※この作品はR-18です。

Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~   作:破戒僧

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第16話 夜の玉座

 

 

アイクとイオン、そしてミリスがサイミールに到着して2日。

 

夜、太陽が地平線の彼方に沈んでも、サイミールの町が夜の闇に覆われることはなかった。

街路に並ぶ店の中には、日暮れと同時に店じまいをするところもあれば、店先と店内に灯りをともし、夜通し営業を続ける店もある。加えて、街路のあちこちには灯籠があり、その暖かな灯火で夜の闇を押しのけている。

そのサイミールの中心部、中央地区に、領主官邸は建っていた。

中世の貴族の館を思わせる豪邸で、あまたの灯籠やろうそくに照らされ、夜を感じさせない明るさに包まれている。

その官邸の大広間にて、『総会』の始まりを告げる『夜会』が、今宵、執り行われていた。

 

 

「しっかしスゲーなこの明るさ……まるで昼間じゃんか」

アイクが感心して言った一言を受けて、ミリスが答えるように言った。

「えっと……使ってるろうそくが特別なんです。専門の術士が作った『ライトキャンドル』っていうもので、普通のろうそくより何倍も明るく照らせるんですよ」

「それでこんなに明るいんですね、ろうそくの火とは思えないと思いました」

3人がしゃべっているのは、サイミール領主官邸の大広間。『総会』に先駆けて各地の代表が交流するために行われる『夜会』の席である。立食パーティの形式をとっているそれは、質素ながらも品のある礼服に身を包んだ人々でにぎわっている。

内装は豪華で、スズか何かに見える金属の装飾と、きめ細やかな絹地のレースカーテン、天井にはシャンデリアが下がっていて、迎賓館にも似た雰囲気だ。

その中で、アイクとイオンは普段着とは違う、スーツに似た形の礼服を着ていた。

ミリスは上品な白のワンピースに、光沢のある桃色の絹のスカーフを身にまとっており、とても魅力的に見える。武器に関しては持ち込めないため、2人とも刀は部屋に置いてきたが、腕輪はセーフだろうということで、そのままつけている。

名簿に署名をすませ、検査に使うとかで髪の毛を1本わたした後、2人はここに入った。

「ほあ~……さすがお偉いさん、いい肉使ってるな」

で、今に至る。ちなみに今のはステーキをほおばっているアイク。

「あなたは全く……他に興味の対象はないんですか?」

「じゃ……じゃあ私、他の地域の代表たちとの挨拶済ませてきますね」

「もぁ?」

「気にせずにどうぞ、ミリスさん」

口いっぱいにステーキをほおばるアイクと、その横で呆れているイオンに一礼しつつ、ミリスは付き添いの人たちを連れてそそくさと歩いて行った。

それを見送ったイオンは、今度はアイクに耳打ちする形で語る。

「さて……兄さん、今日のことですけど……」

「わーってるって。出方次第で……だろ? ま、保証はできねーけど……」

「それだけの外道が相手……いっそ清々しいってもんです。遠慮は無用でしょう」

ミリスがいる場だと何か言われそうな内容の談義。しかし、最初(ハナ)からそのつもりの2人は大まじめにその話を口にする。

「は、いつもは冷静にって言ってるお前がそんなことまで言うとはね……」

「意外ですか?」

「ちょっとは、な。……おしゃべりはこのくらいにしとくか……来るぜ」

「え?」

突然アイクが言った言葉の意味がわからず、聞き返すイオン。その時、

 

 

『サイミール主席顧問純系、ブボウ様ご到着――――――!!』

 

 

場内にアナウンスが鳴り響き、客たちが一斉に入口の方を見る。

「おでましか……」

そう呟いたアイクの視線の先に、白いスーツを身にまとったブボウが姿を現した。

ボディーガードらしき男たちを何人も連れて、我が物顔でふんぞり返って歩いてくる。入るやいなや、肉が盛り付けてある皿を丸ごとテーブルからつかみ取り、その皿を部下に持たせて食べながら闊歩している。

(廊下通っただけでざわめきが半端なかったな……どこまで嫌われてるんだか)

廊下のざわめきだけで既に来訪を感じ取っていたアイクは、現れたブボウのその姿に昼のイオンと同じ感想を抱いた。

実際、ブボウを取り囲んでいる人々の顔を見ても、あまり気分のよさそうな表情は見られない。ブボウは入ってくると同時に幾人かの人々に声を掛けられていたが、大方懐に取り入ろうと考えている連中だろう。苦笑いが隠せていない。

