Twins Knight Saga ~双子の勇者の転生戦記~ 作:破戒僧
サイミールで合流したユキと共に、アイク達がフローネに帰還してから早一週間、
アイク達が帰還してからのフローネというのは、それはもうえらい騒ぎようだった。
まあ……いきなり自分達の村から、国宝級以上の希少種である『純系』が出たわけであるから、無理も無いが。
というよりも、うわさが広まるのは早いもので、アイク達の出迎えの時点から、村の騒ぎようはピーク状態だったのだ。
自分達の村に凱旋するスーパースターを、村人総出で出迎えするその様子を見た時は、さすがにアイク達も驚いていた。
しかしながら、騒いでばかりもいられないのも事実。
アイクとイオン、それにユキは、フローネに『主席顧問純系』となって戻ってからも引き続きミリスの家に滞在していた。村のトップであるオッドおよびイーラと、そのほうが連絡を取るのに、効率がいいし、愛着も恩義もある。ユキも、窮屈そうな様子もなく新居になじめていたようだった。
そして、そこでこなすその『純系』としての仕事は決して少なくはなく、アイク達はブボウからの引継ぎをはじめ、各所との契約やら書類の検査やらで、かなり忙しい日々をすごすことになっていた。
シェーラいわく、ブボウのころは全て役人達に任せきりだった仕事も全てこなしてくれるアイク達には、本当に感謝できるし期待ももてる……とのことだ。アイク達にしてみれば、自分達の仕事である以上それは『当然のこと』であり、現実世界でもいろいろと貨車関係の書類を負かされていたわけであるから、その事務の手腕は折り紙つきだ。
多少なりこういうことの経験もあるユキや、『総会』を境にめきめきと腕を上げつつあるミリスにも手伝ってもらいながら、順風満帆、充実した日々を送っていた。
そして、その騒ぎ……もとい、凱旋・就任直後の忙しい時期もようやく落ち着いてきたころ、
☆
「それでは! わが娘ミリスの『総会』における初の商談の成功を! そして……このフローネから、サイミールを救い、ゆくゆくはアーサランドの歴史を動かすであろう2人の偉大な英雄が出たことを祝って……乾杯っっ!!」
「「「乾パァ―――――――イッ!!!」」」
ガシャァアン!!
ジョッキ同士が打ち鳴らされる音が響き……ここに、やはりというか……オッドが企画していた祝宴の席が始まっていた。
場所は『ワイルドハウス』ではなく、そこよりもさらに広いとあるパーティーホールを貸しきってのもの。そこに、オッドが可能な限りの商会仲間に声をかけ、さらに『ワイルドハウス』のナズナに頼み込んで、出張で料理まで作ってもらっての大宴会だ。
ナズナの方も気前よく承諾してくれたとのことで、テーブルには凄まじく美味しそうな料理の数々が所狭しと並んでいる。
サイミールで領主官邸のご馳走の数々を堪能してきたアイク達だったが、それらよりもさらに食欲をそそる料理が多く見られる。ナズナの腕前がわかるというものだ。
そしてオッドは『祝う』そして『騒ぐ』という目的の元、商談も何も仕事関係は全てシャットアウトしてくれていた。それにより、純粋に食べて飲んで楽しむことに集中できる席になっているために、アイクも、イオンも、新入りのユキも、そして今回の主役と呼ぶべきミリスも、緊張することなくその宴を楽しめた。
……が、
緊張はしなくても、リラックスはできたか……と聞かれれば、それは別だったりする。
主に……他の参加者の、明らかに主役を上回っているテンションが原因で。
「いや~しかし、ミリスちゃんも大したもんだよなあ。その若さで、まさか『総会』の商談をこなせちゃうなんてなあ」
「そ、そんな……今回は特別に有利だっただけですよ……」
「いやいや、それにしたって、ここまでの商談をきちんと成立させてる……ってことはすごいことだよ。きっちり商取引の基本をわかってる……ってことだからね。誰にでもできることじゃない」
このような感じで、宴が始まった直後から、ミリスはずっとほめられっぱなしだった。
