Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
その日、藍句と伊恩は別々に行動していた。
「す、すいません……お買い物につき合わせてしまって…」
「いやいや、全然オッケーだって、このぐらい」
青空の下、申し訳なさそうに言うミリスに、笑顔で返す藍句。
どういう状況かというと……藍句は今、ミリスの買い物に付き合って村の市場に来ているのだ。ミリスが荷物持ちをしてもらおうと使用人の一人に声をかけているのを見つけた藍句が、自分が行く、と申し出たのだ。
理由は簡単。暇だったから。
「なんだか成り行きでミリスの家に置いてもらうことになったし……こんぐらいはね」
「はあ…」
あれから二人は再びイーラらと話し、行くあてもないということで、やけにすんなりと食客として家に置いてもらえることになった。ふたりにとっては願っても言えないことだが、伊恩はやはり怪しそうな目で見ていた。
その伊恩の指示もあって、藍句らはこの世界についての情報収集が必要、という結論に達した。そして、今回のこの買い物同行はその意味も兼ねているのだ。
そして藍句の脳内には……行く前に伊恩に言われた言葉が刻み込まれていた。
『気付いてます? この屋敷……僕らが普段が使ってるような家電製品が全く置いてないんですよ。TVやパソコンならまだわかりますが、電球の1つもない……ってのは変でしょ?』
(言われてみりゃ、確かにそうだったな……)
昨日今日と話をしたリビングは、ソファやそれにかけるマットをはじめ、高そうな郷土品や細工物が多くあった。
しかし確かに、確かに家電製品の類はどこにもなかった。照明は壁の松明たいまつとテーブルの上のトーチだったし、電話もパソコンもTVも見当たらなかった。藍句が昨日から感じていた違和感はこれだったのだ。
(どうりでなんだかどこぞの部族の集落にでも来た気分になったわけだ。まあ、女神様がわざわざ元の世界と同じような世界に飛ばしてくれるとも限らねーしな。で……情報収集も兼ねて表に出てみれば……)
そこで藍句は周りを見渡し、
「これだもの…」
そう呟いた。
目の前に広がるのは、先進国とはかけ離れた光景。
タイの水上マーケットのような、やや前時代的な、しかし温かみのある市場。
『たしかファンタジーマンガとかの『市場』ってこんな感じだったな…』という感じの市場である。
あちこちに露店があり、その店ごとに特徴のある品々が売られている。燻製のような肉が吊るされていたり、瓶詰めの葉物や果物が置かれていたりする。剣やナイフ、槍や鎌が並ぶ、正にファンタジーといった感じの『武器屋』もある。大小様々な壺が置かれた店には、飲み物か油か、あるいは漬物かと言った何かがはいっている。
「現代日本の町並みじゃあ…ねえよな…」
わかりきったことを、そうでないことを願うかのように藍句が呟く。
と、
「あ、あの~…」
もじもじと、少し恥ずかしそうにしながら、ミリスが尋ねてきた。
「その……藍句さん達はどこからいらしたんですか? 差し支えなければ教えていただけると…」
その質問に、藍句は顔をしかめた。
「どこって……遠く、だな。どこかまでは言えねーけど……知識的な理由で」
「はあ……。というと……」
ミリスが遠慮気味に言う。
「迷子……ですか……?」
言わないでほしかった藍句だった。
あながち間違ってはいないのだが、納得いかない。
「まあ……もっとも情けない言い方で言うと……な」
「あの……それって、お家の方が心配なさるのでは?」
「ああ、それは大丈夫。なんつーか……ある意味心配とは無縁な方法で迷子になったから……」
「……はあ……?」
思い出したくない、という風に藍句が呟く。なぜだろう、その周囲が暗い。
その後藍句はその話題を振り切って買い物に戻り、2人いれば十分に持てる量の荷物を抱えてミリスと街道を歩いた。
一方その頃、
☆
ミリスの家 書庫
「『術師』……ですか?」
聞きなれない単語に、興味深そうな視線を送る伊恩。その好奇心に答え、傍に立っているイーラが説明する。
