Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
第23話 レインゲートの使者
アイクとイオンが、サイミールの領主官邸に滞在を始めてから1週間になる。
この数日、『主席顧問純系』として過ごしてみて、二人は改めて自分たちの立場というものを知った。自分たちが『純系』であるという理由だけで、エロゲ―でしか見ないような展開が次々と起こっていくということを。
そして、フェルガルドの人たちは(人にもよるのだろうが)、そっち系の話に抵抗が無さ過ぎるということを。
今思い返せばそれは、就任の翌日から始まっていた。
ブボウの更迭記念を兼ね、改めて開かれた夜会では、2人はたちまち他の地方の代表たちに囲まれて身動きが取れなくなったし、その後特別に設けられた各代表との座談会では、延々と続く各地方のアピールに耳を傾ける羽目になった。
さらには、各代表や地方の有力者たちとの面会、座談会、接待目的の会食や娯楽施設めぐり等々。ご機嫌取りの贈り物は毎日山のように届くし、娘を貰ってくれだの何だのと迫って来た者もいた。
一番頭を悩ませたのは、やはりあっちの方面の媚売りをしてくるものたちが多かった点だった。会食のついでと言って、遊郭に連れて行かれそうになったり、部屋に直接娼婦をデリバリーさせた者もいた。どれも丁重にお断りしていたが。
一度その中に、色々な部分で非合法なやり方を取っている店があって騒ぎになった。
具体的に言うと、借金のカタやら奴隷やら何やらで無理やり連れてきた女の子に性接待をさせている店だったのだが……店の女の子の悲痛そうな泣き顔を見て正義感に火がついたアイクがキレて、そこを紹介した代表を消し炭にしそうになってからは、『どうも前のやつ(ブボウ)とは考え方が違うらしい』『色気では釣れないようだ』との噂が広まったようで、その手の誘いはある程度減った。
といってもまあ、悪いことばかりではない。
念のためにイオンも同席した商談では、2人に取り入ろうと必死の各代表達のおかげで、素晴らしくフローネに都合のいい方向で話を進めることができたし、多くの商業組合がフローネとのルートを作りたがった。他にも、さまざまな形でフローネに多大な恩恵がもたらされた。この分なら、残りの商談も楽にまとまるだろう。
ただ、アイクには1つ、個人的な懸念事項があった。例の『孤児院』のことだ。
就任後すぐにアイクは、カナ達が住んでいた孤児院について、一時的にでも存続させられないかどうか調べた。
しかし、時すでに遅し。あの孤児院はアイクが尋ねたなんと翌日に閉院され、そこに住んでいた子供たちは1人残らずいなくなっていた。家財は全て差し押さえられており、老朽化の進んだ建物は近く取り壊され、土地も売られるそうだ。
異常なまでの撤収の速さや、子供たちのその後の足取りが全くつかめないことなどから、アイクは裏で何か根回しがあった……と直感した。
何より……あの時知りあったバリゲ卿は、顔見知りという絶好のステータスがあるにもかかわらず、アイクに挨拶にも来ていない。何か……アイクに探られると困るやましいことが背景にあると見て間違いない。
エラに相談したところ、最悪、子供達は奴隷商人に売り飛ばされたかもしれないとのことだ。元々ブボウが絡んでいた話……信じたくはないが、ありえない話ではない。
そうであってほしくないと願いつつ、アイクは調査を続けさせていた。
そんなある日の朝のこと。
「『レインゲート』?」
朝食の席で、アイクはエラ達から聞かされた話に、そう聞き返した。
「『レインゲート』……たしかここから西の、サイミールと交友関係にあるかなり大規模な通商都市でしたよね?」
と、今度はイオン。情報収集第一のイオンらしく、やはり知っていたようだ。
今のイオンの説明の通り、レインゲートというのは、ここから南西にある、この地方においてサイミールと対を成す大きな商業都市の名らしい。
