Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
「お…………幼馴染、ですか……!?」
「ええ、まあ……最も的確に表現する言葉を挙げるとすれば、それかと」
「「「………………………………」」」
場所は変わって、サイミール領主官邸の応接室。
そのソファの上で、エラが、アリアが、ミリスが、デイリーが、シークが……というか、この部屋にいるほぼ全員が、唖然として開いた口がふさがらない状態だ。
例外……アイク、イオン、そして…………ユキ。
もっとも……今『最も的確に云々』の発言をしたイオンもまた、最初は驚いていたのであるが。
その騒動の発端であるユキはというと、まるで自分の家かアイク達の家のように、リラックスしてソファでくつろいでいる。
…………わけではなく、一応礼儀をわきまえ、静かに行儀よく座っていた。
一応、大富豪の娘である。こういう場での対応・態度は知っているのだ。
今一度、アイクとイオンはユキに視線を向ける。
服は……どうやらオーダーメイドで作ったらしい、現実世界で言う『セーラー服』に非常によく似た作りの服。というか……デザインから何から、アイク達が通っていた学校のそれと酷似している。意識して作らせたであろうことを、想像するまでもない。
二人の視線に気づくと……ユキはぱちっ、とウインクを返して来た。
(この、緊張感からかけ離れた軽~い感じは……)
(ユキ……だな……。間違いなく、人違いじゃねえ……)
と、デイリーがいち早くその驚愕から立ち直る。そして、自分の所の『傭兵』であるユキに向き直り、問いかけた。
「ねえユキ、まさかあなたがやけに、新入りの『純系』に会いたがってた理由って……」
「ええ。アイクとイオンかもしれないと思ったからですよ? 名前同じだし」
さらりと返すユキ。
「ちょ……それを早く言いなさいよ!」
「確証がなかったんですよ。同じ名前の別人……ってこともありうるでしょ? 政治とか商談とかが絡んでくる場で、推測で対局を乱しかねないことを言っちゃダメです」
台本でも呼んでいるかのような応対。
やはりというか……この少女は、そういう細かいところに意外と頭が回るのだ。アイク達の幼馴染をやっているだけはある。
そして、次に平静を取り戻したのは……領主エラ。こちらは性格の差ゆえか、デイリーのように取り乱しを引きずるようなことはなく、落ちついた声音で応対していた。
もっとも……その心中にはいくばくかの混乱が残っていたが。
「なるほど……驚きましたわ。しかし、これは嬉しい誤算、と言えるかもしれませんね」
「え、ええ……そうですね」
と、今度はデイリー。
「ここにいる、私どもの護衛兵、ユキ=マーキュリーと、純系のお二人……アイク=ソーヤー様とイオン=ソーヤー様が、そのように親しい仲であったとは……」
((…………『マーキュリー』??))
双子の頭上にそろって『?』が浮かぶ。
視線でユキに問いかけると、ユキは微笑を浮かべながら小声で教えてきた。
(うん、私の偽名よ。こっちの世界に来た時に設定したの。アイク達の『ソーヤー』とおんなじ)
(何だよお前『マーキュリー』って? どこの美少女戦士?)
(違う違う。語感)
(語感……?)
(『向井』と『マーキュリー』、似てるでしょ?)
