Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
開始3分前
「すいません兄さん、負けちゃいました」
さして落ち込んだ様子も無く、イオンは敗戦の報告を兄にしていた。
もっとも、兄も兄で……別にだからどうこうといった様子は微塵も無いが。
「見てたよ。しっかし……予想外だったな……。まさかお前がユキに負けるとは……てっきり決勝戦は、俺とお前のバトルになるもんだとばかり思ってたんだが……」
(それもちょっと嫌だな……)
ユキのテンションで全力能力バトルを挑んでくる兄の姿を想像したイオンの正直な感想であった。
「でも兄さん、実際……まあ、格闘能力は僕らのほうが上だと思います。ただ……変身後のユキのスペックは、まさに魔法少女アニメそのものでした」
「あのやたら都合がいい戦闘能力強化か。そりゃ厄介だ」
基本的に、30分の放送時間内に敵に必ず勝利することを前提としているそれ系のアニメは、必要な分のパワーアップをきっちりアイテムがさせてくれるようになっている。限度はあるが……ある程度の敵はそれで事足りるのだ。
そのスペックは……今戦う側に立った自分たちにとって、厄介と言わざるを得ない。実際に、イオンもその予想外の動きのキレに翻弄されている部分があった。
が……アイクの顔にあせりは無い。むしろ……
「面白そうじゃんか……マジで」
「はぁ……まあ、がんばってくださいね、決勝戦」
俄然やる気になっている兄を、イオンはため息交じりで応援しておいた、
そして、
☆
『決勝戦! アイク・ソーヤーVSユキ・マーキュリー……開始!』
観客席の歓声の中、フィールド上で2人が向かい合ったところで、ゴングが鳴った。
ユキは先ほどと同じ、金色のプ○キュアスーツ。武器のタンバリンもすでに出している。
一方、アイクは先ほどのイオンと同様のブレザーだが……上着を脱いでネクタイもはずし、上半身Yシャツ姿になっている。
その容貌……ユキは、アイクが本気だと悟る。
「さて……よくも俺の弟を殺ってくれたな、ユキ」
「ん、あれ? アイク怒ってる?」
「ん? ああいや、別にだけど……一応こういうの言っといた方がいいかと思ってよ」
「あ、なるほど……ごめんごめん、ノりそこねちゃった」
(緊張感無いなあ……)
ルールを利用してとはいえ、仮にも自分を負かした者を相手に、アイクはいつもの自然体。そしてユキも、いつも通りの自然体だ。とても決勝戦に見えない。
ただ……気構えだけは本気のようで、お互い、不意打ちなどはする気は無くとも……たたきにおいては万全だと見えていた。
「さてと……しっかしびっくりしたな……。まっさかイオンが負けるとは……」
「もぉ……そんなに舐められてたの私? そりゃ、バトルは素人だけど……これでもさあ……いろいろと『経験値』積んで強くなったつもりなのよ?」
「……? 『経験値』?」
と、アイクはここで妙な響きに気づいた。
それと同時に、ユキが思い出したように言う。
「あ、そうそう……忘れてたんだけどさ、ロローラさんからアイク達に伝言あったんだっけ」
「は!? あの女神から!?」
「うん。この能力について」
この3日間ずっと思い出せなかったらしい、女神・ロローラからのメッセージの内容を、ユキはステージの上で話し始めた。どうやら……ロローラがアイク達に伝え忘れた内容のようだ。
「この力……ああ、アイクは『超(スーパー)中二病』って読んでるんだっけ? これなんだけど……やっぱりさ、力を手に入れてすぐの段階じゃ、使えない技もあるんだって」
「! ああ……確かに、そうだったな……」
この世界に来たばかりのころ、練習中にオーバースペックの技を使おうとして、それがことごとく不発に終わっていたことをアイクは思い出す。
「やっぱり、いきなりすごく強い技とかは無理みたい。あとは……チートすぎて戦いが戦いにならなくなっちゃうような技とかも」
「ほうほう」
「でね、ロローラさんによると、数値化できるようなレベルやパラメータとかは別にないし、具体的に何をすればそれが使えるようになるか……っていうのも無いんだけど、やっぱり訓練と実践経験の中で、自分自身がレベルアップしていくごとに、使える技も多くなっていくんだってさ。あとは……その場のテンションとか」
「『テンション』?」
「うん。たとえば……仲のいい奴が殺されてマジギレとか、楽しい戦いで最高に気分が乗ってたりとかすると、いつもより強力な技が使えたりとか…………とまあ、こんなとこね。伝言終わり」
なるほど、とアイクは納得する。
どうやらアイクとイオンの予想通り、自分たちの力は、この世界で経験を積むごとに、そして力を理解していくごとに、より強力な技を行使できるようになるようだ。
また1つ、事実が明らかになったところで、場の雰囲気は再び『決勝戦』に戻る。もっとも……観客たちは、さっきから続けてテンションが高いままだが。
「さて……じゃ、そろそろはじめよっか?」
「! ああ……そうだな」
と、たった一言二言、2人の間に言葉が交わされた次の瞬間、
ギュン!