当のブボウはと言うと、今度はワイングラスを片手に、会場をなめるようにじっくりと見渡していた。時折その視線が止まり、薄気味悪い笑みを浮かべている。

「大方女でも品定めしてるんだろ、下品な笑い方しやがって」

「全面的に同意します」

2人がそんな感じで話していると、

 

「これはこれはブボウ様、ようこそ夜会へ」

「よ……ようこそいらっしゃいました……」

 

そのブボウに声をかけてくる2人の女性が目に入った。

2人とも、長身に明るめの緑髪の美女だ。

1人は30代前半ほどに見える。緑色のドレスに身を包み、髪を後ろで束ねてブボウ相手に嫌な表情のかけらも見せずに笑っている。人間ができているのだろう。

もう1人は、それによく似た……おそらくは妹か娘であろう美少女。歳は10代半ばに見える。こちらは髪を束ねずにさらりとなびかせ、黄緑色のドレスを身に纏っている。堂々と構えている母に対して、その子は少々不安さ混じりにうつ向き気味だ。

「これはこれはエラ殿に……そこにいるのはアリア君か!! いやはや、親子そろってお美しいですなあ!!」

「あらまあ、お上手ですこと」

「あ……ありがとうございます…」

その言葉に、アイクとイオンはその親子の正体がだれなのか理解した。

「なるほど……領主さまかい……」

壮年の女性は、オッドに事前に名を聞いていたこのサイミール地方の領主、エラ。前もってオッドに聞いてはいたが……その話の通り、今年で41になる年齢を感じさせない若づくりだ。肌にも張りがあり、シワもなく、どう見ても30を過ぎたくらいにしか見えない。大人の色気……と言っていいものすらも感じる。

そして、その隣にいるのがその娘というわけだ。名はアリアと言ったか。

ブボウは、その若い少女を上から下までじろじろと品定めでもするかのように見ていた。少女の方は、やはり落ち着かない様子だ。その様子を見ている周りからは、気の毒そうな視線が領主の娘……アリアに対して贈られている。中には、ひそひそと小声で何事か話している者たちもいた。その事情は、だいたいわかる。

「無理もないです……。アリアちゃん、かわいいから……」

「お、ミリスお帰り」

挨拶がすんだのか、一時中断したのかわからないが、ミリスが戻って来ていた。

「ああいう風に、領主さまを含めてブボウ様に気に入られたい人は、腰を低くしてあいさつに行くらしいんです。そうしないと……嫌われてしまったら大変ですから……」

「大方の予想通りだな。それとミリス、『様』つけんのやめろ。虫酸が走る」

「あ、す、すいません」

既にかなりイラついてきているアイクに、ミリスが慌てて謝った。

と、ここでイオンが妙なことに気付いた。

「……ミリスさん、何だかさっきからブボウに挨拶に行く人たちが、皆さん美しい女性を同伴しているように見えるのですが……?」

「あ、気付きました?」

ミリスが、あまり気乗りのない顔で答えた。

「ブボウはあの通りの男ですから……気に入られるには貢物を渡すのが一番いいって言われてるんです。お金や品物を渡すこともあるんですが……場合によっては……」

「女、か……」

いぶかしげにアイクが言う。

予想をはるかに超えた下劣さに、アイクとイオンは怒りを通り越して呆れていた。

と、なにやらブボウのいる方がやや騒がしくなった気がする。見ると、

 

「ほうほう、さすがエラ殿の娘だけある。肌もすべすべで、きれいですなぁ」

「は……放して……下さい……」

 

先程の少女アリアに、ブボウがちょっかいを出していた。腕をつかみ、自分の方に引き寄せて執拗なボディタッチを繰り返している。果ては人目もはばからず、ドレスに手をかけてはだけさせようとさえしている。