規模こそサイミールに一歩劣るものの、商業・取引はもとより、政治やその他さまざまな面で深くつながっている、サイミールにとって大変重要な都市だという。
最大の特徴として、サイミールと違って管轄下に漁港や貿易港を持つ。そのため、ここでは扱っていない商品も多く取り扱っているらしい。内陸都市であり、陸・山の幸を多く扱うサイミールとは、互いに切っても切れない関係……というわけだ。
ところで、この世界に関して……まだ、大きな視点での説明が入っていなかったはずだ。いまさらながら、それを明らかにしておくことにしよう。
この『フェルガルド』は、世界地図を見ると……なんと、その大体の形が現実世界の世界地図と同じなのである。大陸、島、山や湖などの地形に至るまでが、だ。
違った点は……縮尺から計算したその面積が、現実世界のそれよりだいぶ小さく……本来の世界地図の3~4分の1ほどしかないところだ。惑星そのものの大きさが小さいのかもしれない、とイオンは推測した。
もっとも、このことはイオンも、サイミールに来て知ったことだ。この世界では、詳細かつ正確な地図というのは、あるところにしかない。フローネで見られたのは、その周辺……サイミールまでをカバーする地図でしかなかった。
そしてサイミールに来て……初めて、この世界の大形を、そして、フローネが……現実世界で言うところの、ウクライナとベラルーシの国境付近……ちょうど、チェルノブイリがあるあたりだ、と知った。
サイミールはモスクワのあたりに、今話題に上ったレインゲートは、フィンランドの中南部のあたりにあたる。そしてそのいずれもが属する『アーサランド王国』は、現実世界でいうところの……ヨーロッパ全体と、ロシアの西端から3分の1ほどをしめている。
そのレインゲートから、今しがた使者が到着したというのである。
「それで? そのレインゲートが、何で使者を……ってまあ、考えるまでもねーか」
「ええ、大方……僕ら絡みでしょう」
2人の推測に、エラは『鋭いですね』とでも言いたげな笑みを返し、食堂の入口の所に立っている兵士に目配せした。
それは何かの合図だったらしい。兵士は扉を開け、食堂の中に外で待っていたらしい3人の旅装の男達を招き入れた。彼らは一列に並び、ぺこりと一礼する。
恐らく、今話にあった『使者』だろう。
(やっぱり、商談目的だよな?)
(ええ。まあ、別に自慢するつもりはありませんが……僕らは純度10の純系ですからね。その評判を聞きつけて、今の内に顔を売っておこうと考えるのも自然でしょう)
聞こえても好ましくはないので、隣に座っているアイクとイオンは相互ににギリギリ聞こえるくらいの音量で話した。
「それで……その使者の方が持ってきた話の内容っていうのは?」
マナーを考えて、手に持ったフォークをおいてから、イオンはエラに訪ねた。
「ええ、手紙を受け取りました。主に……このサイミールとの協力関係をより密なものにしていこう、とのメッセージでしたね」
「他には?」
「商談関係のことも、色々と」
おそらく、そっちが本命なのだろう。今のサイミールには、今までにない、そしてとてつもなく価値のある天然資源(?)があるのだから。
友好の使者の体裁を保ちつつ、それの……純系の精子の輸入の確約をとりつける目的がある、と見て間違いない。
何せ聞けば、純系から直接採取した生のそれ(原液、という表現を使っていいものかどうか)は、採取した純系の純度(レベル)にもよるが、1mlあたり数十~数百ドル、日本円でおよそ数万円もの価値があるというのだ。違法ドラッグもびっくりである。
ましてや、アイク達は純度『10』……単価でも途方もない金額がつくことはもちろん、同時にその希少価値をめぐって商戦が起こることは間違いない。その精液の取引の権利を得るため、今の内からサイミールに媚を売っておこう……ということらしい。
といっても、実は既に耳の早い周辺各地から友好的な関係を望む内容の手紙や、貢ぎ物に近い形での贈り物が送られてきているのだが。
