Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
『準決勝2回戦、イオン・ソーヤーVSユキ・マーキュリー!!』
「やれやれ……まさかこんなことになるとは……」
アナウンスを聞きながら、イオンは頭を抱えていた。
ステージの反対側……そこには、一足先に軽やかな足取りで入場した、幼馴染の姿がある。……あまり見ないシチュエーションだ。
「あ、イオン、こっちこっち!」
「いや、待ち合わせじゃないんだから……」
ため息をつきつつ、イオンもまたステージに上がる。
これから始まる……この幼馴染との一戦のために。
ステージの端からさらに歩き、イオン、ユキはともに所定の開始位置へと足をそろえる。
「いやぁ、でも、まさかイオンと戦うことになるとはね~……会いたいとは思ってたけど、こんなことになるとは」
「おんなじ感想を僕も抱いてるところなんだけど……たぶんニュアンス違うんだろうね」
「え? 何か言った?」
「何でも」
言いつつ、イオンは屈伸などをして準備体操をはじめる。
本当はイオンは、ユキに『ホントに大丈夫?』という内容で確認を入れるつもりでいた。
ユキは格闘は素人……いくら女神の能力で戦闘能力があるとはいえ、素人が簡単にこういう本格的なバトルのステージに上がれば、怪我につながりかねない……自らもたしなむがゆえによく知っているイオンの胸中には、そういう懸念があったからだ。
が……その懸念も……彼の心中からはほぼ消え去っていた。
先の……シークとの彼女の戦いを見て。
スポーツ系に関して飲み込みの早かった彼女は……やはりというか、こういった場面でも、その手腕を遺憾なく発揮できていたのだ。戦闘の、格闘の才能を開花させていた。
となれば……イオンにできることは1つ。
なるべくユキが怪我をしないように注意しつつ……この試合を終わらせること。イオンは、そう思っていた。
少なくとも……試合が始まる前までは。
そして、
『試合……開始!』
ゴングと同時にイオンは構え、ユキは……その腕を天高く掲げた。
あの『腕輪』をつけた方の腕を……だ。
「……?」
「ふふっ……イオンが相手だし、最初から本気で行かせてもらうわよ!」
怪訝そうな顔になるイオンの目の前で、ユキの全身がまばゆい光に包まれる。
そして、その光が収まると……そこには……
「「「……!?」」」
観客たちがいきを飲む音が聞こえる。
無理も無い。そこには……光が満ちた数秒の間にその姿を変化させ、フリルのついた露出多めの衣装に……
……というか、日曜の朝にやっているアニメのような、魔法少女系のバトルドレスに身を包んだユキが立っていたのだから(変身は省略したらしい)。
唖然とする観客たちの前で、得意げに名乗りを上げるユキだが……
「『日の光浴びる一輪の花! キュアサンシャ』ああぁわあぁっ!?」
ビュオッ!!
言い終わる前に飛んできたイオンの飛び蹴りに阻まれ、中断せざるを得なかった。
完全に油断していたユキはすんでのところでそれを跳んでかわし、少し離れた場所に着地する。
「ちょ……ちょっとイオン!? いくらなんでも変身直後にって酷いでしょ!? ヒーローものの変身シーンは無条件で見逃してもらわないと!」
「いや……さも常識みたいに言わないでね、ユキ。結構無茶言ってるし」
言わんとしていることはわかるのだが、あいにくイオンに付き合う気は希薄だ。
「仮にも格闘試合なんだから、そのへんはきっちり自覚はしてね、ユキ」
「もぉ~……頭固いんだから……ハゲるよ将来?」
言いつつ、ユキはようやく構えを取った。その構えはまたしても、美少女バトル系のアニメを髣髴とさせる。どうやら……彼女の戦闘に関する主な参考資料はそのあたりである、とイオンは見た。
髪型だけはそのままに、2010年後半に主に活躍した金色のプ○キュアのスタイルに変身したユキは、仕切りなおしとばかりに『よしっ!』と気合を入れ……跳んだ。
ビュオッ!
