Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
別れの日というのは、えてして早くやってくるものである。
それは、アイク達フローネ代表組と、このサイミールという都市においても同じこと。
今日この日、アイク達は……総会を終え、フローネへと戻る当日を迎えていた。
☆
場所は、領主官邸前の広場。
そこでアイク達は、見送りに来てくれたエラたちと、最後の談笑を交わしていた。
エラたちの表情にはなごりを惜しむそれが見受けられるが、致し方の無いことといえる。もともとアイク達は、『主席顧問純系』にはなれども、サイミールにはとどまらず、総会が終われば元通りフローネに帰るつもりだったのだから。
総会は大成功に終わり、ミリスが経験した初めての商談も、全てがうまくまとまった。領主サイドを含む他の地方が皆、新たな『純系』である想夜兄弟に取り入ろうと、精一杯いい条件を提示してきたことに起因する、ということは言うまでもない。
まあ、過程はどうあれ、結果は大成功……ここに変わりは無い。フローネにいるイーラやオッドへの土産には十分だろう。オッドが調子に乗って『ワイルドハウス』に祝宴の予約を入れるところまで見えてくる。
「ではこれが……向こうに戻ってから必要になるであろう書類です」
「はい、領主様。道中、読ませていただきます」
エラから書類を受け取ったイオンは、それをまとめてバッグにつめる。エラの隣では、同様に別れを惜しむような表情のアリアが、少し面白くなさそうな顔でたっていた。
イオンのバッグには、他にも大量の書類やら仕事道具やらがつめられていた。皆、これから必要なものであり……仕事道具は皆、エラの厚意によりここでもらったものだ。
そのほかにいろいろと土産ももらったが、さすがにバッグに入りきらない量なので、それらはまとめて馬車に積んである。
ところで、アイク達がフローネに帰るに際し……行きの時と違うところがあった。
まず1つ目、
「では……随分と遠いところに行かせてしまって心苦しいのですが……今後、頼みますね、シェーラさん」
「お任せください、領主様。この大役……しっかりとこなさせて頂きます」
エラの激励を受けてぺこりと一礼する、1人の女性。アイクとイオンにはもうほとんど顔なじみとなっている、エラがサイミールで一番信頼する役人……シェーラだ。
その後ろには、いつもアイク達の『採取』の際に立ち会う2人……白衣を着た研究所職員の女性と、黒いローブの『召喚術師』の女性がいる。
会話の内容からもわかるとおり、シェーラとあわせて3人、いずれもアイク達についてサイミールからフローネへと身柄を移す者たちだ。
理由は言わずもがな……フローネに戻って以降も、2人の精液の採取を行うため。
2人がフローネに戻るとはいえ、精液の供給をストップさせるわけにはいかない。ゆえに、採取のために必要な人員が3人とも、セットでアイク達と共にフローネに行く。
シェーラは手順の確認のために、書類を読み上げる。
「フローネで採取した精液は、護衛つきの輸送部隊に渡して定期的にサイミールに届けます。非効率的であるという点は否めませんが……」
「すいません。ですが……お世話になったフローネに背中を向けるなどということは、自分たちとしてもやはり……」
と、イオン。
サイミールに居続ければ、確かに効率的とはいえるだろう。が、だからといって自分たちを今まで居させてくれたあの村に、何よりイーラ達と簡単に決別できるはずも無い。珍しいことだが、ここはアイク達がわがままを通してもらっていた。
もっとも……エラは気にしてなどいないが。
「いえいえ、このくらいのコスト……ブボウのころの迷惑に比べれば、1000分の1以下ですわ。お気になさらず」
「それに、ブボウのそれよりもずっと価値のあるものの輸送ですから。費用対効果は十分すぎるほどであると言えます」
と、シェーラも続ける。
その輸送対象が、自分達の精液であることを考えると……アイク達はやや気まずい感じになるが、エラ達はすまし顔。相変わらずとてつもないカルチャーギャップだ。
ちなみに、アイク達の精液を入れるビンは、防腐効果をもたらす魔法がかけられ、長期保存が可能らしい。ある程度まとめてサイミールに運ぶ分にも大丈夫ということだ。
ともかく、それらの条件がそろっているということで……アイク達はその言葉に甘えることにしていたのだった。
そして、もう1つの『違う所』、
それは……ユキが一緒にフローネに来ることになったことだ。
もともと、ユキ2人に会うことを目的としていたわけであるから、何ら不思議は無い。しかし、ユキを護衛として雇っていて、これからもそれを担ってもらうつもりでいたレインゲートの者達の動揺は大きかった。
