Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
アイク達がレインゲートから来た使者と顔を合わせてから、数日か経過していた。
……が、だからといって2人は、別に何か動揺したり、緊張したり……といった様子は見せない。普段どおりに、いつもと同じ生活を送っていた。
そんなある日の午前中。
ここは、サイミール警備局の訓練場。現実世界風にわかりやすく言うと……道場。
ここでは、サイミールの平和と安全を守る警備隊の兵隊たちが、日夜その拳足に磨きをかけている。今日も今日とて、老若男女を問わず、隊に所属する者たちは、剣術や素手拳闘など、様々な分野での戦闘訓練を行っていた。
その面々の中に混じって、アイクもその訓練に参加していた。
アイクとイオンは、サイミールに来てからも続けている『朝連』に、道場ここを使わせてもらっている。そのつながりで、ここを利用する警備隊の者と顔を合わせたりするのだ。
アイクの場合はさらに、朝連以外でも体を動かしたくなるとここを訪れる。訓練に参加させてもらうのだ。ゆえに、すでに警備隊の中に顔見知りが何人もいた。
アイクの参加について、飛び入りだろうと何だろうと、衛兵達は何の不満も言わない。
むしろ、サイミールの英雄に会えるだの、手ほどきをしてもらえるだのという理由で歓迎されている。実際、アイクは衛兵達に頼まれて稽古をつけることもある。
その日もアイクは、警備隊の連中に頼まれ、自分の特訓がてら稽古をつけていた。
……その時である。
道場の扉が乱暴に開け放たれ、伝令兵らしき1人の兵士が駆けこんできた。
そして、その口が告げることには……
「申し上げます! 首席顧問純系・アイク様! および、サイミール警備隊・シーク隊長! 領主さまから、レインゲートの特使団のことについて緊急のお呼び出しです!」
「へ?」
☆
「盗賊?」
呼び出しを受け、領主エラの執務室に赴いたアイクの耳に入ってきたのは、そんな単語だった。
「ええ。どうやら……この町の郊外に陣取っているようなのです」
と、エラ。面持ちは神妙である。
聞くところによると……今言った通り、この町……サイミールの郊外に、盗賊の一団を目撃したらしい、という情報が今しがた入ったらしいのだ。
盗賊ごとき(この世界の考え方なら)珍しくもないが、問題は……今が、レインゲートの特使の訪問を控えた時期だ……ということである。
特使のキャラバンは、さぞかし豪勢な装備をそろえていることだろうから、見つかればまず間違いなく獲物にされるだろう。それは……どう考えてもまずい。
エラの言葉を受け、アイクとともに訓練所からここまで一緒に来た、浅黄色でオールバックの髪の青年……サイミール警備隊隊長・シークは眉間にしわを寄せる。
「そうなると……何もしないで待っているわけにはいきませんね」
「ええ。シーク隊長、アイクさん、あなた方を呼んだのは、そのことで……です」
エラは面持ちを崩さずに言う。
「情報によれば、レインゲートの使節団は、今日の午後から黄昏時にかけてここに到着する予定です。それまでに……郊外で、盗賊に襲われないとも限りません。シーク隊長、警備兵を率いて、お出迎えがてら、レインゲート使節団の警護の加勢をお願いできますか?」
「了解しました領主さま。では、体が空いている第4、第5部隊を動員します」
瞬時に判断し、それでいて適正と言える判断を下す。さすがは隊長と言ったところだろうか、そういった方面の能力において、一平卒よりもはるかに優れている。
「お願いします。それと……アイクさん」
「はい?」
と、エラは今度は唐突にアイクの方を向き、
「えっと……俺も行くんですかね?」
「ええ……お願いできますかしら?」
やや申し訳なさそうな表情で、エラはそう言った。
アイクにとっては、特にそう気にするようなことでもないのだが……代わりにその決定に異議を挟んできたのは、今まさに動こうとしていたシークだった。
「……? お待ちください領主さま。警護であれば、盗賊程度の相手であれば、我々警備隊でことは足ります。強いとはいえ、何も『首席顧問純系』のアイク殿に来ていただくことは……」
「あー、いや、いいんだシークさん。多分これ、強さとかとは関係なくだから」
「?」