「……っ!?」
その予想外のスピードに、イオンは少々驚いた。
どうやら……元ネタ通り、身体能力もちゃっかり強化されているらしい。魔法技能で強化している彼らと比べても、スペックそのものにそれほどの差はなさそうだ。
体をひねって初撃の拳をかわしたイオンの眼前で、ユキはさらに肘を繰り出す。
が、当たらない。イオンは予備動作からそれらを見切り、最小限の動きで器用に全てかわしていた。
能力の発動で、ここまでパワーアップできるのか……と、イオンは女の子アニメの強さ……もとい、『都合のよさ』に舌を巻く。
(なるほど……『僕らにない強み』ってのは、このことか……たしかに僕らじゃ、女の子アニメの技は使えないからね……)
「むー……さすがイオン……えいっ!」
「よっ……と。いやいや、ユキもなかなかのもんだよ。まさかここまでやれるとは……」
実際、護身術レベルでしか武道に触れたことの無いユキとしては、この動きはかなりレベルが高いものだった。才能というのは、このあたりに感じられるものだ。
しかし……それを考慮した上でも、イオンの動きは数段上、と言える。
まあ……片や、才能があるとはいえ、戦いを始めてまだ一ヶ月足らず。片や、天与の際に加えて、3歳からさまざまな種類の武術の訓練をつみ、現実世界時点で実力が達人クラス……その差は、いかんともしがたいものだろう。
もっとも、ユキもそれは十分にわかっていたのだが。
「えいっ、やっ、ていっ!!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン!!
「よっ、よっ、よっ……と。ふぅ……じゃ、そろそろ……せいやっ!」
ビュオン!!
「わわぁっ!?」
ユキの攻撃をかわしつつ……ふいに、カウンターの勢いで繰り出された、イオンの回し蹴り。その勢いに、ユキはあわてて後ろに跳んでそれをかわす。
ほぼ不意打ちに近いタイミングだったのだが……それを、難なく……とまではいえないとはいえ、かわしたユキの反射神経はさすがである。
が……それでも、今の一撃は……ユキが自分とイオンとの間に根本的に存在する『実力差』を認識するには十分だった。回避から攻撃にいたるまで、動きに無駄が無く……そして、技そのもののキレが違う。
たった十数秒の攻防で、ユキはそれを感じ取った。
「やれやれ……やっぱりっていうか、イオンに格闘でケンカ売るのは無茶か……」
「ん、まあ……自画自賛は嫌いだけど……そういうことかな」
距離をとるユキを、追撃などせずイオンは見ていた。
その様子に、警戒か、はたまた余裕を感じたのか……ユキは解釈しきれなかったが、ただ1つ、肉弾戦では勝ち目がない……とはわかったらしく。
「じゃあ……コレで行こうかな! 『シャイニータンバリン』!!」
ユキは腕輪を輝かせ……虚空から、ひまわりを象った奇妙な形のタンバリンを取り出す。
本来花びらがあるべき位置に、多数のハート型の装飾がついているそれは、いかにも『魔法少女の武器です』と自己アピールしていた。
ユキはそれを構え、すばやくギュルン、と回転させる。
「へぇ……肉弾戦がだめなら、遠距離戦でいく?」
「まあね、じゃあ……行くわよ! はぁぁああっ!!」
ピコッ、ピコッ、キュピィーン!!
回転によってエネルギーが蓄積されたらしいタンバリンから擬音がとどろくと、ユキはそれを楽器らしく叩く。すると……澄んだ音が出ると同時に、叩くたびに周囲に無数の花が弾けて出てきたではないか。
エネルギー体と思しきその花たちは……ふわふわとユキの周りに漂っていたが、
ユキの『準備万端!』とでも言いたげな笑顔と共に……状況は一変する。
「花よ、舞い踊れ!(だったかな?) プ○キュア・ゴールドフォルテバースト!!!」
ギュオッ、ドギャアアアアアアッ!!!