「……最悪の光景ですね」

「どんなエロゲだっつの、飯がまずくなるぜ」

周りの人々は、何も言おうとしない。言えないのだろう。相手はこのサイミール随一の権力者、報復が怖いのも無理はない。

そうこうしているうちに、ブボウがこんなことを言い出した。

「ところでアリア殿、お歳は今年でいくつかな?」

そう聞かれたとたん、アリアの顔から血の気が引き、冷や汗が吹きだした。半ば震えて、というよりも怯えているようにすら見える。言葉が出てこない娘に変わり、母が答えた。

「今年で18ですわ、ブボウ様」

「ほう、そうかそうか。ではそろそろ……大人になってもいい歳では?」

大げさなリアクションをとると、なにかいやらしい話し方でそう聞いてきた。

それを聞いて、さらにアリアの顔が青くなる。

「はい、こたびは総会でブボウ様もいらしていることですし、この子に男を教えていただければと思います」

顔色一つ変えずに、母親がとんでもないことをいってのけた。驚くアイクとイオンに、ミリスからの説明が入る。

「ブボウは、以前からアリアちゃんに目をつけてて……。大人になったら抱く……って、周囲にもこぼしてたらしいんです。領内の権力者である自分と、領主であるエラの家の親睦を深めるには、それが一番いい方法だ……とか言って……」

「それで……断れずに、アリアさんはブボウに?」

「はい……おそらく今回、ブボウに気に入られる目的も含めて、アリアちゃんは……」

「その先はいい」

明らかに怒りのこもった声のトーンで、アイクはそう切り捨てた。

聞いた話では、ブボウはその権力を使ってやりたい放題で、毎日違う女を抱いているらしい。生娘だろうが人妻だろうがお構いなし、ブボウに言われれば誰も断れない。

嘆かわしくて涙が出る、とオッドも言っていた。今日のような華やかな会では、気に入った娘を2,3人持ち帰ることも珍しくはないそうだ。

「で……今回はいよいよ領主の娘ってか」

ブボウの顔には、誠意など微塵も感じられない。動機にしても、親睦云々などではなく、単純に美少女を抱くのが楽しみと言っただけだろう。

アリアは嫌がっているが、逆らってはいけないとわかっているのだろう、嫌悪感をにじませながらも、必死でブボウのセクハラに耐えていた。

母……領主の方は、相変わらず表情を動かさないが、いい気分ではないのは一目でわかる。目が、死んでいると言っていいほどに暗いからだ。

『かわいそうに……』

『でも、しかたないわよ……』

周りからも、ちらほらと憐れみの声が聞こえてくる。しかし、誰も止めようとしないのが現実だった。皆、諦めを顔に滲ませている。

「アリアちゃん……」

親しい仲なのか、その呼称でミリスがポツリと心配そうにつぶやく。

その時、アイクが何やら廊下の方に視線を向けた。何やら感じ取ったらしい。その顔に薄く笑みを浮かべた。それに気付き、『何か』を察したのは、イオンだけだった。

アイコンタクトだけで会話を交わし、

「……私も……後であいさつに行かないと……」

「よしわかった、ちょっくら挨拶してくるわ」

「はーい、行ってらっしゃーい」

「はい、行ってら……え?」

 

ここで違和感に気付いたミリスが、額にたらりと一筋の汗を流した。

 

「ほれほれ、硬くならずに」

「あ、あの……」

執拗に迫ってくるブボウに、どうにか距離を保とうとするアリア。しかしむやみに拒絶するわけにもいかず、その弱々しい抵抗は、逆にブボウを刺激することになっていた。

それで調子に乗ったブボウが、アリアの胸元に手を滑り込ませようとしたその時、

 

「堂々とセクハラすんな、エロオヤジ」

 

そんな一言とともに、横から手が伸びて来て、ブボウの腕をつかんだ。

 

「いだだだだだだ!!」

何事かと、会場中の視線がそこに集まる。そこには、ブボウの手をアリアから引き離して思いっきりひねりあげている、1人の男がいた。誰かは言うまでもあるまい。

あまりに突然の出来事に、会場内はしばし沈黙した。ブボウの護衛たちも、何が起きたのか理解に時間がかかった様子だ。当のアリアや領主もまた、唖然としている。

違うのは、おろおろと慌てているミリスと、薄く笑みを浮かべるイオンだけだ。

その一瞬後、静寂はざわめきに変わった。

 

「なななな、何だあの男!! 今何した!?」

「嘘でしょ!? ブボウ様にあんな無礼を……」

「信じられない……」

 