「えっとね……この世界には術士っていう人達がいるんだけど……普通の人間にはできないことを色々な『術』を使って解決してくれるのよ」
話によると、術士とはいわゆる『魔術』の使い手のことで、才能のある者しかなれないという。色々な種類があり、代表的なものでは、傷を治す『治癒術士』や、先ほど言っていた石材や木材を運ぶ『運搬・転移術士』等があるという。
(魔法使い……ってわけか……。どうやら、日本での常識が通用する世界じゃなさそうだ)
「伊恩くんのいた国には、術師がいないの? 大変じゃない? 荷物とか運ぶ時」
「ええまあ……でも、向こうにもそれなりに方法と言えるものがありましたから」
わざわざややこしく説明する事項を作らず、最小限の会話で済ませるあたりは、イオンの話術であると言える。こんな調子で、伊恩はイーラに質問を繰り返していた。
藍句は外で買い物しながら、伊恩はここで書籍と会話を中心に情報を集める……それが今朝がた伊恩が考えた役割分担である。
「では……もう1つ」
「いいともっ、何でも聞いてね!」
伊恩はそこで、昨日から気になっていた事実を聞いてみることにした。
「昨日聞きそびれてしまったんですが…あなたたちが話していた…『純系』とか『アンプル』って何のことです?」
「!」
直球で浴びせられた質問に、イーラの表情がわずかに強張った。それを見た伊恩は何かに気付き、目を細める。
(本当に……知らないのかな……?)
投げかけられた言葉を頭の中で復唱し、自身が昨日独自に提唱した『ある可能性』が現実味を帯びてきていたことを、イーラは実感していた。
そして、ついつい口の端に笑みを浮かべながら、
「んー……まあ、おいおい話すことにするよ。短い話でもないしね」
その反応に、伊恩はさらに目を細める。
(……腹の内を探っているのは……どうやら僕らだけではなさそうですね……)
少なくとも、この世界におけるかなり重要なワードであると確信をもったイオンだった。
(それも気にはなるけど……女神様が言ってたアレも……)
そこで藍句は、ふと『気になる』つながりで、この世界に飛ばされる直前に女神が言っていた一言を思い出していた。
それは……去り際だったために、どうにかギリギリ聞こえる程度だった言葉……
『あなた方に力を授けましょう、その世界で生き残り、戦うための力を……』
(どういう意味だろう……? 戦うための力ね……)
普通に考えれば、自分たちがこの世界で生きていくために必要な力……ということになる。何せ、魔法やら武器やらのファンタジー要素が跋扈し、さらに機械文明が発達していない世界だ。
日頃から心身ともに鍛えている2人には、大して応えるものではなかったとはいえ、さすがに身1つで異世界に放り出されると、何か心もとない。
普通に転生ものの小説などで考えれば、戦うための特殊能力などのはずであるが……。
(やれやれ……面倒な。素直にどういう力か教えてくれてもいいものを……)
処理しなければいけない情報が多い中、そんな謎ときまがいのメッセージを残してくれた女神に対し、伊恩は苛立ちを感じていた。
とはいえ、会って文句を言えるわけでもないので、仕方なく自分のやることをやることにした。情報収集のため、めぼしい文献を読み、さらにいくつか質問をする。
ちなみに文献は全て英語だったが、高校生にして外交官クラスの語学力を持つ伊恩にはさして問題ではない。地球外言語でなかっただけ幸いというものだ。
そんな感じで1時間が経とうとしていたころ、
「でも不思議ね……『別の世界から来た』なんて」
不思議そうに、しかし楽しそうにイーラが声をかけてくる。
「まあ、突拍子もない話なのはわかりますけど……僕は嘘をついてるわけでは」
「ないんでしょ? わかってるわかってる。たださ……まるで絵本の中の出来事みたいだな~……って。ホラ、異世界から来た勇者様の話とか、まさにそんな感じでしょ?」
勇者なんてそんな、と返しつつ、伊恩は『魔法が存在する世界の住人に言われてもなぁ……』なんて思ったりしていたとか。
そんな中、イーラは伊恩にこんなことを話してきた。