無理もない。正規の軍人でも遠く及ばない戦闘力を持つ彼女が離脱するという瀬戸際だ。
が……さすがにあくまで雇用関係というユキを、強制で自分達が縛るわけにはいかない。
何より……彼らにとってユキの認識は、いわばアイクとイオンのお気に入りなのだ。純度10で『主席顧問純系』……これから自分達に莫大な利益をもたらしてくれるであろう2人との間に、無駄な波風は立てられない。しぶしぶながら、彼らは納得していた。
もっとも……デイリーは多少なりその兆しを察していたようで、さして動揺もしなかったが。
「で? お前もう準備はできたのかよ、ユキ?」
「とっくにね」
と、今まさに『フローネ行き』の馬車に乗り込もうとしているユキが、屋敷から荷物を運び出している最中のアイクに返す。
聞けば、ユキはアイク達に会えたその日(つまりサイミールに来た当日だ)に、すでにもうアイク達についていくと決めていたらしい。出発予定を聞かされてからの対処も早かった。
「フローネってどんなとこなのかしら……ふふっ、今から楽しみ♪」
「そりゃけっこう。まあ、ここよりは小さいが……静かでいい所だ、って言っとくか」
「十分よ。何なら……アイクとイオンがいればそれだけで、ね」
「ははっ、嬉しいな、それは」
短い、他愛も無い雑談を交わした後、イオンは、そして荷物を積み追えたアイクもエラたちへ向き直る。その隣に、挨拶のために馬車から降りてきたミリスも並んだ。
「領主様、他に必要な書類は、こちらで用意して、後日臆されていただきますので」
「ええ、よろしくね、ミリスさん…………ふふっ」
と、ここでエラが、なぜか意味ありげに笑う。
ミリスの頭の上に『?』が浮かんだのに気がつくとエラは、
「ああ……ごめんなさいね、あまりにも……あなたのお母さんの若いころに似ていたものだから」
「え……!」
「? ミリスさんの……お母さん……ですか?」
イオンは、そして隣のアイクも、その気になる話題に興味津々で耳を傾ける。
ミリスの母……思えば、まだ一度も会っていない。
「しっかり者のあなたのお母さんには……私もデイリーも、若いころ随分助けられたものよ。彼女が私達のクラスメイトでなかったら……きっと、今の私達はいないもの」
「! ミリスさんのお母さんって……エラさんと同級生だったんですか?」
初めて聞く事実に、イオンは驚いて聞く。
ミリスは……心なしか、わずかにさびしそうに返した。
「はい、聞いたことはありますけど……昔のことだ、と……」
「今は確か……ご病気で療養中でしたかしら? 大変ね……もしアイリーンに会うことがあったら、よろしく言っておいてくださいね」
「はい、領主様。お気遣い……感謝いたします。もっとも……母は今『ハートリア』にいますので……滅多に会いには行けませんが……」
「「…………?」」
その『ハートリア』という単語に……イオンはどこかで聞き覚えがある気がしたが、思い出せなかった。
と、エラがそこで思い出したように、今度はアイク達に話しかけた。
「ところでアイクさん、イオンさん。確認しておきますが……お話した『ハーレム』の件、くれぐれも早いうちに考えておいてくださいね?」
((う……))
とたんに、2人とも気まずそう……というよりも、『またかよ』といった感じの顔になる。言わずもがな……今、エラが振った話題が原因で、だ。
その『話』というのは、今から数日前……エラに聞かされたこと。
内容は至極簡単、今聞かされたとおり……自分達に『ハーレム』を作れ、と指示を与えるというものだった。
比喩表現などではなく、そのままの意味での『ハーレム』。つまり、何人もの愛人をそこに囲ってキープし、抱きたい時に抱くための後宮だ。エラはそれを……アイクとイオンに作れ、と言っているわけである。
「いや、そんな……ブボウじゃないんだから……」
「別に僕らには、そういったものは不要なのですが……」
「いいえ、必要なのです」
と、ばっさり切り捨てるエラ。
このやりとり、実は数日前、2人がハーレムの話を聞かされた当日にすでに交わされたそれのリピートだ。2人ともに主張があるが、どちらも折れないがゆえのもの。
2人に対しては珍しく、きっぱりとした諭すような口調でエラは話す。
「ブボウのそれは確かにやりすぎでしたが……『ハーレム』自体は、純系にとって必要不可欠なものだと言えるのです。なぜなら……あなた方の仕事は、新鮮で元気な精液を出すことなのですから」
かなり卑猥な会話なのだが、エラは真顔で、かつ大真面目に言っているために、聞いているアイク達の方が逆に恥ずかしい。