会場中からそんな会話が聞こえたが、アイクは気にする様子もなくたたずんでいる。

「な……何をするかこの無礼者ォ!!」

なんとか拘束を解いたブボウが、アイクに向かって怒声を浴びせた。その光景に、会場中の血の気が引いたが、元より予想していたこと。アイクとイオンの表情は変わらない。

「ん? 何って……セクハラオヤジからか弱い乙女を守ってやったんだけど?」

「何ィ!? 貴様ァ~!!」

額に青筋を浮かべるブボウに怯まず、アイクは堂々としていた。無論、アリアとブボウの間に割って入る位置取りを崩さず……である。

そこに、イオンもゆっくりと歩いてやってきた。

「相変わらずですねえ、兄さん」

「何だイオン、何か文句あるか?」

「ぜーんぜん? GJ」

「貴様らいい加減にしろ!! わしが誰だかわかっておるのか!?」

2人の軽いやり取りにしびれを切らしたブボウが、怒鳴り声をあげた。それでも2人は三白眼を崩さずにブボウを睨む。

「わしはこの地方の『首席顧問純系』だぞ!! こんな無礼を働きおって……貴様らただで帰れると……」

その時、

 

「た、大変だ~~!!」

 

ボーイ風の1人の男が大広間に大慌てで駆け込んできた。話を中断され、ブボウはさらに不機嫌になる。

「何事だうるさいぞ!! 今わしが……」

「も……申し訳ありませんブボウ様!! ですが緊急です!! 領主さま!!」

そのボーイの言葉と様子にただならぬものを察したか、領主は戸惑いながらも、そのボーイに何事かと尋ねた。ボーイはどうにか息を整えて、

「じ、実は……先程、この夜会の参加者より提供された毛髪を鑑定したのですが……フローネ地方より代表としてお越しの参加者の方々の中に、『純系』が確認されました!!」

「何ですって!?」

その報告に、大広間が一気に、先ほどよりもさらにざわめいた。ブボウも、さすがにその報告に驚いたらしい、一旦怒りを忘れて間抜けづらで唖然としていた。

「た……確かなのですか?」

「はい、念のため何度も検査しましたが……間違いないようです……」

「そ……その方達の名は!?」

「ええと……」

ボーイは急いで名簿らしき帳面をめくり、早口で言った。

「フローネ代表、ミリス・エリュアール様の付き添いで来られた……アイク・ソーヤー様と、イオン・ソーヤー様の2人です!」

 

「呼んだ?」「呼びました?」

 

その言葉に、一瞬にして会場中の視線が再びアイクらに集まる。その中心で、アイクとイオンは得意げに笑って見せた。

 

「お……おい……聞いたか……!?」

「あ…あの二人が…」

「新しい純系ですって……しかもフローネの……」

「本当かよ!?」

 

会場は瞬く間に、アイクら2人の話題で持ちきりとなった。

2人が純系と聞いて、周りが二人を見る目はがぜん変わっていた。気の早いものは、さっそく挨拶の準備にかかっているようだ。

ちなみに今の『ソーヤー』という名字は、『想夜』を安直に崩した即興の呼び名だ。

「あ、あの……お2人とも?」

「「はい?」」

後ろから領主に声をかけられ、アイクとイオンは振り向いた。さすがの領主も戸惑い顔で、アリアの方も大きく開けた口を手で隠しつつ驚いている。

「その……純系というのは……」

「ははははははははは!!」

何事か尋ねようとした領主の声は、ブボウの笑い声にかき消された。見ると、大口を開けて唾を飛ばしながら笑っている。

「成程な!! 貴様ら『純系』だったのか! それで妙に怖いもの知らずだったわけだ!!」

そこでブボウはこちらを睨み、

「だがそれがどうした!? わしは純度4だぞ!! フローネのような片田舎出身の純系の純度など、たかが知れておるわ!! 思い上がるなよ!!」

ふんぞり返ってこう言った。その言葉に、周りの高揚が潮が引くように消えて行った。それでも笑みを崩さない二人が癪に障ったのか、ブボウは

「おいボーイ! このバカどもの『純度』は?」

そう聞いた。

「1か? 2か? 3あったらほめてやるぞ! まああんな田舎じゃあ、1か2がせいぜいだろうがな!!」

そう言って、ガハハと高笑いした。ボーイはおそるおそる、

「……ぅです……」

「んん? 聞こえんぞ!!」

「ですから……10です……」

「はっはっはっは!! そうか10か!! たったの10……ん!?」

ブボウ、ここでようやく違和感に気付き、ボーイを見る。

「ですから…」

ボーイは大きく息を吸って、もうほとんどヤケで、

 

「検査の結果!! お2人とも純度10の純系の方です!!」

 