『総会』の商談を成功させたとはいえ、もろもろの理由で簡単だった今回の事情を知っているミリスは、嬉しそうにしつつも、若干申し訳なさそうにしていたが。
が、ミリスをたたえる彼らの言うことも、まんざら間違っていることばかりではない。
確かに今回、商談の方向性はフローネにとって有利なものだった。
が……その中から、ほつれにつながるようなものが無いかをよく吟味し、さらに商業組合の規則や、他方の利益の増減に抵触しないように調整したうえで契約まで持っていく……というのは、実はかなり面倒で時間もかかる、難しい仕事だ。
何を隠そう、『秀才』と呼ばれたイーラでも、それを覚えたのは17歳の時。数え年まだ15のミリスが、イオンの助力があったとはいえ、独力でそこまでたどりついた……というのは、男達にとって十分な驚きだった。
そして……格好の酒の肴だった。
結果……酒を飲めないミリスの周りは、話をネタに浴びるように酒を飲む男達で囲まれ、主役であるはずのミリスはその中で小さくなっている……という有様だ。
(うぅ……わ、私、こういうテンション苦手なんだけど……みんなぜんぜん気にしないで騒いでる……。ていうか、一応主役なんだから少しは気にして……)
正直なところ、静かに家族間だけで祝ってほしかったミリスの心の声。
ちなみに……アイクやイオン、ユキは、彼らは彼らで他の連中に絡まれているために、自分を助けに来てくれる気配は無い。
と、ここで……ミリスの周りにいた男達の話題が、再びミリスのことに戻る。
「しっかし、ここまで見事な成長を見せ付けられちゃあ……何かご褒美でもあげなきゃあならないんじゃないのかい、オッドの旦那?」
ジョッキを片手にそんなことを言うのは、黒い長髪に褐色の肌、抜群のスタイルをもつ男勝り口調の美女……他でもない、今回の宴の総料理長・ナズナだ。
その言葉に、ミリスはきょとんとしてナズナを見返した。
それを聞いたオッドはというと……すでに酒が廻って赤み3割り増しの顔で思案顔になり、うーむとうなる。
「そうだなあ……確かに、ミリスには何かご褒美がいるな」
「よしてよお父さん、そんな大げさな……」
「いやいや、本気だよ私は」
相変わらずの陽気な声だが、どうやら酔っ払って言っているわけではないようだ。
「もともと、アイク君たちが純系だったことを考えても……彼らを見つけてこの村で一緒に暮らして……結果的にこの村がこれから大きく発展していくための立役者になったんだ。それを考えても、何かミリスにしてあげないとな、と思ってたところなんだよ」
「そんな……」
困ったように言うミリス。しかし、オッドはすっかりその気になっている。商会の仲間を集めて、ああでもないこうでもない、と話し始める始末。
「ふむ……どうしたものか……。ミリスがその気なら、3つある商会の取引所の1つの権利を譲ってあげてもいいんだが……」
「ちょっ―――!? お……お、お、お、お父さん!?」
「はははっ、冗談だよ冗談」
「やめてってば! もう……心臓に悪い……」
経営・管理・維持・税徴……利益が上がる代わりに、凄まじくややこしい作業が付きまとう『取引所経営』をやらされるのかとぞっとしたミリスは、冗談だとわかっても冷や汗をかいた。
もっとも……それはさすがにいくらなんでも早いのは、オッドも承知だ。
「それなら……今すぐにじゃないが、こんなのはどうだい、ミリス?」
と、ここでオッドが言うことには……
「ミリス……たしか昔、『白魔術師』の等級をとりたい……って言ってたね。今でも、その志はあるかい?」
「………………え?」
予想外の言葉に、ミリスは先程とは違った種類の驚きを浮かべた。
口をぽかんと開けたまま、オッドのほうに向き直る。
「お、覚えてて……くれたの? そんなこと言ったの……」
「もちろんさ、娘の夢だからね」
満面の笑みと共に返すオッド。
「なら……どうだろう? 今すぐに……とは時期的にも言えないが、来るべき時には、私が出資して……ミリスを王立の白魔術学院に入れてあげようか?」
「………………ええええええええっ!!?」
