Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
2人がイーラ達から話を聞かされて、数日後のこと。
「おーいミリスー! あとどんくらい?」
馬ともカバともわからない、要はよくわからない動物が引く幌馬車。その荷台で揺られながら、アイクは外にいるミリスに聞こえるように話しかけた。
「あと……5時間くらい、でーす……」
天井のさらに上から、どこか力ないミリスの声がする。
「マジで!? まだそんなにあんのかよ……昨日丸一日乗ってたのにな……」
「文句言わない。これもそこそこ早いじゃないですか」
馬車の座席でだらけ全開のアイクを、その隣で静かに座っているイオンがなだめる。
「しっかし馬車とは…魔法とかでパッといけるとばかり思ってたんだけどな……」
「い、いくらなんでも、そんな便利な魔法は、ない、ですよ……。そりゃ……あったら……嬉しかったですけど……」
そんな言葉をつぶやきながら、屋根の上からミリスが這いつくばって降りてきた。
「あ、酔いはもう大丈夫ですか」
「はい……風に当たったら少しは……」
乗り物に弱いらしいミリスは、この馬車のゆれにやられてかなり顔が青かった。
実際、このゆれはいいものではない。
馬車を引いているのは、見たこともない、かなり無骨な獣だった。何時間も続けて走り続けることができるタフさが売りで、名前は……まだ聞いていない。さっきも言った通り、カバと馬を融合させたような姿だ。
速さは意外と速く、時速40kmといったところか、その代償として、平らな道だというのに砂利道を車で走っているときのようなゆれが断続して襲って来ていた。まあ、この時代にサスペンションなどというものはないわけであるし、酔うのも無理はない。
おまけに、ミリスは乗り物酔いしやすい体質らしく、当然昨日から体調は最悪だった。
「早い代わりに揺れる、とは、聞いてたんですが……これほどとは……というか二人とも……よく、平気ですね……」
うらやましそうな、不思議そうな視線を送ってくるミリスに……アイクとイオンは、
「俺らはまあ、なんつーか……」
「こういう揺れに慣れてるといいますか……」
肩をすくめるしかなかった。
2人の脳裏には、何度も連続でドリフトをかますリムジンがよぎっていた。まあ……あの運転(主にアイクの寝坊が原因なのだが)でしょっちゅう通学していれば、揺れに体制がつくのもまた然り……というわけだ。
「ともかく、まだサイミールまで時間はあるようですし……どうします? また寝ます?」
今のセリフの通り、昨日は彼女、一日中馬車に揺られながら寝ていた。見るに見かねたイオンが道中、『さいみんじゅつ』でミリスを強制的に寝かせたのだ。
何時間も連続でこの揺れには、彼女が耐えきれまい……と思ったからだ。とりあえず、昨日はその繰り返しでしのげた。
「い、いえ……お気づかいなく。大丈夫です……それ、に……何度も、ご迷惑をかけるわけには……」
「いや、大丈夫じゃなさそうだから言ってるんですけど……」
「てか、ここで無理されて町についてからもう限界…って方がよっぽど困るし」
「あぅ…すみません…」
申し訳なさのあまり、さらにしゅんとして小さくなるミリス。ああ、もうこの子泣くんじゃなかろうか、と2人が同時に思う。
「なら……もう少し風に当たってきては? 着いた時に寝てたら、起こしますから」
「そう、させてもらいます……はぁ……」
数日前、イオンとセックスした後と同じくらいの疲労感を漂わせながら、超のつくスローペースでミリスは屋根の上に戻った。少しして、布でできた馬車の屋根がぼふっ、とへこむ。そこにミリスが寝ていることを容易に想像させた。
さて、ここまで流してきたが……お察しの通り、一行は一路、サイミールを目指して旅の途中である。もちろん、『総会』へ出席するために。
と言っても、旅というほど険しくもなかったが。フローネを出たのが2日前のこと。徒歩で歩き、途中で幌馬車に乗り換え、こうしてサイミールを目指しているのだ。さしずめ、ちょっとかわった旅行……といった程度。アイクとイオンにしてみれば、鉄道が馬車に代わっただけだ。
それと、アイクとイオンは、フローネではミリスたちに借りた薄手の服を着ていたが、今回はそれなりに長旅だということで、オッドが特注で旅服を作ってくれた。
今着ているそれは、オッドの配慮か、フローネに来たときに2人が着ていた『制服』によく似たデザインだった。ブレザーもワイシャツもズボンも、本物(今はフローネの屋敷に保管してある)とほとんどそっくりにできている。が、生地は何か違うものを使ったようで、微妙に触感が違う他、かなり強度が高いものだとわかった。2人は今それを着こみ、そしてその上に、旅人がよく使うという厚手のマントを羽織っている。
それに加えて、2人が旅立つ前日のこと。こんなことがあった。
☆
「アイクさーん! イオンさーん! お届けものですよー!!」
「は?」
「え?」
(届け物? 誰からだ?)