「ねえ、それはそうと……私からも、伊恩くんに頼みがあるんだけど?」
「? 何でしょう?」
「うん。えっとね……伊恩くんの精液が欲しいの」
「は!?」
コレにはさすがに伊恩も驚いた。驚いて、読んでいた本を取り落としそうになる。
無理もない、質問の内容が内容だ。しかもそれを、まだ昼にもならないうちから堂々と面と向かって言ってくるのである。
「ちょ、それ、どういう……」
「ほら、最初に藍句くんの精液貰ったでしょ? あれと同じ。ちょっとした検査用に……さ。大丈夫、何も怖いことしないし、悪いようにはしないから」
伊恩の脳裏に、昨日、ベッドに何らかの方法で拘束されて、その勃起したペニスを手で丁寧に刺激され、精液をたっぷりとしぼりとられていた兄の姿が映る。
あの時は最終的にこそ冷静に対処できていたものの、伊恩自身も正直なところ戸惑っていて、さらに言えばペニスは勃起しかけていた。まあ、健康な男子としては当然の反応ではあるのだが。
恐らく今、伊恩の顔は赤くなっているだろう。そしてその気配を察知してか、イーラはさらに伊恩につめよった。
「ね、気持ちよくしてあげるからさ……。昨日の見てたら、私がそこそこ上手だ……ってわかるでしょ? 若い子にとっては、悪い話じゃないと思うけど……?」
「や、ちょ、あの……」
「そうだ、もしお望みなら……お礼ってことで、特別におクチとか……なんなら最後までさせてあげよっか……?」
話しながらもイーラは近づいてきていた。そしておもむろに手を伸ばし……わずかに膨らんで来ているのがわかる伊恩の股間に、手のひらをそっ……とあてる。
そのまま、すりすり……と、単調ながら微妙な力加減を考えた手つきで伊恩の股間をさする。その刺激に、だんだんと伊恩の股間は理性の制止を振り切って膨らんでいく。
「あ……っ、う……!?」
藍句と同様、このところオナニーもろくにしていなかった伊恩である。服ごしの優しい愛撫に、自分の分身が反応しているのがわかった。もしかしたら……先走り汁でパンツが濡れてきているかもしれない。
そしてついに、イーラはイオンが困惑している隙に、ズボンの隙間から手を入れて、パンツの布一枚越しに、その硬くなりつつあるペニスをさする。
その際、パンツ越しにイオンのペニスの先端が湿りつつあることを感じ取り、イーラはにやりと笑った。
「ね……お願い。たった1回、おちんちんから精液どぴゅどぴゅしてくれるだけでいいからさ。ああもちろん、お望みなら2回でも3回でも……」
「ちょ、待っ……」
言葉では言うが、その抵抗は徐々に力無いものになって行っていた。
既に数倍の大きさに怒張し、熱を持っている自分の分身。そこから思いっきり白濁を放ちたいという欲望が、簡単に払いのけられるはずのイーラの手を受け入れている。理性と欲望のはざまで、伊恩は何もできなくなっていた。それほどに……人間の欲求というものは強いのか。
イーラはその様子も、そして肉棒が自分の体温よりもさらに高い熱をもち、触っている手が焼けそうになっているのを感じていた。
「もう……どうせ我慢してるんでしょ? だったら……」
と、その時、
「イーラお嬢様ー! お客様がいらっしゃいましたー!」
侍女らしきそんな声が、書庫の扉の向こうから響いた。
それを聞き……今まで艶めかしい表情で伊恩に迫っていたイーラが、とたんに面白くなさそうな顔になる。
「あー、そっか……今日、お昼に商談だっけ……もう、いいとこなのに……ハーイ! 今行くわー!」
そう言って、つかつかと歩き出す。
「ごめんね伊恩くん、また今度ね」
「あ、は、はい……」
(いや、『はい』じゃないだろ……はあ、僕もまだまだ未熟だな……)
助かったような、残念なような不思議な感覚の中で、伊恩ははあ、とため息をつく。
さりげなく股間の部分を触ってみると……ズボンの表面にこそそんな跡はないが、先端から竿の部分にかけてやや湿っぽい感じがあった。おそらく……先走りが出てしまっていたのだろう。
(や、やれやれ……パンツが濡れちゃったな……女の子でもないのに)