「…………え?」
目にも止まらぬ速さで動いたアイクが……ユキの正面に立った。
「ちょっ、早……」
「先制攻撃っ!」
先ほどの戦いを見てすでにやる気が出ているためだろう、容赦なし。
アイクは勢いそのまま、飛び蹴りでユキを強襲する。
「わわっ!?」
さすがに驚いたユキだが、どうにかそれをかわしてエネルギー波で反撃する。
しかし、眼前に迫ったそれをアイクはなんと素手で打ち払い、逆にカウンターの手刀を振り下ろす。ほとんど本気で殺りに来ているかのような連撃に、ユキは防ぐのでやっとだった。
「ちょっ……アイク!? しょっぱなからターボかけすぎじゃない!?」
「何だよ、手加減したら面白くねーだろ?」
「だからって……わわっ!? 地力じゃアイクが超上なんだから私……おわぁ!?」
イオン相手での組み手とほとんど同じ勢いである。拮抗する実力を持つイオンだからこそ戦えるその演武に、格闘初心者のユキが反撃する隙も無い。
が、いつまでも逃げ切れるわけではない。そう踏んだユキの決断は早かった。
「んも~……アイクってば相変わらずなんだから! 『サンシャインダイナマイト』!!」
直後、ユキの全身からエネルギー波が一気に放出され、あたり一面を攻撃した。爆風に巻き込まれ、『うおっ……!?』とアイクは否応なしにその場から距離をとらざるを得なくなる。
一見すると自爆技だが、これできちんと無傷で立っていられるあたり、美少女バトルアニメは実に都合がいいと言える。
「あーもぉ……アイクに手加減とか、そういうの期待するだけ無駄だったかしら……」
「そういうこった。遊びでもゲームでも、俺はいつだって全力主義だかんな」
楽しそうに言うアイクは、すでに次の攻撃の準備に入っている。
強くなっているとはいえ、仮にも幼馴染であるユキと、ここまでノリノリで戦えるというアイクの神経は……どうやら、イオンやユキが理解しているそれよりも、よほどバトル漫画の主人公に近いもののようだ。
「やれやれ……仕方ない、若干早いけど奥の手でいこうかな」
と、ため息混じりに言ったユキのセリフに、アイクが反応した。
「へー……こらまた、面白そうなことを……さて、『奥の手』とやら……勝利への切り札か、はたまた死亡フラグか……」
「いや、そこは死亡させないようにあなたが注意してね、対戦相手さん」
この状況下で自分を死亡させるとしたら犯人はアイクであるということをユキはつっこみつつ、なにやら胸の前で手を合わせた。
すると、次の瞬間……衆人環視の中、突如としてユキが2人に分身した。
「「「!?」」」
観客たちが息を呑む中、アイクは感心したように言う。
「へー、影分身か? すげえ技使えるんだ」
それも、プ○キュアの金色コスチュームのままである。違和感はいなめない。
しかし……ユキの目的はそこではなかった。
次の瞬間、再びユキ(×2)の体が光に包まれ……
「「『デュアルオーロラヴェール』!!」」
それが収まった時……2人のユキは、また別の魔法少女系の衣装に身を包んでいた。
おそらくは『初代』に一番近いのであろうデザインだが……ところどころ、ユキの趣味と思しき改良が加えられており……いうなれば、改造セーラー服とでも言うべき形状だ。
そして服の色は……『初代』にのっとり、2人別々で、白と黒。
2人のユキは……それぞれ構え、アイクに向き直った。
「「じゃ……いくよっ、アイク」」
「やれやれ、賑やかだな……いや、女の子2人で、華やかとでも言うべきか」
余裕のあるアイクに、ユキ(×2)はそれぞれ別々の方向から飛びかかる。
アイクは飛んできたユキ(黒)の攻撃をかわし、遅れて繰り出されるユキ(白)を受け止める。
直後、再びユキ(黒)が蹴りを放つが、アイクには届かない。バックステップでかわされ、逆にアイクにカウンターの裏拳を打たれる。
「わっ!?」
あわててユキ(黒)が飛び退き、その隣に同じく距離をとったユキ(白)が合流。
「人数増やしたぐらいじゃ……俺には勝てねーぜ」
言うなり、今度はアイクのほうから飛びかかった。
左右に展開する2人のユキだが、アイクは迷うことなく、最初に狙いに絞ったユキ(白)のほうへ攻撃を向ける。
「え!?」
「しゃァッ!」
飛び蹴りの直撃を、どうにかユキ(白)はガードで防ぎ、その隙にアイクの後ろからユキ(黒)が飛び掛った。手にはエネルギーが収束し、いつでも発射できる状態だ。
が、不意打ちには至らない。アイクは振り向きざまに、ユキ(黒)と同じように手のひらを相手に向ける。そして、
「『ブラックインパクト』!!」
「『連続気功弾』!!」
ユキ(黒)の黒いエネルギー波と、アイクのエネルギー弾連射がぶつかり合い、相殺する。しかし経験の差か、アイクはそこから一瞬早く立ち直り、サイドステップで横にずれると……2人のユキを同じ方向に捕らえ、その手から衝撃波を発射した。
直撃を受け、ユキ×2はアイクと反対方向に吹き飛ばされるが……ただでは終わらなかった。体勢を立て直していたユキ(白)が、
「『太陽拳』!!」
ピカァッッ!!
