Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
名づけて『サイミール・レインゲート交流親善友好試合』。
通称『交流戦』。
アイクとイオンの了承によって実現したそれは、それが決定した日……つまり、アイクがエラを、イオンがアリアを抱いた日の2日後に設定された。
そして……代表の選定を含む、おのおのの必要な準備をすませ……
……今日、この日を迎えたのであった。
☆
『ではこれより、第3回戦を始めます!』
オオオォォォオオ―――――――ッ!!
一般公開されているため、観客席からはその戦いの見物に来た一般の客の歓声が絶えず沸き起こっている。
つい先ほど行われた、第2回戦最後の一戦……サイミール代表の剣士と、レインゲート代表槍使いの試合もまた、それはそれは見事なものだったのだから……無理も無いが。
その熱気の中で、
「さーて……そろそろだな」
「ええ、3回戦ですから……そうですね」
言いながら、選手控えスペースで準備運動をしている双子がいた。
アイクにイオン、2人とも……鎧のようなものは別段装備していない。頑丈さはあるものの……ほとんど普段着の、いつものブレザーのままだ。
ここで一旦、大会規定の説明をしておきたいと思う。
この『交流戦』、形式はトーナメント方式だ。サイミール、レインゲート双方から10名ずつ代表者を出し、組み合わせごとの試合でその腕を競う。勝てば次の試合に進むことができ、負ければ即刻敗退、というわけだ。
この戦いの形式は、おそらく市民たちへの喧伝というか、サービス的な意味もあるのだろうが。
そして、アイク、イオン、ユキ、それにレインゲート側の1名(名前は忘れた)が、シードとして参戦している。ゆえに、彼らの出番は3回戦から……すなわち、今からだ。
「じゃ、行ってくるわ」
「ええ、ご武運を」
弟の言葉を背中に受けながら、アイクは歩き出し、
『大3回戦第1試合……アイク・ソーヤーVSデーア・ブライン!!』
高らかに選手紹介を受けながら、ステージに躍り出た。
この日のために、特設ステージとして用意された闘技場は、アイク達の目にはさながら天下一なんとかのように見えていた。
ルールは簡単。降参、気絶、そして場外で負けとなる。敵の武器によって、実践ならば明らかに致命傷だと言える攻撃を受けても負けだ。
武器は持ち込み自由(ただし、訓練用であることが条件)。魔術などの使用も禁止されていない。ゆえに……かなりやり応えのある、そして見応えのある試合になっている。
特に魔術を使う戦士との試合は、一歩間違えれば大怪我にもつながりかねないものなのだが……そこはやはりプロ同士、加減というものができている。
「さてと……んじゃあ、いっちょやりますか!」
内心楽しみにしていたアイクは、期待をそのまま顔に出しながら、試合場へと足を運んだ。
そして……
『試合……開始!!』
ゴングがなると同時に……相手方の戦士が走り出す。
「うおおおぉぉ――――っ!!」
手に構えた槍を、射程内に入るやいなや、アイクに向かって突き出した。
難なくそれをかわすアイクだが、相手はそれも予想していたようだ。滑らかな動きで槍を構えなおし、横に振るう。
「せいっ!!」
「おっ……と」
ぶぉん、とすさまじい風切り音が響き、同時に起こった風で土煙が舞う。……やはり、ここまで戦い抜いただけのことはある。相当の手練のようだ。
……が、それでもアイクには届かない。
舞うように繰り出される敵の槍。アイクはそれを、体をひねったり、バック・サイドステップでかわし続ける。同時に、相手の動きをよく見て……そのパターンを脳内に刻む。
現実世界で、竹刀で薙刀と戦った時に似ている、とアイクは感じていた。
「さて……そろそろ、行きますか!」
「むっ!?」
アイクの雰囲気が変わったのを悟ったのだろう、槍使いは一旦後ろに飛んで距離をとり、さらに槍を前に構えてけん制する。
が、アイクの反応は素早い。
相手が槍を構えると同時に、それとは逆の方向に飛び、前転して一気に距離をつめた。
あまりに素早い動きに、デーアは対応が遅れた。しかも、槍は長物であるがゆえに、小回りが利かない。懐に入られるということは……よほどの手練で無い限り、即座に敗北につながる。
そんな状況にも、デーアは槍の柄でもって対応し、攻撃を防ごうとするが……
「あらよっと!」
ドゴッ!!
「ぐはぁっ!!」
カポエラの要領で超下段から繰り出された蹴りが見事にあごに命中し……意識が放棄された。
『勝者、アイク・ソーヤー!』
アナウンスを受けて、アイクの体は自然にガッツポーズを決めていた。
☆
それに続けて行われた第2試合、イオンが敵の術師の炎や雷を駆使した猛攻を退け、得意の『スピードスター』の乱れ撃ちで勝利をおさめてから……いよいよ、本日のメインイベントと呼べるものが始まった。
もっとも……それは、アイクとイオンにとってなのだが。
『第3回戦第3試合、ユキ・マーキュリーVSシーク・スパロウ! 始めっ!』
2人を除けばサイミール最強の戦士・シークと……よく知ってはいるものの、完全に実力未知数のユキ……その2人の戦いが、今始まった。
シークは、いつもと同じ鋼の鎧に、長剣と盾。兜はつけていない。
大してユキは……鎧などはなく、いつも通りのセーラー服だ。とても戦う装束ではない。
……が、その腕にはあの腕輪がはめられており……さらに腰からは、若干無骨に見えるベルトから下げた、刀を吊っている。
シークは緩みの一切感じられない顔で、一方のユキは緊張感の感じられない屈託のない笑顔で対峙している。
(どういうことだ……?)