アイクの言っている意味がわからないからだろう。シークの顔には、あからさまに困惑が浮かんでいる。
護衛には、何よりも力が必要。それは間違いない。
しかし……そこらの盗賊程度であれば、訓練を積んだ警備兵達であれば、戦力としては十分だ。いくら馬力と人数があっても、不良上がりと正規の兵士では地力が違う。
しかし……アイクの言った通り、ここにおいてのアイクの同行の目的は別にある。
「あー、多分……ほら、俺一応、『首席顧問純系』だからさ。その俺が直々に迎えに行った方が、護衛だけでなく、礼儀的な意味でも有利っていうか、優位っていうか……」
「ええ……まあ、そんなところですね」
少し申し訳なさそうな顔で、エラも補足をつける。
今の説明で、シークも『ああ……』と、納得した様子である。
一足先にあいさつを終えるとともに、少し俗な言い方になるが、こちら側の器の大きさを見せつける、という意味で、『首席顧問純系』のアイクが自ら出向くのは有効な手段と言える。
「さて……そうなると、イオンも一緒に連れて行った方が? 呼びます?」
「いえ、アイクさんだけで十分でしょう。それに……」
「それに?」
「最初にアイクさんに会わせておいて、その実力を見せておけば、それだけでもデイリーさん達にはけっこうな衝撃でしょう。そこで、イオンさんの存在をほのめかせば……」
「あー……なるほどね」
必然的に向こうは、『こんなのがもう一人いるのか』と、さらなる畏敬の念を抱く結果を招くだろう。
随所にやはり抜け目がないものを垣間見る。いつもの優しいエラとは若干のギャップが感じられた。外交上必要なやり取りとはいえ、違和感は否めない。
まあ、それも仕方のないこと、許容範囲だとわかっているアイクとシークであるから、何も不満など抱くこともなかったが。
「では領主さま、警備隊隊長シーク……警備隊2隊とアイク殿とともに、レインゲート使節団の出迎えに行ってまいります」
「ええ、お願いしますね」
2人はそろってゆるやかにエラに一礼し、準備のために部屋を後にした。
☆
その数時間後、アイクとシークは馬車に揺られていた。
「すまんな、アイク殿。手間をかける」
「いやいや、何でもないですよ、このくらい」
アイクとシークの間にかわされているのは、そんな緊張感に若干欠ける感じの会話。
まあ、この2人が訓練所での顔見知りで仲がいいこと、それに、2人のその戦闘力ゆえに、これから赴くかもしれない戦いの場に置いても余裕があるということを考えれば、それも自然かもしれない。
アイクはもとより、シークもまた、戦闘力では他の追随を許さない圧倒的な高さを誇る。
シークは、片方の手に剣、もう片方の手に盾を装着して戦う一刀流の剣士スタイルだ。その腕前は賊の数人であれば数秒で斬り伏せられるほどであり、実際に1人で、小規模な盗賊団を1つ壊滅させたこともあるらしい。
若干26歳で警備隊の頂点に立ったその実力は伊達ではなく、エラやアリアはもちろん、警備隊員やサイミール市民達からも多大な信頼を受けている。
余談だが、浅黄色の髪に高い身長、鍛え上げられた体に、やや渋めの美男子フェイスもあって、ラブレターも日々相当数届いていることは有名な逸話の一つである。
そんなシークは、近頃よく訓練所を利用するアイクとは、実力で(比較的、だが)近いこともあり、何度も言うように仲が良かった。公の場でなければ、所々敬語こそ使えど、友人のように親しく話せる仲だ。馬車に揺られながら、アイクはブレザー、シークは軽鎧に旅装で、リラックスしている。
「まあ……盗賊に襲われる危険性は確かにあるが、その前に我々が合流すればその危険も半減するだろう。それほど緊張することでもないな」
「あー、そうかもですね。サイミールの警備隊に……多分、向こうさん……レインゲートの方にも、護衛兵とかはついてるでしょうしね」
「ああ、その2つが合わさり、ましてや私とアイク殿が居るのだ。それを前にしてかかってくる奴など……盗賊でもそうはいるまい」
そこだけ聞くと自画自賛にも聞こえるが、実際そうなので違和感はない。
戦闘が避けられるという意味でも、合流はなるべく早くが望ましい。その理由もあってシークは馬車の行軍速度を速めにさせていた。
それでも、使節団との接触までに2時間ほどはかかるとのことだが。