ズボンとパンツを前に引っぱって見てみると、そこには先端を液体できらめかせている愚息の姿。パンツを軽々押しのけ、もう少しでズボンの外にはみ出しそうなくらいにまで、天を突かんと怒張している。 このところご無沙汰だったとはいえ、我ながら呆れた、と伊恩はため息をついた。
と、イーラの誘惑が始まる前に思いついた『あること』を思い出した伊恩は、
「あ、そうだイーラさん! その……裏山の空き地、ちょっと使わせてもらってもいいですか? 試したいことがあるんです!」
「? いいけど……夕方には戻ってきてね? あの山、暗くなると迷いやすいから……。あと、何するのかわかんないけど……山火事とか、事故は起こさないように!」
「了解です!」
そう言って切り上げると、伊恩はイーラが去って行った方とは逆の方向の出入り口を開け、書庫を後にした。
☆
そのころ、商店街
「そういえばね、お客さん。ちょいと妙な噂を聞いたんだけどさ……」
「? 噂って?」
ミリスも初めて見るという、シルバーアクセサリーの屋台の店主が口にしたセリフに、キョトンとしてミリスが反応する。
「いや、それがね……?」
ひそひそひそ……
「…………えぇえっ、な……何それ!?」
「……?」
少しはなれたところで待機していた藍句の耳にも、ミリスのその声は届いていた。
さすがに気になって振り返ると、その屋台の店前から何やらあせったような様子のミリスが駆けてきた。そして、藍句の手をとり、すぐさま店の外へ走り出す。
あまりに突然のことだったが、どうにか藍句は転ばずに一緒に駆けていられた。
「ちょ、おいおいおい!? 一体なんだミリス!?」
「早く! 早くお家に帰りましょう! 今すぐに!」
「今すぐに……って、え? 何でだよ、まだ買うもの残ってるんだろ?」
「そんなのは明日でもいいですから、とにかく早く帰らないと大変なことになります!」
「大変って……ともかく事情を説明してくれっての」
「ああもう!」
めんどくさい、とでも言いたげなリアクションを見せたミリスは、しかし立ち止まらずに駆け足のまま、藍句の質問に答えた。
「山賊です! 人攫いです! 奴隷商人です!」
なっていなかった。
その後なんとか詳しく聞いたところによると、どうもミリスは店の店主から、町の商店街部分と山間部(ミリスなどが住んでいる居住区だ)の間の山道に、今日の夕方から山賊が現れる……という情報を聞いたらしい。
なんでもその山賊は、夕方から日暮れ時の、山間部に帰る人が多くなる時間帯を見計らって人攫いをはたらくらしい。そいつらが現れるという噂を事前に聞きつけた屋台の店主が、そのことを教えてくれたとか。
それを聞いたミリスはもうビビリまくって、山賊が現れる前に家に帰るために道を急いでいるのである。時刻はまだ暗くもならない時間帯、十分余裕はあるのだが、ミリスいわく念には念を、とのことだ。
「欲張って買い物をしていてその人たちに出くわしたんじゃ元も子もないです、早く帰って、残りは明日か明後日に買いに来ましょう!」
町を出てからというもの、ミリスの歩くペースはさらに加速していた。
いくらなんでも急ぎすぎではと思う藍句だが、もしかしてこの世界ではこれが普通の考え方なのかという可能性もあるので、あまりうるさくは言わない。
……しかし、
それとは別に、藍句は何か心にひっかかっている部分があった。
「……なあ、ミリス……」
「はい!? 何ですか!?」
語気まで荒げんでも、と藍句は心の中で突っ込みつつ聞いた。
「あのさ……その、っていうかさっきのアクセの屋台の店主、顔なじみか?」
「? いえ、今日始めて見た人でした。昨日あたりこの町に来たんじゃないかな……?」
「…………」
その返答に、藍句は何やら不安がさあらに助長されていくのを感じていた。
何か喉に引っかかるような感じがありつつも、それが何なのかわからない。違和感の正体がわからない……そんな気分の悪い状態だ。
例えるなら……そう、『ここまで出てきてるんだけど……』とか、そんな感じ。
「とにかく、早く帰らないとまずいんです! もたもたしてたら、その山賊さんたちに……」