叫んだ。

大広間に、一瞬だけの静寂が訪れた。

そして

 

「「「えええええええええええええええええ~!!?」」」

 

大広間にいたほぼ全員が、驚きに叫び声をあげた。

(中学校のホームルームかよ……)

暴音と言ってもいい驚声の直撃を受け、アイクは耳を押さえていた。ちなみにイオンは、展開を予測してすかさず耳をふさぎ、事なきを得ていた。抜け目なし。

周りでは、先程にもましてざわめきが大きくなっている。無理もない。純度10、絶滅したはずの伝説クラスの純系が目の前にいるというのだ。さしものブボウも、あんぐりと口をあけてかたまっている。

「あ、あなたたち!」

後ろから声をかけられ、2人は振り向いた。さっきと同じような感じで、ただし今度はより驚いた様子で領主とアリアが立っていた。

「ボーイ! それは本当なの!?」

「は、はい……検査の結果……」

「何かの間違いということは!?」

「担当人員を変えつつ36回にわたって検査したので……間違いはないと……」

「そんな……」

領主もそれっきり黙ってしまった。

「ふ……フローネの代表というのは……」

「わ、私です!」

ここで、アリアの呼びかけに、先程まで小さくなっていたミリスが前に進み出た。視線が一気に彼女に集中する。

「あ……ミリスちゃん……」

「あ、うん。久しぶり、アリアちゃん」

親しげに話すその様子から、やっぱ友達だったか、と納得するアイクらの前で、ミリスは背筋を伸ばして領主エラに向き直った。

「領主さまにご挨拶申し上げます。フローネ地方代表、ミリス・エリュアールです」

そう、堂々と言い切った。若干声が震えているが、上出来だろう。

それを受けて、1テンポ遅れて領主が反応した。

「は、はい……。してミリス殿? その方達は……」

ミリスは一瞬二人の方を見て、

「この2人は、アイク・ソーヤーとイオン・ソーヤー。フローネ地方の新入りで、双子の兄弟……。そして2人とも、純度10の純系です!!」

言いきった瞬間、会場中から歓声が上がった。

「すごい!! 本物なんだ!!」

「マ、マジかよ……」

「何してるんだ!! 早く挨拶の準備を……」

(うげ……何かやな予感……)

アイクとイオンの脳裏に嫌なイメージがよぎる。そんな事など知る由もなく、ミリスは、

「本当なの!? すごいねミリスちゃん!!」

「う……うん、すごいでしょ?」

級友と夢中で話していた。

その背中に声をかけようとして、

「おいミリス……」

「あああああああアイク殿っ!!」

「あのっ、ちょっとよろしいですか!?」

「すいません、私は…」

「「わぁ!?」」

一斉に群がってきた各地方ごとの代表たちに押しつぶされそうになった。突然降ってわいた純度10を前にすれば、こうなるのも当然か。皆、取り入ろうと必死だ。先程のブボウへのこびへつらいはどこへやら。

にしても、

 

「あのっ……私ジェンジェ地方の者でして…」

「ぜひぜひお近づきになりたく……」

「ちょっと! 抜け駆けしないでよ!!」

「ああ!? 我々の方が先だぞ!!」

「アイク様! 私たちは……」

「イオン殿!! こっちへ……」

 

動くこともできないほどに群がられては、さすがに2人もいい気はしない。うるさいし。

「イオン様!! ぜひコボロ地方を……」

「アイク殿!! 私たちの方にも……」

「ぜひぜひ私共に……」

「「ィやかましいっ!!」」

ここでついに2人の堪忍袋の緒が切れた。

2人の放った『ハイパーボイス』(衝撃波つきの超大声)×2の爆音が大広間に響き、一瞬で静かになる。かなり疲れた様子の2人は、群衆に向かって声を張った。

「いくらなんでも非常識でしょう! 正体を知るなり群がってきてあーだこーだと……」

「順序も知らねーでいきなり何だアンタら!! あと俺はアイクだ!! イオンはこっち!!」

終始間違えられていたアイクが不満そうに叫ぶ。イオンは特には。

ともあれ、とりあえず静かになったか……と2人が思ったその時、

 

「ふ……ふざけるな!!」

 

「!?」

そんな声が大広間に響いた。

声のした方を見ると、顔を真っ赤にしたブボウがこちらを睨みつけている。

((ああ、そーいやいたな))