エネルギーの塊である花達は収束し、次の瞬間……一斉にイオンめがけて飛んでいった。
「おぉ!?」
無数(多分100個前後)の花の弾丸が、よく言えば花吹雪、きつく言えば拡散構造エネルギー砲、といった見た目の大技がイオンを襲う。
さすがにこれは、イオンといえど本気で回避せざるを得ない。この技は知っていたが……実際に、それも正面から飛んでくると、迫力が違う。
どうやら追尾性能は無いようなので、イオンは魔力充填を最大にして加速し、降り注ぐ無数のエネルギー弾をかわす。かわすったらかわす。
「わわっと……調子に乗って出すの待ってたのがまずかったかな……」
一応サービス精神として、技を出すまでのやたら長い予備動作に目をつぶっていたイオンだったが、よけながらそれをやや後悔していた。
そして、エネルギー弾が降り止んだタイミングを見計らい……地面を蹴って一気に接敵する。
が、そう何度もペースを握られるほど、ユキも素直ではなかった。
「ふっ!」
バシュッ!!
「……っ!?」
今度は何の予備動作もなしに、ユキの手からイオンに向けて金色をエネルギー波が発射された。
武器を取り出したからには、それを主軸にした攻撃がくると思っていたイオンは、僅かに虚を突かれた形になる。あわてて体をひねってそれをかわした。
たしかに、元ネタになったアニメからすれば、別に武器を構えなくともエネルギー波の発射くらいであれば、素手でも十分行える。本当のところは不明だが……それを計算した上でユキが武器の攻撃をフェイントに使ったとすれば……一本とられた形だ。
さらにユキはそのまま、今度は強化された身体能力でもって打撃技。
危なげない、しかしやはり若干無理やりな動きで回し蹴りを放つ。無理な体勢でよけたためにかわしきれないとふんだイオンは、腕でそれをガードした。
「……っ!? けっこう、くるな……」
「そりゃまあ、女の子アニメはご都合主義が信条だし」
必要な分だけ、腕力その他は補填されているわけだ。便利と言う他無い。
能力の発動で、ここまでパワーアップできるのか……と、イオンは女の子アニメの強さ……もとい、『都合のよさ』に舌を巻く。
(なるほど……『僕らにない強み』ってのは、このことか……たしかに僕らじゃ、女の子アニメの技は使えないからね……)
というか……その強化された脚力でもって、何のためらいも無く幼馴染に蹴りを叩き込めるあたり、ユキの神経もやや常人とはかけ離れたところにあると感じざるを得ないが。
それだけ自分の実力を買っているのだと、そして本当に混ざりたかったのだと考え、イオンは納得することにした。
「なら、こっちも!」
と、今度はイオンも動いた。
さらに飛んでくるユキの追撃を横にかわし、カウンターに肘を打ちこむ。
ユキはバックステップでかわしたが……それがイオンの狙いだった。
「『スピードスター』!」
山賊との戦いでも見せた、輝く星型の誘導エネルギー弾がイオンの手から放たれ、空を切って飛ぶ。
が、ユキはそれをよけることはなく、
「サンフラワー・イージス!!」
目の前に巨大な、ひまわりの形をしたシールドを展開して全弾を防いだ。
よける、という選択肢だったならば命中しただろうが、バリアで防がれてはいくら誘導弾といえど意味は無い。
すぐさま次弾にそなえるイオンだが……なぜか、半透明のバリアの向こうから、新たな攻撃が飛んでくる気配は無い。
「……?」
不審に思いつつ構えているイオンは、いつでも攻撃に対応できるように『風盾』を展開し、さらにカウンター目的に攻撃の構えも説かない。仮に今、シールドの向こうからユキが奇襲してきても……イオンは迎撃できる態勢だ。
が……その狙いが『奇襲』ではなく別のところにあったことに……彼は気づかない。
と、次の瞬間、
「でやあああああ―――――っ!!」
「! やっぱりそう来たか……ん?」
バリアが解除されると同時に……というか、向こうからそれを突き破るかのごとき勢いで、ユキは一直線に跳んできた。
ただし……スピードに任せた奇襲ではなく、
「『花よ、舞い踊れ!』」
「げ」
バリアの向こうで……エネルギー弾を補充した状態で、だ。
(これが狙いか……けど、まだ甘いっ!)
