハザードが起きるまである。
俺に異常(アブノーマル)があったとしたら何が良いかなーいやむしろ俺の場合備わってんのは過負荷(マイナス)かなーとか考えていると、由比ヶ浜がふっと息を吐いた。
呆れるような目で俺を見ているが、湛える雰囲気は柔和そのものだ。
「もう……、ヒッキーはほんといつでもきょどっちゃうしいちいちキモいよね」
「うるせえよ……」
何を今さら入念に罵倒してんだこいつ、と忌々しげに視線を飛ばすと、由比ヶ浜がにぱっと笑った。
「……でも、ま、いっか。これくらい、慣れれば大丈夫だよね」
その言葉は、俺に向けたものなのか、それとも自分に向けて言ったものなのか。
恐らく両方含まれているのだろうとは思うけれど、今はそれをわざわざ聞くようなタイミングではない。
由比ヶ浜のひまわりみたいな笑顔を見習って、俺もにぱっと微笑む(卑屈に)。
「ああ、我慢だ我慢。俺もお前のバカさ加減にはすげー頑張って慣れてやるとするから」
言って、片眉を上げる(卑屈に)。
すると、由比ヶ浜が目をむいて、
「誰がバカだっ!? しかもなんで偉そうなのさ!? あとヒッキー、前の顔も今の顔もすごいキモいから!」
ツッコミついでに、必死で作り込んだ笑顔についてものすごい罵倒を受けた。や、まあ、そんな必死じゃなかったっつうか全く必死じゃなかったけど。やっぱどっちの笑顔もわざわざ括弧で「卑屈に」とか言わなきゃ良かったかな……変わんねえか。
由比ヶ浜の強烈なツッコミの直後、2人の間に少しばかりの沈黙が流れる。
「…………ぷっ、くく……あはははっ」
今のやりとりも、それにより生じたであろう沈黙も、ほとほとばからしくなったのかどちらからでもなく自然と吹き出して笑った。
由比ヶ浜はからからと笑って、笑いが収まる頃には目にうっすらと涙を浮かべていた。
はー、と息を吐いてその目を拭い、由比ヶ浜がこちらにとてとてと近付いてくる。
「……どうした?」
目の前まで来た由比ヶ浜の髪の毛が目の前にちらつき、支度の際に付けたらしい香水のさりげない匂いがふわりと舞う。
俺の問いに答えず、由比ヶ浜がつと顔を向ける。
「……ん」
俺の二の腕に手を添えて、すっと目を閉じる。
何を求めているかは、すぐに分かった。
後は応えるだけ、そう、応えるだけ……。
…………。
「…………」
…………。
「なんでっ!?」
乙女モードから一瞬でお笑いモードに切り替えてもらってしまった。申し訳ない。
「や、こんな恥ずかしいこと出来るかよ……なにこれ? お出かけ前の……的なやつ? お前も出掛けんのに?」
言うと、由比ヶ浜がもじもじとして目を泳がせた。
「そ、それはそうだけど……ほら、ヒッキーの家まで行くのにそれなりに時間がかかるでしょ? だから……その、良い雰囲気でもうちょっとだけこういうことしておきたいなーって……だめ?」
俺の二の腕を掴んだまま、由比ヶ浜がおねだりモード全開になる。
……くうぅ……。
雪ノ下はこんなおねだりを1年弱の間シャワーの如く浴び続けてきたのか……そりゃあ由比ヶ浜に対して甘くもなるわ……。
だがしかし、俺は負けん。いくら可愛いおねだりをされても、お出かけ前のチューだなんて恥ずかしい真似は……。
「ヒッキー……」
うぐ……いや、それでも、こんな恥ずかしい真似は……!
「……だめ?」
うぐぅぅ……りょ、良心が、良心が痛むぅ……! だがしかし、それでも……!
苦悶に喘ぐ俺に対して、由比ヶ浜は畳み掛けるように、甘えるような表情で更に顔を近付ける。
「……あたし、ヒッキーと……き、キス、したいよ……」
「よし、しよう。今すぐしよう」
「急に心変わり!?」
はい、落ちた。今俺の最終防衛ラインが突破されたよ。入り込んできたのが歩だったらもう金にランクアップして好き勝手暴れちゃうよ。
こんなおねだりの波状攻撃を受けて無事なやつなんて、この世にいないぜぇ……。
「……そんでも恥ずかしいんだからな、さっと済ませるぞ」
「……うん、ヒッキー、ありがと」
「本当にさっと済ませるからな。いいな、絶対だぞ? 絶対さっと済ませろよ?」
「どっかで見たことあるやりとりだっ!?」
とまあ、小ボケを挟みつつ。
嬉しそうに微笑む由比ヶ浜を見て、どうしようもない程に幸せな気持ちになって、彼女のことがたまらなく愛おしくなる。
由比ヶ浜の肩に手を添えると、そっと目を閉じた。
3.
うーん。
家を出るだけのはずだったのに、こんなに気持ちがふわふわするとは思わなかった。全く足が地に着いてない感じがする。
色々とイベント起きすぎじゃない? や、良いんだけど、良いんだけどね。どきどき疲れが半端ない……。
隣を見ると由比ヶ浜が、口付けの余韻からか幸せそうに口元を緩めて、えへへーと阿呆っぽく言っている。
そんな由比ヶ浜の頭をぽんぽんと撫で、その手を引いて玄関のドアを開けた。
小町のイジりがめんどそうだなぁ……。
続く。
ガハマさんでした。明日もガハマさんです。
<ちょっとした連絡>
明日は仕事の後少し予定が入っているため、更新が恐らく深夜1時前後になるかと思います。予めご了承下さい。0時0分更新が続いていた為に残念……!
最近は推敲に力を入れて、1話1話書くごとにもっと力を付けられるように意識しています。文の読みやすさを何よりも優先して頑張ります。
ヒロインを一通り書き終えて、更に何人かのアフターストーリーも書き終えた頃(相当先になるし、恐らく毎日更新ではなくなっていますが)に、ヒロインごとにエピソードをまとめようと思います。今のところゆきのんの肩を揉むエピソードくらいしか整理していないので。
他のssやこのサイトの他の俺ガイル小説を見ているんですが、こういう書き方(くっつくまで・くっついてから・更にその後の踏み込んだ所まで書く)をする人ってあまりと言うか全然見ないです。もし似てるパターンの作品があったら教えて頂きたいです(^^)!
通りすがりの方も常連の方も、ご感想・メッセージその他がんがんお待ちしております。エネルギーをどんどんくださいませ(^^)!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!