Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
「「練習試合?」」
町の散策から帰ってきたイオンとユキがアイクから聞かされたのは……そんな話だった。その隣では……ついさっき仕事の話で部屋を訪れたミリスがきょとんとしている。
3人とも……全く寝耳に水な話だ。
聞けば……こういうことらしい。
アイクとシーク隊長の戦いを見て、レインゲートのリーダーであるデイリーが『やはりサイミールはレベルが高い』と感じたのがそもそもの発端だったようだ。同時に、興味本位と自分たちの持つ兵たちへの配慮から……こういった場を設けることを思いついた。
もっとも、アイクとイオンの先頭の実力をうわさで耳にした時点で、その方向性で多少なり物事を考えていたらしいのだが。
つまりデイリーがエラとともに訓練場に姿を見せたのは、最初からそれが目的でもあったわけだ。
「まあ、要綱としては……今言ったような感じの内容だな。サイミールとレインゲート、双方の護衛兵やら警備隊やらから何人か代表者を出して、バトるってわけ」
「なるほど……士気の向上にも、いい経験にもなる……と」
「そういうこった」
アイクの説明に、うんうんとうなずくイオン。
ちなみに、アイクとイオンは護衛兵でも警備隊でもないが……参加は暗黙の了解とされているようだ。
「俺らの返事いかんで、やるかどうか決めるってよ。今日の夜までに返事くれって、エラさんが」
「なるほどね……僕は別に反対はしませんが?」
いい経験にはなるでしょうし、とイオン。
この世界に来てから今まで、2人はそれなりに実戦経験をつんできた。回数を考えれば、経験はまだ『浅い』と言わざるを得ない。
まして、2人が相手にしてきた連中といえば、盗賊や山賊ばかり。犯罪行為以外の経験に乏しく、戦法も闇雲に武器を振り回すだけ……という連中だ。訓練された動きなど無かったし、術師などという『貴重な経験』にカテゴライズされそうな戦闘も無かった。
唯一、ブボウの粛清の際にだけ、相手側に『術師』がいて、術による火炎攻撃を仕掛けてきていたが……やはり、経験としては乏しい、と言わざるを得ない。
その状況を考えれば、魅力的な提案かもしれない。
シークもそうだが……町の正規の警備隊となれば、術師の兵士などもいそうなものだ。それに……ブボウの時とは違う種類の術を見れるかもしれない。剣を交えるようなことができれば、経験として申し分ないものになるだろう。
書籍でしか呼んだことのない種類の『魔術』をじかに見れるかもしれない……と、イオンは多少の期待を胸の内に感じていた。
「ってことは……参加でいいか、イオン?」
「ええ……僕らにとっても、メリットは大きそうだ。やりましょう」
「よっしゃ。じゃあ後でエラさんに報告しとくわ」
アイクはそう言って、ゆったりとソファでくつろぐ。そしてミリスが淹れてくれたお茶を手に取り、口に運んだ。魔法のカップのおかげで、淹れたてのまま……熱い。
幸せそうに緩むその顔を見て、こころもちミリスもうれしそうにする。
と、アイクはここで、ふと思い出したように言った。
「そういやさ、ユキ」
「んむ?」
自分の名前が呼ばれ、不意を疲れたように聞き返すユキ。その口には、スコーンが詰まっていて……明確な発音が期待できない状態だ。
「昨日、会ったときに聞きそびれてたんだけどよ……お前さ、もしかして……」
と、ここでアイクはいったん区切って、体をやや前に乗り出して、
「お前も……俺らと同じこと、できたりするわけ?」
「「!」」
と、その問いに……イオンとミリスが反応する。
アイクはその脳内に……昨日の昼に見た、あの光景が浮かび上がっていた。
……街道沿いの荒野に、全滅した状態の盗賊の一団が、死屍累々と横たわっている、その光景を。
そしてそれを、ほぼ無傷の馬車の上から見下ろしている、自分のよく知る幼馴染がいる、という……かなり異様な光景を。
いったいこれはどういうことなのか……と、その時は心中がパニックになっていたアイクだが、冷静に考えてみると、その理由が明らかになった気がした。
そしてそれは、同時にイオンも考えていたことだった。もっとも……イオンには珍しく、再開できた喜びが勝っていたせいで、聞くのを忘れていたが。
2人の胸のうちにあった疑念は、同じもの。
そしてそれは……幼馴染の返答によって、確信へと変わった。
「ああ……あの、中二病っぽいチート能力でしょ?」
((やっぱりか))
そういうことらしい。
彼女もまた……女神ロローラから、アイクとイオンがもらったのとおなじ能力を付与されていたのだ。想像力と経験値次第で何でも出来る、あの力を。
そしてつまり……
「あの盗賊連中全滅させたのも……ユキか?」
「あー、うん。ちょっとは警備隊の人たちにも手伝ってもらったけどね」
……そういうことだ。
すなわち、ここにいるユキは……少なくとも、シーククラスの実力者……ということになる。盗賊をしめて80人ばかり、一掃できるほどの。
どんな技を使ったのかはわからないが、アイク達はそれに感心せざるを得なかった。
ミリスのほうは、それにくわえて『やっぱり強いんだ……』と、驚愕していた。無理も無い。彼女の記憶の中では……そんなことができるのは、アイクとイオン、それにシークくらいのものだ。
目の前にいる、自分と同じか、少し年上……といった感じの美少女がそれほどの実力者であるというのは……あまりに突飛で、信じられない話だった。
「ユキってさ……武術とかやってなかったはずだけど、そんなに強かった?」
