暗い臥所に、ユダは独り横たわっていた。
あてがわれた部屋は聖帝城の奥まった一角にあり、小規模ながら贅沢なことでは聖帝の主寝室にも劣らない。しかし、窓には鉄格子が嵌められ、扉の前には衛士が立ち、内側からは開けられないように
ユダは微妙な立場に立たされていた。
謹慎処分となった者を牢獄に入れるわけにはいかない。かといって所領に帰して蟄居させたら、自分を支持する勢力を糾合して聖帝のもとから離反するかもしれない。そうした懸念がユダをこのような幽閉同然の境遇に置いたのだ。
ダガールをはじめとする配下の者との接触は一切禁止だった。
禁じられなくとも、ユダは誰とも会いたくなかった。独りになって傷ついた心を癒したかった。
人の話し声が聞こえ、閂が外される音がした。
寝台脇のテーブルに置かれた枝つき燭台には蝋燭が灯されている。その火影が不意に揺らいだ。
「おれを教育部隊に引き渡したらどうなんです。あなたが最初にそうおっしゃったように」
寝台にうつ伏したユダは、部屋に入ってきたサウザーを見もせずに言った。
サウザーは笑った。歩み寄ってくると、ユダの顎を掴み、上向かせた。
「教育部隊に引き渡さなくとも、お前は身も心もおれのものだ」
唇を奪われる。ユダは抗い、逃げだそうとした。だが、背後から捕らえられ、むりやりサウザーのほうを向かされて執拗に唇を貪られた。
「いやです! 離してください」
寝台に引きずり戻され、仰向けに押さえつけられた。
サウザーはいつもと様子が違っていた。つねに無感動で冷ややかだった蒼い瞳は欲望があらわになっている。らしくないことに彼は力ずくでユダを犯そうとしていた。
「お願いですから、やめてください! いまは……ッ、いまは嫌です」
ユダには何故サウザーが、自分たち家族の運命を狂わせてまでこの自分を欲しがったのか理解できずにいた。いや、分かりかけてはいたが、受け容れられなかった。そのサウザーに惹かれている自分自身でさえ。そうした心の混乱を鎮める時間も与えられずに、今また蹂躙されようとしていた。
シャツの襟元に手をかけられ、引きちぎられた。
サウザーはユダの両手をまとめて頭上に押さえつけると、ズボンを下着ごと引きずり下した。ユダの頬から顎、首筋へと舌を這わせながら、手のひらを下肢に滑らせてくる。指が双臀の狭間にある秘奥を探り当て、内部にゆっくり沈み込んできた。ユダは激しく首を振った。
「嫌ッ、嫌です」
挿入した二本の指を内部で鉤状に曲げられ、前後に動かされる。
「ああッ」
怺えきれずに悲鳴を上げた。疑似性交の行為に身体は敏感に反応し、触れられてもいない性器が屹立してくる。
お前はいずれ、おれに支配されることを無上の喜びに思うようになる。
いつかの言葉の通り、心は拒んでいても、身体はサウザーの支配に従おうとしていた。
サウザーは笑みを浮かべた。慣れ親しんだ反応をユダから引き出し、満足したようだった。着ている衣服を脱ぎ、直接肌を触れ合わせてくる。
ユダはすべての抵抗を諦めて、サウザーに身をゆだねた。
激しい交歓のあと、ユダはひたすら涙を流していた。サウザーは宥めるようにユダの髪をなでた。
「泣くな」
「おれには涙を流す自由もないんですね」
「おれはおれなりにお前を大切にしてやっているつもりだが。何が不満なんだ」
半身を起こし、ユダは泣き腫らした目でサウザーを睨みつけた。
「あなたはおれから何もかも奪った。おれの家族も、未来も、人生も」
「おれが憎いか」
「あなたを憎むことができたら……!」
ユダは悲痛に叫び、涙をあふれさせた。しかし、すぐにうなだれ、うつ伏した。
「でも、あなたは憎しみすら、おれから奪い取ってしまいました」
サウザーはユダを引き寄せ、胸に抱き留めた。
「お前が望むものは全ておれが与えてやるさ」
もう一度身体を求めると、ユダの瞳いっぱいに怯えが広がった。もう、やめてくださいと懇願するような眼差しに、サウザーはかえって自分に従わせたい気持ちが募り、強引にユダの身体を開かせる。
抗っても無駄だと悟ったようにユダは苦悩の表情を浮かべて言うとおりになる。
サウザーはそうしたユダの態度を赦さず、顎を掴んで正面を向かせ、自分の目を見つめさせたまま受け容れさせた。
煩悶するように
わずかに開いた唇から白い歯がのぞいている。一突きごとに口唇から喘ぎが洩れる。浅く速く突いたかと思うと、奥まで一気に貫く。
「ああ……ッ!」
喉を仰け反らせ、全身を痙攣させる。
高みに追い上げられたユダはサウザーの首に腕を回し、しがみついてきた。突き上げるたびにユダも腰を揺すり、応えてくる。
サウザーの胸が歓喜で満たされていく。深く結びついたまま、互いを強く抱擁する。忘我の極みで、つかの間、心を通わせる。
ユダの瞳が潤み、
度重なる接吻に、唇はいかなるルージュに比べようもなく色付いている。うっすら開いた口唇に誘い込まれるように、濃厚な口づけをした。
ユダの睫毛が慄えた。いまだ恍惚のきわを彷徨っているかに見えるエメラルドの瞳をのぞき込み、サウザーはささやいた。
「もう一度だ」
サウザーは寝台に身を起こし、傍らで眠るユダの顔を見つめていた。
切ない眼差しは、野心満々たる覇王のものでも、冷酷無比な専制君主のそれでもない。
窓の外に目を向ける。建設中の陵墓が月の光を浴びて白く浮かび上がっている。
同じ光が室内にも射し込み、ユダの美しい裸身を照らし出していた。頬には涙の跡が残っている。サウザーは目尻についた涙滴を拭ってやった。疲れきっているのか、ユダは目を覚まそうとしない。
なぜ、ここまでユダに執着するのかサウザー自身にはよく分かっていた。
失うことが分かっているからだ。この幸福が永続しないと知っているからこそ、執心が募るのだ。
だが、この想いは断ち切らなければならない。
愛し愛される歓びをすてた者だけが世界を支配できる。覇王に愛など必要ないのだ。
ユダ。いつか、あの頂きにお前を連れていってやろう。
聖帝十字陵。おれの愛の墓標。
お前にふさわしい死に場所だ。
了