そして、その内の1つにして……このサイミールの町と最も近しい商業都市『レインゲート』が、今日、サイミールに使者をよこしたわけだ。
前任・ブボウの失脚からわずかに数日。いささか性急すぎる気もするが、あと10日ほどで『総会』が終わり、2人とミリスがフローネに帰ってしまう……ということを考えれば、そうでもないと言えるかもしれない。
そして,今エラの手にある一枚の紙が、そのための書状と見ていいだろう。
視線に気付いてか、エラはその手に持っていた書状を折りたたみ、アイクとイオンに手渡した。イオンが一礼して受け取り、目を通すと、やはりその中身は(英語だが)大体は予想した通りの内容だった。
イオンが手に取っているそれを、アイクはその横から覗き込むようにして見ている。そしてそのそばで、エラは並んで立っている使者たちに視線を向けた。
「私どもとしても、とても好ましいお便りであると受け取らせていただきますわ。正式なお返事に関しては、あとで私の方から文をしたためさせていただきます」
「ありがとうございます」
使者3人、ぺこりと一礼。
その3人の内、今代表して返事を返したものが、何やら懐から一枚の紙を取り出した。
「つきましては、エラ様より好答をいただけましたことを、私どもの主に知らせたいのですが……」
「ええ、それはもちろん……どうぞ?」
「ありがとうございます」
さらに一礼すると、その者は取り出した紙……恐らくは便せん……にさらさらと何かを書きこむ。
書き終えると、なんとその便せんがぐにゃぐにゃと輪郭を崩し、瞬く間に一羽の鳥に姿を変えた。
((……え!?))
驚いて唖然とするアイク達の前で、その『元』便せんだった鳥は翼を広げて羽ばたいて飛び、開いていた窓から外に出てあっという間に飛び去った。
ばさばさばさっ……と。
「「…………………………」」
想夜兄弟、しばし絶句。
今の便せんもまた、まじないのかかった『魔術用品』の一種で、郵便屋を介さずに直接手紙を届けられるものだ……と、2人が気付いたのは、十数秒後のこと。おそらくあの鳥、届け先に到着すると手紙に戻るのだろう。
さすが異世界、いくらでも面白いものが出てくる。
と、好奇の目をしているアイク達に使者は向き直り、
「それともう1つ。僭越ながら……新しく『首席顧問純系』に就任なさいましたお2人にも、我らが主にお目通りを願いたいのですが……」
「はい? 会ってほしいってこと?」
「それは……僕ら2人に、『レインゲート』に来い、と?」
聞き返すアイクとイオン。
しかし使者は、首を横に振った。
「いえ、そうではありません。今しがた飛ばしました『魔法便せん』が到着次第、デイリー様が自らこのサイミールに向けて御出立される運びとなっております」
「あら……では、デイリーさんがここにわざわざ?」
これはエラ。どうやら彼女にも唐突な申し出だったと見える。知らされていなかったようだ。
「はい。突然のことで申し訳ありません」
「いいえ、そういうことなら……構いませんわ。別に、知らない仲でもありませんし」
寝耳に水の話であれ、気にしている様子はないと見える。
エラの好答に使者が一礼し、そして一歩下がったのを見届けると、エラはアイク達に視線を移した。
「どうですかしら、アイクさん、イオンさん?」
「どう……ってーと?」
「今の話です。数日後にレインゲートから、そこの商業組合の長である、デイリーさんという方がいらっしゃるとのことですが……お会いしていただけますかしら?」
「面会、ですか……」
なるほど、自然な流れと言える。領主という名の外堀には好答を返してもらえたのだ、今度は本丸……すなわち、自分達に対してのコンタクトをとってくるということは当然。
むしろ、交易を目的としたものなのなら、こちらが主軸にすべき目的だ。
事前にストレートに面会の申し込みから入らず、こうして突発的な話題として自分達に提示させたのも、そのためだろう……と、いうのはイオンの推測。
