「人間、長期的で大きな目標を持つ他にも、毎日のちょっとした物事に対する目標も持った方が良いと思う!」
小町が突然小さな胸を張ってなにかの本の受け売りを偉そうに語った。
「え……どうしたんだ急に」
小町に対して心底テンションの低いジト目を向ける。や、本当に、急にどうしたんだこいつは……。
俺の言葉に対して、小町がくるりと振り返ると、鬱陶しいドヤ顔をしてちっちっちと指を左右に振った。ウザいけど超可愛いなこいつ……。
「お兄ちゃん、甘いよ、甘々だよ。微糖コーヒーくらい甘いよ」
「『微』って付いてる時点で甘味は推してねえだろ」
「じゃあ……羊羹?」
「上品な甘みだ……」
「じゃあ角砂糖!」
「お前比喩で粘るつもりないだろ」
「じゃあ、結衣さんがころころ甘えてきた時の雰囲気」
「小町ちゃん、やめてーーー!」
「ああ、甘々だな。確かにあれは甘々だ」
「ヒッキー!? なんで答えるの!? 超恥ずかしいからやめてよ!」
「大丈夫ですよ結衣さん。今後もきちんと写真・動画共に収めて行きますから」
「何が大丈夫なの小町ちゃん!? それやばいから!」
「おいおい由比ヶ浜、もう少し語彙豊かなツッコミを入れないと俺たちの心は動かないぞ」
「この話はどこに向かってんの!?」
「う」
「う」
「兄妹揃って同じ反応だ!?」
目が覚めた。
「で、小町、なんで目標がどうのなんて言い出したんだ?」
そもそも今日はそんな気合の入れたイベントなんて――
「お兄ちゃん。検索ワード『お昼ご飯 手作り 結衣さん 地雷地帯』」
「……あ」
「なんで納得したの!?」
由比ヶ浜が横で悲痛な叫びを上げているが、まあ気にしない。お胸様が揺れてらっしゃる……。
「確かに、由比ヶ浜とのポイズンクッキングだもんな……何気ない日常の1コマが、死に直結する危険性を孕んでいる訳だ」
「なんでポイズンって言葉を最初から付けてんの!? 前は大丈夫だったじゃん!」
「や、あれだ。人間、喉元過ぎれば熱さ忘れる、なんて言うだろ? だから危険性を忘れないように、敢えて大袈裟に言ってるんだ」
小ボケを挟んだつもりが、由比ヶ浜が曖昧な表情で首を傾げて、更なるボケをぶっこんできた。
「あ、う、うん、えーと……そ、そうだね……喉元……熱さ……うん、え、うん、んん? 本当に言うんだっけ?」
マジかこいつ……。
「言うんだよ、バカ。揉むぞ」
「バカって言うな……って、え、あれ、え、え、え……?」
どさくさ紛れですごい事を言ってしまった。
由比ヶ浜が頬を赤らめながら俺から目を逸らし、ちらちらと見てくる。うう、恥ずかしい……。
「お兄ちゃん、結衣さんとの関係性に安心してそういう安易なセクハラ発言をするのは小町的にポイント低いよ」
小町からアイスバケツチャレンジばりの冷水(物理的・世論的両面)を浴びせられた。
「うぐ……た、確かに。……由比ヶ浜、すまん」
気まずさ全開で謝ると、由比ヶ浜がもじもじとして上目遣いでこちらを見た。
「あ、や、うん、で、でも、あたしとしては別に……」
「え……」
一瞬、心臓がどくんと鳴り、二人の目が合う。
自然と二人の距離が近付く。
そして――
「はいはいはいはいそう言うのは後でやってねー」
「う……」
「う……」
ぱんぱんぱんと、小町が手を叩いて先生のような口調で窘める。
小町が見かねて止めに入るという異常事態になっていた。止められなかったら勢いで「エンダーーーーーーーーイアーーーー」とか流れそうなノリだった。流れねえよ。
ふーと息を吐くと、小町が神妙な面持ちで由比ヶ浜を見る。
「お昼ご飯作りは小町と結衣さんでやってみようかなあと思ってるんですが……ご存じの通り、結衣さんは、まあ、料理の腕がとってもアレなので……」
「小町ちゃん、ぼかし方がかえって辛いよ! はっきり言っていいから!」
由比ヶ浜が悲痛な叫びを上げると、小町は瞑目して、ゆっくりとかぶりを振った。
「小町からは……とても言えません」
「重いよーーーー!」
なにやら2人で悲しい劇を繰り広げていた。ああ、無情。