試合が始まっても、シークはすぐに飛びかかるようなことはしなかった。
うわさに聞いている、彼女のとてつもない実力を警戒しているといえばそうだ。
が、それ以上に……
(隙だらけ…すぎる……?)
その動揺は、控え席にいるアイクとイオンの2人にも伝わっていた。
「わけがわからない……って感じですね。シークさん」
「だな」
伝わってはいるが、別段2人にあせりや困惑は見られない。それもそのはず、彼らは彼らで、その構えのわけを知っているのだから。
彼らが知っているユキは、無邪気でかわいらしい、普通の女の子だ。
そのつい最近まで平和な世界にいた女の子が、隙のない構えなど体得できるはずもない。もともと武術を習っていた自分達と違い、彼女は運動神経は高いとはいえ『格闘』に関しては素人。どんなに強かろうが、構え方まで完璧にしろというのは無理な話だ。
あれはユキの自然体……アイクとイオンは、一発でそう見抜いていた。
(何であれ……このままでは何も始まらない。罠かもしれないが……そうだと解っていれば、被害も最小限で済ませられる……ならばっ!!)
瞬間、シークは剣を横に構え、地面を蹴って飛び出した。
疾駆、というよりは跳躍に近い、大股でありながら軽やかかつ素早いステップで接敵する。あっという間に、その射程内にユキを捕らえた。
「ふっ!」
短く息を吐き。牽制の意味も込めて剣を横に薙ぐ。しかし、ユキは避けようとしない。
(バカな! なぜ避けない!?)
シークの目に動揺が浮かんだその瞬間、
ギィン!!
耳を覆いたくなるような金属音と共に、シークの剣は、突如としてユキの左腕に現れた鋼の鎧によって阻まれていた。
「な…何……!?」
「っ…と……あぶなっ!」
シークとユキ、両名がその場から跳びすさる。シークの目には、明らかな同様が浮かんでいた。
「ユキ殿……その鎧…どこから…?」
「ん、今作ったの」
「は?」
シークのみならず、観客席までもが驚いているのがわかる。
「にしてもすごいね、シークさん。今までの試合もそうだったけど……早いし強いし、鎧で防御したのに、腕ちょっと痛いもん」
緊張感のない声で、ユキがそうさらりと言ってのけた。瞬間、左腕を包んでいた鎧が消えてなくなる。言うまでもない、あれは……腕輪の力だ。
(なるほど……アイク殿たちと幼馴染であるというのは本当のようだな……得体の知れない術を使う……しかしっ!)
シークは怯む様子を微塵も見せず、今度は大上段に剣を構えて飛びかかる。
(何であれ、術を発動させる暇も与えなければいいだけのこと!)
先ほどのように一瞬で間合いを詰める。しかし今度は、牽制ではない。仕留めることを目的とした本気の剣撃だ。
それを察したユキが、今度は自分も剣を抜く。
すると、その手に握られていたのは、細身のセーバーだった、銀色の刀身が放つ光は、どこか妖艶な雰囲気をかもし出している……感じがしなくもない。
「行きますよっ!」
その一言と共に、ユキは先ほどとは違い、よけることはしない。前に跳んだ。
「さぁっ!!」
某卓球少女を髣髴とさせる掛け声と共に、ユキは剣を振るう。素人であるためだろう、太刀筋は滅茶苦茶だが……おそらく身体強化を使っていると見える。凄まじく速い。
「……っ!? これほどまでに……っ!!」
剣の狙いをはずされ、おまけに目論見まではずされたシークは、秒間に2,3度のスピードで振り下ろされる剣撃をどうにか盾でしのぐ。
が、そこで狙っているカウンターを使う隙は与えられない。それほどまでに、ユキの滅茶苦茶な剣芸が厄介だ。
何とかわずかな隙に剣を振るおうとしても、一瞬でユキのセーバーに弾かれる。
何とか打点をずらそうとしても、ユキのフットワークですぐに逃げ道をふさがれる。
徐々に押され、シークは壁際へ後退していった。
「それじゃあそろそろ……本気出しますかあっ!」
掛け声と共に、ユキのセーバーがまばゆい光を放った。そして、突如として剣の威力が格段に上昇する。舞うように繰り出されるそれに、明らかに不釣合いだ。
「……っ!!」
変わらない剣速で繰り出される連撃に、最早シークはついていくだけで精一杯だった。
しかし、
「負ける……ものかっ!!」
一瞬の隙を突き、シークは奥の手を放った。
自分の剣と盾でユキの剣撃の嵐にほんのわずかな隙を作り、そして素早く集中する。
直後、左手に構えた盾の表面から……シークの練った魔力を凝縮した光弾が放たれ、ユキに向けて全弾が発射された。
「わわっ!?」
文武両道ならぬ『剣魔両道』のシークの得意技の1つであり、この試合では始めて見せる技だ。アイクはこの魔力弾丸を見たことがあったが、ユキにはない。
驚いたユキは、剣で防ぎつつ後退する。シークは、その隙を見逃さなかった。