((いや、無理あるから))
礼儀はわきまえるものの……彼女の独特なものの考え方は、この世界に来ても変わってはいないらしい。ため息をつく一方、アイクとイオンはどこか安心してもいた。
……安心したと言っても、まだ気になることは山ほどあるのだが。
そもそも、何でユキがここにいるのかということだ。
事故死した2人とは違い、ユキは死んでなどいないはずである。この、2人にとっては死後の世界である『フェルガルド』で出会えるなどということは、全く予想外……どころか、予想することこそ無理というものだ。ゲームでもあるまいし。
そのことについて、後でいろいろと聞こう……とイオンが考えていると、
「……こほん。では……あらためて、自己紹介させていただきますね」
そう言って、デイリーが立ち上がった。
「私の名はデイリー=スペンサー。レインゲート商業組合の組合長を務めております。エラ様とは古い中で……ああ、年齢など言うものではありませんわね。どうぞよろしく」
うやうやしく一礼。
アイク達も、それに返す。両陣営がよく知っているエラとアリアは割愛するも、デイリーに初めて会うミリスと、アイク達が簡単に自己紹介をすませ……
そして、同じように……ユキも、自己紹介。
「初めまして。ユキ=マーキュリー、17歳。アイクとイオンとは幼馴染で、主に……」
さすが、ユキは挨拶も堂に入ったものだ。幼いころからアイク達と行動を共にし、色々な著名人と会っているだけある。
何ら心配なさそうだな、と、アイクとイオンが安心していたとき、
……おそらく、場を和ませる、アイスブレーカーのつもりで、だろう。
または、先ほどから、首脳会談……にはあまり似つかわしくない、のどかな雰囲気が漂っていたからかもしれない。
もしくは……デイリーがフランクな正確であるがゆえに、遠慮が薄れたのか……
自分の性格を知ってもらう上で、手っ取り早いと考えたのか……
……理由などどうでもいいが、ユキは事実として……自己紹介の中に、とんでもないフレーズを1つ、紛れ込ませた。
「ちなみに! そこにいるアイクとイオンの童貞をもらったのも、私でーす♪」
一瞬の静寂。
……………………そして、
「「「えええええええぇぇぇえええ―――――――――っ!!?」」」
((ユキィ――――――――ッ!!?))
いや……事実ではあるのだが…………。
驚きとため息が入り混じる応接室で、ユキだけが『してやったり』とでも言いたげな、つかみどころのない笑みを浮かべていた。
☆
向井由希という少女は、普通の少女ではない。
人間ではないとか、特殊な超能力が使えるとか、そういう意味ではなく……生まれた『家柄』が違うのだ。
ユキの父親は、ラスベガスにカジノを3つ、ホテルを2つ経営する資産家だ。アイク達の家には遠く及ばずとも、政界や財政界にそれなりに影響力を持つ。
その父親と、当時、現地のカジノで働いていた日本人スタッフの一人の女性との間に生まれた女性……それがユキなのだ。
つまり、ユキは彼の正室の子供ではなく、愛人の子供である。
さすがに当時すでに正妻を持っていた父親は、ユキを自分の子供として迎え入れるわけにはいかなかったものの、やはり自分の子供を手放したくはなかったらしく、遠い親戚の子供……という設定で、極力自分に近い位置に据え置くにいたったのだ。
もっとも、さすがにラスベガスに住ませるのはやり過ぎと考えたのか、経済面での支援を続ける上で、母親の国籍である日本に居を構えさせている。
しかし、その表向きの『親戚』という、そして実際の『親子』という関係ゆえに、商談に出席したり(するだけで実質は『見学』だが)、視察に同行したりと、父親の仕事の場に顔を出すこともあった。
プライベートでも、旅行に連れて行ってもらったり、社交界に行ったりもした。
そして、もう1つ……
親戚というステータスを利用して……父の仕事相手の接待を、そのカラダでもって請け負うことも、実は割とよくあったのだ。
現実世界にまだいたころに彼女が言っていた『外資系の社長かな』という内容もまた、これにあたる。
正妻の子でなく、愛人の子、というステータスは、こういった肉体接待には向いた立ち位置なのだ。関係を隠しているため、評判を落とすことなく、相手のご機嫌をとれる。