その暇を利用して、アイクは気になっていたことを聞いてみることにした。
「シークさん」
「む、何か?」
「その……これから会うことになる、向こうのトップの……デイリーさんでしたっけ? その……どういう方なんですかね?」
「ああ……デイリー殿か……」
歴史書や風土調査書、新聞のバックナンバーまでよく読んでいるイオンなら知っているかもしれないが、ラノベ・漫画以外の読書がそれほど好きではないアイクは、そこまで資料を読み込んでいない。
なので、アイクの頭にはこれから会う相手に関する知識がほとんどなかった。
「彼女は……そうだな……。エラ様よりも、いくばくかフランクな性格の方だ。考え方は通ずる所があるが……話し方も砕けていて、一般市民に近い感覚を覚えるな」
「へー……」
「人見知りもしない性格だからな。アイク殿もすぐに仲良くなれるだろう」
口調から、シーク自身そのデイリーと仲がいいのだろう、ということが推測できた。
隊長とはいえ、警備兵と心を通じさせることができる……そのデイリーという人物、単にお偉いさんというわけでもなさそうであった。
「まあ、早い話が……会うのに準備が必要なほどあたりづらくはない。リラックスして邂逅の時を待てばいいさ」
「はは……だといいんですけど」
「ははっ。いや……アイク殿の方こそ、サイミールを救った英雄であり、ゴーレムをも滅殺する戦闘能力を持ち、さらには純度10の純系……むしろ、アイク殿の方が威張ってもいいのではないか?」
「やだなーもー……やめてくださいよ」
アイクにしてみれば、今シークが上げ連ねたそのどれもが自慢するつもりもないことだ。
英雄云々にかんしては、ブボウがムカついただけ。ゴーレムの粉砕は正当防衛と修業の成果の確認。純度のことは……正直まだよくわからず、実感がない。
唯一、権力がある、という点においては……元の世界で似たような環境下にあったために、意外と早く順応できていたが。
ともかく、アイクには過去の業績を盾に威張り散らすつもりなど皆無。
そしてそれを知っているシークもまた、それがよくわかっていたし、自分が言ったことも半分冗談になるだろう、ということも承知していた。
今のような雑談が、おそらく先方の馬車の一団が見えるまでは続くのだろうと思われていた―――――――その時、
「で、で、伝令ッ!!」
いきなり馬車が止まったかと思うと、アイクとシークが乗る馬車のところに、1人の伝令兵が駆け寄ってきた。走っていたのか、何か焦っているのか……息が切れている。
いや……両方か。
「何事だ!?」
シークの問いに、兵士は呼吸を整えながら答えた。
「はっ! 非常事態です、シーク隊長! 今しがた旅人と思しき男から目撃情報が入りまして、この先3里の地点で、レインゲートの使節団が盗賊の一団と交戦状態になった模様です!」
「「!!」」
間に合わなかった。
使節団に出会うより先に……盗賊たちがその存在を嗅ぎつけてしまっていた。そして、使節団は今、襲われている。
事態が切迫したものになっているという認識に、さっきまで場を支配していた和やかな雰囲気は消し飛んだ。
シークは素早く表情を引き締め、不測の事態に対応するべく動いた。
「規模は?」
「はっ! 目撃情報によれば……賊の人数はおよそ80超! 100はいないだろうと」
「そうか……わかった。第一部隊に伝えろ。これより馬車部隊に先駆けて進軍、レインゲート使節団に合流、援護する! 馬を用意して、準備しろ!」
「はっ!」
指示が降るや否や、伝令兵はかけていった。
そしてシークは……今度は、アイクの方を向く。
「アイク殿……申し訳ないが、先鋒を務めてくださるか?」
「先鋒?」
「うむ。部隊編成よりも先に使節団の所へ行ってもらいたいのだ。戦闘になる以上、敵情の視察・把握が急務だが……場合によっては、そのまま戦闘に突入してほしい」
つまり……状況を報告するための偵察だ。が、使節団の状況いかんでは、そのまま戦いに加わって彼らを守れ……ということらしい。
アイクが聞き返すと、シークの首肯が返ってきた。
「そういうことだ。アイク殿なら判断力もあるし……何より、80人の賊となれば、戦えるのは……」
「俺かシークさんくらい、か……了解ッ! 行くっすよ!」
「かたじけない。では、兵士を数名選ぶから少し待……」
と、そこまで言ったところで、