予想外の提案に、ミリスは先程の冗談(取引所うんぬん)よりもよほど驚いた。
周りのギャラリー……ナズナ含む……からも、驚きと関心の声が上がる。
しかし、それは当然のことだ。
オッドの言う『術師等級』とはそのまま、それを取得した術師の実力を示すもの。持っていれば、あらゆる分野において『アーサランド王国』そのもののお墨付きという信用を得られるわけであるから、就職に結婚に、何においても大助かりだ。
まあ……現代で言う『資格』と同じものと考えていただいて差し支えないがしかし……その取得は、言うほど簡単ではない。
どの階級にも難しい試験が課され、ペーパーテストによる膨大かつ正確な知識と、実技による実際の実力の披露が必要となるのだ。その審査基準はかなり厳しい。
共通に7階級あるそれらのうち、一番ランクの低い『6級』でさえ、合格率は20%を切る。5級、4級、3級、と次第に難しくなり……最高位の『特級』の合格率は、年間なんと受験者の0.1%以下という低さだ。合格者なし……というケースも珍しくない。
そのため、等級をとりたいと願う志願者は、その勉強のために、その専門の『学院』に通うことも多いのだ。が……学費やらなにやら、決して安くは無い。
まして、オッドが提案した『王立白魔術学院』は……アーサランドの王都『アルビオン』に立つ最高ランクの学院なのだ。その学費は、諸経費も合わせれば……『高い』どころではすまない。
「ちょっ……だめだよ! そんな……いくらかかると思ってるの!?」
「何、気にすることは無いさ。娘の夢を応援したいと思うのは……親として当然だろう? それに……これから、このフローネはまだまだ発展していくだろうからね。やりくりしだいで、捻出できるだろう」
あっけらかんと返すオッド。
確かに……アイク達の活躍で、今のフローネには追い風が吹いている。これから先の経済成長は約束されたようなものといえるだろう。
「でも……」
「でもいいのかい、オッドの旦那? それじゃあ、ミリスちゃんはここを継がないで、白魔術師になっちまうかもしれないよ?」
と、ナズナ。なるほど、それももっともだ。
等級持ちの魔術師となれば、当然優遇され……都市での就職の機会も増えるし、場合によってはスカウトされたりもする。
しかしオッドは、
「はは、その時はその時さ。大丈夫……もしそうなっても、イーラがいるからね。彼女はあくまでも、『好き』で商業をやってくれているから。だからミリスは……」
ここで一旦区切って、
「やりたいようにやればいい。もっとも……私個人としては、フローネにいてくれたほうがうれしいけどね」
「お父さん…………」
実のところ、ミリス自身がその夢を最後に口にしたのは1年以上も前。
それを覚えてくれていたことと、自分をあくまでも応援してくれるというオッドの姿勢に、ミリスは頭の奥が熱くなるのを感じていた。
そして、やはり申し訳ないと思いつつも……それ以上に、ここまで言ってくれる父親の気持ちに応じなければならない、と感じたミリスの心に……決意が生まれた。
「じゃあ、その時は……よろしくね」
「ああ、いつになるかはわからないが……任されよう!」
周りから『いいぞ!』『がんばれ!』といった内容のエールが飛んでくる中で、ミリスは顔を赤くしながらも、しっかりとうなずいた。
オッドの目をまっすぐに見つめるミリスは……もはや、『総会』に行く前の彼女とは違う。経験を積んで、確実にレベルアップした彼女がそこにいた。その目には……オッドが提示してくれた『等級白魔術師』という目標を目指す決意が見て取れる。
「よぉーしっ! じゃあ今日はミリスちゃんの目標への門出祝いだ! 飲むぞっ!!」
「「「おぉーっ!!」」」
結局はそれをも酒の肴にしてしまう男達に、『やれやれ』と肩をすくめながらも、ナズナもまた……方をポンとたたいて『頑張りなよ』と激励していた。
「あははは……結局飲み会になっちゃった……」
そのテンションの中で、決意は本当に胸に秘めつつも、またしても結局ミリスがおいてけぼりになってしまっていた。