このフェルガルドで、2人に届け物をする人などいないはずだ。少なくとも、そんな関係の人間に心当たりはいない。村の連中とならほぼ毎日会っているし、酒場の店主・ナズナだって、商品の納入があるから週に2度は会う。わざわざ郵便は送らない。
アイクらはそう言ったのだが、配達人は困ったような顔をして、
「え? でも…間違いないですよ? ほら、宛名…」
そう言って指差した先には……たしかにここの住所と、受取人に2人の名前。
「いや、でもなぁ……」
「えーと差出人は……ロローラ?」
((あいつか!?))
……配達人が抱えているのは、どうやら、あの『女神』からの届け物らしい。どうやってこの世界にそんなものを送り込んだのか、皆目見当がつかないが……。
何だ一体と思って空けた二人の目に飛び込んできたのは、
「……何だこれ?」
「刀と……腕輪、ですかね……?」
……2振りの剣。それも日本刀のような形状のそれだ……。飾り気はないが、少なくとも……西洋のセーバーやレイピアには見えない。刀身も、片面が刃で片面が峰である。
しかも妙なことに、その剣は羽のように軽く……持っても重さをほとんど感じない。ペンやハシでも持っているようだ。一体何でできているのだろうか。
そして、銀色の輝きを放つ小さな腕輪が2つ。貴金属の鑑定技術も持っている2人だが……この腕輪の材質はわからなかった。表面はなめらかな加工が施され、鋼のごとく硬く、そしてやっぱり軽い。まあ、女神の贈り物であるし……自分たちが知っている金属ですらないのかもしれない、と、2人は妙に納得できていた。
そして最後に、取扱説明書の要領でメモが一切れ。
『あなた方に武器を授けます。上手く使ってフェルガルドを…(略)』
☆
そんなわけで、アイクとイオンは今、オッドにもらった旅服と、女神にもらった武器の刀と腕輪を身につけてここにいる。
実は2人とも、この『武器』、意外と気に入っていた。その理由については、後々明らかになるものとする。
一方で、ミリスの服装は……この世界では一般的だという、厚手の布の服(長そで長ズボン)に、革のチョッキ。そして、2人と同じマント。普通の旅人と同じ服装だ。
護身用として短剣を2本ほど懐に忍ばせてはいるが……正直2人から見て、ミリスがまともに戦えるとは思えなかった。
この他に、代えの服やその他の日用品などを詰め込んだバックを、アイクらは傍らに持っている。結構な大きさと重さだが、運べないほどではない。
とまあ、総じてそんな感じの装備で、一同は一路サイミールを目指している。
ちなみに、さすがにミリス一人に生かせるのはあんまりだということで、補佐役としてイーラの部下を数人同行させることになった。その数名は、後ろからついてきている別の馬車に乗っている。
「……正直、俺はこれを引き受けたことを後悔してない」
アイクがおもむろに呟いた。
「個人的にも、そういう身勝手なヤローは嫌いだし、そのせいで苦しんでる人を助けてやりたいとも思う。それに……」
「……それに?」
「修行(トレーニング)の成果を試すいい機会だ、って気もするしな」
そう言ってにやりと笑う。それを見て、イオンはやれやれ、といった顔で笑い返す。
そして極め付けに、だろうか、アイクとイオンは示し合わせたかのように口をそろえた。
「想夜家家訓、その7!」
「『義を貫くのに理由は要らぬ』……でしょ?」
「おうよ!」
2人がたまに口走る、この『想夜家家訓』。
ある噂では、想夜グループができた当初、当時のグループ総帥によって作られた格言の集まりらしい。
要するに、古くからある心得……といった程度のものだが、その内容はもっともな内容で、想夜家の人間として貫き通すべき道筋を的確に指し示している。
ゆえに彼らも、彼らの父も、その格言1つ1つを古臭いなどと言わず、全て覚えて自らの信条としているのだ。
その時、
「サイミールが見えたぞー!!」
それを聞いて、全員の目に光が戻る。
中でも元気だったアイクが疾風のごとき勢いで屋根に駆け上る。屋根の上にはミリスが寝ているため、勢い余って踏まないように注意した。
そして、屋根の上に立ったアイクの目に映ったのは、
「……こりゃすげえ……」
遠目に見てもよくわかる。ファンタジー映画でよく見る、城下町とか言ってもいいくらいの大きさの町。建物の数、その大きさ、造り、何を見てもフローネとは全く違う。兵で周りを囲まれたその通商都市は、遠くから見ても、相当に大きな町だとよくわかった。さすがはファンタジー。
「うあ、けっこう……楽しみかも……」