アイクは次のセリフを待たず……突如として馬車から飛び降りた。驚いたシークは、あわててアイクを呼びとめる。
「あ、アイク殿!? どこへ……」
「どこって……今、シークさんが頼んだんじゃん、先鋒」
「あ、いや、頼みはしたが……同行させる兵士は……」
「いいっすよ。少人数じゃ、戦闘になった時は焼け石に水だし」
「さ、左様か……では、馬を用意するゆえ、しばし待……」
「それもいらね」
言うなり、アイクは女神ロローラから貰った腕輪……左腕に装着されているそれをかかげる。直後、腕輪からまばゆいばかりの光が放たれ……
アイクの左腕に、左腕部分だけの鎧と……そこから派生したらしい、片方だけの翼が生えた。
アイクはそれを広げると、
「んじゃ、行ってきまーす!」
まるで買い物にでも行くかのような軽口を残して飛び立った。
鳥か何かと変わらない飛行速度で、あれよあれよという間に小さくなる。
「…………や、やれやれ……つくづくでたらめだな、彼は……」
わかりきっていたことだが、改めて見せられると……さすがに熟練の戦士であるシークも困惑した。なにせ、いきなり翼が生えて(道具のようにも見えたが)、空を飛べるようになったのだ。
まあ、純系の中には生まれつき強大な魔力その他を持つ者もいる……と、シークは以前に聞き覚えがあったため、納得することにした。
自分も負けてはいられないな……と意気を入れるシークの目に映るアイクの姿は、空の彼方へどんどん小さくなっていく。そして、そのまま見えなく……………………
……………………なると思ったのだが、
「…………???」
なぜか途中でUターンして、馬車に帰ってきた。
程なく、今まで通りのサイズに認識できるあたりにまでアイクは舞い戻り、馬車の前にすたすたと走ってきた。
「…………アイク殿?」
「あー、その……」
一瞬言い淀んで、
「あの翼……まだ使い慣れてなくて、その……3里くらいなら行けると思ったんだけど、感覚的に途中で落ちそうだったんで……やっぱ馬貸して?」
「………………………………う、うむ」
……この時ばかりはシークは、少しとはいえ、『カッコ悪い』という感想を抱かずにはいられなかったとか、そうでないとか。
ともかく、一番の駿馬を用意してもらったアイクは、仕切り直しとばかりにその腹を蹴り、道を急がせた。
余談だが、実はあの翼……『まだ慣れていない』ということはもとからわかっていたことで、それを考察したイオンから使用禁止のお達しが出ていたため、お説教回避のため、アイクはシークにそれに関して口止めするのも忘れなかった。
その『使い慣れていない』……いや、訓練はしていたわけだから『使えない』理由も、近く明らかになるわけだが。
☆
……そして、数十分ほど馬を走らせて、目的地に到着したアイクの目に飛び込んできた光景は……
「な……何だぁ、これ…………?」
予想外のそれだった。
報告が間違っていたわけではない。レインゲートの使節団と思しきキャラバンはいた。
そして、その周りに……ちゃんと……と言うとおかしいが、盗賊たちもいた。
おかしいのは……その80余名の盗賊たちが……既に『全滅』していた所だ。
死んでいるわけではない。そのほとんどは……見える範囲で、だが……気絶しているだけのようだ。怪我は容赦なくさせられているようだが、苦悶の表情がうかがえ、うめき声を聞くことができるその姿からは、まだ息がある……ということが分かる。
戦闘の痕跡があることから、おそらくはここで戦った末に防衛に成功した……と見るのがいいのだろうが……それにしても不自然だった。
1人も殺していない、というのがまずおかしい。逆に器用だ。加えて……レインゲート側の兵士と思しき死体もない。
兵士の命を削りあう集団戦闘で、このような痕跡が残るものだろうか。
状況が把握できす、唖然としているアイクのもとに、キャラバンから1人の男が近づいてきた。
「? あの~……」
「はぃ?」
「その……間違っていたらすみません、サイミールの方ですか?」
「え? あ、はい……アイクっていいます」
話し方から、どうやらレインゲートの人間と思しきその男性。アイクが言うと、納得すると同時に、その名前に驚いていた。
「では……あなたが……」
「純度10、サイミールの『首席顧問純系』……アイク・ソーヤー様、ですね?」