ユキの父親は当初、その仕事をユキに頼むつもりはなかったのだが、ユキの方から引き受けたのだ。わけありの子供とはいえ、いつまでも父のすねをかじらせてもらっているのはいやだ……と。
それに、ユキがその仕事を引き受けようと思えた理由は、他にも2つあった。
1つは……ユキ自身、セックスが好きであったこと。
もう1つは……
…………どれだけ自分が他の誰かに抱かれようとも、
間違いなく、他の誰よりも……それこそ、父親や母親と比べても変わらぬほどに、自分のことを愛してくれる者の存在が、心の中にあったから……だ。
……否、
者『達』の……か。
彼ら彼女らの逢瀬についてはまたいずれ触れるとして、時間軸を戻そう。
☆
「ったく……爆弾発言もほどほどにしてくれよな……」
「あら、いいじゃない、事実なんだし。それにこの世界……割とこういう話もポピュラーでしょ?」
「あのね……」
所変わって、ここは領主官邸の談話室。
中では、アイクとイオン、それにユキがいて、幼馴染同士水入らずで話を弾ませているところだった。皆、ソファに座ってくつろいでいる。
挨拶を兼ねた首脳会談は、必要なだけの事項を話し合って終わりになったのだが、当然アイクとイオンにはまだユキに聞きたいことが山ほどあった。ゆえに、こうしてゆっくり話せる部屋に招いたのである。
本来ならVIPの中のVIPである2人には、一介の傭兵であるユキは『謁見』という形を取らざるを得ないのだが……ここは珍しく、アイク達がわがままを押し通した。
「にしても、驚いたなぁ……まさかユキと、こんな所で会うなんて……」
と、イオン。時には独り言まで敬語になるイオンであるが、今のところただ1人、ユキに対してだけは、イオンの口から敬語が消えるのだ。
そしてその疑問は……どうやらユキの方もわかっていたらしい。ソファに座ったまま、2人しか見ていないのをいいことにだろう、くつろぎ全開で答える。
「そうね……どこから話したらいいかしら?」
「ザッとでいいぜ?」
「そうね……じゃあまず、私が死んだあたりから、ね」
……………………………………
「「は!?」」
☆
想夜兄弟の訃報は、財界・政界よりも早く、ユキのもとへと届けられた。
今まさに、外資系企業の社長とのビジネスセックスを終えたところのユキのもとへ、携帯電話から一報が入ったのだ。
発信元は……アイクとイオンの父親。日頃から、それこそ留守にしがちな自分よりも、2人にいちばん近い存在だったユキに、それをいち早く知らせたのだ。
内容は、至極単純……
『アイクとイオンが死んだ』
切り詰めれば……たったそれだけのセリフに収まる言葉だ。
しかし……
(………………………………え……!?)
……一番近い存在だったユキに、その一報はとてつもなく大きく、そして重かった。
誰に抱かれても、どんなプレイでも笑って受け流せるユキの心は、たったそれだけの言葉で粉々になった。
満身創痍、呆然自失となったユキが……赤信号に気付かずに車道に出てしまい、交通事故でその命を散らすのが……その数分後のことだ。
☆
「……とまあ、回想終わり」
「「さよかい」」
軽口の語り方とは明らかに釣り合わないヘビーな内容の回想が終わり、アイクとイオンはそこに脱力しつつも、予想外の事実に驚いていた。
無理もない。自分たちが死んだあの日……そのショックで、ユキまでもがその人生を終えていたのだから。
そして、ユキの話はまだ続く。
「なんかこう……死ぬ瞬間って、全部がスローモーションになるとか言うけど、あれホントなのね。割とビックリしたわ」
「その程度で言って済ませられるユキって、やっぱ大物だよね……」
イオンのセリフには、呆れと驚嘆がそれはそれはふんだんにこめられていた。
「天下の想夜グループ令息が何言ってんの。続けるわよ?」
「? まだ続くのかよ?」
「当たり前。話したのまだ死んだとこまででしょ? この世界に来たとこ話さないと」
それはそうだ。
常識から考えて(このファンタジーな状況に『常識』もへったくれもないだろうが)、死ぬことと転生することはイコールではない。何かしらのプロセスが存在するはずだ。
もっとも……2人とも、予想はつくが。
「死んだなコレはー……って思ったんだけどね? いや、実際死んでたんだろうけど……そのあと、何かセクシーな服着た女の人にあったのよ」