と、その時、
「止まりな、お嬢ちゃんたち」
「「!?」」
そんな声と共に……山道を歩いていた藍句とミリスたちの前に、数人のガラの悪そうな男達が立ちふさがった。
「……え? え!?」
「……っ!」
突然のことにびっくりする藍句。藍句も驚いてはいたが、それでもとっさの反応で後ろを確認する。するとやはり、後ろも同じような男達によりふさがれていた。
そしてその容貌は……どうみても山賊とか野盗とか、その類のそれである。
まだ出るはずのない山賊がもう出た、そして自分達がカラまれたという事実に、ミリスはパニック寸前である。
「ふえええ……!? な、何で……」
「……なるほどな~……そういうことか」
「!? え、何ですか藍句さんそれ!?」
何故か納得したような物言いの藍句の言葉に、当然の驚愕を返すミリス。
はぁ、とため息をつきながら、藍句はその意味を伝える。
「あのなミリス、多分そのアクセ屋、コイツらの仲間だったんだよ」
「え!?」
ミリス、再び驚愕。
「ちょ、それ、どういう……」
「そのまんまの意味。多分そいつ、こいつらに襲わせるために、客にそういう情報を流してたんだ」
ミリス、涙目。ため息交じりにアイクは説明を続ける。
つまりこうだ。アクセサリー屋は、『夕方から山道に山賊が出る』……という情報をわざと流して、それを聞いた者が慌てて家に帰るように仕向けているのだ。しかし実際には夕方などではなく、この時間帯から、実働部隊(こいつらだ)が、ここを通って慌てて帰っていく連中を品定めしている……。場合によってはそのまま襲いかかり、哀れな獲物は捕らわれてしまう……というわけだ。
「……今の俺たちみたいに……な」
「そ、そんなぁ……」
「何だボウズ、賢いじゃないか?」
と、会話が途切れるのを待ってくれていたのか、このタイミングで山賊が口を開いた。
改めて見てみると……山賊は前後合わせておよそ10人ほど。いずれもそこそこ屈強な体つきで、武器は棍棒。しゃべったのは……どうやらリーダー格のように見えるひときわ体格の大きい男だ。
「そういうことさ。お嬢ちゃんみたいな若くてかわいい子は、高く売れるからねぇ。偽の情報を流させて、俺達が気に入ったヤツをここで襲うのさ」
あごをすりすりとなで、笑いながらそんなことを言う男の顔は、正に悪人面。
もはや絶望でいっぱい、かたかたと震えているミリスを見て、そいつだけでなく他の手下達も下品に笑っている。
「しかし今日は、特にコイツは当たりですねえ……頭かしら。若いし、相当の上玉だ」
「ええ、こりゃあすぐに売っちまうのはもったいないな……俺らで犯して遊んでから売りませんか?」
「ふむ、それもいいな……だが、ここは慎重にいこうじゃないか。処女かどうかでは、売る時の値段に差が出るからな」
聞こえてくるそんな下卑た会話に、ミリスはもはや涙をこらえ切れられない様子で、ぽろぽろと泣き始めていた。頭の中は、恐怖感と絶望感でいっぱいである。
それに対して藍句の心の中は……意外にも実に冷静だった。
(全部で9人……頭も入れて10人か? 結構多いな……けどまあ……)
「さてと……そういうわけだから、大人しくつかまってくれるかな? 大丈夫、大人しくしていてくれれば……乱暴にはしないさ。……多分ね」
最後の付け足しに、手下達が一斉に笑い出す。大方、先ほどの話の内容のことを考えているのだろう。
少なくとも……女であるミリスに関しては、その『乱暴にはしない』の意味が違う。
「そこのお嬢ちゃんはもちろん……そっちのボウズもだ。美少年を好んで買っていってくれる、物好きなマダムも顧客には居るからな」
「あっそ。お褒めの言葉、ありがとさん。けど……」
言うと同時に、藍句はミリスをかばうように前に出る。
同時に……その腕を、リング上のボクサーのように構えた。それを見た山賊たちの表情が、怪訝なものになる。
「……? おい、何のまねだ、ボウズ?」
「あ、藍句……さん……?」
「見たとおりだよ」
藍句の返答は……実に淡白だった。しかし……本気である。
「むざむざつかまる気はねーってこと。おわかり?」