「「!」」
と、突然その更に後ろ……キャラバンの中から、男が話すのを遮るようなセリフとともに、1人の女性がアイクのほうに歩いてきた。
赤紫色の髪を頭の裏で束ねていて、長さは肩より下……背中ほどまでありそうである。
美女と言っていい顔立ちだが、まだ若若しさというか、女子高生のような感じが残る。身長はアイクと同じくらいだが、年齢の予想は難しそうだ。若干ツリ目の瞳は、品定めでもするかのようにアイクの頭からつま先までをじろじろと見ている。
そして、口を開いた。
「間違っていますかしら? 聞いていた身体的特徴とも、一致するのですけど……」
「え? ああ、いや……あってますよ、はい。そのアイクです」
「そうですか、よかった。人違いだったらどうしようかと」
言う割には、声に困惑などは感じられない。
(ずいぶん度胸すわってる感じの人だな……)
アイクを『純系』のアイクだとしってなお、女性は物怖じせずに話しかけている。
自画自賛するわけではないが、アイクにとってはこの世界ではかなり珍しい反応だ。誰もかれも、アイクが『純系』だと知った途端に恐れおののいてしまうのだから。
その理由は、ほどなく明らかになった。
「申し遅れました。わたくし……レインゲート商業組合の組合長を務めます、デイリーと申します。以後、どうぞお見知りおきの程を」
(! この人が……!)
驚く藍句の目の前で、彼女……デイリーはゆるやかに一礼。優雅な仕草は、上流階級でも通じるだろう完成度だ。プロフィールが本物だとわかる。
「お出迎えに来て下さったのでしょうか? それとも……盗賊からの護衛に?」
「あ、はい、まあ……そんな感じです。間に合いませんでしたけど……」
「いえいえ、お気づかい感謝します」
にっこりと笑うデイリー。
シークに聞いていたとおり、物怖じせずフランクで、話しやすい女性のようだ。
とりあえず挨拶の後、救援が遅れたことを詫びる。そしてさらにその後で、アイクは気になっていたことを聞いてみた。無論……この状況だ。
「ああ……それでしたら、わが方の護衛兵の功績ですわ」
「そうですか。優秀な兵士さん達なんですね。死者、負傷者などは?」
「ああいえ、そうではなく」
デイリーはそこでなぜが手を横に振ると、
「この盗賊たちはですね、集団戦闘で、ではなく……1人の護衛兵が相手をしたのです」
「……は!?」
デイリーの口から出た言葉に、アイクは驚きを隠せなかった。
何せ、デイリーの連れてきた護衛兵の一人が、単騎で80人もの盗賊を一蹴した……と聞かされたのだ。驚くなという方が無理だろう。
1対80で勝てる実力もそうだが……もっと驚いたのは、その後にデイリーが言った、その者が意図的に殺さずにこいつらをしとめた……という点だった。
そもそも『相手を殺さずに勝つ』というのは、死人を出して全滅させることよりもはるかに難しいのだ。確かな技術と経験、そして実力が必要になる。
そんな、実力にして自分やイオン、シークに匹敵しかねない(全員生け捕りとなると、シークには無理かもしれないが)実力者の存在を聞かされたアイクである。驚くのは当然というものだ。
……………………が、
真の驚愕は……その5秒後にやってきた。
「………………アイク?」
「……………………え…………?」
自分から見て左側から聞こえてきたその声に……アイクは固まった。
……どこかで聞き覚えのある声だ。
いや、思い出せないわけではない。誰の声だと認識できたのか、きちんと言える。何せ……出会ってからの8年間、ずっと一緒にいたのだから。
しかし……それはありえない。ここは異世界『フェルガルド』、彼女がいた世界とは……全く違う世界だ。
そのはずだと思いつつ……アイクは自分でも意図せぬうちに、わざとらしくゆっくりと左側を向く。
すると、そこには…………
…………ありえない映像が広がっていた。
「あー、やっぱり! 藍句(アイク)ね!」
「ゆ……ゆゆゆ…………由希(ユキ)、か!?」
鳶色の髪に、幼さの残る、しかし美少女と言っていい顔。意外に出るとこ出ていて、女らしい、といっていい、魅力的な体つき(Cカップ)。
その顔を、誰が見間違うものか。
現実世界にいるはずの、幼馴染の少女………………
………………向井(むかい)由希(ゆき)が、そこにいた。