特に動いてもいないはずなのに汗だくで息を切らしているブボウは、2人を睨んで言う。

「ふざけるな!! 純度10だと!? そんなものは何かの間違いだ!!」

「ですが、現に結果が出ています」

そこに、立ち直ったらしい領主エラの声が割って入った。

「使用したのは、あなたの言いつけで帝都より取り寄せた最高の検査器具です。それも人を変え方法を変え、36回にわたって調べたそうですよ。これでも違うと言えますか?」

「うぬ……領主、貴様……!」

威厳を持ってどっしりと構える領主。ブボウは、憎々しげにその顔を睨んだ。

「後ろ盾ができた途端にいい気になりおって……」

「さあ、何のことでしょう。私は間違ったことは言っていませんよ」

「ぬぬぬぬ……」

ブボウの顔がますます赤くなる。それはそうだ、突如降ってわいた純度『10』……自分よりはるかに優れた『純系』によって、全てが失われようとしているのだから。

領主がアイクらに鞍替えすれば、精子供給役としての契約も解約されるだろう。『首席顧問純系』の肩書きも失い、今自分が持っている権力は全て自分から離れていく。今までどおりの生活はできなくなるし、掌を返した警察らに捕まるかもわからない。

それに、今回の総会では……かわいらしく育ったアリアを抱けるはずだった。しかし、それも反故になりかけている。

「……認めんぞ……」

喉の奥から絞り出した言葉は、それだった。

「わしは認めんぞ!! 純度10だか何だか知らんが、ポッと出の小僧どもがわしにとって代わるなど、断じて認めんぞ!!」

「それは母が……領主さまが決めることです……!」

「黙れ小娘!!」

意見をしたアリアをブボウは突っぱねる。アリアが『ひっ』と悲鳴を上げて下がると、ブボウはアイクとイオンの方を向いた。

「小僧、わしは貴様ら2人に、尋常の決闘を申し込む!! わしの全てを奪いたければ、正々堂々戦って勝ちとってみせろ!!」

その発言に、大広間が再びざわめいた。領主やアリア、ミリスも驚いている。

「な……何を……!?」

「闘技場でわしと戦え!! 負けたら潔くこの街を、この地方を去るのだ!!」

「アイクさん、イオンさん、受けちゃダメです!!」

ミリスの声が割って入る。2人が振り返ると、後ろには冷や汗をかいた顔のミリスが立っていた。そこに、

「その通りです」

領主・エラまでもが加わる。

「『決闘』など必要ありません。あなた方の純度は10、放っておいても問題はありません」

「何だ!? 怖いのか小僧ども!? わしに負けるのが怖いのか!?」

冷静なアリアと、無様なほど必死に挑発してくるブボウ。2人とも、やれやれといった感じでブボウを見ていた。

どう考えても、正攻法で勝ち目がないブボウが、一発逆転を狙って諦めの悪い手段に出ている光景だ。いざ危機になったら『正々堂々』……都合がいいにもほどがある。

悪あがきをするその姿は、誰の目にもただ無様なだけだった。

「それに、尋常な決闘などと言って、その男はどんな汚い手を使って来るかわかりません。相手にしないのが一番です」

「うるさい!! 黙れ領主!! さあ小僧共どうする!!」

 

「いいよ」「いいですよ」

 

「万が一……え?」

その瞬間、あまりにもあっけなく発せられた言葉に、その場にいた全員が固まった。

ミリスやアリア、領主、果てはブボウに至るまで、2人が決闘を受けたと気付くまでに時間を要した。そして、その言葉の意味を皆が理解し始めたころ……

「ちょっと2人とも!! 何言ってるんですか!!」

「ぐはははははは!! もう遅いぞ小娘!!」

驚愕に震えるミリスの声と、高笑いを響かせるブボウの声が重なった。

「決闘を受けたな!! もはや後戻りはできんぞ小僧共!! 死を覚悟してもらおう!!」

本人も予想外だったのか、2人が決闘を受けたことに対して勝利を確信したかのような笑みを浮かべるブボウ。そしてミリスや領主らは、何とも形容しがたい、驚いたようなショックを受けたような顔で立ち尽くしていた。その表情には、絶望や失意すら感じられる。

そんな中で、当の2人はというと、

 

「こっちのセリフだぜエロオヤジ」

「あなたこそ……負けたら覚悟してもらいますよ?」

 

2人とも、実質のところブボウよりもよほどタチの悪い笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

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