「……っ!?」
額を前に突き出す独特な構えを取り……その額から強烈な光を照射した。
突然のことに対応し切れなかったアイクはまともにそれをくらい、そのまぶしさのあまり、一時的に視界を奪われる。
どうやら射程は小さいようで、観客席まではその被害は無いようだが。
と、そのアイクの耳に……どうやら距離をとっているらしいユキ×2の声が届いた。
「ブラック・サンダー!」「ホワイト・サンダー!」
「…………っ!!」
アイクには聞き覚えのあるセリフだった。
彼女たちが元ネタにしているアニメのキャラが……たしか、必殺技を出す際の決まり文句だったはずだ。それが聞こえてくるということは……
「俺が動けない間に……ってか」
つまり……周囲が見えず、対抗措置がとれないこの状況は……アイクが絶体絶命だということだ。
このままだと、ユキ×2の必殺技をまともに食らうことになる。
死にはしないだろうし、防御技である程度威力も減らせるだろが……それでも、先ほどのイオンと同じようなことになる。場外に押し出されての……負けに。
基本が負けず嫌いのアイクは、この状況をどう打開するか、頭をフル回転させている。しかし……今アイクが使えるどの技を使っても……勝てるという確証がもてない。
と、
アイクはこの時……開始前にユキが言っていたことを思い出した。
『自分自身がレベルアップしていくごとに、使える業も多くなっていくんだってさ。あとは……その場のテンションとか』
(その場の……テンション……か……)
アイクは今一度、この状況を考えてみた。
目が見えない。
敵(ユキ×2)の攻撃が飛んでくる。絶体絶命。
それなりに戦いを楽しんでいたので、テンションも高いといえば高い。
…………客観的に見て……アイクは、こう結論付けた。
『ヒーローが逆転勝利するには、ふさわしいシチュエーションだ』……と。
つまり、今なら……普段は『使えない』技が出せるかもしれない……と。
「なら……一か八か……」
口元ににやりと笑みを浮かべ、アイクはかつて失敗した『あの構え』をとる。
その様子に……観客席側にいた、ただ1人この『構え』の意味を知っているイオンが反応した。そして……アイクの意図をも。
「……まさか、兄さん……」
瞬間、
「「ちょっと卑怯だけど……ごめん! 『プ○キュア・マーブルスクリュー』!!!」」
2人のユキの声が響き、その両手から白と黒の雷がそれぞれ放たれる。2つの雷は螺旋状に絡み合い、巨大な2重螺旋の破壊光線となってアイクに襲いかかった。
その瞬間、アイクはかすかに戻った視力を頼りに……黒と白の光がかすかに見えた方向に向けて……全身全霊で両の手のひらを突き出した。
そして……その一か八かの賭けに……勝った。
「『かめはめ波』ぁあ―――――――ッッ!!!」
青白い強烈な光と共に、アイクの手から、直径が自身の身長ほどもある特大の破壊光線が放たれる。
まっすぐユキ×2にむかって直進するそれは、『マーブルスクリュー』に激突し……そして、徐々に押し戻し始めた。
「「ええっ!? ちょ……うそぉ!?」」
ユキ×2の驚く声が聞こえたころ……アイクの目に視力がほぼ戻ってきていた。
そしてアイクは、ラストスパートとばかりに……
「おおおあああああぁぁああ――――――っ!!!」
とりあえず気合を入れ、とりあえず大声を出し……すると、一気に光線の出力が増した。
アイクの『かめはめ波』は黒白の雷をどんどん押し戻し、そして……2つの接点がユキ×2に極限まで近くなったその時、
ドガアアァァアン!!
「「きゃわあああああっ!!?」」
ボンッ!! ズザザザザザッ!!
何かの化学反応だろうか、凄まじい爆発を起こした。
悲鳴と同時に、ユキ×2の片方(分身の方)が煙と共に消え……あとに残ったオリジナルのユキが、爆風で一気に吹き飛ぶ。
そして……思いっきり場外の地点に落下した。
「いたたたた…………あ」
そして、ユキが現状を理解すると同時に……
『ユキ・マーキュリー選手、場外! よって、アイク・ソーヤー選手の勝利!!』
この戦いの帰結を知らせるアナウンスが、沸き起こる歓声の中で響き渡っていた。
この『交流戦』を、アイクが征したという事実を。