少々無理やりな雰囲気は否めない。が、向こうの長……デイリーという名らしい……と面識を持っておくのは、悪いことではない。それに、断る理由もない。
2人で軽く相談した上で、アイクとイオンは首を縦に振った。
この瞬間……近いうちに、サイミール・レインゲート間での首脳会談とも呼ぶべき会合の開催が決定されたわけであり、
そしてもう1つ……
双方にとって予想だにしない、ある『出会い』が巻き起こり、話が色々とこじれて行くきっかけとなったのであった……。
無論、そのようなこと……今は誰も知る由はないが…………。
☆
それからおよそ数時間後の話である。
アイク達のいるサイミールから西方の都市『レインゲート』。
その全ての商会をとりしきる『商業組合本部』。その建物の、開いている窓の1つから、先ほどサイミールの領主官邸から飛び立った鳥……『魔法便せん』が入り込み、手紙の内容を伝えるべき主の所へと飛んでいく。そしてその者がついている机の前に降り立つと、その姿を便せんのそれへと戻した。
部屋にいた者たち皆が見守る中で、机についていた女性……レインゲート商業組合組合長・デイリーは封を解き、文面に目を通した。
「……なるほど、ね……」
「どうです、デイリー様?」
机の側に立つ、その側近と思しき男が、読み終えたころ合いを見計らって尋ねた。
「ん……OKよ。エラも、例の『純系』の2人も、こころよく会うことを受諾してくれた……と、ここにあるわ」
おぉ~……と、部屋の中にいた、この都市の要人と思しき者達の口から声が漏れる。
その心中には、周りに群がる者たちに先駆けて、純度10の純系にお目通りがかなったことに対する喜びがあることだろう。そのことは間違いなく、レインゲートという商業都市において、多大なる恩恵をもたらす結果を生むであろう……ということも。
便せんを机に置き、デイリーはすっくと立ち上がる。
「ただちに出立の準備を。警護部隊に命じて、サイミールに行くまでの旅路に十分な人数の護衛を用意させてちょうだい。それから旅荷物と馬車。もちろん、お土産も」
「「「はっ!」」」
一様に返事をし、そこにいる者たちが一斉に動き始める。いつもこうして主に仕えているためだろう、さすがに動きがいい。
ましてや、今回はデイリー自ら出る旅。会いに行くのは今現在、この王国北部『サイミール地方』にて最も話題となっている、純度10の純系……。全員、普段に輪をかけて全力で仕事に臨むであろうことは想像に難くない。
その者たちの背中を見ながら、デイリーも自ら支度に入ろうとした時、
「あ、そういえばデイリー様」
従者の一人が、思い出したように振り返って言った。
「何かしら?」
「ああ、その……今回の旅路、例の……マーキュリー氏は連れて行かれるので?」
「ああ……あの子ね……」
その言葉にデイリーは、最近、護衛として雇った1人の少女のことを思い出した。
「そうね……何だかずいぶんと『純系』に会いたがってたみたいだし……最近サイミールのあたり、盗賊の目撃情報があって物騒なのよね……」
「ええ。確か、最近もブラックマーケットで奴隷が数名に、子供奴隷が何人も売り飛ばされたとか……用心には用心を重ねた方がいいかもしれませんね」
と、従者も続ける。
純度10の純系ともなれば、顔を売り込もうと挨拶に来る富豪も多い。今は、それらを狙った盗賊が活発になっている時期でもあるのだ。
ちなみに今のブラックマーケットの情報は、まだブボウの在任時のものなのだが。
デイリーは少し考え、
「そうね……わかった。あの子も連れて行くわ。戦力としては大きいし、それに……」
「それに?」
「あの子、けっこう可愛いでしょ? もし、例の『純系』に気にいってもらえるようなことがあれば……」
「『献上』……なさると?」
「しないわよそんな鬼畜なこと。友好関係の架け橋にでもなってもらえれば、と思っただけ」
「さようですか。では、マーキュリー氏にも通達を」
「お願いね」
一礼し、今度こそ部屋を後にした従者を見送り、デイリーは自分の身支度を始めた。