「ロローラ、か? 名前」
「あ、やっぱりご存知?」
「まあね……となるとその後は……大体僕らと同じかな?」
見るからに『やっぱりか』と言いたげな2人の顔。
「ええ、多分。あ、でも、私は……『その世界に行けば、またアイクとイオンに会えるよ』っても言われたから……そこだけ違うわね」
おしまい、と、ユキは満足げな顔。
大方の事情は理解した。要は、ユキもまた……女神に選ばれた者として、このフェルガルドへ転生したらしい。
「私がやってきたのは、レインゲートの近くの漁村だったの。村の人達に拾われてね……まだ何も事情がわからない私に、いろいろとよくしてくれたわ」
「ほー……そりゃまた運が良かったな。俺らもそんな感じだったぜ」
もっとも、アイクはそのあと精液を絞りとられるという『親切』とは言い難い目にあっているわけなのだが。
「まあ、偶然でもないのかもしれませんけど……」
と、イオン。
「は? どういう意味?」
「女神ですよ。あの人……わざと、僕らが危険に遭わずに、ある程度までこの世界になじめるようなところを選んで、この世界に飛ばしたんじゃないかな……と」
「ああ……それはありうるな」
「右も左もわからない世界に『転生』だもんね~……そのくらいのオプションっていうか、サービスはあってしかるべきかしら?」
意外なところに女神からの心遣いを感じたアイク達であった。
まあ……よくよく考えれば、当然の心配りとも言えるのだが。勇者(?)として異世界に派遣する以上、冒険序盤で死なれては彼女も困るわけであろうし。
少なくとも、護衛をしてくれる環境下に身を置くか、アイク達のように自分で自分の身を守れるくらいに熟達するまでは……ヘルプが必要となる。
と、ここまで考えて……アイクはふと、というか今更思い出した。
「あ、そういやユキ、お前に聞きたいことがあったんだけどよ……」
「? まあ、聞きたいことしかないとも思うんだけど……何?」
「ああいや、それはその……まあいいや。お前さ、昼間……」
と、言いかけたところで、
コンコン
「「「はい?」」」
ノックの音に、ハモって返事を返す3人。一瞬それに驚いたような静寂がドアの向こうに存在したが、すぐにそれは人の声にシフト。
『あ、アリアです。アイクさんとイオンさんと……マーキュリーさんも、いらっしゃいますか?』
その『マーキュリーさん』に、違和感のあまりアイクが吹き出しそうになっていたが、無視してイオンが返答を返した。
「どうかしましたか?」
ガチャ
「あ、はい……」
ドアを開けると、そこに立っていたアリアと……声を上げなかったものの、その後ろに一緒に来ていたミリスと目があった。
「ええと……マーキュリーさんのお部屋が決まりましたので、案内しようと……今、もうよろしいですか?」
「あ、うん。いいわよ」
聞こえたのだろう。ユキはソファから立ち上がり、小走りで戸口のところまで来た。
そして、出会いがしらにミリスとアリアの手をとって、半ば強引に握手。
「わ、え?」
「あ、あの……!?」
驚く2人だが……この対応こそが、ユキが『仲良くなれる』と判断した者への、コミュニケーションの第一歩である。遠慮、一切なし。
そのことを知っているアイクとイオンは、やれやれ……と肩をすくめてみせた。
「アリアちゃんに、ミリスちゃんよね? よろしく! 私のこと、ユキでいいから!」
「あ、はい、どうも……」
「よ、よろしく……お願いします……」
「うん! じゃあアイク、イオン、行こう!」
「え、俺らも?」
思いがけず自分の名前を呼ばれ、アイクが聞き返した。しっかりソファから立ち上がりつつ……であるが。
「せっかくなんだし、部屋に案内するついでに……この建物の共用スペースの案内もしてよ! ホラ早く行こ!」
言うなり、両手にアイクとイオンの手をとり、ユキは先導役のアリア達すらも置いて行こうとする。
「あ、あのっ、マー……じゃなかった、ユキさんっ!?」
「うふふっ、こうやって3人で歩くのも、久しぶりね!」
「「全く……」」
変わらないマイペースぶりに、苦笑するアイクとイオン。
しかし、その顔には……呆れよりもむしろ、明らかな安堵感が浮かんでいたことは、言うまでもないことだった。