「おおぉっ!!」
中段に構えた剣を、突きの要領で前に突き出し、同時に自身も前方に飛ぶ。まともに食らったら、模造刀でも串刺しにでもなりそうな鬼気迫る勢いだ。
しかし、それほどの勢いで行かなければ、眼前にいる少女を倒すことはできない……と、シークはそう確信していた。だからこそのこの攻撃だった。その判断は、恐らく正しい。
……惜しむらくは、それでもまだユキを仕留めるには足りなかったことだろうか。
「とぉりゃっ!!」
シークの剣が自分の間合いに入ったその瞬間、信じられない速度でユキが体を横に回転させて放った回し蹴り。ユキはそれによってシークの剣を蹴飛ばし、軌道を90度近くも変えた上、シークに大きくたたらを踏ませた。
「な……っ!?」
驚きと蹴りの威力で硬直するシークに、必然の隙ができる。今度は、ユキがその隙をつく番だった。
「せええええい!!」
セーバーを光が包んだと思うと、次の瞬間それはバットに変わっていた。
シークが驚く暇もなく、接敵したユキによりそのバットが振るわれる。
カキィーン!!
快音と共にバットが、防御したシークの剣を捕らえた。が、その音があらわすイメージどおり、凄まじい気負いで振るわれたバットはシークを大きく吹き飛ばす。
何の漫画の武器だろう、などとアイクが考えている間に、シークは一瞬にして、闘技場の反対側まで吹き飛ばされた。
そしてその隙に……ユキはさらに恐ろしいものを用意していた。
「……靴……?」
シーク含め、それが何だか解らないものには、たたずんでいるユキに脅威を感じる要素はどこにもない。それどころか、先ほどまで握っていた剣(バットになっていたが)が鞘に収められている分、隙さえ見られる。
ただ、
1、 ユキが宙に浮いている点。
2、 ユキの靴が黒光りする妙なロングブーツになっている点
この2点を除けば……だが。
その正体がわかっているアイクとイオンは、ただため息をつくしかなかった。
「マジでか……」
「『黒い靴(ダーク・ブーツ)』……」
ある漫画に登場する、脅威の威力の蹴りを放つことを可能にする武器。恐らく、左腕の腕輪の力で出した武器だろう。にしても、
((そこまでせんでも……))
2人とも、そう思う以外になかった。
次の瞬間、今まで以上の超高速で接敵したユキは、シークに反応する暇すら与えず、
ドガゴオォォン!!!
鎧を砕くほどの威力の蹴りでシークの体を浮かせ、続けざまに放った踵落しで地面に叩きつけた。
あまりの早業に、観客はもちろん、審判すらもその動きを目で追うことはほとんどかなわず、あっけにとられたことも手伝って、シークが地面に倒れふしてから随分経った後、審判の声が場内に響いた。
「し……勝負あり! 勝者…ユキ・マーキュリー!!」
この瞬間、シーク対ユキの試合は決着となった。
☆
シークが意識を取り戻したのは、その後5分ほど経ってからのことだった。
「……う……」
「お、気づいたか」
シークが目を開けると、そこには自分を覗き込んでいるアイクとイオンの顔があった。
「アイク殿…イオン殿……私は……?」
「ユキの蹴りでとどめ刺されて気絶したんだよ。けどまあ、喋れるんなら大丈夫そうだな」
「そうですね、まあ骨も無事みたいですし」
「そうか……」
それを聞いて、シークはあの瞬間に悟ることもできなかった、自らの敗北を知った。
顔を横に向けると、治療のために脱がせたのだろう、先程まで着ていた鎧が置いてあった。鋼でできているはずの鎧には深々とひびが入り、所々砕けて穴が開いていた。鎧のその状態と、目の前にある救護室の天井が、敗北の事実をより確かなものとしている。
「……破れたか…私は…」
少し悔しそうに言った後、シークは大きく息を吐くと、ゆっくり目を閉じた。そしてしばらく何か考えた後、再び目を開け、イオンの方を見る。
……トーナメント表の関係上、次にユキと当たることになる……イオンを。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「イオン殿、私は油断していたわけではない。しかしそれでも、あのユキ殿の実力には、到底及ばなかった。スピード、パワー、そしてあの得体の知れない技……どれもこれも、どれだけ警戒しても警戒したりんものだった。用心なされよ」
一言一言、諭すように言う彼の言葉を、イオンは一言も聞き漏らさずに聴いていた。
「ええ、わかってますとも」
シークの進言を全て聞き終えたところで、イオンはそう返した。
その瞬間、
『それではこれより、準決勝を行います!!』
アナウンスが聞こえた。
それを聞いたイオンはゆっくりと振り返り、静かに気合を入れた。
「さて……やりますか」