「そんな訳で、このお昼の料理タイムにも何か目標をはっきりと掲げて、結衣さんはそれをしっかり頭に置きながら料理してもらいたいのです。じゃないと死者が出ます。比企谷家から死者を出す訳にはいきません」
「そんなに!? ねえ、あたしの腕ってそんなに!? でも、そのアイディア自体は……うん、なるほど……小町ちゃん、頭良いね」
「うう……なんか褒められてる気が全くしませんが……。じゃあ、まあ、取り敢えず考えてみましょうか。目標が浮かんだ人は手を上げてー」
小町が幼稚園の先生みたいなノリで明るくフってきた。こいつ自由だな……。
「はい!」
「はい、結衣さん!」
由比ヶ浜が小学生低学年ばりの元気さで手を上げると、小町も負けずにずびしっと指差した。楽しそうだな……。
由比ヶ浜は軽く息を吐いて、俺をちらりと見て、少し照れながら、
「ヒッキーの為に美味しい料理を作る」
「却下です」
「なんで!?」
「不可能なことを掲げても意味がありません。それに具体的じゃないですし」
「うう……たしかに……」
……その「たしかに……」は前半について? 後半について? 前半だったら俺泣いちゃうよ? だって不可能なんでしょ? もうラーメン食べに外出るよ?
事態を少しでも好転させる為、俺も手を上げる。
「はい」
「おや、お兄ちゃん、どうぞ!」
小町は相変わらず楽しそうに、振り向き様に俺を指差した。かっこ可愛い。やだ、ハイスペック……!
瞑目して軽く呼吸して、ゆっくりと目を開いて小町を見据える。
「今日は小町が1人で作る。それでその後、由比ヶ浜には料理の修行に出てもらう」
「なんでさ!? そんなに!?」
「うーん……」
「小町ちゃん、悩む程現実的な話なの!?」
由比ヶ浜のツッコミ文が長くなってきた。良いことだ。
「お兄ちゃん、ちなみに結衣さんの修行期間は?」
「安全を鑑みて、3年ってとこだな」
「その間に見込まれる被害は?」
「700人程が実験に定期的に付きあわされ、度重なる健康被害を訴えて休学・休職に追い込まれる」
「うそでしょ!? あたし、そんなに被害を及ぼすの!?」
「それでも、これは希望的観測なんだが……」
俺と小町が絶望した表情で俯く。
「なんで2人揃ってあたしをそんな危険視するの!?」
「まあまあ」
「小町ちゃん! あたしは2人にツッコんでるからこんな風に――」
「由比ヶ浜、あんま騒ぐなよ。揉むぞ」
「あ、う……」
また勢いで言ってしまった。しかし、由比ヶ浜のリアクションが予想外の可愛さで若干動揺して――
「お兄ちゃん、調子に乗らないで。もぐぞ」
「何を!? 小町の口調が急に変わった!?」
「……で、目標なんですが……」
小町の急な方向転換で、俺と由比ヶ浜がはっとする。脱線がこんなにも楽しいだなんて……思いもしなかった……。
「お兄ちゃん、もっと良いのない?」
「んー……」
……もうちょっと具体的に……。
「……あ。はい」
さっきまでのノリで、手を上げる。
「お、お、お? はい、お兄ちゃん!」
小町が再び俺をビシッと指差して指名する。今更ながら人を指差すなと言おうとしたが、元気溌剌として指を差す小町がやたら可愛いので許そう。
「えっと……『料理死亡事故絶対0~余計なものを入れるな。小町とレシピ本の言うことはー? 絶対! ~』ってのはどうだ?」
「なんかすごいサブタイトルが付いた!? 最後はなんか王様ゲームみたいだし!」
「ああ、お兄ちゃん、それ良いかも。具体的にしてほしいことが集約されてる感じ」
「良いんだ!?」
「よし、決定な。由比ヶ浜、今からお前は小町に対して絶対服従を貫くんだぞ? 良いな?」
「うう、なんかすごいことになってる……」
と、まあ。
由比ヶ浜に絶対服従を誓わせたところで(響きがやばい)。
お料理、スタートです。
いきーのーこーりーたーいー(ここしか知らない)。
× × ×
「じゃあ結衣さん、まずは包丁の持ち方から行きましょう」
「う、うん」
小町と由比ヶ浜がキッチンの前で並び、何やら絶望的なくだりからの説明が入っていた。