「ん~……ケンカとか得意、とかそういうのは無いけど……合気道とかの護身術くらいなら、昔お父様に教えられたことがあるから。それに、中学まではよくアイク達の道場に遊びに来てたでしょ?」
「いやお前、剣道も柔道も空手も1時間でやめてたじゃん。汗臭いの嫌だっつって」
「うん。でもほら、2人がやってるとこは見物……もとい、見学で見てたし、それに……」
「「それに?」」
「今は『力』があるから……あれの真似事くらいならできるよ」
((あ、なるほど……))
どうやら……自分たちほどではないが、彼女も、戦闘方面には才能と呼べるものがあるようだ。
幼いころに経験した護身術の手ほどきをベースに、アイクとイオンという幼馴染の境遇ゆえに、さわり程度に経験してきた、さまざまな武術の数々。そこに例の特殊能力を組み合わせることで、いっそう強力な戦闘技能に仕立て上げた……というわけだ。
そして、よく見ると……腕に、自分たちが着けているのと同じ腕輪をもつけているのが見えた。剣の方は……ないようだが。
と、それに気づいたのかユキは
「あ、剣あるよ? 部屋に置いてきちゃったけど」
「「おいおい」」
武器を携帯しなくてどうする……と、アイクとイオンは脱力を覚えた。いくあ領主官邸の中が安全とはいえ、仮にも異世界で……やや無用心ではなかろうか、と。
「大丈夫大丈夫。だって……腕輪だけで十分戦えるもん、私」
「ほー……そらまた、えれえ自信だな?」
直後に発せられたユキのセリフに、アイクは意外そうに返した。
戦闘などという物騒な分野に関して……これほどに自信満々、というのは……今まで2人のイメージの中にあったユキからは、それほど違和感があったのだ。
まあ、自分たちと同じような力がある……と考えれば、それもうなずけるのかもしれないが。
「まあ、くわしいことは……後でわかることになると思うからさ、楽しみにしてて」
「? 後で……って、どういうこと?」
「いやほら、その『練習試合』……たぶん、私も出ることになると思うから」
「「…………え゛!?」」
と、ここで……2人にしては察しの悪いことに、ようやく気づく。
今のユキの立場は……アイクやイオンのように、賓客という扱いではない。あくまで……1人の『護衛』なのだ。サイミールでたとえるなら、シークのような。
まあ、臨時の雇いだ……と言っていたから、それも微妙に違うが
ともかく、
……ということは、どういうことかというと、
「ユキが……レインゲート側の『代表』の1人として……出てくるっつーことか?」
「多分ね」
「それってもしかして……組み合わせ次第じゃ、僕ら同士で戦うこともあるんじゃ……」
「そうね」
「「危機感!」」
幼馴染同士がバトルフィールドに立つ可能性があるという、この状況。
にもかかわらず、動じていないこの少女。
いつもはこっちが冷静な側である双子の兄弟とあいまって、奇妙な光景を作り出していた。いつものこの3人の構図を知っている人間が見ると……いささか不自然に映る。
まあもっとも、ユキのボケにアイクとイオンがつっこむ……という構図自体は、あまり珍しくは無いのであるが。
そんな2人の心中を知ってか知らずかユキは笑顔を崩さずに続ける。
「大丈夫大丈夫。事情を知ってるもの同士なら、適度に加減して戦えるし、それに……」
「それに?」
と、イオン。
ユキは一拍おいて、
「前からさ……うらやましいとも思ってたの。武道館でバトってる、アイクとイオン見て」
「? 武術系は嫌いなんじゃなかったのか?」
「ああ、それはそうなんだけど……何ていうか、そこだけ、私がどうしても仲間に入れない……仲間はずれにされてる……って感覚があってさ……」
そんなの自業自得なのにね、と言うユキだが、その心中は意外にも真剣だった。
飽き性の自分であるがゆえに、武術という根気と長期の鍛錬が必要になるジャンルでは、アイク達と時間を共にすごすことができない。武術は護身術程度で十分……と割り切ってはいたが、そこはやはり、さびしくもあったのだ。
いつも一緒の『3人』が、この時だけ、『2人と1人』になってしまう……という感覚があったために。
「勉強もスポーツも、レジャーもゲームも、セックスだって、いつも一緒だったじゃない? なのに……武術だけは、私だけいつも見学……。物騒だし、無理だとは思ってたんだけどさ……混ざりたくってうずうずしてたのよ私、一応」
そんなことを知る由も無かった2人は、それなりに驚いていた。
「だから、もしそういうことになっても……私は大歓迎。スポーツやるのと変わりない、と思ってるからさ」
言っていることは若干非常識に聞こえるが、ユキの笑顔は本物だった。
それを見て、アイクとイオンは……言い返す気が無くなった。
そういうことなら、もう何も言うまい、と。これ以上自分たちが何か言ったところで何かが変わるわけでもない。
それに、いざとなれば、手加減や……寸止めで対処することだって可能だ。気心が知れている分、そういう分野には便利かもしれない。
そう、自分たちを納得させていた。
……この予想、
ユキがどういう戦い方をするのか……いやそもそもどのくらい強いのか……それを知らないからこその、楽観的な予想、といえたのかもしれない……。
その状況に、いまだ変わらぬ緊張感を覚えることができていたのは……
(アイクさんもイオンさんも……このユキさんまで、そんなにとんでもなく強いなんて……ど、どうなるんだろ……この『練習試合』……?)
完全に『第三者』の立場で物事を見ることができている、ミリス1人だった。