少々驚かされたイオンだったが、すぐに落ち着きを取り戻す。放たれる弾丸の嵐にそなえて、障壁を補強しようとした…………その時、
「『プ○キュア・ゴールドフォルテバースト』……の前に『サンシャインインパクト』!!」
「え?」
と、ユキはエネルギー弾を発射するよりも先に自分でイオンの方へ跳び、至近距離でエネルギー波を放った。
補強がギリギリ間に合わず、ユキのエネルギー波を受けたイオンの障壁が消し飛ぶ。そこにユキは、さらにもう片方の手を向けた。
「くっ……」
予想外の攻撃に、イオンは回避は間に合わないと判断し、即興の、防御力は低いが出の早いバリアで威力を殺そうとしたが……
……向けられたユキの手から、エネルギー波は発射されなかった。
「……え?」
「えへっ♪」
と、その代わりに……
ブォン
イオンの『真後ろ』に……先ほどのそれと同じ、ひまわりの形のシールドが出現した。
「い!?」
そう、先の手は……エネルギー波を出してイオンを攻撃するためでも、かといってこけおどしでもなかった。イオンの背後に、シールドを作るための動作だったのだ。
その狙いは、もちろん……
(まずい……これだと、後ろに避けられない!)
イオンの動きの制限のためだ。
そして、ワンテンポ遅れて……それが生きてくるユキの攻撃が届いた。イオンの真後ろを除く四方八方から、先のエネルギー弾が飛来する。
「それじゃ、今度こそお待ちかね……『ゴールドフォルテバースト!!』」
ギュオッ、ドガアアアアッ!!
次々に遅い来る花たちはイオンの即興のバリアを消し飛ばし、イオン本人を襲う。
「く……『こうそくスピン』!!」
回避が遅れたイオンは、その場で高速回転する技を使って弾丸をはじいていく。
さいわい、思ったよりも1発1発の威力が小さいため、イオンはどうにかたいしたダメージも無くそれらをしのげている。
が……さすがに全てをはじくにはいたらず、かなりの数を被弾してもいた。しかもその花は、イオンにダメージを与えるのではなく、まとわりついてその動きを制限している。
と、そこに、正真正銘ユキの本気の一撃が飛んできた。
「『プ○キュア・フローラルパワーフォルテッシモ』ォ―――――ッ!!」
自らが大量のエネルギーをまとって突撃し、防御直後で隙のあるイオンに激突する。
「おわああああっ!?」
ドガシャアアアッ!?
経験からくる反射でとっさに防御の構えをとったイオンだが、その予想以上の勢いを到底殺すことができない。踏ん張ってはいるが、すさまじい勢いで押し出されていき……
……と、
ふいに、その勢いが弱まり……いきなり止まった。
「…………?」
これ以上追撃は飛んでこないのか、とイオンが前を確認すると……
「~~~♪(にっこり)」
そこにあったのは、起源よさそうに笑うユキの笑顔。攻撃してくる様子は……無い。
違和感を覚えたイオンが、ふと自分の足元に目をやると……
「………………あ」
フィールド境界を表す白線の外に、自分の足が一歩はみ出してしまっている光景だった。
すなわち、大会規定にのっとって考えた場合……。
『イオン・ソーヤー選手、場外! よって勝者、ユキ・マーキュリー選手!』
「負けた…………か」
いまひとつ実感の無い、きょとんとした感じのまま、イオンはポツリとつぶやいた。
にっこりと笑う、たった今試合で自分を下した幼馴染の少女を視界に捕らえながら。
「ふふっ、ごめんね? こんな勝ち方で。イオンに正攻法で勝つのって……たぶん無理だからさ」
邪気の無い笑みを浮かべる、心底楽しそうな幼馴染を前に……イオンの口からは、やれやれ……という言葉しか出てこなかった。
☆
そのころ、
この勝負の行く末を、観客たちの歓声の中で見守っていた1人の少年は……予想外の展開に、驚いていた。
そして同時に……とてつもなくその心をわくわくさせていた。
「へぇ……やるじゃん、ユキ……。俄然……面白くなってきた!」
天性のファイター気質であるアイクは……ユキと戦うことになる決勝戦を、まさにバトル漫画の主人公のノリで楽しみにしていた。