包丁の持ち方って……。
まあ、猫の手が出来るかどうかってレベルの話だろう。最悪それが出来ていなくても、小町がこの場で教えれば済む話だ。大丈夫、きっと大丈夫……あれ、なんかフリにしか見えない……。
「結衣さんはどういう風に包丁を持ってますか?」
すぐにはお手本を見せず、優しく諭すように小町が聞く。
「あ、え、ええっと、その時その時でちょっとずつアレンジしてるんだけど……」
「え」
「え」
「え?」
小町と俺が固まり、由比ヶ浜も「あたし、何かまずいこと言った……?」みたいな雰囲気を出している。言ってる、超言ってるから。
なんだよ持ち方のアレンジって。斬新すぎるだろ。剣術家がオリジナル技考えてるんじゃねえんだから。
「え、ええっと……じゃ、じゃあ、その中でもよくする持ち方はどんな感じですか?」
小町が顔を引き攣らせながらも笑顔を保ち、由比ヶ浜に質問をする。妹のこんな顔、見たくなかった……。
小町の質問に対して、由比ヶ浜はふむとあごに手を当てて思案する。思案内容が拙すぎて悲しい……。
「あ、これならよくやってるかも」
ぴんと閃いた様子の由比ヶ浜を見て、小町が妙な緊張感を持ちながら尋ねる。
「ええと、じゃあ、それ……を――」
言い切る間も無く。
小町も、俺も、ぴたりと固まった。
「え、えっと、結衣さん……? 誰か刺したいんですか……?」
「え、なんで?」
「や、なんでって、その……」
小町が言い知れぬ恐怖でぷるぷる震えて、後ずさりするのも無理はない。
由比ヶ浜は両手で包丁を持ち、まな板の上の人参に向けて、まるで人参が親の仇であるかのようにその切っ先を向けていた。
この後考えられるセリフとしては、「死ぃぃぃねぇぇぇ!」以外のものがあまり考えられない。この状態から「お料理しちゃうぞ☆」とか言われたら戦慄ものだ。すごい残酷な響きに聞こえちゃう。
冷や汗が背中をつつっと伝うのを感じながら、小町も俺も、由比ヶ浜の弁明を待つ。
由比ヶ浜は包丁の切っ先を人参に向けたまま、小町に向き直ってくりっと首を傾げた。
「えと……これで、お料理するんじゃ、ないの、かな?」
戦慄。
小町が深く深く息を吸って、ふいーと吐き出した。その目は明らかに、大いなる覚悟で据わっている。
「お兄ちゃん、これは……戦争だね」
「否定できないのが悲しいな……」
「なんで!?」
底の知れない絶望と共に、恐怖のクッキングタイムがスタートした。前文の物々しさが異常。
ここからのシーン、上手く工夫したら楳図かずお作品に使ってもらえそうなくらい凄惨な事になりそうな気がする……。
続く。
ガハマさんでした。しばらくは恐怖のほのぼの(矛盾)をお楽しみください(^^)
ガハマさんは自然とギャグテイストが多くなるなあ……。小町と仲が良いのも大きいです。エロをどんな風に濃厚に書くか画策中……!
ここ最近疲れたり励ましの言葉を頂いたりただの誹謗中傷を書かれたりしたんですが(ちなみにただの誹謗中傷を書いた人には運営に通報しますねとメールしたら、評価を取り消してとんずらされました。そんなもんなんですね。と、敢えてオープンに言ってみました)、昨日の深夜から今朝にかけて色々考えた末に、一周回って吹っ切れました!
ほんの僅かしかいないしょうもない人を気にして神経を摩耗している暇があったら、僕の作品を待っていてくださる沢山の良い人な皆さんに少しでも良いものをお届けする事を考えていた方がずっと楽しいし、為になると思いました(^^)不意にここ数日で心のタフネスが上がりました!
体力的にしんどいときは、大人しく休みます。突然休みます。その際は前話の後書きに追記するのは忘れないようにしますが!
元気に執筆を楽しみながら、俺ガイルのヒロインをどんどん楽しく、可愛く、エロく書いて行こうと思います。
引き続き、よろしくお願いします(^^)!!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!