「健康な男子としての、その精子を作るに十分な『雄』としての力を保つためには、『雌』をそばにおいておくことが一番。ゆえに純系はハーレムを作り、そこに自分好みの美女を囲い、抱くことで……自らの『雄』としての本能を刺激し、その機能を保つのです」
「つまり……俺達の男としての欲望を常に高くしておくために……かわいい娘をたくさん集めて、年がら年中エロい気分でいろってことっすか?」
「ええ、若干表現が稚拙ですが……そうですね」
肯定されてしまった。
要するに、自分達がいつまでも『男』らしさ……もとい『雄』らしさを保つために、常に多くの『雌』による刺激を受けられる環境をつくれ……ということらしいのだ。
突拍子も無い話に聞こえるが……確かに、言っている事は生物学的には正しいし、この世界の価値観を考えれば……話に矛盾は無い。
「めぐりめぐって、フローネに、サイミールに、そしてアーサランド全体にとって有益なことです。どうぞ、早いうちにお考えを」
「はあ……まあ、考えておきます」
額を押さえながら言うイオン。
2人にしてみれば、ハーレムなどというのは示威的手段を兼ねた欲情のよりどころ以外の何ものでもない。そんなわけであるから、できればあまり考えたくは無いものだが……こうまで力説されては何かしらの答えを返すしかない。
素直に作るか、代替案を用意するか……イオンは悩みどころが増えたと感じた。
「よろしくお願いします。もしよろしければ……こちらで公募をかけることもできますので」
「「ちょっ―――!?」」
すなわち、純度10の純系の『ハーレム』を作るから、入りたいものは来い……とエラが呼びかけるということだ。
エラは大真面目でいったのだが、こればかりは2人とも全力で遠慮した。
「あら……よろしいのですか? きちんと選別は行いますが……」
「ええ、その……見ず知らずの人を……っていうのは、やっぱりあれですので…」
「作るにしても、俺らが自分で探しますから……」
現実世界では、たびたび接待で娼婦を抱いてきたアイク達だが……やはり、自分から見ず知らずの女性を性欲の捌け口にする気は無いのだ。そういったビジネス関連を除けば、自分達が、自分達から抱くのは……本当に信頼できて、本当に互いを想いあえる者だけ……と、曲りなりに決めている。
ハーレムをビジネスと考えればいいのかもしれないが……常にそばに置いておく=いつも一緒にいる、という内容のそれを、2人は『ビジネス』で割り切ろうとはしない。
エラはそれを聞いて、少し考え、
「……わかりました。でしたら……それらのことは、あなた方2人にお任せしましょう。ただ……」
「「? 『ただ……』……?」」
エラはそこで切って、
「もうすでに……その条件で候補になりうる人材が、何人か居ますことをお忘れなく」
直後、
「「……っ!!」」
アイクとイオンは気づかなかったが……この瞬間、ミリスとアリアの顔が真紅に近いところまで紅潮した。
さらに、エラはエラで、
(本当は私も立候補したいところですけど……さすがにこの町を空けるわけにはいきませんからね)
などと考えていた。半ば……本気である。
そんないたずらっぽい心中を知る由も無い……というか今現在考える余裕の無い双子は、そろって『どうしたものか』とため息をついていたが。
「さて……そろそろ時間ですわね」
と、エラのいう通り、気づけばすでに出発予定時刻となってしまっていた。
これ以上出発を遅らせると……今日の日暮れまでに、途中にある森林地帯を抜けられず、名熟する羽目になる。いくら馬車で屋根があるとはいえ、それはさけたい。
「それじゃあ……俺らはこれで失礼します」
「はい、道中……またいつでもいらしてくださいね? その方が……この子も喜びますわ」
「お、お母様……」
エラとアリアの見送りの中、アイク達は馬車に乗り込んだ。行き……つまり、サイミールに来た時とは違い、その荷台には……ユキを一緒に乗せて。
ちなみに例の『採取』担当の女性陣は、別の馬車だ。
全員が乗り、荷台の安全扉が閉められたことを確認した後……御者の方から、馬のいななく声が聞こえた。がたんと馬車が揺れ……すぐに加速して動き出すのがわかる。
「道中お気をつけて!」
すでにかなり遠い気がする位置から、そんなエラの声が聞こえて……そしてやがて、見送りの人たちの喧騒も、何もかもが遠くなっていく。
「さて……んじゃ、帰っか、フローネに!」
「ええ!」
「はい!」
「うん!」
もうすでに始まった旅路ながら、区切りをつけるように言い放たれたアイクのセリフに、3人が同じように返した瞬間……馬車の外に『サイミール』と書かれた門が通り過ぎるのが見えた。
この瞬間……というわけではないが、それは……アイク達の長い出張の終わりを告げるには……ちょうどいい目印だった。