アイクは本当に、何か映画の中に入ったかのような気分だった。
感じる。あそこには、何かがある。今までに見たことも、聞いたことも、考えたことも無い、自分達を楽しませてくれそうな何かが。
歳相応といっていい、とても生き生きとした笑みを浮かべたアイクは、それを伝えるために、またしても疾風のごとく、馬車の中に舞い戻った。
……その際アイクが、
「ぅあ……ゆ、揺れ……うぷっ」
布の張ってある天井を盛大に揺らし、ミリスの体調をさらに悪化させたことを知る者はいない。
☆
「ひゃ~…これがサイミールか…」
門をくぐり、馬車を降りたアイクが、そう一言感嘆の声を漏らす。3人はその後、乗せてくれた馬車に丁重に礼を言い、入口の分岐路でわかれたのだ。
門のところでもらったパンフレットによると、3人は今、『西の大通り』と呼ばれる場所に立っているらしい。目の前の道には、比較的近代の形に近そうな市場が、優に200m以上に渡って両サイドに軒を連ねている。扱っている品物も、野菜や果物、肉や魚、生活雑貨や薬(……多分)まで、一通りのものが揃いそうなラインナップだ。
「フローネがそうでなかった訳ではないですが、随分と活気のある商店街ですね……」
「つか、店多すぎだろ? さすがは商業都市…」
道路の両側に、大小さまざまな店がずらっと並んでいるのだ。とくもまあこれだけ密集させられる、といった具合に。
店だけではない。人も多い。休日のデパートもかくやといった人ごみだ。これではぐれたら、その日のうちに再会できる気がしない。
などと思っていたというのに、
「ここはまだ端のほうです。中央部はもっとすごいらしいですよ? お店も人も」
「うお、マジか……」
ミリスの話に、これより混むのか、と少々げんなりした様子のアイク。
「そういえば、ミリスさんもサイミ-ルは初めてなんですよね?」
「え? あ……はい」
思い出したように言ったイオンに、ミリスが頷いた。
先ほどまでの青い顔は、馬車から降りていくらかよくなったようだ。
「正確には、小さいころに連れて来られたことがあったらしいんですが、ほとんど覚えてないです。土地勘もないし、地図があっても迷ってしまいそうで不安で……」
「マジかよ、だれもこの町に詳しいやついねーじゃん。大丈夫か?」
一抹の不安を抱えるアイク。それは他の2人も同じのようだ。
「極力、別行動は控えた方がよさそうですね……それはそうと、これからどうします?」
「えっと、宿は宿場に用意されているはずですし、食事も食堂で取れるはずですから……簡単な手続きぐらいしかやることがありませんね……」
今ミリスが言った通りなのだ。この町において、来てすぐに必要なことの一通りは、実は事前にその準備がほぼ済んでいる。
何しろ、商業とはいえ外交交渉の代表として来ているのだ。滞在期間中の宿や、食糧などを含むその間に必要な日用品各種の手配、さらには各地方の代表との大まかな挨拶、会談の予定まで決められている。なのでやることと言えば、自分たちの到着報告などを含めた、役所での簡単な手続きのみ。それも、ミリス1人でこなせる量だ。
まあもっとも、宿と言っても、自分達『地方代表』などの賓客専用に作られた公共の迎賓施設なのだが。日用品にしても、最低限のものなら全て公費で賄われるので、嗜好品などを自分たちで手配・購入する程度のものなのだ。
わかっていたことだが、改めてそれを確認して……イオンはふむ、と何か考える。
そして、
「そうですか……なら、僕はその間ちょっとこの町を見て回ってみてもいいですか?」
「ああ……っておい!? 別行動控えるんじゃなかったのかよ!?」
言ったそばからいきなり離脱しようとする弟を、アイクがあわてて止める。
先ほどもいったが、町の『端っこ』でこの混雑は(入り口だからこそということもあるだろうが)尋常ではない。この中から人を探そうなどと、たとえそれが団体であっても難しいだろう。
するとイオンは、
「大丈夫ですよ。確かに人を探すのは大変ですけど、建物の位置は変わらないでしょ?」
「は?」
「……! そうか、どこかで待ち合わせするんですね?」
なるほど、といった風にミリスが言った。確かにそれなら、場所さえわかれば迷うことはない。合流する時間は……指定されて融通が利かなくなるが。
「皆で食事した後、一時解散して別行動にしましょう。僕は色々と見て回りたいので」
「そうか……俺もそうしたいけど、ミリスの護衛が要るしな、俺はミリスと一緒に行くわ」
「そうですね……じゃあ、集合場所は……」
その後、落ち合う場所と時刻を決めて、3人は一時的に分かれた。